五話 君とのお出かけ(レストラン編)
プリクラを撮った後僕達はゲームセンターを出た。
君はウサギのぬいぐるみを満足そうに抱えていた。
でも君の視線はウサギではなくて、僕達の思い出に向けられていた。
「亜矢さん。お腹すかない?」
僕の質問に亜矢さんはコクっと頷いた。
「イタリアンとか好き?」
僕がそう聞くと亜矢さんは何とも言えないような顔をした。
「多分。食べれると思う。」
僕は、ご飯のチョイスを間違えたかな?この気持ちが胸いっぱいに広がってモヤモヤした様な、不安な気持ちが広がった。
「他に食べたいものある?」
僕の質問に亜矢さんは首を横に振った。
「弓弦君におまかせします!」
そう言って亜矢さんは僕に笑顔を向けた。
「分かった。じゃあ行こう。イタリア料理を食べに!!」
「かしこまりました!!」
僕達は謎の掛け声をしてイタリアンレストランへ向かった。
「弓弦君は今までに彼女とかいたの?」
車の助席から亜矢さんが急にそう言ってきた。
その声は少し切なそうで、とてもか弱かった。
「どうして?」
僕は聞き返した。質問を質問で返すことはあまりよくないけど、その質問の意味を知りたかったんだ。
「今日のお出かけ、すごく慣れてるみたい。私。すごくドキドキしていて、今にでも自分がどうにかなりそうなの。でも、弓弦君平気そうだし、エスコートしてくれてるし、慣れてるのかなって。」
亜矢さんはぬいぐるみで顔を隠してそう言った。
耳がすごく赤い。
「そんなこと思っていたんだ。亜矢さんが全部初めてだよ。誰かのためにぬいぐるみとってあげたのも、女の人と二人でプリクラ撮ったのも、こうやって一緒にドライブするのも。全部。全部。亜矢さんが初めてだよ。今日のお出かけすごく楽しみだったから、ずっとこの事考えてたからかな。少しは落ち着けてるかも。でも僕も緊張…。してるんだよ。」
僕がそう言うと亜矢さんは小さな声でそっか。っと呟いた。
「こんなこと話してるうちに着いたよ。」
僕はそう言って車を止めた。
目的地に着いたからだ。
「ここがイタリアンレストラン…。」
「うん。僕の友達が経営してるんだ。そいつちょっと変わってるけど料理の味は最高だから。僕が保障する。」
僕がそう言うと亜矢さんはフフッと笑った。
そして僕達はレストランに足を踏み入れた。
「すみません。予約していた水無瀬です。」
僕がそう言うと、店の電気が一斉に消えた。
「は?」
僕は思わずそう言ってしまった。
亜矢さんはびっくりしたのか僕の袖をギュッと握ってきた。うん可愛い
そんな中一人のシェフが僕たちの前に来た。
「お待ちしておりました。弓弦様と亜矢さまですね。お二人様のために特別なコースを用意しております。私についてきてください。」
そう言ってシェフはすたすた歩きだした。
そう。このシェフこそ俺の友達、矢内颯天だ。
こいつを一言でいうとイベント大好き陽キャの塊。だ。
「こちらにお座りください。」
そう言って颯天は僕たちを席に案内した。
「それでは、本日はコースでの料理の提供になっておりますので、そのままお待ちください。尚、トイレはあちらにございますので、ご自由にお使い下さい」
颯天はそう言って、どこかに行った。
店内の電気も付き始めた。
「いや、何だったんだよ。」
「でも凄いね。私こういうところ初めて。」
亜矢さんめっちゃ嬉しそう。
目をクリクリさせて興味深々だ。
「あ、そういえば亜矢さんって年齢いくつなの?」
僕は純粋に亜矢さんの年齢を知りたかった。
「17歳だよ。」
亜矢さんはそう言った。
「僕の二つ下なんだ。」
僕はそう返した。
いつもの会話の様に。平然と。
内心はすごく衝撃だったけど。
そして二人の間に沈黙が続いた。
レストランの雰囲気が静かすぎて話しにくいのだ。
そんな中例のシェフが料理を持ってきた。
「前菜、カプレーゼ~初恋を添えて~でございます。外側のフォークから順番に使ってお召し上がりください」
そう言って颯天はまたどこかに行った。
料理はカプレーゼにレモンをベースにしたのか、柑橘類の匂いがするソースがかかっていた。
すごい美味しそうだけど、僕は確信した。
あいつ。絶対俺たちを、冷やかしにきていると。
亜矢さんは初めて見るのか、興味津々にカプレーゼを口に運んだ。
「美味しい…。」
亜矢さんは気に入ったのか一言そう言って、あとは無言でパクパク食べた。
僕もカプレーゼを食べる。
優しくてしつこくない味が口に広がって本当に美味しかった。
その後にも
スープ、ミネストローネ~君たちを応援しているよ~
魚料理、桜鯛のカルパッチョ~相手を愛して~
肉料理、イベリコ豚のステーキ~手を取り合って~
デザート、レモンを添えたパンナコッタ~末永くお幸せに~
このメニューが提供されてきた。
亜矢さんは全部美味しそうに食べて完食した。
確かに料理は良いし、味も最高だ。
でも何が一番気に障るのかと言えば、サブタイトルだ。
最初はまだ分かったけど後半になるにつれ、適当になってるし、もう本当にからかうのもいい加減にしろって感じだ。
でも。亜矢さんはすごく満足そうな顔をしている。
それを見れたから今回は何も言わず颯天に感謝しよう。
僕がそう思っていると亜矢さんはトイレに行くと言って席を立った。
僕は亜矢さんが戻る前に会計を済ませに行った。
会計所に行き財布を広げる。
「おい親友。今回は俺のおごりだ。その代わり今後もウチを贔屓してくれよ。」
颯天はそいって俺の手首の上に手を置いた。
「いや、悪いよ。」
「俺からのお祝いだ。甘えろ。ずっと片思いしてたんだろ。絶対幸せにしてやれよ」
颯天はそう言うとキッチンに戻っていった。
「ありがとな。親友。」
僕がそう言うと颯天は右手を上げ、バイバイをするように横に振った。
その後ろ姿はとても大きかった。
僕は席に戻り君を待つ。
次の行先を考え、想像しながら。