第十六話
ロボットがいないか様子を見ながら慎重に進み、遊園地に入ることに成功する。
だが、遊園地の広場にたどり着くと、どういうわけかロボの大群が待ち伏せていた。
「おい、葉山逃げ――」
少し後ろにいる葉山の方に視線を向けると、黒い銃を何故か俺に向けている。
「どうしたんだよ?」
「ごめんなさい。こうするしかなかったの」
風になびく髪を左手で押さえながら、申し訳なさそうに銃口を俺の顔に合わせてきた。
「訳が分からないぞ?」
「そうよね? だって全部……」
何かを言おうとしたところで、後ろのボットが爆発する。
「河野さん。少し早いですが、未来に行ってください。そこに、ワープトンネルが出ます」
ロボットの群の中から山田の声が聞こえた。
ロボットを手に持った金棒でなぎ倒しながら、中央に設置された噴水を指さす。
来てくれたのか……
予定より早いが、未来に行けるのか……
「くっ、動かないで!」
怒ったように葉山がそう声を上げる。
「どうしてこんなことするんだよ」
「色々あったのよ……」
「もしかして、今日誘ったのって」
「それは違うわ」
つまり、昨日のうちに何かあったのか?
「とりあえずその物騒なのを下げてくれないか?」
「それはダメ。貴男を殺すか、動けなくしないといけないの」
「それは怖いなって!」
掛け声を上げて、一気に噴水に向かって走り出す。
「あ、ちょっと」
やはり葉山は、人なんて撃てない。
問題はロボットだ。
山田が何体かは潰してくれたが、俺の動きに反応してロボットが向かってくる。
「くそが」
腰につけたポシェットから、山田からもらったレールガンを取り出して構えた。
手を伸ばしてきたロボットを打ち抜く。
「ナイスです! 河野さん」
山田が称賛してくれる。
「山田、大丈夫か?」
「私は気にせず、早くトンネルに」
噴水の所に黒い穴ができていた。
「分かった」
ロボット攻撃をかわしながら進む。
葉山は追いかけてきてる様子がない。 どうして銃を向けてきたんだ?
考えてる暇はなさそうなので、トンネルに向けて進み続ける。
「河野君! ごめんなさい。貴男のこと好きだったわ」
トンネルをくぐるタイミングで、葉山の声と銃声が背中越しに響いて聞えた。
・・・・・・・・・・
「ここは……」
しばらくの暗転の後、眩し光が俺を包んだ。
目が慣れてから、辺りを見てそう声を出す。
等間隔で鳴る機械、どこか鼻につく薬品の匂い。
病院か? 静かで、ベッドと数字が表示された機械しかなくそう判断した。
奥にカーテンで仕切られた、ベットが見る。
誰だ? カーテンに人影が見えた。
確認しようと、近づいて行く。
「ようやく来たか」
カーテンに手をかけたところで、後ろからドアが開く音がしてそう声をかけられる。
「誰ですか?」
慎重に銃を握りながら、振り返る。
入ってきたのは、少しくたびれた感じのおッさんだった。
服装は探偵ドラマの刑事のようなコートに、ジーパン。手には指ぬきグローブをはめている。
「警戒しなさんな。俺は、お前だよ」
俺はお前? 何を言ってるんだ?
「どういうことですか?」
「未来のお前だよ、河野小太郎。分からないか?」
手を大げさに広げて、ため息をつかれた。
「マジかよ、俺はこんなくたびれた姿に……」
「くたびれたとは失礼だな……まぁ、その話より、大変なことになったぞ」
「どういう事だ?」
「未来の機関が、京香を殺そうとしている」
「それは少し違わないか? 葉山は俺を殺そうとしたぞ?」
「それも仕組まれたことだ。そのカーテンを開けてみろ」
男は俺の隣に来て、そう指示を出す。
恐る恐るカーテンを開けると、綺麗な女性が頭に包帯を巻かれて眠っていた。
「誰なんだ?」
「予想はついてるんじゃないか? 京香だよ。自分で頭を撃ったんだ」
「どうして……」
葉山な気はしていたが、まさか自分で頭を撃つなんて。
「過去が変わったんだよ。それも最悪にな」
「最悪?」
「いや、俺が生き残れたのは幸いだな……」
「何を言ってんだよ? ちゃんと説明してくれよ!」
俺がそう声を上げると、男が銃をコートから取り出し俺に向け撃ってきた。
「もう気付かれたか……場所を変えるぞ」
「え?」
弾は俺に当たらなかったが、小さな爆発音がして、驚いて声を漏らす。
後ろには、煙を上げるロボットが倒れていた。
俺は男に腕を掴まれて、病室の外に連れ出される。
・・・・・・・・・・
屋上に連れてこられた俺に、連れて来た男は説明を始めると言ってくれた。
「まず、京香を救う事には成功したが、その後が不味かった――」
男は棒付きキャンディをポケットから取り出してくわえる。
「未来からそれを良しとしない連中が、動き出したんだ」
「あのロボットの親玉か?」
「そうだ。そして京香の父親、葉山仁を人質に、俺を殺すように京香に命令した」
「つまり、あの遊園地の出来事って、この時代の奴が?」
「そうだ。だけど失敗し、追い込まれた京香は自殺を図ってしまったんだ。明日香が治療してなければ、死んでいただろうな」
あの時の銃声はそう言う事だったのか……
「明日香? 誰だそれ?」
「おいおい、冗談を言ってる暇はないぞ?」
驚くように目を見開いて、肩に手をのせて聞いてくる。
「本当に知らない。山田の事か?」
考えられる人物の名前を出す。
「山田? そう名乗っていたのか……」
「そうだけど、違うのか?」
「性格には明日香っていうガイノイドで、俺が作ったんだ」
「ガイノイド? 何だそれは?」
「平たく言うと、ロボットだ。過去の俺のサポート用に送り込んだ」
アイツ、ロボットだったのかよ……ご飯死ぬほど食べてたぞ。
「そうだったのか。でも、凄い食べるけど?」
一応、報告しておく。
「食べ物に興味持ってたからな。明日香なりの趣味だろうな」
男はそう言って笑う。
未来の自分がこうなるなんて、少し嫌だな。
「食べて問題ないのか?」
「エネルギーに変換してるから問題ないはずだぞ」
「そうなのか。それで、これから俺はどうすればいい?」
「その前に質問だ」
「何だよ? 時間ないんだろ?」
「ああ、だが大切なことだ。これ以上かかわりたくないなら、手を引いてもかまわないぞ?」
「俺が引くとでも?」
その回答に満足したのか、肩を組んできた。
「よし、京香を助けるぞ」
「どうやって?」
「俺がもう一度、お前を遊園地に送る。自殺を止めろ」
「ロボットの親玉はどうするんだ?」
「どうにも見つからないんだ……」
「つまりこの時代にはいないという事か?」
そうなると手が出せないな。
「いや、この時代か過去のどちらかにいるはずだ。マザータイプのロボットがな。それを壊せばすべてが止まる」
「了解だ。お前はどうするんだ?」
「マザーがこの世界にいないか探りながら、葉山仁を助ける。だから、お前は、京香を救ってくれ」
男が手のグローブをいじると、また黒いトンネルが現れた。
もう、進むしかない。
葉山を死の道から救うために。
俺は覚悟を決め、トンネルに入った。




