三話 君との初デート(前編)
告白の返事にYESをもらった。
そのせいか、亜矢さんは、恥ずかしそうに僕の胸から離れない。
「あの、どうされました?亜矢さん。」
僕も人の事いえないくらい恥ずかしいけど、なぜかちょっと余裕な所を見せたくて、少し強がって見せた。
「うるさい…。」
亜矢さんはそう一言いうと、僕の服をぎゅっと強く握った。
「服伸びちゃうよ、亜矢さん。」
「今は顔、見られたくないの。」
なんだこの可愛い生き物は…。
少し照れながら話す君を見て僕の気持ちは好きでいっぱいになる。
それから一呼吸おいて落ち着いた亜矢さんは僕の胸から離れた。
「弓弦君。」
亜矢さんは顔を真っ赤にして僕を見つめる。
「どうしたの?」
僕も君の目を見てそう答えた。
「その…。改めてよろしくお願いします。」
亜矢さんは今までに見たことない笑顔でそう言った。
君の後ろにはきれいな夕陽が輝いて、心の底から美しいと思った。
「こちらこそよろしくお願いします」
僕がそういうと、君はホッとしたように木の根元に腰を掛けた。
「弓弦君は、聞かないの?どうして私が今までここに来なかったのか。」
亜矢さんはそう言ってこちらを見る。
「うーーん。確かに気になるけど。きっと何か理由があると思うし、そもそも約束も、また会おうって言っただけで、また会えたし、別にいいかなって思って。」
亜矢さんはその言葉を聞いて少しほっとした様な顔になった。
「よかった。まぁ特別理由があったって訳でもないんだけど、家。この辺じゃないんだ。色々用事も重なって、中々ここに来れなくて。弓弦君いなんじゃないかって思ってたからほんと申し訳なかったなって思ってね。本当に、待っててくれてありがとう。」
亜矢さんはそう言って、木の根元に腰を掛けた。
「そうなんだ。また来てくれてありがとう。」
僕がそう言うと亜矢さんはニコッと笑った。
「ねぇ亜矢さん。連絡先交換しない?」
亜矢さんはその言葉を聞いて首を傾げた。
「連絡先って何?何を交換するの?」
正直僕は思った。
この人マジか。っと。
その後亜矢さんと会話をしていくと、どうやら亜矢さんは携帯を持っていないらしく、いつも地図と時計を持って行動しているらしい。
なので、この人と家でキャハハ、ウフフのメールのやり取りができない訳だ。
「じゃ、亜矢さん。次いつ会おうか。」
僕はただ君とまた会いたくて、君と一緒に居たかった。
「そうね。じゃあ弓弦君の好きな所に行きたいな。」
亜矢さんは夕暮れの空を見上げながらそう言った。
「好きな所か、じゃあ二人で色んな所ドライブしよう。3日後のお昼とか空いてるかな?」
「うん!空いてるよ!じゃあその日の昼ここで待ち合わせしようね!」
亜矢さんはすごく機嫌が良さそうだった。
君が喜んでくれた。
それが、とても嬉しかったんだ。
僕たちは次会うことを約束し、解散した。
家まで送ろうか聞いたけど、君は大丈夫だよ。
そう言って走ってこの場所を離れた。
「次、会うの楽しみだなぁ。」
僕はひとり夕暮れの中呟いた。
そこから僕は家に帰り、初めてのデートコースを練りに練った。
君と一緒に色んな所に行ける。
それがとても嬉しくて。
僕はひたすらに舞い上がったんだ。
そこから時間がたつのはすごく遅くて、早く約束の日が来ないか。
そればかり考えていた。
そしてデート前日。
僕は仕事終わりに明日君に渡すプレゼントを考えていた。
「どうしたの?弓弦君。真剣な顔をして。」
仕事場の上司神崎喜美代さんが声をかけてきた。
神崎さんは僕の二つ上の面倒見が良いお姉さんで、いつもなにかと僕を気遣ってくれる。
「いや、明日彼女との初デートなんですけど、その時にプレゼント渡したくて…。でも何渡せばいいか全然分かんなくて。
僕が困った様にそう言うと神崎さんは、お腹を抱えて笑った。
「アハハ!弓弦!あんた最高だよ!」
「もう、笑わないで下さいよぉ。真剣なんですよ!」
ちょっと怒りながらそう言った僕を見て、神崎さんは笑ってでた涙を手で拭い、深呼吸をした。
「そうねぇ、最初だし重くないのがいいねぇ。」
そして神崎さんと僕とのプレゼント作戦会議が始まった。
神崎さんと何個か案を出し合って僕はあるプレゼントにした。
僕はそれを握りしめて、家に帰った。
明日は最高の一日になるだろう。
そう信じて。
家に帰ると僕はすっと寝た。
明日楽しみで寝れるか心配だったけど、それ以前に準備で相当疲れていたらしい。
「明日楽しみだなぁ」
その言葉は静かに僕の部屋に響いた。
デート当日。
朝陽の光で僕は起こされた。
僕は身支度を済ませた。
顔を洗い、歯磨き、トイレ、朝食などだ。
それを済ませた僕は、シャワーを浴びて、今日のためにコーディネートしたイケてる格好に着替えて、髪の毛のセットをした。
その後に女の子に人気!って書いてあった花の匂いがする香水を振って、亜矢さんへのプレゼントを持って、僕は家を出た。
昼に待ち合わせした筈なのに、僕は家を8:30に出た。
レンタカーを借りて9:30には木の下に着いていた。
「流石に早かったかな」
僕は時計をみて苦笑いをした。
僕は木の根に腰を掛けた。
今思えば、朝この場所に来るのは、初めてだ。
そんな事を思っていたら本が読みたくなった。
僕はカバンから本を取り出して開いた。
朝のそよ風が僕を包んだ。
それはまるでデート前の僕を励ましているようだった。
「弓弦君?」
そんな事を思っていると後ろの方で声が聞こえた。
「え…。」
そこには君が。
黒霧亜矢が立っていた。
現在時刻10:00である…。