夜叉熊の魔石
夜叉熊の魔石
サンビチョ州に入って尚も、街道を往来する荷車の数は増える一方である。
どの荷車も先を急ぐように俺らを抜いて行くが、ミルちゃんの大きな歌声に、どの荷車も俺らに怒り顔しないで呆れた笑顔を向けていく。
だけど俺の下手な操作では、エミューは急いでくれないようである。
陽が高くなりだした頃には、俺らの周りには他の荷車を確認できなくなった。
置いてかれたような気がするが、引手エミューは相変わらず素知らぬ顔の態度である。
すれ違う荷車も、俺らの荷車を置いて行ってしまったかのようで、前も後ろも遠くの距離に確認できるだけになった。
すれ違う荷車には品物が満載で、不用心にも荷車従者は護衛なしの操作者のみである。
街道での治安が良い現象からだろう。
うっそうと茂った、小高い山々の裾野森を切り開いたように街道は続いている。
裾野森を切り開いた街道は、大木の為に陽射しは遮られて薄暗く、遠くで森が切れ終わった街道先の緑は眩しくさえ思えた。
陽射しが遮られて薄暗い街道をのんびりと進んでいると、街道先の緑が眩しくさえ思えてた明るさが土埃で遮られた。
「逃げろ!逃げろ!厄災だ!縞模様の厄災だ!」
とエミューに乗った女性が叫びながら、後ろに三人の男等を従えて俺らを抜き去った。
一角羊の群れの後ろから、あの鬼顔の熊似が追いかけて来ている。
四つ足で駆けてる肩幅は、優に三メートルを超えている巨体である。
ミルちゃんを後ろの荷台に放り込み、
「ミルちゃん、ツル殿。荷車の中で隠れてろ!声掛けするまでは荷車から出ないでくれ!」
レーザー銃を荷物箱に置いたのを後悔しながら、操作席を飛び降りた。
荷車を守るべきと思い、先に攻撃を仕掛けきれず、迎撃戦にならざるを得ない。
鬼顔の熊似は一角羊の群れを諦めて、俺らのエミューに襲い掛かって来た。
鬼顔の熊似は前足一振りで、一頭のエミューの胴体を身二つにちぎり切ったかのような、深い傷口をさらした。
鬼顔熊似の顔に尾刃剣の刃先から炎を浴びせて切り込むと、変な見えない空気の壁を感じたが、構わずに鬼顔熊似の前足を避けて背丈五メートル以上の、鬼顔熊似の腹に切り込んだ。
「硬い。」と感じたが、鬼顔熊似の白身の腹肉は露出してそこから赤い血がにじみ出したが、赤い血は直ぐに白く泡立ちだした。
何かに突進を拒まれ、切り込みは浅かったようである。
鬼顔熊似の注意を幌馬車から避けるために、反対側の森を背に鬼顔熊似に対峙した。
鬼顔熊似は手負い怒りのまま、俺に突進して来て両腕の爪を使い、左右から切りかかってきた。
トカゲモドキよりも強いとは感じたが、両腕の爪の速さは特別なほどではないが、何かに抵抗されてる俺よりも速いとも感じ、何度かの爪先攻撃を受けてしまい、鱗甲冑に助けられて、弾き飛ばされながらも何とか防ぎきれた。
俺はその片腕を切り落とすべきと、爪を避けるように後ろに飛び下がり、発動している尾刃剣を上段から飛びかかる様に、鬼顔熊似の右腕に切り下げ込んだ。
「かてえ~」と叫び、再び後ろに飛び下がらねばならない。
鬼顔熊似の右腕への切込みでは、骨まで達してはいるようだが、俺の体の勢いを何かの反発力が邪魔して切り落とすことができない。
腕に切り込むときに、矢張り変な見えない空気の壁を再び感じた。
一瞬、銀河連合で実験段階の電磁層防護壁、バリヤーではないかと思えた。
鬼顔熊似は左だけの爪を振り回しながら、俺に突進してくる。
鬼顔熊似の白身の腹肉から大量の白い泡が湧き出ている。
鬼顔熊似の左腕を避けて、再び白身の肉に尾刃剣を差し込んで強く横切りすると、切り裂かれた内臓が飛び出したと同時に、大量の泡も噴き出てくる。
鬼顔熊似の動きが遅い動作になったところで、再び顔に尾刃剣の刃先から炎を浴びせて、右腕の切り落とせなかった泡だらけの部位に切り込み、右腕を切り落とししたが、やはり切り口から大量の泡が噴き出てくる。
鬼顔熊似は何とかして俺を捕らえようと、左腕を振り回すが、そのスピードは最初ほどではないので、変な見えない空気の壁も薄くなり、左腕の付け根に切り込んで、その腕を落としたが矢張り大量の泡も吹き出で来る。
まだ仁王立ちの鬼顔熊似を転ばすために、片側後ろ足の太ももに切りかかると、今度は空気の壁を全く感じることなく、難無く切れ落とせた。
倒れた鬼顔熊似の首に近づき、首を落とそうと尾刃剣を振り落とす直前、鬼顔熊似の雄叫びは耳をつんざく様に響き、俺は見えない壁に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされて、周りの騒ぎに気付き見回すと、五人の男達がエミューから飛び降りて、
「閣下。ご無事ですか?」
と言って、俺を抱き起した。
俺は体の疲労を感じて、赤い微粒子をてんこ盛りにして飲み込んだ。
初めて飲んだ赤い微粒子は、俺の五感に強く作用したようで、元気ハツラツな気持ちになった。
「済まないが、幌馬車にいる母子を遠ざけてくれ。まだこいつとは決着がついてないので、
こいつの息の根を止める。」
「夜叉熊は赤い魔石を取り出さないと、切った部分を修復するよ。」
と、さっき通り過ぎた娘が叫んだ。
雄叫びを上げた後で、ぐったりとしている鬼顔熊似の腕に目をやると、たしかに切った部位も泡に包まれて伸びている。
母子を遠ざけて行くエミューに乗った二人の男を確認して、再び鬼顔熊似の首に向かい、その首に尾刃剣を振り落とした。
今度は見えない空気の壁は感じられなかったので、容易く首を落とした。
見えない壁は鬼顔熊似の気力が、継続できないのかはわからないが、鬼顔熊似の後ろに回り、赤い魔石のある心臓部分の後ろ肋骨を切断すべき、上段から気合もろともに振り下ろした。
二本の肋骨を両脇から切落し、白い噴き出す泡をかき分けて、肉の塊を三人の男等に手伝ってもらいかきだして、身を半分以上肉の中に置き、魔石のあるあたりに手を伸ばしたが、赤い魔石と思ってたそれは黄金色の黄色い魔石であった。
泡とヌルヌルの魔石につかむのを拒まれてる最中に、鬼顔熊似が起き上がり、
「夜叉熊の手足が復活した。」
と女の叫びが聞こえた。
俺は肉の中でもがいて、泡の中で窒息しそうであるが、何とか魔石をつかんだ。
鬼顔熊似の活発な動きで振り落とされると感じたとき、掴んでいる魔石は収まっている部位からはがれて、剝がれた部分から血が噴き出して、血は泡立たずに鬼顔熊似の動きが止まりうつ伏せに倒れ込んだ。
掴んだ魔石は俺の手の中で回転しだして、俺の手のひらから腕に入ってきて、左胸で止まった。
『ま。も。り。ま。す。』
と、また変な声が全身に響いた。
慌てて肉の壁から這い出て手のひらを見るが、傷跡もない無傷である。
もう一度肉の中に入り、魔石を探したが見つからない。
見つからない魔石は矢張り俺の中に入ったようである。
とうとう俺も噂の卵持ちになったのかと恐怖した。
三人に後ろ足を引かれて肉から出されたが、噴き出た心臓の血で全身血だらけで、俺は放心状態になっている。
「俺も噂の卵持ちになった」
と呟いてしまうと、「俺も噂の卵持ちになった。」「俺も噂の卵持ちになった。」
と、頭の中でコダマが聞こえた。
「閣下。大丈夫ですか?血だらけですが、何処か怪我をなさってますか?ゲルググ知事様から回復薬と万能傷薬を預かっています。」
「有難う。何ともない。この血は鬼顔熊似の血だ。ただ疲れただけだ。」
「でもすごい!縞模様の夜叉熊は、魔物とも戦えるとの噂ですが、それをお一人で剣だけにてお倒しになりました。さすが魔物ハンターです。」
落としてた尾刃剣を隠れ護衛から受け取り、縞模様の夜叉熊の背中から周りを見回すと、遠巻きに見てたのか大勢の人が、街道の両側からかけてくる。
縞模様の夜叉熊の背から飛び降りると、
「不覚にも、我らの一角羊の群れが、縞模様の夜叉熊を誘い出してしまい、大変な被害が出たであろうが、それを阻止してくださいまして有難う御座います。お名前を教えていただけませんか?失礼しました。私はアロマ村のアソと申します。」
「シン.カジマです。」
「このお方は、―――」
俺の身分を言おうとした男を制した。
「夜叉熊の肉は精力のもとになるとの噂です。持ち帰れない肉をここで売りましょう。罪滅ぼしにお手伝いさせてください。」
とアロマ村のアソは進み出た。
アロマ村の四人と隠れ護衛による、街道脇に次々と石のかまどが出来ていく。
十個位のかまどにやぐらに組んだ蒔きが並べられていくので、隠れ護衛から受け取った尾刃剣を持ち、やぐらに炎を噴射した。
次々と立ち上る炎に、皆は感動の声を上げた。
「縞模様の夜叉熊の肉、一切れ大銀貨一枚。精力抜群のもとだよ!」
とアロマ村のアソは、日出国方から届いたばかりだという、塩商人から大量の塩を買い
肉にまぶして焦がし売り出した。
肉は半焼きにもかかわらず次々と売れ出して、傍に広げられた布地の上には、大量の大銀貨が積みあがっていくが、所々に金貨も落ちている。
ほとんどの人々は、二切れ以上を求めるので、肉塊は四分の一位だけが残っているが、
まだ求める人は、片手に持った焼けた肉を頬張りながら二十人ぐらい並んでいる。
大量の焦がし肉を積んだ荷車もいて、無くなるのは時間の問題であろう。
そして、縞模様の夜叉熊の肉香りに誘われたのか、エミューに乗った六人の衛士兵姿の男らが現れて、
「縞模様の夜叉熊は手配されている犯罪獣だ。何を勝手に売り捌いているのだ。此れは犯罪行為だ!」
「ふざけるな!お前が言うな!お前が縞模様の夜叉熊は、討伐して山奥に追い立てたと言って、懸賞金をねこばばしやがって、もう少しで大変な被害が出るところだったのだ。」
「おまえは誰だ!」
「私はアロマ村のアソ。十二の頃から悪ガキ不良と呼ばれてるアソさ!」
と、アソは息まいた。
「この者共を捕縛しろ。抵抗する者は切り捨てろ!」
と衛士兵姿のリーダーが叫ぶと、抜刀した五人の衛士兵が肉売り場に襲い掛かので、俺は間に入りその剣先を払おうとしたが、抜刀した五人の衛士兵の持つ剣は、俺の前で振り下ろした途中で宙に停まっている。
「何をしている!その男も切り捨てろ!」
と衛士兵姿のリーダーが叫ぶと、五人の隠れ護衛は、俺に切りかかった男たちを一刀両断に切り倒した。
「このお方をどなた様と心得る、刃を向けた者共は、一族郎党打ち首だ。」
と言って、エミューにまたがってる男を引きずり下ろした。
俺の前で宙に浮いたまま停まっている剣は、何事もなかったように一メートル先で地に落ちた。
又、俺には何かが起こっているようだ。
羽交い絞めされた男は、
「俺より偉い者がこの領地にいるはずはない!お前ら無礼であろう!」
とわめきながら暴れている。
「このお方様はーーー。」
と言って、俺を向くので、俺は手を横に振った。
「シン.カジマ----様。まさか神降臨街の守り人で、総督閣下様ですか?」
とアロマ村のアソは跪いた。
その場に居る隠れ護衛とミルちゃんに母親のツル殿を除いて、全員がアロマ村のアソと同じように跪いた。
「そうだ!総督閣下様だ!」
と、隠れ護衛は胸を張って、一同を見回した。
「このゲスの極み野郎は、ほかにも犯罪行為があるだろう。知ってることを教えてくれ!」
と、隠れ護衛のリーダーらしき男が周りを見渡した。
「つい最近まで、無学なアロマ村から人頭税を取っていたが、亜人協力国になってからの人頭税は、廃止になったと知った村長が返金を求めたが、返してくれない。」
「俺の村ではまだ人頭税を払っている。」
俺の所もだと、人々がさわぎだした。
隠れ護衛のリーダーは、メモ帳とボールペン取り出して、それらを書き込んでいき、
告発者の名前を聞いている。
「俺ら行商人の間では、領主一行に会うと難癖をつけられて、通行安全税を取られたとの被害が出ている。」
と男が進み出てた。
「まるで追いはぎか、盗賊だな」
と俺がつぶやくと、
「先程の態度を見れば、さもあらんです。叩けばまだ埃が出るでしょう。」
と、隠れ護衛のリーダーはメモしながらつぶやく。
「この領地では、メイディ行政長官と法務官聖騎士団の調査が必要だな。悪いがこのゲス野郎を、サンビチョ州都のヘレニズ知事に届けて貰えませんか?」
「責任を持って、このゲスをヘレニズ知事様まで届けます。」
「犯罪者は俺だけではない!そこにいる仕立て使用人女は、元ゲルグ王の娘を誘拐した犯罪者だ!それを見抜いた俺は功労者だ!」
と喚くので、俺はゲス野郎に近寄り、その口に思い切り拳を入れた。
「ゲス野郎。また一つ罪を増やしたな。俺の連れに対する侮辱罪だ。」
ゲス野郎は前歯を全て無くして、口から血を流している。
隠れ護衛はメモにゲスの罪状を追加していた。
隠れ護衛たちは骨の付いた肉を齧りながら、ゲス野郎を引きずり、エミューに乗ってサンビチョ州都に向かった。
ゲス野郎は走れるうちは大丈夫であろうが、少しでも休むと惨劇の引きずりが行われるだろう。
粗方売れてしまった肉は、まだ五十キロぐらい残っていて、十キロぐらいを受け取って、残りはアロマ村のアソ達に譲り、夜叉熊の角は高価だと言って、俺にふたつ角を差し出した。
アロマ村のアソは、俺らの倒されたエミューの代わりに、少し貧弱であるエミューを購入していた。
街道のかまどを壊し整地して、縞模様皮をアロマ村のアソ達の手間賃として渡した。
俺の荷物箱に大量の大銀貨が詰め込まれて、入りきれない大銀貨は布地に包んで荷物箱の横においてある。
俺の荷物は既にツル殿によって布地に包まれて、ツル殿の胸に抱えて込まれていた。
街道に戻した幌馬車にミルちゃん、ツル殿親子に声をかけると、ツル殿はミルちゃんをしっかりと抱きしめて無言で荷台に乗った。
ツル殿は、ゲス野郎の言葉「娘をさらった犯罪者」とのたわごとにかなり傷ついたのだろう、荷台にうずくまりミルちゃんをきつく抱きかかえていて、ミルちゃんは俺のそばで歌う事が出来なくなっているようだ。
陽は落ちだして、次の宿場まではかなりの距離があるので、ツル殿の了解をいただて、
野宿することにした。
手頃な野営地に着くと、ミルちゃんとツル殿親娘は藪のしげる草原で山菜狩りを始めた。
俺はエミューに乗り、少し離れた森の中から、三本の倒木を蔓で引いてきて、やぐらを組んで火をつけて、二つのジャバラバケツに水を満杯にした。
三つのかまどが出来た頃、親娘は布地を膨らませて、多くの山菜を二人で抱いてきた。
「ここは多くの山菜が有り、ここで暮らしたいほどです。」
と、ツル殿は何かが吹っ切れたような、笑顔を俺に向けた。
親娘が料理をしだしてる間に、ゲス野郎からゲルグの名が出てしまった以上、イアラに秘密にできないのでメールした。
内容は、ゲルグの子供かもしてない娘を保護している事と、娘の名はミルで、母親はツルと伝えた。
母親の主張には強い決意があると書いて、その主張内容を詳しく知らせて、俺は親娘の保護と二人の絆を守ると約束したと伝えた。
優しいイアラであれば、最良の対応が可能であろう。
用意された料理は、草の上に広げられた布地に並べられて、皆の皿は今回十分にある。
食事の前に、ツル殿はひざを折り、これまでの無礼をわびたが、約束通りテテサ教皇様に会わせると再度誓って、神降臨街で保護して決して二人を引き離さないとも約束した。
夕食の料理は豪華で、油で炒めた肉と山菜には野生のニンニクと玉ねぎの味と香りが漂い、スープはニラ鍋に似た香りで、さらに食欲を増加させられた。
食べ過ぎて、荷車の車に背を預けて、関ヶ原の状況中継に目を移した。
関が原では多くのかがり火が映し出されているが、山陰にいた日和見を決め込んでいた者たちも、それぞれの山や丘の頂上に陣を構えたようである。
そして、思い出したくない不安が起きてきた。
俺の体は魔石に入られてどうなるのだろうと思い、腹割いてくる未知の物体を想像したら、何故か金棒を持った縞柄パンツの鬼が出てきた。
『ま。も。り。ま。す。』と、変な声も理解不能で、途中で宙に停まった剣の現象をも考え込んだ。
まとまらない考え中に、変な欲望が下半身に起きた。
縞模様の夜叉熊肉の効用だろうか?
不謹慎にも、ガイア様の髪の毛に戯れる姿を想像した。
戯れる姿を想像したら、余計に下半身は大きく狂暴化しだした。
慌てて、タブレットパソコンの画面を変えたところで、目の前が赤く照らされて、ガイア様が現れた。
「あたしに会いたくなったようですね。」
ガイア様は俺の狂暴化した部分に目をやり、子供がいたずらするときの顔になっている。
俺は大きく狂暴化した部分よりも、俺の体と周りの異変に心が占めてるからか、
「ガイア様。ご相談したことが有ります。」
「いいわよ。何度でも。私も楽しいから。」
と、俺の意図する事はわかっているのに、とぼけた返事でいたずらそうな眼をした。
そんなガイア様に構わず、
「黄色い魔石が俺の中に入り込み、『ま。も。り。ま。す。』と、言って、俺の胸に居る。
おまけに、俺に向かってきた剣が、俺にバリヤーが在るみたいな感じで、一メートル先で拒んだ。」
「どれも悪いことではないでしょう。」
「卵が俺の中にあるんだよ。生まれたら出てくるでしょう。」
「何が出てくるの?」
「金棒をもったシマシマパンツの鬼。」
「魔石から何かが生まれるなんて、聞いたことも見たこともない。」
「でも俺の中にいる魔石は、勝手に入ってきた。」
「魔石も千年も存在すると、命を持つでしょう。」
「魔石は無機物でしょう。」
「無機物でも、有機物に進化出来ます。」
「無機物が進化する?」
「あなたたちの言葉では、化学反応でしょう。」
「俺は魔石持ちの怪物ですか?」
「魔石は、有機物としての命はないが、個体としての自分を守るために、魔石霊は強い者たちに宿ります。そして、長く生き永らえれば心を持ちます。左手を広げて、魔石を呼び出しなさい。」
俺は言われた通り、胸の魔石に呼び掛けて、左手のひらを見つめると、黄色い魔石が皮膚の中から現れて、黄金のように輝きだした。
「魔石は伴侶殿のことを、正義の人と呼んで、喜んでいるわよ。だから、夜叉熊よりはあなたを守ることにしたようよ。」
「縞模様の夜叉熊との戦い後半戦では、その力を使わなかったと?」
「正解。私たちの子供にも、老樹霊たちからの贈り物は、同じものでしょう。」
「老樹霊たちも魔石を持っていると?」
「もっと立派な、意思表示の出来る力を持った魔石です。この魔石はまだ若い千年ですが、老樹霊たちは一万年以上の年月を得ているわ。」
唖然としてる俺にかまわずに、黄色い魔石は再び俺の皮膚から胸に移動した。
俺の同意なしで、ガイア様は楽しいと言いながら、おもちゃで遊ぶ子供のように、俺の狂暴化した部分を一心不乱に鎮めて、
「これも貸しです。」と言って、熱のない燃えてる髪毛の感触を残して、
「またね~」と言って、消えてしまった。




