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マシンガンは必要ない  作者: かつぽ
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マシンガンは必要ない

きっかけは一人の友人(女)の一言からだった。


望岡もちおかってさ、ジュンの事好きなんじゃない?カップルとかそんな感じの」


「へ?」


大学のサークルでの飲み会でめっちゃ狙ってるわけじゃないけど結構可愛いなと思ってたこんな時だけやたら可愛く見える普段はそうでもない女友人、の突然のびっくり発言にオレは呑みかけのビールを唇の端から盛大に飴色のテーブルへとだばだば零した。


「ん、んん…んんんん??え?」


「あたし前から思ってたんだよねー、ほらジュンと望岡って前からやたらベタベタしてたし?距離が近すぎるっていうかさー」


ふっくら厚めの唇をグラスにくっつけたまま喋る友人の言葉は不明慮なのにやたらとその内容をしっかり俺に伝えてきた。ここで言う望岡というのはオレ好みのむっちりプニ子のほわほわ系ニットが似合う女子…ではなく、オレと身長もそう変わらないごつくて固いしかも眉の凛々しい雄。


ちんこがまだポークビッツだった頃からの付き合いである幼馴染(男)の事である。


「え!?」


「もう、ちゃんと聞いてる?まじな話、あたしちょっと望岡狙ってたんだけどいつみてもジュンと居るから、なんか逆に?ふっきれたっていうか」


「ええ!!?」


「もー!さっきから驚きすぎ!!もういいってそれ!!」


「いやっえっいや、え!?そうなの!?」


「そうなのって…見てたらわかるじゃん」


ここの「そうなの?」はお前モッチの事狙ってたの!?でありモッチオレの事好きなの!?の意味ではない。いや、勿論それも含まれてる、含まれてるがあまりにぶっとんだ内容で理解不明だ。

だって考えてみて?鋭いと言われてる女友達が突然お前の幼馴染お前の事好きじゃね?なんて言いだしてみろ、これが女の子だったら「え?そうかな…」とドキドキラブコメがスタートするが相手が男だとまさに逆に?



逆にドキドキする、心なしか尻がむずむずする。


「そう…なの…?いやいやいやいやないって!!だってモッチだぜ!?モッチが!?ねぇよ!ねぇねぇ!!」


「ま、別にどうでもいいけど。よく考えてみたら?あんたが振ってくれたらあたしにもチャンスあるかもだし」


「お前ふっきれたって言ってなかった!?さては全然吹っ切る気ねぇな!?」


うるさーい、と隣のテーブルにあるツマミを取りに席を立った友人。

そう、この日からオレの戦争は始まったのだった。







とりあえずひょっとしてもしかして麗しのオレ?の事を語っておこう。ジュンこと純一じゅんいちは大学一回生。辛いつら~い受験を終え晴れて大学に入る事ができたピチピチのJDなわけだ。

回りはオレの事をあほの子と呼ぶがそれはオレの仮の姿であり、本来のオレは至極まっとうな男である、と…自負している。


まぁでもたしかに?廊下を歩いていればジュン君これあげる~、と先輩たちに飴玉をころころ渡されるくらいだからオレが思わず飴を上げたくなる程キュートだという事は知っている。

癖のある髪とくっきりぱっちり二重の目は両親からのありがたい贈り物だ。つまりオレは格好いい。モテる。割と、モテる。


そんなオレにうっかり幼馴染が「ドキン…なんだよコイツ…恰好いい…っ」になってしまったとしても奴に罪はない、格好いいオレが悪い。が、それが事実かどうかはしっかり見極めるべき事だとオレは知っている!!


「おおおおおオレのフロントとバックを守らねば…っ!!このっオレのっ特大スペシャル縁日の屋台でよく見るねまじデカフランクフルト純一君を守らねばならない!!それがオレの使命なのだから!!」


「校門のど真ん中で詐欺するの止めろ、お前のはタコさんにするのもちょっとしんどい赤ウィンナーだ」


「うぐ…!!」


ごすっ、と突然の脇腹への打撃に体を折り曲げ呻く。肉体的ダメージも受けたが今さらっととんでもない暴言を吐かれた気がする。うぐぐ、と呻きながら校門の端へとじりじり移動したオレは涼しい顔をしている幼馴染を睨み付けた。


「テメェ!!モッチ!!肛門だと…!?テメェいくらなんでもそれはねぇだろうが!!」


「??ねぇのはお前の頭だろ、ほら一限遅れるぞ」


「やめろ!首んとこひっぱんな!やめろおおお!!」


身長はそう変わらないのに簡単に引きずられていくのは力の差か、シックスパックか。オレにだってそんぐらいあるんだぜチクショーー!!姉ちゃんが男は筋肉がないとモテないっていってたからな!!

ずるずると引きずられながらオレは朝日をバックに澄ました顔をして歩く幼馴染、問題の望岡喜介きすけを睨み付けた。


日に当たっても透ける事のない真っ黒な髪に凛々しい眉、目つきの悪い一重の細い目。誰にでもウェルカムなオレと違って最低限の愛想しか持ち合わせていないこの男はよくビビられているが、優しさの欠片もないわけではないので一部女子から強烈な人気がある。後は基本的に野郎人気だ。


(ハッ…もしかして野郎にばっか囲まれてたからいつのまにか…。)


皆のアニキ(♂)として崇められてるんじゃ…。


「うおおおおお離せぇえオレは子分になるのは嫌だああああ」


「ほらキャラメルやるから黙ってろ」


「もご…っ」


そうそうこれこれ。

この男とは腐れ縁も腐れ縁の深い仲なのだが、まあどこまで腐れ縁かと言うと幼稚園から大学までずっと一緒という…あれ?まさかこれか?ここから始まるのか?距離が近すぎるというがそこから考えるとオレとモッチの距離なんて0である。


思い出せばオレが反抗期を迎え「モッチなんて嫌いっ」とそっぽを向いた小学校高学年時代もこいつは変わらず毎朝家の前まで迎えにきて、仲良く手を繋いで登校していた。

グレたくせに悪い先輩たちに絡まれて逃げられず半泣きになっていた中学生時代も、モッチはメンチを切る先輩たちを前にオレの手を握りしらっと警察に電話をしていた。

オレはその時てっきりモッチがオレの為に喧嘩するんだ!!モッチが怪我しちまう!!とさらに涙をこぼしていたので、普通にモッチが電話で「もしもし警察ですか、今不良の集団に絡まれてて困ってます、助けて下さい」と言った時は涙もひっこみ「こいつマジか」と思ってしまった。


こいつ絶対漫画とかよまねぇなと思ったもんだ。


高校に上がればそれも変わるかと思ったことがなかったわけではない。だが気づけばモッチはオレの隣にずっといた。

キャットファイトの仲裁に入っていたのがいつのまにかオレがしばかれている所を助けてもらったり、彼女に実は浮気されててしかもオレが浮気相手で怖いお兄さんが出てきたときもモッチが助けてくれた。


大学に行けないだろうと言われていたオレの学力を叩き上げ同じ大学にまで引っ張ってきてくれたのもモッチだ。

自分で言っておいてオレって結構なんというかその…まぁ…、、手のかかる男だっただろう。歴代の彼女たちにだっていつも頬に紅葉マークをつけられて「私はあんたの保護者じゃねぇんだよ!」と振られてきたオレだ。


そんなオレを甲斐甲斐しいまでに世話をやき、助け、慈しんでくれた(?)モッチ…。つまりこれは…いや、まさか…でもでもやっぱりこれは…!!


「……あほ面して見過ぎだ、そんなにそれ美味かったか?まだあるからやるよ」


「…うん」


ヘェエエエエエイ!!!リンゴーーーン!!!ファンファーレを吹きな!!


モッチをじっと見つめていたらオレがキャラメルを催促していると考えたらしいモッチは呆れたように、しかし優しげに、その細い目に隠し切れない愛おしさを滲ませオレの頭をポンッと少女漫画のように叩いたのだ!!

確定…ッ!!


これは確定だ…!!


(こいつはオレに恋心を抱いている…ッ!!)


でなければこんな目でオレを見ないだろう!そしてわざわざオレにやる為に中に他のものよりも高い、中にチョコの入った柔らか生キャラメルを買っているはずがない!!モッチは!!オレの幼馴染は…っオレに恋をしている!!


(よく考えたら抱いてねぇわけがねぇ…!!好きでもねぇ相手と十何年も一緒にはいられないはず…!しかもオレとモッチはちんこのデカさまで知っている仲…ひぃいいいっ不覚!!なんて危うさだ、なんて危機感のなさ!!自分に惚れている相手の前で『ちんちんぶらぶら~んパォーン』なんて見せびらかしている場合ではなかった…!!)


あの時のモッチのしかめっ面はきっと「こいつ無防備に俺の前でぞうさん出しやがって…ブチ犯されても文句はいえねぇぞクソ可愛いな」と思っていた顔に違いない。


思い返せば次々に浮かぶ己の無防備さ、さながら狼の群れで肩だしニットワンピース腿ギリギリの丈で四つん這いで「今日親いないんだ」とついうっかり言っちゃう女子の如く!!

そう気づいてからはもう駄目だ。


オレは無防備にかっぴろげていたパーカーのチャックを喉仏ギリギリまで引き上げた。


「?寒いのか?マフラー貸してやろうか?」


「いやっいい!!っっていうか!オレ自分で歩けるし!!」


今日のインナーはざっくり首元の空いた服だ、鎖骨が見えている。鎖骨は見せてはいけないだろう!!鎖骨を見せるという事はウサギが狼の前で腹を出すのと同じ!齧りついてくれといっているようなものだ。

狼の視線から身を守らねば!!とギリギリまで引き上げた結果、オレは首の薄皮をチャックに挟んでしまい最終的にはモッチにゆっくりと鎖骨が隠れるぐらいに下げてもらう事になった。


きっとこのモッチの優しさも、いつかオレという獲物をぱくっと食っちまうためにあるものだろう。恐ろしい、恐ろしいぜ。

早くこの幼馴染に、その恋は恋ではないのだと目覚めのマシンガンをぶっ放して目を覚まさせてやらねば…。



その日一日、オレはさながらゴルゴのようにモッチに背後を取らせず、逆にモッチにお前背後霊かと言われるぐらい敵の後ろを取ってやった。



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