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予選編4 凶星


 北のカンターブル大聖堂。『廃の都 カンターブル』のランドマークの一つだ。


 マップ上で次々と他の光を潰す光。『凶星』と呼ばれ始めたソレから逃げ延びた、プレイヤー達が最後に辿り着いた決戦の地。


 東を食い荒らし、ただ一つ光る赤い点。

 その不吉な一番星は、その後も南と西の各ランドマークやその周辺を根絶やしにしてきた。


 今ではこの『大聖堂』に籠もっている100人余りと、『凶星』しかマップに表示される点は無い。


 時刻は20時を回って、辺りはすっかり暗くなっている。


 あと四時間耐えれば最悪、生き残った2人は本戦まで勝ち進める。

 だが、ここで『凶星』を倒さねば間違い無く、残らず殺し尽くされる。


 『凶星』を目視して唯一生き残っている獣人プレイヤー、彼の鬼気迫る熱弁(というより発狂に近い)に生き残りは手を組むことにしたのだった。


『凶星』がこちらへ向かってくる中、最後の打ち合わせが行われていた。



 ちょうどTの形をした『大聖堂』の建物。

 正面玄関から真っ直ぐ行くと、宣教師が使うような立派な祭壇があった。


 荘厳なステンドグラスの天窓から降り注ぐ月光に照らされ、一人のエルフ種の男が壇上に立つ。


「勇猛なる戦士諸君、我々は強大な敵と戦う事になる。」


 金の髪が月光を反射し、まるでスポットライトに照らされてるかの様な存在感のある男だ。

 身に着けている装備には派手さは無い。しかし、木製なのに白磁のような滑らかさをもつ魔法の杖など、上等な装備なのだと感じさせるものばかりだった。


「しかし、恐れる事はないだろう。この場につどった104名もまた、強者つわもの揃いである!」


 グッと握った拳。

 冷静沈着なエルフのイメージに似合わず熱を感じる。

 そのギャップがまた熱の存在感を強調し、聴衆にも仄かに熱が入る。


「この日の為に、各々《おのおの》準備をしてきただろう!レベルを上げ、スキルを整え、装備を揃えてきた事だろう!」


 聴衆は思い返す、VRオンライン初めての大舞台イベント。何か残したいと準備に奔走ほんそうした日々を。


「それが、今なんの形も残さないまま踏みにじられようとしている!邪悪なる異形腕の怪物、『凶星』によって!!」


 思い返した日々を無意味な物とする、『凶星』へ恐怖と怒りを感じる。


「諸君らもマップから消えゆくプレイヤーを見ていただろう、彼ら彼女らは我々と同じく努力していたに違いない。」


 面識は無いものの、プレイヤーとして同じ努力をしていた者として同族意識を感じる。


「その、同胞も『凶星』に食い散らかされた!!」


 同じ努力をしていた者、同じ夢を見ていた仲間が殺された!


「そうだ!諸君!これは生き残りをかけた戦いであるが、同時に()()()()でもあるのだ!!」


 恐怖は自身の努力を踏みにじられる事への怒り。そして、死んでいった()()への義憤に塗りつぶされる。


「戦友諸君!

 バトルロワイヤルである事は一度忘れろ!!


 隣に立つ者の死に、怒れ!


 自身の無念は、隣に託せ!


 今この瞬間は間違い無く、俺達は戦友だ!!!」


 誰が音頭を取ったわけでも無く、自然と拳を掲げ戦士達は吼えた。


___________________


「扉や窓は土属性魔法で固めたか?!」


 演説をやり遂げ、有象無象を兵士つわものへと変えた男。

 最前線攻略クラン『王道楽土』のサブクランマスター『北極星ポーラスターのエリック』と呼ばれた魔術師だ。


 有名クランのサブマスターとして、陣頭指揮を名乗り出ている。



「やってるよ!エリックさん。ここで終わりだ!」


「ありがとう!MPを回復してヤツに備えよう!」


「おうよ!俺がMVPになってやるから期待して見てくれよな!」


「それは心強い、他の所も見回りしてくるよ」


 ゾンビ系アンデッド種の男の言葉を軽く流し、エリックは見回りを続ける。


 作戦は単純明快。

 入り口を正面の玄関に絞ってみんなで殴る。


 会ったばかりのメンツがほとんどの混成部隊だ。これしか手が無かった。


 だが、正面以外からの侵入は何重にも塞がれていて困難。

 時間をかければ破壊可能かもしれないが、突破される前に迎撃体制を整えられるであろう。


 単純であるが崩しにくく、負けるビジョンが浮かばなかった。


 所詮は一人のプレイヤーに過ぎないのだ。


『凶星』を倒した後は、紳士協定で15分後にバトロワ再開と取り決めている。

 なお、協定を破ると『王道楽土』のメンバーが延々と違反者をPKをしにいくと宣言をした。


 これだけの人数がレベル格差のない状態で、一人のプレイヤーを協力して倒しにいく。


 負けは無いだろう。


 エリックの中では、既に『凶星』を倒した後に差し迫る制限時間の事を思案し始めていた。


 その時、


 どぉん どぉん どぉん どぉん……


 遠雷のような腹に響く音が近づいてきた。

 ここにいるプレイヤー以外は外にいないのだから、この音の主は間違いなく『凶星』だ。


「!?総員!戦闘態勢!!正面を意識しつつ、どこから来てもいいように警戒!!」


『大聖堂』中央、祭壇の辺りに陣取るプレイヤー達に緊張が走る。


 地響きを立てる『凶星』はまるで猛獣が獲物のどこから襲うか思案するかの如く、音はぐるぐると建物の周りを回っているようだ。


 暫くそうしていると音が静まる。

 窓に覗く土壁の様子から、ここが要塞化されているのは分かってしまった事だろう。


 さぁ、どこからくる?

 100余名の人間が固唾を飲んで息を潜める。


 そうして十数秒が過ぎたとき。


 どぉんどぉんどぉん……!!


 今までよりも、早いテンポの轟音。

 駆けるように急接近する連続した音。



「!!っ突っ込んでくるぞ!詠唱開始!!


 どこからきても、数の暴力で蜂の巣にすれば勝てる!!


 トチらず、唱えるぞ!」


 エリック自身も自身の手持ちで最強の魔法を詠唱する。

 光、火、風の3属性を得意とするエルフが、それら全てを高いレベルでマスターした者のみ得られる高位魔法だ。


 杖を手放し詠唱に入る。

 魔法を唱えるエリックを補助するかのように、杖は独りでに中に浮かぶ。

 浮遊する杖から幽かな光がエリックへと注がれる様は、物語に語られる大魔法使いそのもので、幻想的だった。



「我、光をもって己の定める悪を討たんと欲す。」


 右手に生まれる光、しかしそれは柔らかく。とても攻撃に使えそうに無かった。


「我、火をもっ意思ひかりに力を与えん。」


 左手に生まれた火、煌々と燃えるそれは熱く。尋常ならざる力を秘めている。


 それらを合掌する様に合わせる。


 光は想い、火は力。

 想いと力が合わさる時、その爆発力は何倍にも増幅する。


 もはや火でも光でもなく、とすら感じられるそれをそっと長く伸ばす。

 さながらそれは光の槍のようだ。


「我、風をもって決意の一撃を放たんとする。」


 風は最後に槍を包み込む、決意を後押しする風の力は槍に勢いを与える。



 完成した『陽の槍』は周囲のプレイヤーに心強さを印象付ける。これが有名クランの魔法使いの力かと、頼もしく感じられた。



 どんどんと近づく轟音


 近い、近い、近いっ!!



 激突してくるかに思えたその音が。


 一拍の間をおいた



 一瞬タイミングをズラされ、意識の空白が生まれる。


 そこへ、ガラスの砕ける耳障りな音が響く



 どこのガラスが突破され「こっちだよ」


 天窓のステンドグラスが見るも無惨に破壊され。三日月の様な笑みを浮かべた人影が、ガラス片と共に飛び込んできた。


 エリックは、その三日月へと反射的に魔法を放った



「!?っ穿て!!『陽光の槍』っ!!」


 エリックの魔法に続いて慌てた様に、土、氷、雷、火など色とりどりの魔法が放たれる。


 確かに命中し、飛び込んできた勢いを殺す事に成功した。『凶星』が祭壇にて集中砲火を受ける。


 最後に見た『凶星』は、振るわれる暴力に耐えるように左手を盾にうずくまるようにしていた。




 巻き添えに粉砕される祭壇、巻き上げられる『大聖堂』のホコリ。

 魔法の余波で一時、視界が効かなくなる。


たたみ掛けろ!

『やったか?!』なんて死んでも口にするな。徹底的に叩け!!」



 周囲にげきを飛ばしながら、自身ももう一度『陽光の槍』を詠唱する。


 数十発の魔法を放ち。


「1番グループからMP回復ポーションを飲め!2番も1番の人と交代しながらMPを管理しろ!」


 途中で交代を交えながら間断なく更に魔法を放つ。



 それから、何分が経過しただろうか?


 狙いをしくじった魔法で砕けたのか『大聖堂』はちりが立ち込めている。



 そろそろポーションが尽きる。だが、ヤツの遺体を見るまでは安心できない。

 とにかく撃ち続ける。


 しかし、


「フフッ」


 弾幕の着弾する破砕音や、爆音に掻き消されずに

 不思議とその声は耳に届いた。



 嗤い声、思わず溢れたといった軽いその声。

 そこから、高らかな哄笑が続いた。


 アッハッハともわっはっはとも聞こえるそれは、100人のプレイヤーの背筋を凍らせた。


 エリックもその一人だ。

 コチラを馬鹿にする様な笑いに苛立つ思いもあれど、あれだけの攻撃に笑ってられる異常性に怖気おぞけが走る。



「生きてるぞ!殺せ!!」



 全員最初からそのつもりなのは分っているが、改めて声に出さなければ『アレ』の雰囲気に飲まれる!


 哄笑と爆音の響く『大聖堂』。


 しかし、遂にはMPとクールタイム待ちが回らなくなる。


「戦士職は前に出ろ!!遠距離部隊は回復を待て!」


 しばらくすると、粉塵ふんじんが治まり『凶星』が見える。


 それは、『プレイヤー』というよりは『モンスター』と呼ぶのが相応しい姿をしていた。


 掲げられている膨張した左腕には、巨大な口があった。


 がらんどうな闇の広がる口内。魔法もそこに飲まれたのだろうか。


 そして異形の腕には、さらに複数本の少年の腕が無造作に生えていた。

 手には《《瓦礫》》を持っていた。



「……そういうことか、」


 口で防げない部分はその瓦礫ガレキをぶつけたりして相殺していたのだろう。

 通りで、粉塵が多い訳だ。目くらましも兼ねているのだろう。


 が、全くの無傷とはいかないはずだ。


「みんな!たたみ掛けるぞ!!」


 恐怖もあるが、戦士達は雄叫びを上げて異形の腕の主へと殺到した。



 その時、雄叫びに相対する人影から朗々と声が響く。


 それは、『大聖堂』という舞台には自然な一節。

 そして、彼が唱えるにはチグハグな一節。



「かくあれ、神を讃えよ」


 それは、冒険者なら一度は耳にした事のある聖句。

 そして、ヤツからは聞きたくなかった聖句。


「勝利の王である主よ、どうか私を憐れみたまえ」


 どうか聞き間違いであってくれ


「私に慈悲を『中級祝福ミドル・ヒール』」



 神聖さすら漂わせていた聖句の声、同じ喉が発したとは信じられないような狂気に満ちた声へと変わる。


「さぁ!さぁ!さぁ!殺し合おう!!」


「「……いやだぁぁあ!!!」」



 理不尽高火力高耐久回復持ちレイドボスが、爆誕した瞬間である。


 時に、仲間の死を悼み。

 時に、仇の死を望み。


 勇士達の屍を積上げながら戦いは、進んでいくのだった。


__________________


 『凶星』は踊るように戦っていた。


 舞踏の相手は襲い来る数多のプレイヤーと、異形の腕だった。


 その軽い脚取りとは裏腹に、繰り出される異形の腕の一撃は重い。

 耐久力に劣る魔法使いや斥候系プレイヤーは、最悪一撃で沈められかねない程だ。


 当たらなければ……とは思うが『凶星』は人間プレイヤーらしい狡猾さも持ち合わせていた。


 囲われたら、他人を盾にするように人波をすり抜ける。

 囲わず相対すれば、異形の腕が振るわれる隙が生まれてしまう。


 右手で振るわれる短めの槍はリーチと手数で、異形の腕を振るう間を生み出す。

 異形の腕が振るわれれば、槍で牽制しながらまた間を生み出す。

 そのループが、まるで踊っている様に思える程に完成されていた。


 死を振りまく彼等のステップには、致命の刃の元へ身を差し出すような、見ている方の背筋を凍らす物もあった。


 それでも、彼は笑っていた。

 他人の死も自分の死も等しく、面白がっているのだ。


 死を楽しんでいるのだ。


 アバターを自分そのものとして感じられるこの世界ゲーム。異端とも言えるその凶行に、言いようもないおぞましさや忌避感を感じられた。


 エリックは思わず問いかけてしまった。


仮初かりそめとはいえ、命のやり取りをして何故そんなに笑えるんだ……」


「そんなの、命のやり取りをしているからに決まっているよ!!」


 高らかに宣誓する声は、狂気を含むモノの純粋な歓喜が見て取れた。


「『人を殺す』タブーを破る事への高揚感!


武器から感じる命にいたる手応えの生々しさ!


そして、人から向けられる刃の冷たさも!!」



 すぅっと息を吸うと叫んだ


「あぁぁ!!っ()()()っ!!」


「さっきまで元気に、ぼくに殺気を投げかけてきた彼が」


 槍先で倒れす亡骸を指し示す。


人間プレイヤーからオブジェクトに変わってることの空恐ろしさっ!

 それを為したのが自分である事に身の毛もよだつ、寒気を感じる!」


 わけが分からない。分からないことがより一層に不気味だった。


「ならば、なおさら何故笑ってるんだ?」


「だからこそ、笑えるんだ!」


 そこで一度笑いを抑え、エリックに語りかけてくる。


「このぼくが感じる寒気や恐怖や忌避こそ、きっと『正気』なんだよ。」


 微笑みかけてくる。

 狂気じみた笑みで正気を語る。


「暴れたい欲求と相反する、この『正気』が心地良いんだ。


 甘い物としょっぱい物。


 きらきら光るお星様と真っ暗な夜空。


 何事も反対のものが感じられると、片方がよりイイ感じになるよね?」


 心底楽しそうに幸せそうに嗤う。



「……イカれてやがる」


「正気だってば」



『凶星』は理性があるのに凶行に走っている。

 会話を交えてなお理解出来ない存在だった。


 こんなヤバイやつはここで倒さなければ。


 この世界ゲームが好きだからこそ。

 エリックは後続プレイヤーに悪影響を与えかねない『凶星』を許せなかった。


 こちらの陣営は半分は生存してる。

 魔法の誤射などフレンドリーファイアもあるが、多くを『凶星』に殺された。


 みんなの怒りも高まってきているだろう。


 エリックは自身の最大の切り札を切ることにした。



「クランメンバー及び、戦友諸君


 『心象スキル』を発動する。


 1分間だけ時間を稼いでくれ。」



『心象スキル』

 存在だけは多くのプレイヤーが知りながらも、辿り着けた者はあまりにも少ないその力。


 力を以て、力を制す。


 戦いの最終楽章フィナーレの始まりを飾る詠唱が、『大聖堂』に響き渡った。


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