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閑話 死闘の中で

side 『negatio-lux≒esse』


私が生まれたのはEARTH世界歴では紀元前2011年前の出来事になる。


「おぉっ!成功だ!やっぱりワタシは天才だ!」


当時は物が無く、殺風景な父の研究室において

シャーレに載せられた私は目玉の浮かんだ珈琲のような

黒い液体としか言えないモノが、私だった。


「この世界で現実を侵食するにはスリルが重要だ!もっと強く!おどろおどろしく!立派になれよ!」


目を爛々と輝かせて語る父の言葉を

聞いて、そう在るべきだと行動した。


そして紀元前10年

この世界ゲームの存在が

異なる世界リアルへ伝えられる前まで、

私は世界終端ゲヘナにて

闇を喰らい、同族を飲み込み、成長し。

父の言葉を忠実に実行していた。


いつか父の言う、異邦人プレイヤー

まみえるまでそれは続くと思っていた。


_____________


「どうでしょう?凄いでしょ?最高でしょ?天才でしょ?」


「…あぁ、凄まじいな」


ある日、父が人間を研究室に連れてくるそうだ。

私もゲヘナから呼び戻された。


頭上にはネームが浮かぶ、父の世界の人間であることが分かる。


「ワタシの創造したもう1つの世界だ。

ゲームとしてのシステムと

私が開発した管理AIを組み合わせれば、

表向きのガワは完成するだろう!

モンスターも、たくさん造ったぞ!」


「後半はお前の趣味だろう、気狂マッド野郎」


「実益を兼ねた趣味と言ってくれたまえ。それに人間げんちじんもちゃんと用意してある。」


「本当に人間が用意出来る時点で冒涜的なんだよなぁ」


「コイツとかスゴいぞ!私のお気に入りだ!」


父の紹介に応えるべく


GiSYAAAAAァァアア!!


咆哮へんじをした。


「ぬォっ!…なんだ、この冒涜的な《《液状》》モンスターはっ!?」


「コイツか?コレは私の見た悪夢を凝縮して造ってみたモンスターだ!【種族カテゴリー:ショゴス】と言ったところだろうか」


「SAN値が減るわっ!自重しろよ!」


その男が来たのち

どんどん『スタッフ』と

呼ばれる人がこの世界にやってきた。



_____________


正暦192年


あれから父の研究室の上には

『灰の都:ロンディニア』という名称の街が築かれ、この世界の人で溢れている。


もうすぐ、念願の『りりーす』なる

イベントらしい。


その一年前、父は私を呼び出した。


「あー、すまない『実験体07号』オマエの事は気に入っているんだが、悲しいお知らせがある。」


「オマエも含む、強力過ぎる存在や、過酷過ぎる土地などの序盤には《《不必要》》な存在は一度停止が決まった。」


「この世界に一度に多くのプレイヤーを入り込ませる関係上、サーバーのデータ容量が一時的に足りなくなるんだよね。私も頑張ってみたがね、こればっかりはどうにもならなかった。」


「今後の収入増で、サーバー強化したらまた、出してやれるけどそれまでは、始まりの島。この『グレー・ブリタニア』以外のデータは全て凍結する。もちろんオマエもオマエの生息地のゲヘナもだ。」


突然過ぎる、一方的な凍結処置おるすばんの告知に

こらえきれなくなった。


思わず、《《手を伸ばす》》


不定形だった【種族カテゴリー:ショゴス】の身体が異形の腕を形作る。


掴みかかりたいわけじゃなく

ただ、連れていってほしいと

手を伸ばしたんだ。


『システムメッセージ:【種族カテゴリー:ショゴスNo.07】は【貴種ユニーク:『negatio-lux≒esse』】に進化しました。』


されど、伸ばした指先は父に届かず

ピキピキと時の凍結により

凍りつく。


あぁ、お父さん…


「悲しいけど、これもワタシの夢の為なんだよね。チャオ…」


管理者アカウントの特徴である、

紫のホログラフディスプレイを操作する姿を最後に、 私の意識も凍りついた。



_____________


意識を取り戻したとき、闇の中にいた。

何も見えない。

お父さんも何処にもいない。

ただ、もっと向き合って欲しかったという

怒りにも似た悲しみだけがある。


闇を透かした黒い光が差した。


円と図形を描くそれは出口だと

直感的にわかった。


ただ、出たいとし割って溢れ出る。

腕の形をなして周りを見たとき、此方を見てるのは、


お父さんと同じ世界の人間だった。


少年だ。

若干この世界の人間にも似てるが

顔付きに異国の血が感じられる。


凛々しい顔立ちだが

何処か間の抜けたところもあるような…


お父さんと同じ種族『日本人』の

血筋の気配を感じて悲しい気持ちが甦る。


GiSYAAAAA!!



『システムメッセージ:『中位権限AI リメイカーNo015963』より召喚要請を受諾しました。』


少年の隣に立つ、

理知的な彼女の呼び出しで、再び現世へ出られたらしい。


『システム』に縛られ自由は無い事を悟る。

憤りや悲しみを覚える。

だが、攻撃対象サンドバッグがいるのは

素晴らしい。


布の服を着てるだけ、武器は素手。

気や魔法の力は感じられない。


人間じゃくしゃの身体能力だけじゃ

私にとっては、《《エモノ》》でしかない。


憂さ晴らしに叩き潰してやろう


_________________________________


「同情ばかりもしてられないし、胸(?)を借してもらいます!お願いします!」


「『negatio-lux≒esse』戦闘開始です。」


GiIiiiYAA!!


八つ当たりする為に思いっきり

引き裂いてやろうと接近した。


当たれば、振り下ろした鋭い爪が

人間をズタズタにするだろう


GiiiYA!!


「今ッ!」


その予想は完璧なタイミングでの回避、


そして ドンッという鈍い音の割に、

軽い衝撃により覆された。


『システムメッセージ: 0ダメージ!防御力が対象の攻撃力を大幅に上回ってます。』


一瞬、反撃を受けた驚きで、何が起こったか分からなかったが


「…ステータス差ありすぎて、

ダメージ入らないじゃないですか!?」


同じくらい驚く、少年を

とりあえず張り倒した。


_________________________________


少年ぷれいやーは死んでも、甦るらしい。


死体は忽然と消えて

地面に落ちてきた少年はピンピンしていた。

どうやら痛みはないらしい。



その後、何かやり取りを

召喚主メイカとしているようだ。


召喚主から攻撃停止の思念めいれい

出てるので、私は先程の戦闘(?)を振り返る。


…何よりも予想外だったのが、今の私は《《弱体化している》》ようだ。


振り下ろしの爪の一撃も本来であれば

もっと鋭く回避不可能なモノになるはずだった。


私の予想としては、あの魔法陣ゲート

くぐる時に制約を受けたのであろう。


召喚主の意図的に練習チュートリアル用の相手として、私は喚ばれた様子だ。強すぎてもダメだったのだろう。


制限があるのは理解したが、

一方的に殺せるはずの弱者からノーダメージとはいえ、カウンターで一撃もらってしまうのは腹立たしかった。


次は攻撃速度の低下を把握した上で、完膚無きまでに相手してやろうと考える。


そうこう、考えこんでいるうちに何やら人間は話が終わったらしく、再び闘志を滾らせて帰って来た。


「お待たせ!

『negatio-lux≒esse』!

さぁ!存分に殺し合おう!」


…目がヤバい人間に、一瞬怖じ気付いてしまった。


_________________________________



「それでは戦いなさい『negatio-lux≒esse』」


G,GisyyaaaaAA!!


「よし!来い!」


召喚主の指示で再び人間に襲いかかる。


《《しかし》》


蛮族のように雄叫びを上げて、接近してくる人間に襲いかかるはずのこちらが襲われているような錯覚を覚える。


「ビビってんじゃぁねぇッ!!!」


あまつさえ敵に叱咤されるほどに気圧されていた。



飛び出すような勢いで懐に潜り込んできた、鋭い蹴り上げが私の目玉へと突きささる。


『システム:スキル発動!防御力を無視したダメージが発生します。』


GaaaAAA!?


有り得ないことに絶対の数値的優位ちからのさを突破されたことに驚く。


何が起きた?何をされた?

分からないが、逃げなければ、


後ろに下がろうとしたが


人間テキは爪を立ててしがみつく。

古巣である世界終端ゲヘナでは、多くの怪物バケモノの攻撃をモノともしてこなかった強靭な皮膚が、異常な摂理システムの加護を受けている人間ニンゲンの爪に圧し負けている。


有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない

…有ってはならない!


有らん限りの力で上空に浮遊して

信じられないモノを否定する為に

全力で叩き潰した。


その間も人間は、噛んで、殴って

殺しにきてた。


_________________________________


殺してやった。

恐ろしいヤツだったが、あいつは死んだ。


興味が無かったからあまり聞いてないが

あの人間は、痛覚軽減?を無くす変わりに

力を得ているらしい。


よく分かってないが要するに、死んだら 《《死ぬほど痛い》》。身体はさっきのように復活しても、戦闘なんてしていられないだろう。


気が緩んだ


その横っ面を蹴り飛ばされる。


死んだはずのそいつは、感じた痛みを置き去りにして嗤いながら襲いかかってくる。


唖然とした私をよそに、獣のように私に牙をたてる


人間《そいつ》のおぞましさ。


肉を囓り取られる痛みで我に返る。


あんまり美味しくないと感想を言って、

私の肉を咀嚼する姿はとても気味が悪い。


知性ある生き物に補食されるおぞましさは

私に純粋な怖気を感じさせる。

身体にまとわりつく《《バケモノ》》を必死で振り払う。


バケモノはにっこり笑いながら

こっちを見つめ《《肉を飲み込む》》


「レベル0だ、一方的になぶり殺せると思ってたか?

残念ですが、殺し合いに必要なのは力じゃあない。

相手を《《殺してやる》》って意志と最後までそれを持ち続けることだけ」


独り言かなんだか知らないが

煽っているのだろう。

舐めてはいたが、やられっぱなしで

怒りを覚える。


沸々と闘志が湧いてくる。



「《《イイ》》ぞ、ビビるなッ!殺しにこい!」


GiSYAAッァァァアア!!


言われなくとも

コロシテヤルッ!



握りこんだ掌の中にある

眼に力を込める。


キィィイィィイィィイ…


光であって光でない。

魔法も科学も説明出来ない

黒いエネルギーとしか言えない何かを放つ


本気の一撃


シュィイインッッ!


黒い閃光が空気を焼き 切り裂く 鋭い音がした。



この技の欠点は主眼と私が呼称してる

掌の一番大きな目玉が少しの間

使えなくなる事だ。


しかし、私はかつて

ショゴスという不定形の生物だった。

だから、目を増やすなど造作もない。



主眼のまぶたをこれ見よがしに

閉じているが、

指の付け根の影に小さな目を増やした。



人間が狂喜しながらニセモノのチャンスに

飛び付いてきた姿を視認した。

ヤツの渾身の貫き手が噛み跡に目掛けて放たれる。


ヤツがやった、バックステップのような最小限の動きで回避した。


回避の勢いままに

指先の口から伸びる舌を

鞭のようにしならせヤツの胸を打った。


ざまぁみろ


私はつかの間の優越感に浸ったが、

また、駆け寄ってくる人間を見てげんなり

するのだった。

_____________


その後も、

一進一退の殺し合いを続けている。


人間バケモノは死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも…千を超える死を踏み越えて。


立ち向かってくる。

いや、襲いかかってくる。


ヤツの攻撃で私が1ダメージを食らうまでに

40回以上ただ死に続けていることもあった。


その間も嬉々としていた。


相変わらず貧相な能力ステータスしか

持たないはずだが、着実に私の命を取りに来るその姿は、脅威を感じさせるものだ。


私にとって、この脅威は恐ろしいが同時に感動を覚えるものだった。


私は異邦人プレイヤーと殺し合う為に

お父さんが造ったのだ。

その異邦人がちゃんと私を殺しうる存在で、ってくれることは、私の存在を肯定してくれている気がする。


あの、異界の闇の中で凍りついたままでは、味わえなかった高揚感に感謝している。


感謝を感じながら、私の爪がヤツの腹を捉えた。容易く貫通する。


温かいはらわたの感触に人のぬくもりを感じ、名残惜しさを感じつつも指を引き抜く。


間違いなく身の毛もよだつはずのダメージを受け、打ち捨てられた人間は、動かせる物が視線だけになろうが殺す意思を最期まで伝えてくる。殺し合いの中で罵倒し、憎悪を吐く口も真っ青になり息絶える。


と、中空に再生成された人間が仕返ししてやると言わんばかりに突っ込んでくる。


ヤツは身体こそ綺麗に新品で帰ってくるが、

精神がズタズタだろう。臨死体験を何度も繰り返すのはまともじゃない。


対照的に私の身体は、もう歯形や噛み千切られた跡だらけで、中にはそこに爪を立てられかき混ぜられたモノもある。

精神的には元気なのだが、ダメージを受けすぎた身体は摂理システムの定めた体力ヒットポイントを削り切られそうだ。


本当に執念深く恐ろしい。


「バケモノ メッ!!」


「オマエもなぁッ!!」


お互いを全力でぶつけ合うなかで

私の人間の言語学習が進み、

話せるようになっていた。


「楽しいなぁッ!」


「キグルイ メッ!ザレゴト ヲ!」


言い合いをしているが、

殺され続けているのにも関わらず、心を死なさずいる点には素直に感心している。


事実、殺し合いは楽しい。

さっきまで通用したパターンも、

次生き返ってきた人間には通じないだろう。


身体の動かし方がどんどん獣じみてきている人間の動きはもはや初見では捉えきれない。が、こっちも学習して対策の攻撃パターンを構築する。


さっきは殺せたが、次は幾分か私の体力を削られるかもしれない。


いのちが削り切られるか、人間こころが壊れるか。


その、スリルを


「「コロシテヤルッ!!」」


最期の一瞬まで楽しみたい!



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