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マシンガンは必要ない  作者: かつぽ
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そのあてつけ事件の後、オレはモッチの傍に行こうと思ったのだが、それは思わぬ形で果たされなかった。


「あ、悪い今日はタツと昼食うから」


「エッ」


モッチが、オレの飯を断った。あのモッチが…オレの飯を断った。オレとしてはだよ?そんなあてつけしてんじゃねぇよってさりげなく言ってやろうと思っていたのだがモッチはさらりとオレの誘いを断ったのだ。しかもよりによって別の奴と食うから、なんてお前そんな事今までほとんどなかったじゃない!?ちなみにタツ、とはかっちゃんの片割れタッチの方である。


某アニメの主人公とは違い、逆にかっちゃんの方がたっちゃんじゃないの?と聞きたくなる優等生的な存在なのだがまぁこれは余談である。いやそんな事はどうでもよくて。

モッチは固まるオレの隣を素通りしていくとそのまますーっと教室を出て行った。え、まじ?まじだわこれ、あてつけ?あてつけなの?まだバトル中なの?ハンティングなの??


モッチはオレが好きだ。多分ってかほぼ100%オレが好きだ。って事は男が好きという事だ。じゃあ誰をハントしに行くんだ?


(……たっちゃんかああああああ!!!)


確かに、確かに漢!なモッチにはたっちゃんのような優等生風の優しい好青年が似合うだろう、モッチの三歩後ろをついて歩くような、帰ってきたら玄関で三つ指ついてお帰りなさい、なんて言っちゃうような…。


「良妻か!!!ねぇわボケ!!」


教材を床にたたきつける。薄っぺらいノートはぺちーん!と情けない音を立てたが、それが一層オレの虚しさに拍車をかける。っていうかそもそもオレが虚しさを感じる必要は全くないのだが、このオレが?振られた感、みたいな?それを味わっている今この瞬間にとてつもなく納得がいかないのだ。

あんな男らしい感じでなんでそんなねちっこさ持ってんだよ、いくらオレがちょっとでれでれしてたからって別にそんな仕返しの方法なくない?オレこの前も一人だったしその前も一人だったしついでに今日も一人じゃん。べっつに寂しいわけじゃないけど?


モッチがオレを同じ大学に入れたんだからモッチが責任もって面倒見るべきだと思うんだよね、なんて滅茶苦茶な事を考えていても結果は変わらない。

自分が受けている講義を頭に浮かべれば昼食後に一限あるだけだ。しかも今まで割と真面目にやってきていた為単位の心配はいらない。


「………ふー…」


深く息を吐く。駄目だ駄目だ、ちょっと今オレ馬鹿になってる。ここはいったん落ち着こう、そうしよう。……今頃きっとモッチとたっちゃんは仲良く肩並べて「どれ食べる?」「えーどうしよっかなあ、A定食も食べたいしB定食も食べたいしなあ」「じゃあA定食頼めよ、俺B定食頼むからさ、わけてやるよ」…なーんて事してるんだろうな!!!ハイハイ!!


「…サボタージュしーちまおー」


また一つ、ころりとオレの中に言葉に出来ない何かが落っこちてきた。

オレにだって勿論モッチ以外の友達はいる。だからオレがここでとるべき行動は気安く声をかけてランチに誘うだけなのだが、そんな気分にもなれなかった。しぼんだ風船のようだ。



いや、しぼんだ風船が木の枝にひっかかってしまったような気分だ。


明らかに気落ちしているオレの背中を見て声をかけてくる女子は流石にいなかったが、心配そうな視線だけがオレの後ろをついてきていた。何度も言うように今日はたまたま気分がそうなだけで別にモッチと飯が食えなかったからとかそんなんじゃないから、本当そこんとこだけよろしく。


大学を出てぶらぶら家へと向かいながら考えた事はやっぱりモッチの事だった。


先の事をなんでも見通してそうな女の子の鋭い目で感じる、モッチがオレの事を好きだという事。かっちゃんの恋愛テクニックが告げるモッチのGOサイン。そしてさっきのあてつけ。


中学の頃、やはり思春期特有のノリで仲間内で好きな女子の話、なんて事になった時。モッチは部活が一番だと言って興味がなさそうだった。それから先もオレがモッチの恋愛観を聞いた事は一度としてない。


幼馴染、そして親友としておかしな話にも聞こえるが実は本当にない。その間モッチに彼氏か彼女かわからんが居たかどうかも知らない。


「……モッチ…オレの事好きなんだよなあ」


ただモッチはかわらずオレの隣にいるという事だ。今朝のように、頼れと言われてオレは素直に頼りまくっていた。だってオレの事をオレ以上に知っているのはモッチだし、一番なんとかしてくれるのもモッチだったからだ。

今更モッチのいない生活なんて…考えられない。


でもやっぱりモッチとコイビトになるなんて、考えられない。考えた事もないからわからない。

ただ男同士は結婚できないし、カップルの行き着く先は結婚か破局だ。男同士にはその先がない。破局しかないのだ。破局してしまえばもう二度と元に戻る事はできない。


今までの彼女たちがオレの頬に紅葉マークを残して去って行ったように、モッチもそうなるかもしれない。

オレは危ない橋ばかりわたってきたけど、本当に危ない時は渡らない。だって失うものが大切なら大切なだけ恐ろしいからだ。だからオレはマシンガンを手にするのだ。


(…でもさあ、やっぱオレから告白なんて、いくらモッチがGOサイン出してても出来ねぇよ。)


だから早く、告白してこい。

そしたらオレは丁寧にお断りをして、友達のままでいようって言うから。それが最善の安全策なんだと、胸をはって言うから。


「………モッチの馬鹿…」


なんかこれじゃ、……まるでオレがGOサイン出してるみたいだ。








ピンポーン、というチャイム音に目が覚めたのは家に帰りベッドに潜り込んでから約四時間程経ってからだった。もそ、と布団から顔を出しぼんやりとした頭で天井を見つめる。

残念ながら今日この家は誰もいない、不在だ。ついさっきそう決まったのだ。


(…もうちょっとだけ…。)


少しだけ出した顔をまた布団の中に潜らせる。ああこの耳まですっぽり隠れる安心感がたまんねぇんだよなぁ、とぬくぬくの布団にほこほことしていたら突然の訪問者は何が何でも対面したいらしく、近所のクソガキも引くレベルで連打された。


――ピンポーンピンポーンピンポピンポピンピンピンピピピピピピピピピンポーン…。


「ああああるっせぇな留守だって言ってんだろ!?AVならまだ届くの早いだろうが!!」


近所迷惑だろうが、とドタドタ足音を立てて扉を開けるとそこに居たのはレンタルビデオの宅配サービスのお兄さんではなく、よく見知った幼馴染の顔だった。


「……アリアトゴザッシター…」


ので、そのまま扉を閉めたが勿論そんな上手くいく事はなく、扉の間にガッと靴の先を突っ込まれた。


「きゃああああああ!?悪質勧誘か取り立て業者のする事よモッチ!!やめて!!私の中に乱暴に入ってこないで!!」


「人の電話もメールも全無視しといて何言ってんだ開けろ」


よく見知ったはずの幼馴染は滅多に見る事のない鬼の形相をしていた。えっなんで急に鬼凸??と思ったが全無視、と聞いてそういえば携帯がチカチカ点滅していたようないなかったような…。そんな事を考えていると目の前の事がおろそかになったのか、隙間から覗いていた鬼は真正面に立っていた。


「ぎょあっっ!!?モッ、、えっ、え?ど、どしたん急に…」


「はあ?どうしたはこっちのセリフだろ、サボった上に声もかけねぇで勝手に帰りやがって…」


勝手に入ってきたくせに律儀に靴を揃えて上がってくる妙な礼儀正しさに変な顔になる。それは、まぁ…と口ごもっているとモッチは勝手知ったる足取りでオレの部屋へと上がっていった。

そりゃもう家もわりとご近所さんで昔からの付き合いだ、なんでも知ってる。


モッチはオレの部屋に入ると明らかに今まで寝てました、とわかるベッドの乱れように顔を顰め、未だ混乱しているオレに振り返った。


「風邪、じゃねぇよな?」


「へっ?」


どうやらモッチはオレが風邪を引いて早退したかもしれない、という考えを持ってくれたらしい。それをそのまま「あーうんそうなんだー」と言えたらよかったのだが、残念ながら疑問形でありながら既に風邪じゃないと見抜いている目をしている。


答えに詰まるとモッチはわざとらしくため息を吐きながら「サボったな」とオレを睨んだ。


「お前熱出てる時は唇が腫れぼったくなるもんな」


「えっそうなの?」


「たらこだたらこ」


「たらこ!?何それ嫌!ってかお前そんな所まで見てたの!?そっちのがびっくりだわ!!」


「テメェが鼻垂らしていっつもうち来て俺にうつしていくから覚えたんだろうが」


「うっ」


嘘つけ!!お前だってオレが風邪引くと心配して登校前に絶対家に寄ってただろうが!!うちの母ちゃんに「ごめんね~ジュンったらまだ熱引かなくて、うつっちゃったら駄目だから会わせらんないのよ~」って言われて「そうですか…」しょぼん、な顔してた(推測)だろうが!オレお前の声だけはちゃんと聴いてたんだぞ!階段の所で!!


大体オレがサボったのはモッチがオレにあてつけばっかりするからつまんなくてそうなったんだから、悪いのはモッチなのに澄ました顔してるのが腹立つぜ!!

そんなつまらない意地がオレの態度を固くしていく。


「メール一つぐらい入れとけよ」


「…別に約束してたわけじゃないじゃん、それに今日はオレとモッチ時間あわねぇし」


「はぁ?んなの今更だろ、いつも待ってんだから待ってるもんだと思って探しただろ。そういう事じゃなくてなんかするときは連絡しろっつってんだよ」


「い、まさらだけど…なんかそれはそれでちょっと変っつーか…」


今更だけどその今更がよくよく考えたらちょっとおかしいだろ。だって、毎日毎日男友達を何時間も待ってるなんて、ほんとそれどこのカップル。つーかもうこの時点でモッチにとったらGOサインだったのかもしれない。


放課後人のいない教室のドアを開けると好きな女の子がたまたま置き忘れていた自分の上着を羽織って居眠りをしてました、なんてもうそれなんてフラグ?愛ってフラグ!!!

それをオレっては呑気に犬みてぇに待っちゃって、本当もうなんていうの?こういうのを愛おしいって言うんだろうね!健気でね!

でもそれも「代わり」がいるなら話は別だ。


「変って、何年同じ事やってんだよ。あーもう、面倒、なんだよ本当今日変だぞ」


「メール一つ入れなかっただけでモッチが騒ぎ過ぎなんだろ、これぐらい普通にあるし…つーか過保護すぎ、うるさすぎ」


自分でもつまんねぇ事言ってんなーってのは分かる。

それに自分が勝手に拗ねてるってのも分かる。だってだんだん唇が前に出てきてる。


「…はー……、純一」


「…っ」


とん、と背中が壁に当たる。オレより背の高いモッチに見下ろされる形でモッチは壁に手をつき、ぐっと眉間に皺を寄せた。急に近くなった事でモッチの家のシャンプーの匂いと汗の匂いがふんわりと香った。

それが距離の近さをまざまざと自覚させて、オレはカッと頬が赤くなるのがわかった。


(こ…っこれは……!!!)


――壁…ドンッ!!!!!


これ世に言う壁ドン!!ドンほどなかったから壁トンだけど形的に壁ドンだ!!壁ドンだ!!!壁、ドンだ!!!

今までも近かったけどこれ未知の領域!!さすがにこんな近くで顔を見る事はない!!格好いい!!くそ!!格好いい!!男臭い!!やばい!!これは惚れる!そらクッキー渡すわ!!


そりゃこの壁ドン、女を落とすテクニックとして乱用されるわ。落ちるわこんなもん。あれ?


って事は今、モッチはラストスパートかけてる…??オレを落とそうとしてらっしゃる…?オレ…今落とされかけてる!!!違う違う!!いかんいかん!違うよ、違うの!!落とされちゃいけねぇわけよ!アッブネーーーッッ!!


目つき悪い癖に格好いい!これが塩顔!オレ多分ソース顔だからいい塩梅!って違うわ!!

間近で見るモッチの姿にうっかりトキメキかけたオレはわしっと自分の心臓がまだ定位置にある事を確認すると睫毛を震わせ、モッチを見上げた。

あ、やばい。今近づいたらこれ…キスできちゃう。


モッチと、キス?

キスなんか、馬鹿、それは範疇超えてる。アウトだ、ばりばりアウト。構えて撃て、敵を撃退しろ。


オレとモッチは長い長い付き合いで、きっとこれからもずっと一緒にいる相手で、そんな相手に好きだ惚れただなんてそんな危ない道歩んじゃいけませんって正気って玉つめて、マシンガンぶっぱなさないといけないのに。

オレの体は一ミリも動こうとはしなかった。


あ、もうこれイくわ。

そう思って目を瞑った時だった。



「お前、うぜぇ」


「アイ?」


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