心の象
バァンッ
重厚な『大聖堂』の扉が蹴破られんばかりの勢いで開け放たれた。
「司祭のじーさま!スキル作らせて!」
碧いステンドグラスが日の光を柔らかに染め上げ、神聖な雰囲気の漂うはずのその空間を正しく踏みにじる暴挙に呼ばれた当人も怒鳴り返す。
「またお前か!?さっき出ていったばかりだろうに、ドタバタと帰ってきおって!」
「スキル作らせて!!」
「やかましいっ!声がでかい!こっちだ、さっさとついて来いっ!」
これ以上騒がれては堪らないと考えた司祭は、祈りの場から追い出すことを優先する。
せかせかと信徒の為のベンチの並ぶ身廊を歩き、中央から左の袖廊へと向かう。
その突き当りにそれはあった。
神と見られる大きな人影、槍や剣など武装した集団が描かれた赫赫と日の光を赤く染めるステンドグラスの下。
「ど○でもドアみたいになってる。」
赤い光の中にあってなおも緑のプラスチックの光が『EXIT』を主張する。
金属の冷たい質感の銀色のノブと鉄錆びの匂いも健在である。
「『始まりのドア』異邦人にしか開けん聖遺物じゃ、このド「開けますね」話を聞こうね!?」
話をぶった切りながら、ドアを抜ける少年。
左腕だけは司祭に申し訳なさそうな目を向けた。
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一瞬の意識の暗転
その後には、真っ白な空間が広がっていた。
「ついこの前出ていったばかりなのに、帰って来た時にホッとしますね」
ぼくが笑いかける先には
「そう言って頂けるのは嬉しいですね。この世界は楽しめておりますか?」
微笑みで応じてくれるメイカさんがいた。
チュートリアル部屋がスキルを創る場所だったのか。
「楽しんでます。ワクワクの連続です。」
「それは何よりです。」
嬉しそうに笑ってくれるメイカさんに、シカに殺された無念も浄化……されてたまるか!?
「里帰りみたいに、ほんわかしちゃうとこでした!スキルを作りたいのですが、お願い出来ますか?」
「もちろんです。どういったスキルをご希望でしょうか?」
「シカを殺せるスキルを!!」
「……シカ?」
キョトンとした顔で聞き返されてしまった。
「文を作れ、単語で話さない」
左腕にお叱りを受けてしまった。
「あ、エル様もお元気そうで何よりです。」
メイカさんがめちゃくちゃ暖かい目でエルを見ている。
エルもここで、ぼくの腕にしてもらったからね。
里帰りみたいなものだろう。
「お久しぶりです、何とかやってます」
ぼくの左腕ってそんなハードなポジションなの?
とりあえず事情を話そう。
「公式の武闘大会イベントに備えて装備を作りたいのですが、要求された素材を取りに行ったらシカに殺されました。腹が立つので殺し返したいです。」
うん、簡潔
「なるほど、そこでシカを殺せるスキルを欲しいと繋がるのですね。」
「そうなります!ただ、どうすれば殺せるのかが分からないのです。」
シカは圧倒的に強い。普通のスキルじゃダメだ。
オリジンスキルで打開出来ないだろうか……
適正レベル的には負けて当然だから、ゲームバランスを超える程のモノが必要なんだけど。
どうすればそんな物を生み出せるのだろうか?
「『心象スキル』というものがあります。強く心に残る想い出が、オリジンスキルを創る際に影響した特別なオリジンスキルです。それならば、とても強力なスキルが出来る事があります。」
「そんなのあるんですか!?」
「はい、ですが本当に稀です。狙って出来るものじゃ無いですよ。よっぽど大事な『心象』を持たないと創れません。」
「『心象』……想い。」
そんなに深いものが、高々17年のぼくの人生にあるのだろうか?
「この空間は、時間の流れがチュートリアル同様に引き伸ばされてます。存分にお考えください。」
「ありがとうございます、ちょっと考えてみます。」
うーん。
ちょっと思い返してみようかな。
坐禅を組んで、自分の事を振り返る。
自分の中にある『心』は『想い』は何があるだろうか。
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AIは眺める、坐して黙する少年を。
彼は異形の腕、その力の代わりに痛みを背負う事を選択した稀有な存在だ。
彼ならば、主に奉納出来る程の『想い』を引き出せるかもしれない。
それが、私達を創り給うた主の悲願の為になる。
「ラティ様、貴方は何を想い。何を欲しますか?」
期待を込めた眼差しを向ける彼女のことを
左腕だけは、静かに見ていた。




