戦闘狂とめんどくさがり屋Ⅵ
本当、短編で続けてしまったシリーズ。ごめんなさい。
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一回: https://ncode.syosetu.com/n2784gb/
ヴェルディはアマミを手にして、銀城の前に辿り着く。
聳え立つ巨大な城。こんな物が突然に現れては世界は混乱するだろう。
そして、ヴェルディも少しばかり思考に飲まれた。
これを沈めたら津波が起こる、と。
取り敢えず、挨拶がわりにメテオを撃ちかましたくなったが、止めておく。
ヴェルディは城の周りに魔法防御結界が張られているのを確認した。
「総員、攻撃を開始せよ!」
おおぉぉおお!
と猛るような声を上げて、彼らは城へとその身を飛び込ませて行った。軽鎧を身に纏った槍を持つ男たちだ。ただ、その槍はただの魔導武器の様で、極めて特質な力はない。
ヴェルディは彼らは無駄死にするだけだと思いながらも、その光景を止めることなく見ていた。
魔法防御の結界は彼らの幾分かを弾くが、魔導武器を持たぬ物たちだけをその内側に通し、その城からゆらりと姿を見せた巨体が、家数軒よりも大きな腕を振るい、彼らをただの赤いシミへと変えた。
今、死んだのはラクス王国の騎士だろう。ただ、残された騎士たちが義憤に走ることなくその感情を押さえつけるのは中々だと、ヴェルディは賞賛した。
もしかしたら、怯えているだけかも知れんが。
ただ、先ほどの蛮勇とも思える行為はラクス王国の騎士だけでなくルクス公国の兵士にも恐怖を植えつけたのだろう。
彼らの隊長格が撤退を命令するが、魔法防御結界の内側から伸びる長い腕が一振りでルクス公国の兵士たちを壊滅させた。
「うわぁ……」
その圧倒的な光景に最強のヴェルディも思わずそんな声を漏らした。
ただの腕の一振りで、ここにいた騎士と兵士が軒並み壊滅した。
今、この場にいるのは戦意喪失した幾人かの騎士と兵士たち。あとはアマミを握ったヴェルディだけだ。
ただ、ヴェルディはベルラトールの背後に見える、巨大な戦斧に視線を向けた。
まだ一度も振るわれていない。
ただ、あれが神器であることは理解した。
おそらくだがベルラトールが『天と地を別つ大戦』時にふるったとされる、テラコリヴィスと呼ばれる武器だろう。
「あれが振られたら終わりかもな……」
そう呟きながら、ヴェルディはアマミを振るい、海水を操作する。
海水には魔力が生じるが、魔法防御結界を打ち破るのは容易いことだ、ヴェルディには。
そこで規格外の文字が思い浮かぶ。
まあ、ヴェルディの冠する最強の称号は伊達ではないと言うことだ。
『くっ!マーレの真似事か!?小賢しい!』
ブゥウンッ!
大きくベルラトールは腕を振るった。その衝撃にか、城の一部にぶつかり、城は崩れる。
そして、城が崩れたことによりベルラトールの周囲を覆っていた魔法防御結界が解除される。
「うっわ」
その瞬間にベルラトールは戦斧を持ち縦に振るう。
それが空気を伝わりながら衝撃波を飛ばしてくる。そこに魔法的な力は何一つない。ただの力技だ。
それをヴェルディは危なげなく回避する。
『矮小な人間が!何故俺のジャマをする!?』
その間もベルラトールは戦斧を振り続け、海は荒波を立てている。
「あんたとソル・サティスが戦ったらこの世界が滅茶苦茶になるんだよ」
『そんな物、作り直せば良いではないか!』
「それは壊した本人が言うことじゃねぇだろ」
そう言って、ヴェルディはアマミに魔力を通して、ベルラトールを縛る巨大な水の鎖を作り上げる。縛り付けるのは海の中。
水の莫大な質量により、ベルラトールを深海へと引き摺り込む。
『くそ!俺が、俺の野望がここで潰えると思うなぁ!』
その瞬間、熱波が生じる。
その熱により、彼の身体を押さえていた水の鎖も、辺りの海水も彼を中心にごっそりと蒸発する。
水蒸気や空気中の水分を操作しようにもベルラトールの周囲は異様な熱により、水を発生させることができない。
『俺が天に君臨するんだ!』
ベルラトールの身体は銀色から変色していき赤黒くなる。
それこそ、黒い太陽と言いたくなる様な物だ。
「あんた、マジで太陽神に成り代わる気か?」
ヴェルディはその様子を見て、ベルラトールにそう尋ねていた。
『違う!俺はあいつの二番煎じになりはせん!俺は輝ける星々の神ステラ・スムマになるのだ!』
太陽というただ一つの輝きには収まらない。ベルラトールはそう宣言する。
この広大な宇宙に遍在する、恒星の神になると、彼は言うのだ。
「いや、どうでも良いんだよ」
ヴェルディにして見れば至極どうでもいい。大人しく海に沈んでくれるとありがたかったのだが、どうにもアマミは役に立たない様だ。
「ただ、オレが近づいてもキツそうだしな」
思いついたように、最強だからこそ放てる、そして今だからこそ有効である、魔法を思い出す。
「……あんた、星々の神になるって言ったこと後悔しな」
そう告げると、魔法の発射用意を始める。
ベルラトールはそれに対して、何をしているのかと思ったが、練り上げられていく魔力を感知し、全力で止めようと戦斧を振るう。
ただ、同時展開される撃墜用の魔法により衝撃波は尽く、弾かれる。
「さて、食らいな『星を撃ち落とす』」
ヴェルディの前に突き出された右腕の手の先に白く光る魔法陣が描かれる。
そこに赤、黄色、青、白の光が集っていき、一瞬にして解放される。
光の集約された一矢。
それは狂いなくベルラトールへと向かっていく。
『ま、待ってく……ぎゃあああああ!!』
そして、それはベルラトールの脳天を打ち抜き、砕いた。脳天を貫かれたベルラトールは海の中に沈んでいく。
「……久しぶりに魔法で相手倒したな」
ただ、終わって見れば呆気ないものだった。ヴェルディは今回の戦いは特に苦労もなかったと感じていた。
何よりも、神は性質が決まっている上、刺さる魔法や武器が有れば存外に倒しやすい。
「ま、アマミを返しに行くか」
そう言って、全てが沈みゆく大洋を後にした。