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マシンガンは必要ない  作者: かつぽ
3/5

3

モッチの精神テンションがハイパーローならば、それをオレの可愛さ&格好よさで打ち崩せばいいのだ。ずばり、今まで余裕ぶっこいてたけど改めて見るとなんだか可愛くて意識しちゃってもう止められないこの恋止められない大フィーバー作戦である。


「んっふっふっふ♡」


ゆるむ口元を覆うのは手のひらではない。もこもこのセーターである。薄茶色のもこもこセーターの袖はオレの第二関節までばっちり覆い隠し、少し長い裾はゆるっと尻の途中まで隠している。

これを俗に、萌え袖…と、いふ。


(くくく…モッチめ、これならオレの可愛さにズキュンバキュンだろう!!)


しょっぱなから可愛さ&格好よさで勝負をすると言っていたオレが何故こんなキュートで固めているか。それは勿論理由があるからで、そもそも格好いい系でモッチと張り合おうとするのが間違いなのだ。何故ならモッチは兄貴(♂)を正面から掲げているような男だ。じょりじょりするもみあげも、硬くハリのある髪も、シックスパックも文句なく男前だ。イケメンではなく男前だ。


ちなオレはイケメンだ。ワックスを揉みこんで遊び心満点のふわふわヘアー(モッチ曰く鳥の巣と変わらないらしいが、男ウケは悪くても女ウケはばっちりだ。)にクリッとした目。髭ももみあげも濃くなく頬擦りをしてもじょり痛になることもない。

……どこからどう見ても格好よさでモッチに対抗できる気がしない。ちなみにモッチが格好いいと思うのはどんな奴なわけ?と聞くとかつてのモッチは源五郎さん(76歳空手師範代、朝はチワワと散歩をしている。)だと言っていた。


源五郎さんに勝てる気がしねぇ…。

ならば!!このオレのかわいさ余って憎さひゃくば…、ちが、憎さ余って可愛さ一億倍のラブリーパンチを食らわせてやろうじゃないか!!男前度ではほんのちょっぴり負けていたとしても可愛さでオレに勝てるなんてハッ、百年早いのだよモッチ!このオレの愛らしさを目の当たりにしてモッチが頬を染めて目をそらし「なんか、今日…いつもと違うな、…まぁ可愛いんじゃねぇの?」…。


「なあああああんてええええええええーーー!!!」


いやでも想い人があんまりにも可愛さ炸裂してたら男として狼の部分がにょっきりしちゃってオレのバックがアーッなんて事になったりしたらマシンガンどころの話ではないのだが、そこは安心。


「ほほほほほ…この唐辛子催涙スプレーをきゃつの目に…いや、目がダメなら亀さんの頭をさらに真っ赤にさせてやるぜ…!」


「誰にやるつもりかしらねぇけどふざけて俺にやってきたらお前のビッツは擂り鉢ですり潰すからな」



「ホァーーッ!!」


またしても!!

当然のように背後にぬっと立つ今日も今日とて愛想の欠片もない男が玉ヒュンな言葉を吐く。玉と一緒に上に吊り上げられた肩、首がひっこんだオレは小刻みに震える体を動かし振り返った。


「……ぉ…ぉはょ…?」


「…………………おはよう」


ぱちぱちおめめ、睫毛ふぁっさり萌え袖、顎は引き気味斜め二十度上目使い。今この瞬間のオレの可愛さメーター振り切れた。

さぁ、ドキッとしちまいな!!


モッチは随分と溜めた返事としかめっ面が太陽に反射してシャドー過ぎて怖かったが、その沈黙まさしく葛藤タイムですねはいわかります。なにやべえこいつまじ天使クソかわって思ってるんでしょ!そうでしょ!知ってんだぜ!!


どこにポイントを当てたかと言うと普段馬鹿でかく元気に「おはよー!」と言う所を「ぉ」「ょ」のをちっさく甘ったるくした所だ。この甘さ、蕩けずにはいられない…!!

どうだ、と期待を込めた目でモッチを見つめているとモッチはその眉をきゅ、と寄せるとオレの頭をいつになく優しく撫でてきた。


「っ」


「…なんかあったら俺に相談しろよ、いつでも話聞いてやる」


それはさながら少女漫画の頭ポンポンであり決して男子大学生同士で行われるものではないはずで、野郎から頭ポンなんかぶっちゃけ鳥肌もんだが。


(くそ…っ不意打ちだった…!!)


オレとしては赤面するモッチが見たかったのだが…。今まであんなに優しく撫でられた事はない。それに、普段はつっけんどんなくせにあんな風に急にデレるなんて…狡い。

心なしか赤らんでいるような気がする頬をぱたぱたと手で仰ぎながら歯を食いしばった。


いつでも話聞いてやる、なんてイケボイスで囁きやがってなんだそれこの野郎やっぱりかっちゃんの言った通りGOサインばりばりだ。いつでも準備OKの状態だ。だが、そんな罠にはひっかからない。オレはなんとしてでもモッチに告白させてやる、そしてズッパリ振ってやるのだ!


(でもなんか…やっぱ溢れてたな…。)


今まで気づかなかったのが不思議としか言い様のない程の、モッチからのラブビーム。オレの事ちょー好きって目。いつから?どんくらい?どこが?色々聞きたいけど、聞けない。

それが何故か酷くもどかしく感じた。




「や~ん!ジュン君今日なんか超可愛くない!?」


「なになに~勝負キメてきてんの?」


教室に入ると朝からちらちらと視線を送ってきていた女子たちにわさっと囲まれた。席に座ればオレを見下ろす形になった猛獣たちがやれ先にと手を伸ばしてくる。

女の子の柔らかい手がいくら気持ちいいといったってそこらから一気に伸びてくると怖い、やばい、ホラー。若干体を引きつつオレはふふんと鼻を鳴らした。


「でっしょ、可愛いっしょ?なんでか知りたい?聞かせてやんよーー!さあ聞け!!」


「「「え~別にいらない~!」」」


「その通り!!狙い撃ちよー、まぁ狩りってのはさ、自分から行ったら駄目なわけよね。どれだけ待てるかっていう、まあ動かざること山の如し、みたいな?ま、素人はガンガン行っちゃうんだけどやっぱオレぐらいになるとそこらへんもずっぽしなわけね」


「ジュン君フィナンシェあるけど食べるぅ~?」


「食あべるぅ~!!!」


「はい狩られた」


女の子のぴかぴかに磨き上げられた爪から渡されたフィナンシェはオレンジ風味で美味い。あぁ…今オレ餌付けされてるなって、自分でもわかってるんだけどこれだけは…これだけは!!

だがここでもオレはちゃんと忘れてない。今、モッチはオレの事を気にしている。


少し離れた席からたまにちらりとこちらを伺っているのがわかるのだ。

昨日話した通り、モッチはきっと恋愛相談=馬の骨女と思っているはずだ。今こうしてオレが餌付けされているのを見て何も感じないはずがない。さぁ焦れろ、焦れて焦れて焦れろ。


そしてさっさとこい、さもないと馬の骨女に可愛いオレがとられちまうぜ!!


(ふ、くく…ヤキモキしてる面でも拝んでやるか…どれどれ。)


別に楽しんでなんかない。オレは純粋に親友がホモの道に誤って行かないように正しく導いてやろうと思っているだけで全く他意はない。

ただ日頃の憂さ晴らしといっちゃなんだが…どちらかといえばいつもモッチにケツをふいてもらっていた立場のオレとしては優位に立てる事なんて滅多にないのだ。


滅多にない事だからたまにはちょっとだけ、ちょっとだけいいよな?


そう思って女の子の隙間からモッチを盗み見した時だった。


「んがっ!?」


「なに?足りない?クッキーもあるよ」


違う、そういう事じゃない。


あ、あ、あ……。


「あの、これ…サークルで作ったやつなんだけどよかったら…」


「くれんの?…サンキュ、ありがたく貰うわ」


(あああああンの野郎ぉぉぉおおおメスひっかけてやがるぜええええ!!!…えええええええええええ???…えっ、えええええ!!?)


さぞジト目でオレを見てるだろうと思ったらまさかのハンティング中だった。というか、本人にハントのつもりは全くないのでザルに勝手に獲物が飛び込んでくる感じだ。ああん好きにして♡なわけだ。


いや、でも!!いくら餌が腹見せてやってきても本命が居たらそこはスルーでしょ!?なにちょっと青春してんの!?そういう青春は言っとくけど高校のときにやっておくもんで大学に入ったらそんなっアッモッチは甘いクッキー嫌いなんだぞ!!ザラメなんて入れやがって、出直してこい!!


口の中でフィナンシェをすり潰していると間違えて自分の舌のつぶつぶ一粒だけぷちっと行って涙出た。


モッチにクッキーを渡していたのは清楚系の派手ではないけど素材が可愛いねって感じの女だった。くそ、モッチ騙されるな。女は皆猛獣なのだ。どれだけゴロニャンして子猫ぶったって一皮むけばガブリだ。っていうか普段そんなの貰わないくせに何今になって、いや、え?もしかして…。


もしかしてこれってオレに対するあれですか?……あてつけ、ですか??


「んもおおおおおおどれだけオレの事好きなんだよ!?馬鹿っもうっ駄目なのよ!?どうするのよ!!」


「旅立ったね」


「ね、今日はなんか超特急って感じだね」


なんだよ!なんなんだよ!!硬派だったくせにそんな悪い事しちゃって心の中であっかんべしてんだろ!?厚めのぽってりした舌ぺろっとしてんだろ!?キャラが違うでしょ!!キャラ違いするくらにオレの事好きなの!?もうだめ!早くなんとかしないとモッチが手遅れになってしまう…ッ!


(はよ告白して来いやあああぁぁぁ…。)


もういい感じなんじゃないの?もどかしい、やっぱりもどかしい。お互い知ってる感じなのに何この駆け引き?凄く面倒臭い!!オレってば頭使うの得意じゃないから余計わーーってなるわけ。本当ならそんな似合わない事すんなってモッチに突撃したい所だが…。なんだかそれも面白くない。なんか、負けた気分。


モッチめ、とブツブツ文句を言っているとそれを不憫に思った女子たちが奮発してオレの頭を撫でて行った。


「……………………」


奮発されたからオレの完璧な髪型がモッチの言うとおり、鳥の巣になってまたオレのテンションはどどどどーん下がり。おかしい。モッチのテンションをハイにするつもりだったのにオレのテンションが下がってしまった。さっきから上がったり下がったり、高低差激しくてしんどいわ!!


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