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さて、次に考えなければいけないのはモッチがいつからオレの事を好きか、という事である。
「…好きって…カップルって意味だもんな」
ぼくきぃくんの事だいすきーっ!と言っていた頃の好きとは違うのだ。その、あの、ほ、ホモ?的な観点で言うとケツほじりたいぜの好きなのだ。いや待て、オレはさっきからモッチが掘る側だと思っていたがどうだ?そうなのか?
もしモッチがオレのぞうさんを見てブチ犯じゃなくて「やだ…っ素敵なマンモス…っ抱いてっ!!」と思っていたら?モッチが?あのモッチが??
「………オレのちんこ立つかな…え!?違う違う!!違うから!!別にそんな気ないから!!振る前にちょっとつまみ食いだけしておいて捨てるとかそんな事考えてないから!!誰だそんなゲスな事考えた奴出てこいコルァッ!!オレか!?オレだーーっわあああああ違うんだよぉぉ!!」
「お前は朝から何の話してんだ」
「あ、かっちゃん」
「よ!」
カタン、と目の前にいい匂いのした定食が置かれる。からあげだ、おかずの王様からあげだ。隣に腰を下ろしたのは同じ学科をとっているかっちゃんという友人だった。ちなみにかっちゃんには双子の兄、たっちゃんがいるのでタッチと呼ばれている。余談だ。
「あれ、どうしたんだ?今日は望岡いねぇじゃん」
「モッチはなんか話があるとかで先輩につかまってた、ので、今日はオレ一人で飯なんだよ」
「へぇ、珍しいな。じゃあ寂しいんじゃねぇのお~?お前らコンビは目立つしな」
「だっだっだっ誰が寂しいか!!寂しいはモッチであってオレは一人でいてもえっちらこっちら女の子がかまってくれるからそんな!!事は!!ない!!」
ひひ、と嫌な笑い方をするかっちゃんはオレの肩を突きながら唇を緩ませる。またまたぁ、と笑いながらかっちゃんはから揚げを一つ、オレの生姜焼き定食の上に乗せてくれた。思わず歓喜の声が上がる。
「ま、いいや。そんで?ゲス野郎につまみ食いして欲しい女の子はどこにいんだ?」
「え?女の子?」
「え?」
「え?」
「「え?」」と首を傾げるかっちゃんにオレも首を傾げる。だが言っている事を理解するとオレはボッと顔を赤くさせ違う違う違うから!と首を横に振った。色々違うが全部違うというとそれこそあらぬ話になりそうで、とりあえずどれが違うとは言わず、ただ首を振った。
オレは断じて、断じてモッチをつまみ食いしようなんて考えていないしそもそも男にそんな事は思わないしオレはゲス野郎ではない。
だがふと、他の人の意見を聞くのもありなんじゃないかと思った。
かっちゃんは口も軽くないし、ピーチクパーチク信用ならねぇ女の子に相談するよりかは断然ましだ。それに当たり前だがモッチ本人に「お前オレの事いつから好きだったの?」とか「ほじる方?ほじられる方?」とか、告白もしてきてない相手に聞くのはデリカシーがなさすぎる。
そこでオレはかっちゃんに簡単にかいつまんで話てみた。
友達が、Mちゃんはオレの事好きなんじゃないかと言ってきたという事。
確かにMちゃんはオレの事が好きだと思っている事。
でも告白はされておらず、どう対応したらいいか悩んでいるという事。
この三つを簡単に説明すると、かっちゃんは益々面白い事を聞いたといわんばかりに口端を吊り上げた。
「そりゃあれだな、全部仕込んでんだよ」
「仕込んでる…?」
「つまりお前に告白されたいから、友達にちょっと気がある感じだって伝えてくれって頼んでお前の気を引こうとしてんだよ。それはGOサインだな」
「GOサイン!!?えっ!?じゃあなんですか!?向こうはオレが向こうがオレの事好きだって思ってるの知って、ん?向こうがオレに、いや向こうはオレに…んん??」
「一言で言えば告白しろ、そして付き合え。それだけだ!そしたらゲス野郎にならずに済むし彼女も出来る、やったじゃねぇの、お前最後にひっぱたかれてから結構長い間相手いなかっただろ?」
「ええええええええ!?告白!?付き合う!?えええええ!!?」
「なんだよ、嫌いなのか?」と怪訝な顔をするかっちゃんに振り子のように首を振る。嫌い?そんなバカな!!きっとモッチの友達の中でもオレが一番モッチをよく知ってるしモッチの事が好きなはずだ!長年ずっと一緒にいるんだ、そこは譲れないし譲ろうとも思わない。
でも付き合えるかと聞かれると微妙だ。
そもそも同性同士で付き合うという事がいまいちピンとこない。
でももし本当にモッチが仕組んでいたというならモッチはオレの告白待ちだという事なのか。モッチオレにGOサイン出してんのか、まじか、えっまじか?
モッチがGOサイン…。
頭の中でTバックを履いたモッチがベッドの上で「カモンベイベ」と言っている姿が浮かんだが散滅した。いや、散滅すべきだ。急激に自分の中のモチベーションが下がった。大体お前Tバックって、やめろ。たしかにモッチは均等のとれたイイ体をしてるがなんか恥ずかしいしモッチのじか尻擦り付けられたベッドにオレ寝転がったりしてんだなって思ったらなんか悲しくなるからやめろ。
「で、もさぁ…なんかさ、その、告白してこいみたいなの嫌じゃね?そっちから来いよって思わねぇ?」
そんなまどろっこしい事しなくてもぶつかってくりゃあいいのに。
「まあそういうなって、女ってそんなもんだろ?アクティブさを求めすぎちゃいけねぇよ」
「…じゃねぇもん…」
「あ?」
「なんでもねぇー!相談のってくれてあんがとヨ!」
女じゃねぇもん、とはさすがにはっきり言えなかった。
幼馴染としては?やっぱどんだけオレが格好良くても男が好き、なんてあっちゃいけねぇよと諭してやらねばと思うがそれはつまり好きですごめんなさいの件を得てやるべきもんで。
諭すためにはまず告白をして貰わねばならないわけで。ってかあいつ、オレに告白する気あんのかな。ねーよな、どう見ても。いや今しようかどうか悩んでる所かもしんねぇし。
いやいやいやいや告白されたいわけじゃないけども!!そんな気は全くないけども!!
「二人で何こそこそ話してんだ?」
「ぎゃっ!」
「おう、望岡。いや今ジュンの恋愛相談に乗ってて――…」
「ワーーーーーーッ!!かっちゃん!!」
慌ててかっちゃんの口をふさいでももう遅い。用事を済ませたモッチが食堂にやってきたのだ、モッチは首を傾げながら「恋愛相談?」と慌てるオレを見つめた。
その顔はなんとも形容しがたく、目を細め怪訝な雰囲気でオレを針のむしろに立たせた。
「ハッ!!」
こっこの顔は…!!モッチ…っやきもちだ!!モッチがやきもちを焼いている!!まだ見ぬオレの想い人(妄想)に対して今まさに「この俺がありながら恋愛相談だと…?」と感情を全面に出している!!
オレにはわかる、幼稚園の頃からの幼馴染であるオレにはそれがわかるのだ…!!
「いっいやいやいやいやいや違うのだよモッチ!!違うのだよ!!」
「??何がだよ、つーかうるさい、声デカい」
「怒らないで!!違う!!そんなつもりはないのよ!!」
「俺お前と何年もダチやってっけどお前と未だにまともな意思疎通ができた事ない気がするわ」
モッチは何事のなかったかのように平然とオレの隣の椅子を引いて座った。その様子がまるで彼氏の浮気を発見した彼女が「ふーんまぁ別にいいけど」と唇を尖らせながら視線をまったく合わせてくれないような、そんな危うさが漂っていた。
まったく別にいいと思ってないくせにいいなんて言っちゃって私気にしてませんよ、と表面上振舞いながら中身はおどろおどろしい事になっているパターンだ。
ここでオレが慌てる必要性は全くないのだが、かっちゃん曰くモッチはGOサインを出している。Tバックを履いている。つまりそれはもうゴールイン間近という事だ。ゴールイン間近の相手が恋愛相談なんてしてちゃそりゃ気も悪くするだろう!!
ふん、と鼻を鳴らし「恋愛相談ね、また面倒な事にならなきゃいいけどな」とオレを見ずに吐き捨てるように言うモッチにオレはなんだかとても切なくなった。
モッチ…オレモッチとの関係壊したくないけど、壊さなきゃならないんだぜ。
オレはモッチに面と向かって、「お前オレの事好きなんだろ?でもそれは無理だぜ」とは言えない。流石に言えない。だからモッチがたとえオレにGOサインを出していてもオレはモッチから言われて初めてお断りできるのだ。
正気という弾を込めたオレの誠意をぶっ放せるのだ。
……覚悟は決めた。
「…オレモッチの事……最高の幼馴染だと思ってるよ」
「は?」
モッチ!!オレは引き金を引く為、お前に愛の告白をしてもらうぜ…!!!