予選編2 東の惨劇
予選フィールドに降りたった。草原とかを予想してたが、こじんまりとした部屋だった。
窓の外の天候は曇り。日差しは柔らかく、誰もいない石造りの建物を照らしている。
カンカン照りでないのは、アンデッドの参加者に配慮してるのだろうか?
そして、ここは何処だろう?
マップを見る。
『廃の都 カンターブル』
色々な地形のあるマップだ。
その中でもぼくがいるのは、『聖アーガスティン修道院』。
ここはかつて修道士さんの個室だったのだろうか。
ホコリをかぶったベットや机、壁にかけられた服も虫に喰われたのかもうボロ切れにしか見えない。
プレイヤーとして拾える物は無いみたいだ。
さて、この部屋を出て他のプレイヤーを探しに行きたいが、出たらいきなりばったり出会わすかもしれない。
「エル、練習通りに頼むよ」
「はいよ」
この日の為に準備したのは何も戦闘準備だけじゃない。
左腕を扉の隙間に翳す。
そしてエルを変形させて隙間から外へ少し出す。
そして目を形成してもらう。
これぞ『必殺小技 壁抜け視界』!
室内戦、角の多い市街地戦に役立つと思って考えておいたのだ!
ちなみにエルはこのネーミングの素晴らしさに何も言えなかった。
「どう?なんか見える?」
「あぁ、いるな。ドア出て左、50mくらい先にご近所さんかな?部屋から出たとこみたいだ。ちょうど隣の部屋を開けて調べようとして廊下は意識してなさそう。」
なるほど、他の部屋からスタートする可能性もあるのか迂闊に廊下に飛び出したら危ないかな。
かといってこのまま待ってるのも下策だ。
10人死ぬ毎の全プレイヤーマップ表示がくる以上は、向こうにも気づかれる可能性が出る。
奇襲できる内に襲っとくべきでは?
いや、襲うべきだろう。襲うしかないまである。
「どーしよっかなー?危ないかもだしなー?」
「嘘つけ、『襲うぞ、殺してやるぞ』って顔に書いてあるぞ」
バレたか
「迷った末に襲おう!」
「一択だったくせに。」
音を立てないように慎重に扉を開ける。
いた。
目標までの50m。ラティとしてのスペックなら走って5秒でいける。だけど、それだけあれば気付かれるし迎撃されるかもしれない。
ぼくは慌てず騒がず、ドア枠の淵に手をかける。
唐突だけど、懸垂筋トレって修行っぽいよね。
でもさ、常識外れの腕力でやったらどうなると思う?
答えは天井の修理代を払うことになる、だ。
ギルド地下の訓練室の天井に突き刺さって気絶したのはいい思い出だ。
この経験が、オレに足りない速度を手にする為の新技になった。
『爆速 エル式カタパルト』
左腕を何処かに引っ掛ける。
そして、
ぼくを引っぱり上げる、いや正しくは
ぶっ飛ばす
ギシィッ
ドア枠は軋んでひしゃげ、大きな音が響き渡る。
標的が音に気付いてこちらをバッと振り返る。
《《もう手遅れだ》》
砲弾の様に、滑空して距離を無くす。
顔が驚愕に歪むよりも早く轟音と共に、左腕がプレイヤーを貫きながら壁に突き刺さる。
「あぁ、無慈悲。あぁ、無情。ごめんね、殺し合いに来たんだから殺されてくれ。」
エルの五指が乱雑に肩や腹を穿いている。彼はダメージと衝撃に呆然としている。
「ぞくぞくしちゃうね」
インベントリから取り出した短槍『磔の槍』。
槍に、自分に向けられる凶器に気が付いたんだろう。呆然とした意識の空白が恐怖に塗り潰されていくのが分かる。
あぁ、他人の怯える顔が新鮮。
モンスターの顔だと分かりづらいんだよね。
よく見れば年下の男の子か。トラウマにならないと良いんだけど。
「終わりにしてあげる「や、やめ!」ね」
あら、お口を開けるから変なオブジェみたいになっちゃった。
口蓋を貫き頭蓋骨を貫通した槍は石壁にもぶつかり、硬い手応えと痺れを伝える。
「グッロ」
『規制描写』はオフにしてから今日はログインしている。とてもグロくて見るに堪えない。嘔吐くような嫌悪を感じる。
けど、自分が殺った事を直視しないのは不誠実だ。
それに、人を殺して嘔吐くなんて貴重な経験そうそう出来ないだろう。
この気分の悪さすらオレには、愉しい。
暴れている、取り返しのつかない事をしている。
その実感がぼくを自然と笑顔にする。
「あーぁ、殺っちゃった。次いこう。」
「……あぁ、どんどん殺ろう。お父さんに会う為だ。」
とりあえずこのままドアを叩いて一部屋ずつ潰していこうか。
そう考えた時、
「う、うわぁぁぁぁぁああ!!!」
叫びながら獣人の男が部屋から出てきて一目散に逃げていった。
自分から出てくるとは好都合だと思ったら。
「うわぁぁ、し、死んでる!」
すぐ隣のドアから出てきたのだろう。
少年の遺体を見て驚いてる獲物が来たのでそちら振り返る。
先にコレから殺ろう。
ガラガラと石壁を崩しながらエルを引き抜き。
少年の遺体を槍ごと投げつけた。
とっさに抱き止めた少年の遺体の惨状にその人の顔が引きつる。
「うわぁぁ!ぐ、グロっ」
全力で振りかぶり。
「なんてことしやがっ「どーんっ!」ぶへらっ!!」
左腕でぶん殴る。
温かい頬肉と頬骨がひしゃげて爆ぜて砕ける。
が、死んでない。
「案外人って頑丈だね、というかオーガかアンタ。」
さっき殺した少年の遺体はよく見ると耳が長い。エルフかな?
種族による頑丈さと、それによって致命傷になるまでに必要な攻撃の威力に差がありそう。
ちょっと調べてみよう。
「実験にご協力くださいねー」
「ぶべらっ」
また、殴る。
「ぶべっ」
殴る
「こひゅっ」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る
「ラティ、おいっ!ラティ!!」
殴る殴る殴る……殴、る?
「あれ?死んでるじゃん!何発殴って死んだ?!」
「手応えからは分かんないな、割と最初の方からもうミンチみたいになってたよ。」
「5.6発くらいかなぁ?もうちょいもってたかなぁ……」
思案する俺の耳にどこからか大きな鐘の音が届いた。
リィィン ゴォォオン
!?
「何の鐘の音だ?!」
「アレじゃない?10人死ぬ毎のマップ表示アナウンスじゃない?」
おぉ!ポンと手を打ってマップを開く、マップに写るぼくを表す矢印。そして、赤い点。
ほんとだ、全プレイヤーが表示されてるみたい。
これが敵だとするならこの建物に、あと30人強。そして、周辺集落や森の中で200人近く。
点はなるべくはバラケさせたのだろうけど、1000人もいればまぁ近くにもチラホラ見えるな。
この修道院を制圧して、森や集落のヤツらもその後潰そう。
「目指せ!東エリア制圧!」
さっき逃げた彼も殺さないとね。
動き出す前にマップを凝視する。動きの鈍そうな点、待ち構えるように動かない点の位置を優先して覚える。
戦闘中っぽい点は邪魔しちゃ悪いからなるべく覚えないようにはした。
でも、行動的なプレイヤーが他のプレイヤーを狩るのはオレの取り分が減っちゃうな。
まぁ、会ったら殺そう。
よし、そろそろかな?と思ったらマップから点の表示が一斉に消えた。1分間の表示タイムが終わったようだ。
早速、オレは最寄りの点へ歩き出した。
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「こえーな、これ。ワクワクするけど」
世界初の完全なVRゲームでのバトロワ。緊張感が半端ない。
俺は、アンデッドの魔法使い『ジョン・ドゥ』としてこの祭りに参加していた。
さっきにも、殺し合いの声や衝撃が伝わってきてビビったが慌てることはない。
「バトロワゲーで培った『ガン待ち戦法』を受けてみろ」
俺は初期位置の部屋でガン待ちを決め込んでいる。
卑怯?ヘタレ?
大いに結構!
バトロワとは生き残った者こそ勝者!
殺すのが必ずしも自分でなければならない道理は無い!
背後の窓を棚を動かして塞ぎ、ドアに狙いを定めて待っている。
ククク、ドアノブを回せば最期。俺のオリジンスキル『唱死千万』が火を吹くぜ。
オレのオリジンスキルは魔法の威力を留めて重ねる事が出来るスキルだ。
詠唱時間が2倍かかるデメリットはあるが、固定砲台として一撃の威力は詠唱を重ねれば重ねるほど上がるという正にロマンスキル!!
開始と同時にここに籠もってからMP回復の度に魔法を唱えてきた。
20を超える中級水魔法『氷弾』それが一つに合わさりもはや、『氷砲弾』と名付けられる威容を見せている。
「マップに表示されようがなんだろうが来るなら来やがれ、身体に風穴開けてやんよ」
その時、外から大きな鐘の音がした!
ビクゥッ!!!
「は、はぁっ!?なななになゃんだ?!」
神経を研ぎ澄ませてる中の大きな音に飛び上がった。
「なんの音だ?!落ち着け!まずはラマーズ法だ!ヒッヒッFooo!!」
よし、落ち着いた。
冷静さを取り戻した俺は今の鐘の音について考える。
「……マップの表示のアナウンスか?」
当たりをつけてマップを開いてみるとドンピシャだ。
マップに俺以外のプレイヤーが表示されている。
……
「……やけに見辛いな?」
あっ
冷静な俺だが、《《なぜか》》指が震えていてマップ表示の際に角度変更ボタンを連打してたようだ。
マップが反対になってる。
ど、動揺ちゃうわ!!
アナウンスが鐘の音なのは世界観を壊さないし自然でいいが、優しさが足りないよな。
クレームってほどではないが音量調節の要望を出そう。
さて、気を取り直して集中する。
マップによるとこの建物にはあと30人いるかどうか。
今も廊下や中庭で戦ってるプレイヤーもいるようだ、動かない俺には関係ない。
もうしばらく待ってみるとするか。
そして、運命の時はきた。
カツンカツンと石造りの廊下を歩く音がする。
キタ!
待機させてる魔法の撃鉄は意識一つで振り下ろされる。
それで終わりだ。
レベル35上限のこの大会においてこの魔法が致命にならない訳がない。
石を叩く靴の音はこちらに向かってる。
近い!近いぞ!
扉の前だろうか?いや、焦るな。
俺は必殺の一撃を外せば、ただの詠唱がクソ遅い魔法使い。
今の威力ならドアごとブチ抜いても余裕で殺せるだろう。
だが、万が一はあってはならない。
そんな逡巡を見抜いてるのか
コンコン
軽快に木のドアをノックする音が狭い部屋に響いた
!?
わざわざ扉の前にいる事を伝えた?!
なんだ?ナメてるのか?
急いで撃鉄を引…、待て!
石だ、小石でノックをしたフリをして空打ちさせる気だ!!
こちらの手の内が分からなくても初撃をしくじらせればかなりの優位が取れる。
それを狙っての一手だ!
危うく撃ちそうになった意識を引き戻す。
……1秒2秒3秒と重くなった時間が進む
こめかみを伝う汗を、生体活動の停止したアンデッドなれど錯覚する。
まだか、撃てないのか
撃っていいのか
どこだ?どこにいる?!!
停滞した時間が過ぎる中
唐突に、錆びた丸ノブが回された。
ここだ!ここしかない!錆びて重い丸ノブは紐なんかじゃあ回せない!!
人の手が向こうにある!ターゲットはそこにいる!
撃つぜ撃つぜ撃つぜぇ!!
意識の撃鉄は確かに振り下ろされた
ドンっ!と空気が震えるような勢いで魔法の氷塊はぶっ飛んでいった。
木片を飛び散らせながらドアに無残に大穴を開けた。
円形の弾痕はそれだけ貫通力が分散しなかった事を表す。ターゲットも土手っ腹にさぞや立派な穴を開けてることだろう。
「すまねぇがそういうゲームなんでね、悪く思うなよ。」
《《暗く空いた》》ドアの穴に語りかける。
まぁ、返事はないだろう
「いやいや、いい殺意だね。殺しがいがあるってもんだよ!」
は?
ゴリリ ゴリリ
ドアの穴に白が覗く、歯だ。
歯が氷を、俺の必殺を噛み砕いている。
は?は?なんだそれ?
「食事は人に見られるとやりにくいのですが。」
迷惑そうな中性的な声、覗いていた穴から今度は、巨大な眼球がコチラを見つめ返す。
「ひっ!?」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ノブが乱雑に回そうとされるも、さっきの一撃で歪んだのか手間取ってるようだ。
逃げなきゃ、あの《《バケモノ》》から。
急いで、棚をどかして逃げようと振り返る。
だが、
「めんどい、壊そう。」
破砕音がドアが木っ端微塵になった事を背中ごしでも分かるほど明確に伝えてくる。
慌てて振り返るとヤツはいた。
あのバケモノは腕だった。
だけど、ニコニコと笑いながら足早に近付いてくる腕の持ち主の方から何故か目が離せない。
むんずと異形の腕に捕らえられる。スケルトンの細い身体はそれに抵抗出来ない。
捕まった。
「ふっ、俺の負けだ一思いに殺れよ。」
「ごめんなさい、今種族ごとにどれくらい殴ったら死ぬか試して遊んでるから。」
ニッコリ笑ってソイツは言った。
「まぁ、こういうゲームなんでしょう?悪く思わないよね?」
壁に叩きつけられた俺が見たのは笑顔と、迫りくる黒い拳が最期だった。




