四話 君とのお出かけ(中編)
初めてのデート。
神崎先輩から『男は早めに行って彼女を待っとくべし』と言われたから、なるべく早く来たのだけれど、君もとても早く来た。
僕は正直驚きを隠せなかった。
「え…。亜矢さん?」
「弓弦君…。」
君も驚いているような顔をしていた。
二人は驚きすぎて、少しの間声が出なかった。
弓弦は何か話さないと。という使命感に駆られ、口を開いた。
「亜矢さん随分と早かったね。」
僕は亜矢さんにそう言った。
何も動揺なんかしてないよ。
まるでそう言っている様に。
「弓弦君も、だよ。」
亜矢さんはそう言って微笑む。
「今日が楽しみすぎて…。」
僕は亜矢さんの微笑んだ顔に落ち着いたのか、思わず本音が出てしまった。
「そっか…。私も今日。すごく楽しみだった。」
亜矢さんは笑顔でそう言った。
でもなんでだろう。
そう言った君は確かに笑顔だったのに、どこか寂しそうだったんだ。
でも。この時の僕はまだ何も知らなかったんだ。
君の事を何も。
知らなかったんだ。
「じゃ、とりあえず行こっか。」
僕はそう言って亜矢さんを見る。
「うん。行こ。」
亜矢さんはそう言って僕の側に来た。
「ここの近くに車あるから、少し歩くよ。大丈夫?」
「大丈夫。歩くの好きだから。」
亜矢さんはそう言って僕の後を付いてきた。
歩いて三分。僕達は車に乗った。
「へぇ、弓弦君って車の運転出来るんだぁ。」
助席に座った亜矢さんはそう言って僕を見た。
「まぁ一応、親から免許取れってしつこく言われてたから。でもこうやって亜矢さんとドライブ出来るから、取ってて良かったよ。」
僕はそう言ってエンジンをかけた。
車を動かして、目的地に向かう。
そこで僕は重大なことに気付く。
まって。デートスケジュール昼からしか組んでないから、時間が有り余るんじゃね??
っと。
「ねぇ弓弦君。今日はどこに連れて行ってくれるの?」
僕が焦っている事を知らない亜矢さんはワクワク顔で、期待しながら聞いてくる。
「そうだね、まぁ行ってからのお楽しみかな。」
「うん!楽しみ!」
亜矢さんは僕の苦し紛れの返し言葉にめっちゃいい顔で答えてくる。
さて、僕のデートスケジュールだが、予定では12:30に集合して昼ご飯、もしくは亜矢さんが昼ご飯を食べてきていたら~の2パターンあった。
今日の場合確実に前者である。
つまり12:30まで時間を潰せば僕の計画したスケジュールが実行できる訳だ。
今日のデートスケジュールの詳細だが、まず昼ご飯は、友人が経営するイタリアンに行って、その後に展望台から町の景色を見る。その後にちょうど日が落ちるころ海岸で夕陽を見る。
このスケジュールだから、この町を少し探索してもいい訳だ。
なら行先はひとつ。
プリクラ撮る。
その後二人で少しゲーセンで遊ぶ。
完璧だ。
「亜矢さん、お昼ご飯まで少し時間あるし、ゲームセンターで遊ぼうか!」
僕がそう言うと亜矢さんは不思議な顔をしながら頷いた。
やっぱりゲーセンは少し子供っぽいかな。
僕は苦笑いをしながらゲーセンまで車を走らせた。
「着いた、亜矢さんお疲れ様。ここがこの町のゲームセンターだよ」
僕がそう言うと亜矢さんは目をパチパチさせてこう言った。
「すごい。初めて来た。」
「大きいでしょ、この町のゲームセンター他の県からお客さんが来るほど広いんだよ。」
僕がそういうと亜矢さんはいかにも早く入りたそうな目でこっちを見てきた。
「じゃ、入ろうか。」
「うん!」
僕達はゲームセンターの中に足を踏み入れた。
「すごい!キラキラしてる!」
UFOキャッチャーを指さしながら興奮している君はまるで子供の様だった。
「やってみる?」
僕がそう言うと亜矢さんは何も言わずそのUFOキャッチャーの側まで瞬時に行った。
そして100円を入れてUFOキャッチャーをする。
景品はウサギのぬいぐるみ。しかもちょっとキモイ感じのキャラクター。
亜矢さんは何度かお金を入れてそれを取ろうとするけど初心者すぎてウサギが一回も持ち上がらない。
半分泣きそうな顔になりながらUFOキャッチャーをしている君を見て僕は君の事が愛おしくなったんだ。
「亜矢さん大丈夫?」
「弓弦くぅん…。」
亜矢さんは泣きそうなその目でこっちに何か訴え掛けてきた。
「僕もやってみようか?」
僕がそう言うと君は大きく頷いた。
「よし。みてて。」
僕は100円を入れてウサギを奪いに行った。
そして―――。
「やった!弓弦君!ありがとう!」
亜矢さんの笑顔と引き換えに僕の財布から3000円が羽ばたいて行った。
「喜んでもらえてよかったよ。もうすぐお昼になるけど、ご飯行く?」
僕がそう言うと亜矢さんは首を傾げた。
「どうしたの?首傾げて。」
「弓弦君にもなにかしてあげたいなって思って。私このぬいぐるみもらったし…。」
亜矢さんはそう言ってウサギのぬいぐるみを抱きしめた。
「そっか。じゃああれ一緒にやってくれる?」
僕はそう言ってプリクラ機を指さした。
「あれ、なに?」
「うーん。二人の思い出を残すものかな。」
僕がそう言うと亜矢さんは僕の右手を引っ張って急ぎ足でプリクラ機まで早歩きで行った。
「じゃ、残そう。思い出。」
亜矢さんはそう言ってプリクラ機の中に入っていった。
そして写真を撮り終えた僕たちはプリクラ機の中から出てきた。
もちろんお絵描き済みだ。
写真撮るとき二人の距離が近くなって顔真っ赤になる亜矢さんが可愛くて。
お絵描き中タッチペンで絵が描けることにびっくりしたり、可愛いスタンプとかに嬉しそうに反応したり、プリクラの一部始終が幸せ過ぎて結局僕は、亜矢さんに夢中になってプリクラ自体を全然やっていなかった。
そして二人の初プリクラの写真が出来上がった。
二人でそれを分割して分け合った。
亜矢さんはすごく幸せそうな顔でありがとうって言ったんだ。
僕もそれをオウム返しするようにありがとうって言った。
写真の中の二人は本当に幸せそうに笑っていた。