第十五話
水族館間の入口で、周りを眺めていた。
冬休みだからか、かなり人が多い印象だ。
水族館といっても、併設する形で子供向けの遊園地があるのも影響がでかいだろう。
事前に決めた時間まで、残り三十分。俺はただ余裕をもって、この場所に来たわけで分けではない。
山田と少し話をしようと思ったのだ。
その山田は今、移動販売のクレープの列に並んでいる。
後二人で順番のようだ。
お、もう順番になった。
友達同士だったのか?
細かいお札を持っていなかったから、一万円渡したから大丈夫だろうけど、店の人とすごく長く話してるな。
不安に思いながら、様子を窺っていると、俺の顔くらいありそうなクレープを受け取って俺の方にやって来た。
「お待たせしました」
「お、おう。デカいな?」
「はい、プリンセスアラビアン楊貴妃マシマシプリンセス城スペシャルだそうです」
色入りツッコみたいが、笑顔だし黙って見守ろう。
「そうだ、お釣りちゃんと受け取ったか?」
かなりデカく両手でつかんでしまっていたので、受け取れたのかそれだけは確認する。
「……はい、ポケットに入れてくれました」
かぶりついて飲み込んだ後、了解を得てジャージのポケットを確認させもらう。
ご丁寧にレシートも入っているな……二百円。
マジか! このクレープ高級食材でも入ってんのかよ。
「なぁ、どうしてそれを選んだんだ?」
「二人で食べたかったので、それと美味しそうでしたから」
そんな笑顔で言われたら、怒れないじゃん。
「そうか……うまいか?」
「はい! 河野さんも一口」
クレープを差し出してくれる。
苺が顔を出している場所を齧った。
「お、うまいな」
「ですよね!」
「あらあらあら、堂々と浮気かしら? 河野君」
後ろから名前を呼ばれて、振り返ると冷たい笑顔の葉山が立っていた。
今日は珍しく、髪をポニーテールにして、カジュアルなシャツとジーパンのとラフな格好だ。
「おぉ、葉山。早かったな」
「完全にスルーとは、恐れいくわ」
「言っている意味が分からんからな……」
「あ、河野さん。お話はまた後で……」
山田はそう言って姿を消してしまった。
「さて、どうしてやろうかしら?」
「葉山さん、どうして怒ってるの?」
「どうしてかしらね? さて、とりあえず中に行くわよ」
腕を組まれてチケット売り場に並ぶ、もはや俺に逃げ場はない。
・・・・・・・・・・
水族館の中は薄暗く、思いのほか静かだった。
子供ずれ遊園地エリアに行くのか、カップルやベビーカーを押した夫婦なんかがちらほらいる程度だ。
水槽を横目にいまだに腕を放してくれない葉山と無言で奥に進んでいく。
「ねぇ、どうして山田さんと会っていたの?」
ようやく口を開いてくれた。
「聞きたいことがあったんだよ」
「聞きたいこと?」
「未来の俺の事だ。前に教室でラジオを触っていたの覚えてるか?」
「あれ、本当にラジオだったの?」
不思議そうに見つめてくる。
「正確には無線機だったんだ。山田がそう言ってた。それはそうと、あれから葉山の名前が出たの覚えていないか?」
「そう言えば、私と同一同名の……そういえば変ね」
足を止めて葉山も気が付いたようだ。
「分かったか?」
「ええ、山田さんの話と食い違うわね」
「だろ? 未来で“死んだはずの”葉山の声がしていたんだ助ける前に……」
「つまりそこも嘘? だとすれば、山田さん狙いって?」
「そこを直接聞きたかったんだ」
「でも、そんなの素直に教えてくれるかしら?」
経路順に歩き、視界に入ったベンチに腰掛けて、会話を続ける。
「アイツは嘘をつくと目をそらすんだ。それで少なくとも嘘は見抜ける」
「なるほど、でもどうしてそんな疑問を抱いたまま、手伝っていたの?」
「色々考えすぎて、忘れてたんだよ。後、可能性の話になるが、未来からの刺客が葉山を殺すのを防ごうとしてるのかなって?」
「なるほど……そうね、それなら辻褄があうわね」
葉山は顎に指を当てて、納得してくれた。
「おい、動けるか?」
「どうしたの? あ……」
俺の声に葉山も気が付いたようだ。
水槽の中の魚が止まって、人が姿を消した。
つまり、異常事態だ。
「出口に、くそ、もうきやがった」
以前襲ってきた球体のロボットが、俺達の方に転がってくる。
「とにかく逃げましょう」
「ああ、走るぞ」
幸い、水槽が置かれ入り組んでいるおかげで、すぐにまくことができた。
「もう大丈夫かしら?」
「まだ時計が止まってるから、油断はしないほうがよさそうだ」
スマホを確認してそう声をかける。
あのロボは人を襲う様子はないので、そこは良心的だ。
まぁ、俺達は襲うんだけど。
「山田さんに連絡は?」
「さっきからしてるが、応答がない」
「困ったわね。とりあえず、遊園地エリアに移動しましょうか?」
「どうしてだ?」
「ここだと魚が死ぬかもしれないからよ」
確かにあのロボットは、人以外に躊躇はない。
前の博物館もガス爆発として、事件になっていたし。
「分かった。そうするか……」
遊園地に向かって、移動を開始した。




