死闘の果てに
たぶん死に過ぎたんだろう。
蘇生してもあちこちが傷んでいるような、
鈍い痛みを感じ始めた。
『errormessage:606Kernel_ABORT』
幻覚か、錯覚か、赤みが取れない視界に横文字が浮かぶ。
殺し合いが終わってない以上は倒れられない。
万に近い死の果てに『negatio-lux≒esse』の
命の終わりが見えてきた。
黒い靄による浮遊も力無くたゆたうような、気だるさを感じさせている。
お互いに満身創痍だ。
だからこそ、負けられない。
こんだけ気持ちよく暴れられたのに、最期の最後に先に倒れるのは悔しい。
『殺ってやった』で終わる為にも、必ず殺す。
『negatio-lux≒esse』も、同じ気持ちなのだろう。ボロボロではあるが、ちゃんとオレを殺しにきてる。
ぼくは死に戻りで身体は新品で体力も全快のはずだが、動くのがやけにしんどい気がする有り様だ。
ヤツも攻撃が雑になっているから、辛うじて躱せている。
打ち込んだ拳が鈍い音をたてる。
よしっと思った瞬間に、生臭い匂いに包まれ視界が真っ暗になる。首元に痛み意識が飛ぶ。
これは口でアタマを喰われたパターンの死に方だな…
蘇生、落下、ダッシュ、攻撃、攻撃、死亡、蘇生、落下、ダッシュ、攻撃、防がれる、死亡、蘇生、落下、ダッシュ、攻撃、攻撃、攻撃、死亡、落下、ダッシュ、攻撃、防がれる、死亡……
ルーティーンだが、パターン化すると対策されて無駄死にするだけ。
死にかけの心で必死に殺す為に動く。
そして、
膨大なHPに支えられて減りの異様に遅いヤツのHPバーに底が見える。
本当にドットも見えない、次の一撃でもしかしたら倒れるかもしれない。そんな状態が少し続いて…
ヤツの瞳に諦念と称賛が見えた、
拳の形になった異形の腕が死力を尽くして
迫り来る。
呼応して、オレも拳を握り、腰を落とす。
万を超える命のやり取りの中で
《《お互いに》》知ってる。
スキル『窮鼠猫喰』は
攻撃がぶつかりあった際は
此方の判定で相手の攻撃判定を塗り潰せる。
完璧にタイミングを合わせた拳が
『negatio-lux≒esse』の拳と重なる。
ズバンッと鈍い音
衝撃により、緩く風が流れる。
『スキル発動!
窮鼠猫喰発動!
防御無視ダメージ!』
『negatio-lux≒esse』の身体を支えていた
靄がふっと煙のように立ち消えた。
「楽しかったよ、人間」
「ありがとう、怪物」
殺ってやった…喜びは思いの外に静かな物だ、でも充足感を感じられるモノだった。