第十二話
駅前のベンチに座る、葉山が少し離れた位置に見える。
肩を落として俯いているので、俺に気が付いていない。
周りの人間は人形のように動かず、不気味な印象だ。
「……」
何も言わず、葉山の横に座る。
「何をしに来たの?」
小さな声で、葉山が聞いてきた。
「話をしに」
「今更あなたの話を聞くとでも?」
少し怒りを含んだような声だ。
「聞かなくていい。独り言と思ってくれても――」
葉山に離れる様子はない。
「確かに葉山を助けようとしたのは、山田の指示だ。最初はなんでなんだと思った……葉山の母の日記を読んで、あの時の子だって知って驚いたよ――」
何も言わない葉山に話していく。
「学校で声をかけられた時も気が付かないくらい美人になっていて……俺から声をかける事なんてないと思っていたのに、山田のおかげで話すようになって、そして葉山と話すことが楽しいと今は思える。未来の俺に感謝しないと。俺はどんな世界でも葉山を好きになるんだなって」
「そんなの、どうだって言えるわ」
「確かにそうだな。でも、言わせてもらう。硝子の様に美しく傷がつきやすい、それが俺の葉山に対する印象だ」
「何が言いたいか分からないけど、私には今のあなたはペテン師に見えるわ」
その言葉に笑ってしまう。
「別にどう思われてもいいからさ、今は側にいて助けさせてくれないか?」
「変わっているわね……世界が止まっていて、ありえない状態なのに、貴男は貴男なのね」
「そうだ。俺は誰にも縛られない。今のしたい気持ちに従う」
葉山の肩を掴んで俺の方を向かせて、目を見て伝える。
「分かった。好きにしなさい。でも、その前に、近くにいるんでしょ? 山田さん」
葉山は俺の手を振り払い、立ち上がって周りを窺う。
「……はい、いますよ」
少しの間の後、山田が俺達の前に現れた。
「質問よ、さっき説明してもらって思ったのだけど、どうして河野君本人が助けに来ないの?」
確かにその通りだ。何で疑問に思わなかったんだろうか……
「それは……」
山田は考えるように腕を組む。
「それは?」
葉山は追い立てるように聞く。
「分からないです」
その言葉に葉山は見事に、ぽかんっとした顔になる。
「流石山田だな……」
俺は立ち上がって、山田の側に行き頭を撫でる。
「いいの? もしかしたら、その子のウソかもしれないのよ?」
葉山は用心深いようだ。
「そうかもしれないな。でも、こいつになら騙される気がしない」
「河野さん……」
山田が俺を見上げてくる。
「本当に甘いわね……」
葉山は呆れるように声を漏らす。
その時、山田のお腹から、グルグルとけたたましい音が響いた。
「そう言えば、何も食べてなかったな。ごはんにするか?」
「よくこんな状態で、食欲があるわね?」
「ご飯……食べたいです」
葉山は呆れた顔で、山田は目を輝かせて返事をくれる。
「とりあえず、家に送ってくれ」
山田の頭を撫でながら、そうお願いした。
「了解です」
その返事の後、また空に浮かぶ感覚が俺を支配する。
この感覚には慣れなそうだなと思った。
・・・・・・・・・・
「なかなか、ユニークな建物に住んでるのね」
家の前に転送してくれたみたいだ。
俺の住む建物を見て、葉山はそう声を漏らす。
「お嬢様には物置かもな」
「嫌みかしら?」
「そっちこそ」
そう言い合って、お互いに笑う。
その様子を山田は不思議そうに見ていた。
「とりあえず上がってくれ」
三人で階段を上がる。
玄関のドアを開けてぞろぞろと入って行く。
さすがにワンルームに三人は狭い。
「意外と片付けてるのね」
「以外は余計だが、荷物が少ないだけだ」
「そうなのね」
「私の荷物置いてくれてたんですね」
山田が服をあさりながらそう言ってきた。
「そりゃな、いつ帰ってくるか知らないし」
「ありがとうございます。それで、着替えてもいいですか?」
「勿論いいぞ、俺も着替えるし」
俺はジャージを持って、脱衣所に向かう。
「私はどうすればいいのかしら?」
「葉山は座って、待っていてくれ」
いったん立ち止まって、そう言ってから改めて脱衣所に入る。
・・・・・・・・・・
部屋に戻ると、黒のパーカーと黒のジャージのズボン姿になった山田が、葉山と話をしていた。
「あ、河野さん」
山田が俺に気が付いて、駆け寄ってくる。
何だか懐かしいな。
「ご飯用意するから待っててくれ」
頭を撫でて、葉山の方に行くように促す。
「ロリコン……」
何故か、葉山に蔑みの言葉をかけられた。
「さて、ここにラーメンがある。どれがいい?」
山田が用意してくれたテーブルの上に、インスタント麺を置く。
「ラーメン? よき響きです」
「ラーメン? 食べたことないから、任せるわ」
マジかよ。インスタントラーメンだぞ? テンション上がるだろ。
仕方がないので、一番お勧めの出前野郎を鍋に入れる。
あまりの旨さに、驚くがいい。
・・・・・・・・・・
「わぁ、美味しそうな匂いです」
お椀によそったラーメンを置くと山田はすごく幸せそうな顔になった。
具材はネギしかなかったが、十分だろう。
「これがラーメンね? 実物は初めて見たわ」
さすがはお嬢様と言ったところだろうか……
「さて、食べるか」
俺は鍋のまま食べる。
器がなかったのだ。
「はい、いただきます」
「いただきます」
山田は勢いよくズルズルと、葉山はパスタを食べてるかのように音を立てずに食べる。
「美味しいのです」
「意外と美味しいのね」
「だろ? 良かった」
二人の顔を見て、俺も食べ始めた。
この日食べたラーメンは、今までで一番美味しいと思った。
・・・・・・・・・・
「それで、山田この後の作戦は?」
「とりあえず、一週間ほど時間をください。ワープトンネルを準備するので」
「手伝えることは、あるのかしら?」
「すみません。難しいのでありません」
山田が難しいというと、笑ってしまいそうだな。
「そうなのか、なら、俺達はどうしたらいい?」
「そうですね、何時、時間が動くかも敵が来るかもわからないので、二人でいてください」
「そうなの……どうしてそこまで私を殺したいのかしら?」
「それは、分かりませんが、たぶんですが……歴史改変を防ぐためかと」
「つまり俺のせいか」
「そうね、めんどくさい人に好かれたものだわ」
やれやれといった感じで、言われてしまう。
「仕方ないだろ」
「まあ、そうね。私が美しいのがいけないわね」
「凄い自信だな、否定はしないが」
「もう少し、ツッコミなさいよ……」
少し寂しそうに言われた。
「悪い、それより今日は泊まるだろ?」
「まぁ、凄く不本意だけど、この状態ならしかたないわ」
不本意なのかよ。
「それなら今のうちに、風呂行ってきたらどうだ?」
着替えるついでに、お風呂のスイッチは入れておいたのだ。
「確かにこのまま寝るのは嫌だけど、下着はどうするのかしら?」
「下着なら山田に借りたらいいだろ? それかが嫌なら、新品も残って手はずだ」
「それは助かるけど……でも、よく考えたら山田さんに家までワープさせてもらったら、解決するわよね?」
「すみません。もう、今日はワープが使えません。充電が切れました」
てへっとした顔で山田がそう葉山に言う。
「そう、分かったわ……山田さんは、河野君を見張ってて?」
「? 分かりました」
不思議そうに、山田がうなずく。
「安心しろ。脱衣所には鍵が付いてるし、俺は紳士だ」
「信用できないわ……遅くなる前にお風呂借りるわね」
脱衣所に葉山は歩いて行く。
信用無いな……
「あ、私も行きます」
その後ろに山田が付いて行ってしまった。
見張りとは何なのか?
特に葉山が怒る様子もないので、見守っておこう。
それより俺は寝場所を考えなくてはな。
六畳間を眺めながら、作戦を練るのだった。




