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マシンガンは必要ない  作者: かつぽ
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うざい。


ウザい?UZAI?

……うざいって、どういう事よ?


「は、え、え?ん、っと…え?」


オレの予想だと今頃多分モッチの唇とオレの唇がフュージョンしてたハズだったんだけど何故か今、そうではなくモッチの唇からは辛辣な言葉が飛び出てきた気がした。


いや、いや!!オレは決してキスを求めてたわけじゃないけど!!めっちゃマシンガン構えてたから、薄皮一枚触れたら蜂の巣にしてやる気は満々だったんだけど。それでもとりあえずよく聞こえなかったから尋ねるような視線を投げかければモッチはもう一度きっぱりと、「うぜぇ」と言った。


「うざ…?」


「この前からぐちぐち、なんか考えてるだろ。今日は特にウザい。お前にもお前の都合があんだろうけど、ちっとはこっちの事も考えろっつってんだよ、お前に振り回されるこっちの身にもなれ。気分で振り回されちゃたまんねぇよ」


「ふ…振り回すってなんだよ…んな事してねぇし…い、意味わかんね…」


「ほんとに?」


「………………」


振り回してなんか、ない。でも考えてる事はある。だけどでもそれってばモッチの事で、モッチがオレの事好きだって言うから、や、いや、まだ言われてないけどでもたしかにモッチはそう思ってて。

だからオレはそれをなんとかしてやんねぇとって、思って。どうしようとか、考えて…。


壁についていた手が離れる。同時にモッチの体もスッと簡単に離れた。


「…お前も大変なんだろォけど、俺にも色々あんだよ。タツとの事もあるし…まぁ、なんもねぇならいいけどあんまサボり癖つけんなよ。話す気になったら…また聞くわ」


ぽん、とかって。頭軽くたたいて、少女漫画みたいな。

って馬鹿、そんな事どうでもいいんだよ。ただ、オレは…。


「―――――――っ」


大変ってなんだよ。オレだって大変だよ。つーかオレの方が大変だよ。だって、急に幼馴染がお前の事好きみたい、なんて人から聞いちまって。お前はなんかすげぇ思わせぶりな事ばっかやってくるし、ああマジなんだってこっちは思ってさあ。

すげぇ悩むじゃん。


変に気をつかって妙な距離感できちゃったらもう友達でいられねぇのかなとか、かといって心ない拒絶して二度と遊べなくなったら嫌だとか、そんな事色々考えてオレはお前が告白してきたらああしようこうしようって、沢山、思ってたのに。

話す気になったら…?


そんなのお前がオレに話さねぇから一杯一杯頑張ってねぇ頭絞って考えてんだろーーーが!!!


部屋を出て行こうとノブに手をかけ足を踏み出したモッチの頭に、オレは咄嗟に掴んだ枕を思い切り投げつけた。

オレは柔らかい枕は好きじゃないから、硬い枕を思い切り頭に当てられたモッチは「ってえな!!」と半ギレでオレを怒鳴りつけたがオレはその三倍はでかい声で怒鳴り返した。



喜介きすけのバアアアァァッッッカ!!!アホッタコッチンコッチンコスープ!!!」


「はっ!?」


ぼたぼた。


「喜介の浮気もん!!なんだよタッちゃんとの事って、やっぱそういう系のほうがいーんかよ!んだよOKサイン出してんのに告ってこねえから乗り換えるって意味わかんねぇしオレ悪くねぇし振り回してんのはそっちの方だろ!?あてつけみてぇな事ばっかしてさあっお前がタッちゃんと楽しくやってんの知ってんのにそんなの待っとけとか連絡いれろとか、そんな余裕あるわけねぇしほんとマジふざけんなよ!!オレは…オレはそれでもやっぱ喜介と一緒に居たいからぁ…っい、ぱい考えてんのにぃ…っな、なんでお前が怒ってんだよお!!馬鹿ぁ!!お前が悪いくせにぃい…!!ぅえっ、えっえゥ~~!!」


なんなんだよォ~!、と手当たり次第クッションを掴んでは投げ掴んでは投げ、モッチは突然の事についていけないのか、それとも目の前でまさかの号泣のオレにドン引きしているのかはしらないがあたふたと投げつけられる物たちを手にとりながらたじろいでいた。

そんなオレでも立派な大学生です。小学生ではありません、大学生です。


「な、んで泣いてんだよ!俺が悪いって何がだよ!!泣くな!!やめろ投げんな!!」


「喜介がいつまでも告白してこねぇからぁ!!オレはぁあすげ悩んでぇえっえぁあああ…!!なんなんだよぉ~オレの事好きなくせになんで告白してこないんだよぉお!!」


「、……、……!!!!!????」


ああもう言っちゃったじゃんか!!折角オレがデリカシーきかして言わなかったのに、モッチが、モッチが意地悪ばかりするから。

モッチは投げつけられる柔らかい凶器たちを跳ね返しながらずんずん引き返してくるとついに時計に手を伸ばしていたオレの腕を掴み、ここ一番の声で「泣くな純一お前は強い男の子だろ!!!」と叫んだ。


「あぃ…っ」


「はー…っはー…っあ、っぶねぇ…」


『泣くなじゅんちぃ、おまえは強いおとこのこだろ!!!』とは幼い頃さらに際立っていたオレの可愛さに嫉妬した他の子供達によってよく泣かされていたオレに向けられた、モッチからの魔法の言葉。

これを言われるとオレはいつも真っ赤っかの目からギリギリ表面張力働かせて涙をこらえていた。ガチャン、と床に時計が落ちる。結構派手な音を立てた。


モッチは混乱したように何度も言葉を詰まらせ、唸る。少し前のオレみたいだ。


「…あー…、あー…?あー…、もう一回、言ってくれるか?俺がなんだって?」


「ずず…っだ、からぁ…モッチが、オレに告白してこねぇから…!お、オレモッチに告白されねぇとって思ってぇ…っ」

「待てとりあえずそこで待て」


何故か混乱が深まったようだ。モッチは疑いの目で「こいつマジか」とじろじろオレを見つめるが、オレがモッチを喜介と呼ぶときは大抵ガチの時だと知っているからそれ以上嫌な目は向けてこなかった。大体こいつマジかはこっちのセリフである。こいつほんとマジか。


まるでレモンと梅干し一度に口につっこまれたような顔して、モッチはゆっくりと「どうして俺がお前に告白…こ、くはくするてい…なんだ…??」と尋ねてきたからそれこそ何言ってんだってなって。


「モッチがオレの事ちょーかっこかわいーって思っててオレの事好きだからだろ」と当然に答えた。……ブワッ、とモッチの全身から汗が噴き出る。


「好きじゃねえよ!!!!!!!」


長い事一緒に居て聞いた中で一番デカいモッチの大声に、オレの涙はぴったり、止まった。あとびっくり過ぎて鼻水飛んだ。


好きじゃない?好きじゃないって好きじゃないって事?えっ。


「なんでだよ!!!???」


「逆になんでだよ!!?なんでそうなってンだよ!!?お前ほんっと話通じねぇな!!!」


「なんで!?モッチオレの事めっちゃ好きじゃん!!好きって目で見てたし!!」


「見ってねぇよどこだよ!!そんな目ねぇよ!!」


「あっあったよ!!キャラメル!!キャラメルくれた時すげぇ優しい目で見てたしオレ専用にちょっと高いキャラメル用意してたろ!?」


「お前がいつもいつも猿みてぇにうるせぇからだろうが!!」


「かっちゃんに恋愛相談してもらってるって聞いた時だってすげぇオレの事見てたしオレが可愛い恰好してたらいつもより優しかったし完全にラブの目だったし頭ポンとか男相手に普通やんねぇしだってだって!!!」


「お前馬鹿か!?ガキの頃からつるんでる奴が急に女みてぇな態度とってたり恋愛相談してたり女に囲まれてきゃっきゃしてたり俺はお前がてっきりオカマにでもなったんじゃねぇかと思って気にしてたんだよ!!」


「ホモはモッチだろ!?」


「ホモじゃねぇよ!!」


「ホモじゃないの!?」


「お前俺の話聞いてるか…?ちゃんと通じてるか…?」


モッチがとても心配そうな目をしている。これは、え?

涙の筋が乾いてぱりぱり頬が痛い。


「え…え?…そ、って事は……モッチオレの事好きじゃ…ないの?」


恐る恐る尋ねた言葉にモッチはしっかりと、しっかりと頷いた。


えええええええええええええええええええええええええええええ!!??

えっ、えっ!?嘘!えっ嘘!?嘘か!!…嘘か!!!嘘なの!?混乱の極みである。

だってモッチはオレの事が好きだって、いや言われてはないけどあの子はそう言ってたしかっちゃんもそれはGOサインだっていってたし、でもあれ?モッチホモじゃない?オレの事好きじゃない?って事はなに?え?


「………かん、ちが…い…っスか…??」


――望岡もちおかってさ、ジュンの事好きなんじゃない?カップルとかそんな感じの。


アッ…。

思い返せば、好きなんじゃない?とは言ってるが好きとは言ってない。いつのまにか頭の中で勝手にモッチをTバックにしてたけどTバックにしたのはオレでモッチが自らTバックになったわけじゃない。って事はモッチはTバックを穿いていない。

って事はなんですか?あれですか?オレは友人にあいつお前の事好きっぽいよな~、を真に受けてそ、そうかなぁテレテレしてた痛い奴ですか?

ってかちょっと待ってよ、オレモッチにオカマと思われてたの?オレの精一杯の可愛さはオカマに見えたの?オレモッチを心配してるつもりが逆にモッチに心配されてたの?モッチはオレの事好きなくせにとか泣いたけどあれ全然そんな事なくて、だって、それじゃモッチさっき本気で「こいつマジか」じゃなくてもはや「………………」だったの…?なにそれ。


(なんだそりゃ。)


――ぼぼぼっ!!


顔から火を噴くとはまさにこの事だ。

オレは一気に全身を真っ赤に染め上げた。やばい、もうモッチの顔見れない。え?本当?やばくない?痛すぎない?だって、それって、なぁ?自意識過剰?みたいな?

やばすぎ。痛すぎ。恥ずかしすぎ。誰か冗談だと言ってくれ。


「そ…っ、そっかぁ…い、やあ本当まじか、あの、ご、ゴメンナサイ。オレの勘違い?みたいな?盛大な一人芝居、みたいな?あっ本当も、あの、ははは…すいません」


つまりだ。オレの親友はマシンガンなんて必要なくて。

モッチはオレの事なんてこれっぽっちもなんとも思ってなくて、好きだなんだと騒いでたのはオレだけで。ファンファーレとか、引っ込んどけって、みたいな…。

じゃあこれ、なんの問題もないわけだ。オレはモッチとの友情を壊すこともなく、先は守られた。オレの貞操もバックバージンも守られた。よかった、よかった。


よかった?


「…オレ、モッチの言う通りまじうぜぇな!やばくね?オレもなんでモッチがオレの事好きとか考えたんだろ、やばすぎ~!そんな事ねぇのに、絶対ねぇのにまずその発想がやばいよな!ほんっと、引くわー……」


引くわー、なんでオレちょっとまた泣きそうなんだよ、引くわー。


「純一…?」


「あ、大丈夫ダイジョブ、放っておいて、全然平気だから。ごめんな、その、わざわざ来てくれたのにこんな微妙な話しちゃって…すぐ、すぐ止まるから。一瞬だから」


ぐず、と鼻を鳴らす音にモッチは戸惑った面持でオレに手を伸ばすがオレはそれをやんわりと断る。今またポンとかされたら絶対泣くし、ってかもうちょっと泣いてるし。だってなんか、モッチ優しかったからなんか、オレはそう思っちゃったんだけど。こいつやっぱ格好いいなって、思った。


だって全然好きくない相手の世話あんなに焼けんだもん、知ってたけど、なんか再認識したっていうか。

オレなんて勝手にドキドキして、キスされるかもなんて事まで考えちゃって、なんかもうやばい。色々やばい。本当に、どうしようって悩んでたのに、マシンガンぶっ放してやろうって思ってたのに、全然、全然どうしようばっかで。


男とかキモ、なんて事思ってなかった。

それどころか今、好きじゃないって言われてオレすげぇ…すげぇ傷ついてる。胸とか、ちょー痛くて…悲しくて。タッちゃんといるって事考えたとき以上になんか苦しくて。


「う……う゛――…っ」



モッチにマシンガンは必要ない。

本当に必要なのは、このオレだ。誰かオレにマシンガン、ぶっ放して。正気という玉をいれて、脳天ぶち抜いて。そんで、こんなやな気持ち粉々に打ち砕いてよ。


「……ほんと…お前って馬鹿、馬鹿すぎ」


「知ってるし…わかってるし…!」


ぐしゃぐしゃとモッチに頭を撫でられる。ついでに涙もさらりと拭われて、ああクソとまた思ってたらモッチはしょうがねぇなあって顔、してた。しょうがねぇなあって顔してるのに、目だけは優しくて。でもこれも多分全部オレの勘違いなんだって思ったら本当オレどうしようもねぇって辛くなっちゃって、また嗚咽が零れた時。


「馬鹿だから、真剣に考えなくていい事までアホみたいに考えて、答えだそうと必死になってんの…俺は嫌いじゃねぇけど」


「…ひん…?」


「……きたねぇ面で泣きまくって、そんなんで俺が本当に告白してたらどうしてたんだよ、しょうがねえ奴」


「…でもそれってオレの勘違いじゃん…?」


「…………………」


モッチが、ついっと視線を外す。それはモッチにしてみれば凄く珍しい動作で、オレはあっ照れてる…と口を開けてみていた。なんでそこで照れてんの?と思わなくもないけど、オレってばモッチが何を言いたいのかよくわからないから困る。

するとモッチはオレの頭を撫でていた手を下ろすと小さな舌打ちをした。


「…人が考えないようにしてた事、お前が掘り起こしたんだからな。俺にだってよくわかってねぇ事ずばずば暴走して言いやがって、お前には自覚が足りてねぇンだよ、脳みそも足りてねぇしな」


「は!?」


「お前、本当俺の事好きだな」


「はあ!?なに!?なんでそんな話なってんの?!えっなんで!?えっえっ」


「うっせえよ黙れ」


なんで!?とモッチに縋りつけばモッチの体はちょっとびっくりするくらい熱かった。えっと思ってモッチを見つめるとほんのり、ほんのりだけど耳の先っぽが赤い。顔に出ないモッチの、隠せない一つのボディランゲージ。

ちょっとちょっと、やめてくれよ、なにそれ。ほんと、なにそれ。


びし、と目の前に指を突きつけられる。モッチは鬼の形相を装って、オレに向かってこう言った。


「お前がどんだけ考えたってどんな答えだしてたって、お前だけじゃねぇんだよ。俺だってこれから先もずっと、何があってもお前と一緒にいてぇって思ってるぐらいには…その、あれだから…あー…、もうちょっと待っとけ!!」


「何を…?」


「好きとかオカマとかホモとか告白とか色々」


「………マシンガンは必要ですか…?」


「…日本語話せよ」


モッチ、モッチ。


「モッチィ…!!!」


飛びかかるオレにモッチは嫌そうな顔をしてたけどやっぱりオレにはその目にラブがあるように見えて仕方ないのだ。でも、よく考えてみればそれって普通の事で。

だってもうずっと一緒にいて、オレの世話だって簡単にできちゃって、オレだってモッチが一番で、それってつまりやっぱり好きがないと出来なくて、あれ?わけわかんなくなってきた。

でも一つだけ。モッチはやっぱり多分きっとオレの事が好きで、オレも勿論モッチが好きだという事。そこがホモかオカマかわかんなくてもただそれだけなのだという事。


不確定なよくわからん話だが、正気なんて最初から最後までなかった。

はなからマシンガンなんてオレが持てるものではなかったのだ。


後日談として、あの時の友人に改めて聞いてみたらなんと、


「えっあれ本気にしてたの?やだ嘘、ほんと?えー面白いー、ってか別にそれがマジでもスルーしとけばいいだけなのに面白いねー」と言われたからあっ本当だ、と自分のうっかりさに気づいた事が一点。女って本当に信用なんねぇなと思ったのが二点。


で、モッチとはあれからどうなったのかというと特に進展はない。ただ、モッチがたまにオレを見つめてきてはオレの顔をばちっと叩き、「目がうるさい」と何故か怒るのだ。そんな、普通の日々を送っている。


でもやっぱり、マシンガンは必要ない。





今のところ。



「でもモッチさ、オレが恋愛相談してるって時やっぱりちょっと怒ってただろ?」


「怒ってねぇよ、ただ俺に言うのが先だろとは思っただけだ」


今の…ところ。




END


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