ムー帝都の戦場
ムー帝都の戦場
キョクトウ君は自分に賛同してきた兵と、三八式歩兵銃を装備したエミュー小銃隊千名に、エミューに引かせた大砲六十門と、神降臨街屯田兵とを加えた五千の軍を率いて、トロンボ州兵軍とゲルググ州兵軍に合流する予定地にまだ現れないので、マーガレットが俺を見て、
「老樹霊による空から現れた燃える鳥を皆が見たであろう、奇跡後の今が絶頂期であろうから、その空からの降下してくる閣下は、神様か使徒様であろうかと地上の人々は思うだろう。」
と、マーガレットが提案するとパトラも腕を上げて同意して、
「これからの争いにおいては、最小限の犠牲者で済む為にも、閣下は立派な演技をしてください。」
とパトラから、マーガレットの提案による、俺を使徒であると印象づけるためのショーを勧められた。
「ショーの為に、俺にパラジュートで降下しろと!」
「この後各国を併合して統合する過程で、無駄な血を流さずに済むためです。」
俺の気持ちとすれば、パラシュートは所詮布切れ合わせの天幕であり、わが身を布切れにゆだねるのは不安であり、機能通りに開くのかと思いながら、機能通りに開く方が奇跡と思えるので、奇跡が起きなかった最悪の場合を考えると気が重いのである。
俺は無機物に対する感動なさもあるが、無機物への不信も元から強いようである。
輸送艦の倉庫には、降下部隊専用の個人用降下超小型ジェット推進器は置いてあるが、かなりのバランス訓練が必要なので、埃をかぶったままであるらしい。
降下フックを機体に固定して、眼下を見下ろすと、地表までの距離に身がすくんでしまっていると、
「閣下まさか士官教育実習大学卒なのに、経験が無いとは言わせない!パトラ押してあげなさい!」
とマーガレットが叫ぶと
「行ってらっしゃい。」
とパトラに背中を押された。
二人は俺を使徒にしたい愛情的な計画案だと思うが、無理強いするのは悋気があるのだろうかと想いながら、まだトルコ行進曲の響く中、捕まるものがない状態に晒された。
パトラが俺の背中を押して落下させたのは、俺を使徒か眷属に見せかける必要があると、運営委員会ですでに決まっていたシナリオであったのだが、こんな方法でやると知っていたならば、絶対反対したであろうが、二人から目の前で布切れを渡されると、何事にも抵抗できない俺の立場を思い知らされたのである。
バランスを崩したままの落下体制を、何とか正常体制にして衝撃に備えた。
「天幕様、早く開いてくれ!」
と祈るが、地表面は口を開いているかのようで、落下する俺をトルコ行進曲を聞き入りながら待ってるようである。
俺に奇跡は起きないのだろうかと思いつつ、風圧で顔が潰されるのではと感じたとき、天幕様に祈りが通じたようで、強い衝撃の後に体が浮いた。
天幕様が開いてくれて、かなり気持の余裕が出たので、安全な着地点を探した。
トルコ行進曲が響く中、天幕様が赤いうえに大きく開いたためか、眼下の兵どもに注目されている様である。
足元地上からは、トルコ行進曲が響く中でも、驚嘆の呻き声が結構響くように聞こえる。
スクリーンのスターやミュージシャンの気分は、こんな気持ちだろうかとの快感もある。
不安な気持ちの後の安心した興奮状態の感動からか、ここでお道化たら受けるだろうと思ったが、運営委員会の期待に応じなければならないと、気持ちの高騰を抑えて冷静な対応をと考えたら、かっこいい着地がふさわしいのではと思っていると、城壁上の大型石弓がこちらに向けられて槍を装填しだした。
せっかくの気分を害されたので、胸に抱いたレーザー銃を大型石弓に照準を合わせて、槍を装填した石弓を炭にした。
それに気づいたトーマス元帥は、機動車輌搭載のレール砲から、石弓のあったあたりの城壁に爆裂弾丸を打ち込んだ。
高さ十メートルの石壁は崩れ吹き飛び、城壁内家屋までもが更地になり、防壁の役割を果たさなくなったのは、トーマス元帥の怒りそのままの行動であろうが、無線を通じて聴こえる怒鳴り声は、トーマスがコーA.Iに八つ当たりしている声である。
「なぜ閣下の身は無防備状態なのに、きちんと周りを監視できないのだ!」
「閣下自身の行動が速いので、解決できると判断しました。」
コーA.Iに怒っても仕方ないと思えるが、トーマス元帥の気遣いにも感謝した。
ゆっくりと降下中に周りを見渡すと、城壁外で隊列を組んでたムー帝国兵は、先頭部隊より前に出ることなく、大きく輪を広げて、俺に見入っている。
城壁上では、空からのトルコ行進曲に誘われたのか、一般住民と思われる人々が続々と増えだしてきて、トーマス元帥の開けた城壁の影からも一般住民が見受けられだしたのは、怖いもの見たさの衝動だろう。
ここはやっぱりかっこよく着地したいものである。
着地の瞬間勢いそのままに駆け出すつもりが、後ろに大きく引き戻された後に、へたり込んでしまった。
そんな俺に周り中の歓声が響くので、天幕様の装備を外して両手を上げると、一段と高いどよめきが響いた。
機動車輌に乗ったトーマス元帥が近づき、
「また無謀なことをしましたですね。」
「パトラに突き飛ばされた。」
「こんな状態のときに、夫婦喧嘩ですか?」
「そうではなくて、運営委員会の要請なのだ。」
「運営委員会は閣下の苦手なことを、強要するのですか?」
「俺に苦手なことを、あいつらに教えてやってくれ。」
「犬も食わないと言いますから、やめときます。」
トーマスの薄情な返答に、
「薄情な奴だな、お前が夫婦喧嘩しても、今、俺は干渉しないと何かに誓った。」
と伝えると、
「ガイア様ですか?八百八橋ですか?」
「すべての八百万の神だ。」
と言う俺の顔にニヤリとして、トーマスは八百万の神の裏の意味を知っているので安心顔になった。
トーマスは、俺の教えであった戦いにおいては神の奇跡はないと、俺の無神論に感化され過ぎているようである。
副教育参謀少将タゴールとキキロが、俺を無事に降下してくれた天幕様を折りたたんでくれているのに、自分でやらない俺も薄情である。
タゴールの運転で機動車輌に乗り込み、トロンボ州兵軍とゲルググ州兵軍の野営地に向かうと、皆が片膝ついて出迎えてくれたのは、使徒と認めたのか、亜人協力国の指導者と迎えたのかは不明だが、運営委員会の権威のために上機嫌な顔で、開いてくれと頼まなくても良い天幕の中に入った。
天幕の中に入ると、トロンボ知事とゲルググ知事等は、やはり片膝ついて出迎えてくれた。
テーブルの上にはムー帝都の地図が広げられているのは、トーマス元帥の持参したものであろう紙製であった。
地図上に駒が並べられているのは、ムー帝国の兵の配置のようである。
「各城壁門上には、大型石弓が六機ずつ並べられていて、内側に投石機が五台ずつ配置してるようです。門から宮殿までは五カ所のバリケードが設置されています。」
「一般住民の状態はどうですか?」
「各家屋内にそのままとどまっているようですが、食料は不足しているようです。」
「運営委員会に連絡して、運営委員会の奴らに食料を運んでもらいましょう。」
「トロンボ知事とゲルググ知事らの軍は、多くの兵糧を持参してますので、それを分けてもらった方が良いと思います。」
「両州とも州金庫と食料は不足気味だと聞いていたが、事情がよくなったのですか?」
「こちらの世界での城攻めは長期戦のようで、かなり無理して用意された様です。」
副教育参謀少将タゴールは進み出て、
「両知事の家財を投げ売りして、用意したようです。」
「トロンボ知事とゲルググ知事共に無理させたようだな。」
と、トロンボ知事とゲルググ知事にねぎらいの言葉をかけると、
「亜人協力国に対する我らの忠誠を示す機会を与えていただいた、感謝の意を示したかったのです。」
「亜人協力国に併合していただいて、民は明日の希望を授かっています。」
元々こういう性格だったのか、テテサ教皇に感化されたのかわからないが、現在の行動を評価して再度の感謝を述べて、テーブルに広げられた地図に目を移した。
トーマス元帥から作戦計画案の細かな説明を聞いてるさなかに、天幕の外では誰かを罵倒する声で騒がしくなり、副教育参謀少将タゴールとキキロは飛び出していった。
タゴールとキキロは、罵倒されてた対象者であろう子供を抱いた中年の女性と老婆を伴って、天幕内に入ってきた。
「閣下、子供が危篤状態のようです。母親が閣下に会いたがっていますので、お連れしました。」
タゴールとキキロは魔法祭りで見た光景での、俺の回復魔法に期待しているようである。
地図をどかしたテーブルに、母親はぐったりとした子供を寝かせると、トーマス元帥は回復薬を差し出した。
トーマス元帥からの回復薬を受け取り、小瓶の半分を口に注ぐが、苦いのか吐き出してしまった。
子供の母親は、私の手にある回復薬の残りを自分の口に含んで、子供の口に流しこみ始めたが、回復の兆しはなく、俺は手のひらいっぱいに赤い微粒子をてんこ盛りにして、子供の名前を呼んでる母親を下がらせて、子供の口にてんこ盛りした赤い微粒子を押し込んだ。
赤い微粒子を押し込むつもりだが、俺の手にうごめく赤い微粒子感覚はまだ残っているので、
「精霊たちよ!子供の中に入れ!」
と叫ぶと、手に赤い微粒子の感覚は無くなり、子供の口から手を離した。
子供の青白い顔がみるみるうちに赤くなり、母親が子供の名を何度か呼ぶと子供は目を開け、
「お母さん、お腹がすいた。」
と、子供は叫んだ。
これは回復薬の効果が遅かったために、俺の行為は偶然だろうと思っていると、キキロは天幕を飛び出して行き、お椀に目一杯の肉が入った、出来立ての芋粥を持って帰って来た。
「兵たちの食事ですが、口に合うでしょうか?」
と、母親に渡した。
起き上がった子供は、母親の手から食べさせられるのがもどかしいのか、母親からお椀とスプーンを取り上げて、瞬く間にすべてを平らげて、テーブルから飛び降りた。
母親は涙顔で飛び降りた子供を抱き寄せ、無理やりに平伏させて、自身も平伏したのにおどろくと、その後ろではすでに老婆も平伏している。
「そこまで畏まる必要はない。ここは戦場の真っただ中なので、気をつけてお帰りください。教育参謀少将タゴールとキキロは、二人を送ってやってくれ。」
子供の回復はエルフ種族の作った回復薬のおかげだろうと思いながら、平伏している三人を立たせて天幕を出ると、皆が片膝を地につけだして、忠誠を示すように胸に手を当てだした。
老婆と母親も子供の頭を抑えて、兵たちと同じようにするよう指示すると、子供も片膝ついて胸に手を当てる。
タゴールとキキロは三人を機動車輌に乗せて、トーマス元帥が開けた壁に向かって行った。
母親と老婆は身の危険もあり、敵国人と罵倒されて拒否されるだろうと思っただろうけど、子供を助けたい一心で、戦場の真っ只中に入って来れる勇気と、子供への愛情に感銘を受けたが、俺ももう直ぐ父親になるが、『白金も、黄金も玉も、何せむに、勝れる宝、子に及かめやも』と、云われるがいまだにその実感がない。
キョクトウ君率いる軍が現れたとの報告がもたらされると、しばらくのちに旗印のキョクトウ君は無線連絡ができるのに、以前一緒に地下牢にいた二人と大蛇丸を伴い天幕に現れた。
「城攻めが始まっているのではと気が気でなかったが、間に合ったようですね」
トーマス元帥はこれまでの経過を細かく話したが、子供のことは伏せてくれたのは、さすがである。
「塩の国コバヤカ丸王はとんでもない事をしでかしたようですね。」
と、キョクトウ君は肩を落とした。
俺もコバヤカ丸王の行動は軽率だと思っていたので、
「コバヤカ丸王はなぜ我等側に着いたような事をして、ムー帝国の兵の恨みを買う行動に出たのか、理解できないのですが?」
「まだ居座っている理由を思うと、スケジュの後釜に自分がなるための勝利側に立つ行動をしたのであり、結果自分は勝利者であると主張できるとの思いで、ムー帝国の敗戦処理に伴う発言力を誇らしげに見せつけているのであろうが、ムー帝国の民や行政官等、誰もが味方しないでしょう。」
「裏切り者と言われるのがわからないコバヤカ丸王は、馬鹿か!」
「かなりの馬鹿です。」
「鉄の国のモーリ王は、コバヤカ丸王に味方をせずに引き上げたが?」
「モーリ王は鉄の国一豪族から、鉄の国と塩の国をまとめた知略家と言われています。」
「戦略家でもあるのですか?」
「本性は戦略家です。結果がわかっているのに、コバヤカ丸王を引き留めなかったのは、普段から疎ましく思っていたのでしょう。」
「この戦が終わると、コバヤカ丸王の立場はなくなるわけですね?」
「モーリ王の願い通りかも?」
「モーリ王の引き際の良さを思うと、コバヤカ丸王の行動を予測して、その後の結果がわかっての出陣ならば、かなりの戦略家だな。この後にどのような行動をとるかは見ものだ。」
「モーリ王は私の行動を見ながら、次の手を考えて行動する。そう言う男です。」
確かにモーリ王の次の手は、キョクトウ君の行動後に左右されるであろう。
テーブルの上にある地図絵を観ながら、各隊の隊長を呼び出して、明日の早朝に城門を粉砕した後、キョクトウ君の助言を尊重して行動を細かく指示した。
夜が明ける前の薄明かりの中、戦前の興奮で兵たちは眠られずにいたのか、兵たちの大声の掛け声で目を覚まされて、仕方なしに起き上がった。
甲冑のベルトを締め直してテントから出ると、俺のテント周りではかなりの兵が片膝ついて出迎えてくれて、
「使徒様。ご加護をお分けください。」
と、俺を敬いだしたので、
「理不尽な暴力や略奪をしなければ、ガイア様の加護は必ずある。」
と、運営委員会の期待に応える為に、、捕まるものがない状態に晒された上に、俺の柄でないこんな事まで言わざるを得ない立場に気が滅入る。
作戦指揮官天幕に控えていると、エミューに乗った大蛇丸も無線連絡ができるのに、わざわざ駆けて来た。
「閣下。起きてらっしゃいましたか。評議員三人がキョクトウ君に面会に来ました。評議員にお会いしますか?」
「ムー帝国の評議員に俺が会っても意味ないだろう。キョクトウ君の出す結論を尊重しよう。大蛇丸司令官、キョクトウ君の護衛を頼む。」
「わかりました。キョクトウ君の護衛、完璧に遂行します。」。
トーマスもタゴールとキキロを伴い、現れた。
「今、駆けっていたのは大蛇丸のようでしたが、なにかありましたか?」
「キョクトウ君に、ムー帝国の評議員三人が面会に来たそうだ。」
「では戦いは終わりですか?」
「かもな?キョクトウ君の連絡をまとう。」
トーマスはコーA.Iに連絡を取るが、別段大きな変化はなく、ただ、伝令が頻繁に走り回っているようである。
トロンボ知事とゲルググ知事も顔を出してきて、トロンボ知事は俺らに気づくと、配下の者に食事の支度を手配しだした。
朝食として出されたのは、俺ら元陸戦隊に硬いパンと肉たっぷりの芋汁だが、トロンボ知事とゲルググ知事には硬いパンに汁だけである。
「俺たちだけが肉たっぷりの芋汁だが、気にすることはないので、次回からはみんなと同じにしてください。」
「いいえ。我らは今までぜいたくな暮らしだったので、脂肪太りであるから肉は控えております。」
「守り人の皆さんは、筋肉モリモリマッチョマンですので、肉たっぷり召し上がっても大丈夫だと思います。、肉たっぷりの芋汁を召しあがり、兵たちを楽にしてください。」
トロンボ知事とゲルググ知事はわれらに気を使い、二人は嫌みのない中々のユーモアーセンスも持ち合わせているようだ。
そして、トロンボ知事とゲルググ知事は、タゴールとキキロにいろんな質問を始めだし、
二人は自分達の自慢の娘を州で一番きれいだと、タゴールとキキロに売り込見始めた。
四人の会話にトーマスと俺も加わり、余計なことだが父親として自分の娘を嫁に出す気持ちを汲んで、タゴールとキキロにこの戦が終わったならば、両知事等と共に同行するよう勧めた。
話がはずんでいる中に、キョクトウ君が息を切らして天幕に駆け込んできた。
「閣下。スケジュ皇帝が皇帝をやめると言って、雲隠れしたそうです。一緒に王宮へご同伴願えませんでしょうか?」
俺を除く全員が立ち上がって、
「戦なしか?」
と、ハモリだしたが、言葉は同じでも、トロンボ知事とゲルググ知事はくやしがり、トーマスとタゴールにキキロは喜んでガッツポーズきめてる。
態度を見ると気持は別々のようである。
エミューに乗った俺たち四人は、俺たちを迎える大蛇丸の待っている、全開されている門に向かった。
門に向かう途中で、エミューに乗った大蛇丸は駆けてきて、
「閣下。キョクトウ君と共に神降臨街屯田兵の先頭に立ち、彼らを従えて進んでください。私は先頭に立ち、つゆ払いをします。」
と言って、使いに来たのであろう評議員一人と肩を並べて先導していくと、すでに打ち合わせてあったのだろう、キチンと四列に並んだ三八式歩兵銃を装備したエミュー隊千名が後に続き、その後に百のキョクトウ君に賛同した兵たちが続くと、牢に入っていた二人と評議員らしい二人もいた。
牢に入っていた二人は、キョクトウ君と俺を賛同した兵たちの後に続く場所を指定してきて、二人の評議員を挟むように後ろからついてくると、トーマスはすぐに俺の後ろに着き、タゴールとキキロはレーザー銃を上に向けたまま、身一つ後ろに引いた状態で俺とキョクトウ君の横に並んだ。
牢に入っていた二人の後を、五列に並んだ五千の神降臨街屯田兵が付いてくるようである。
宮殿に向かう沿道には誰もいないが、俺らを恐れているのか、家々の窓は少し開いいた状態で、人々は気づかれないように隙間から覗いている気配を感じる。
宮殿門前に大蛇丸と使いに来たのであろう評議員一人は我らを迎えるように立っていて、門から階段の上にある宮殿入り口まで、エミューから降りた三八式歩兵銃を装備した兵は、両脇に二列ずつ並んで外側の兵は外を警戒するようにきちんと整列している。
大蛇丸が手を上げると、五列に並んだ五千の神降臨街屯田兵の外側の列二つは、われらを追い抜いて門の内側に駆け出して行った。
門の内側で大蛇丸は満笑顔で拳を胸に当て、われらを迎えてくれている。
宮殿城壁の上には、次々と陸戦隊の誇りである桜部隊の旗が立ち並んでいくので、おもわず敬礼をしてしまうと、タゴールとキキロも敬礼しているし、おそらく後ろのトーマスもしているだろう。
トーマスは我らの横を駆け出して大蛇丸の傍に行き、大蛇丸の頷く姿はトーマスに何かを指示されているようである。
宮殿入り口の階段前でキョクトウ君に先頭を譲ると拒否されて、ともに並んで下さいと懇願された。
そして、矢張りタゴールとキキロはレーザー銃を上に向けたまま、身一つ後ろに引いた護衛と偵察状態で、俺とキョクトウ君の横に並び、後ろにトーマスが続いた。
この惑星に上陸したころから、常に俺の後ろをトーマスに任せっぱなしになっている。
トーマスは俺の耳元で、
「コバヤカ丸王が来たならば、許可をするまで引き留めておくように、大蛇丸司令官に指示しました。」
トーマスはさすがである。
トーマスの後ろには、牢に入っていた二人は並んで階段を上り、賛同した兵たちを従えてついてきた。
大きな両開き扉の前にはムー帝国の親衛隊が並んでいたが、牢に入っていた二人は俺らを抜き去り、扉前に居る親衛隊をどかせて、賛同した兵十人を配置して皇帝玉座間に入り、中央に並んだムー帝国評議会員を無視して、壁と窓側に並んでいる親衛隊に、
「親衛隊は宮殿城壁の外で待機していろ」
と怒鳴って、扉の前にすでに配置した兵を除いた、賛同した兵を親衛隊のいた場所に立たせた。
キョクトウ君は俺の後ろに半歩下がった状態で、皇帝座席の方に向かうよう催促した。
三段になった階段を上り終えると、キョクトウ君は再び俺に皇帝座席に座るように催促すると、
「何をお前らは立って迎えているのだ!亜人協力国守り人で指導者のシン・鹿島閣下である。」
と、怒鳴った。
すると、評議会員は皆片膝つくと、
「片膝でないだろう、敗者は両膝をつけ!」
キョクトウ君は再び怒鳴ると、トーマスは尾刃剣を抜き更に赤く作動させて、一段目の階段に上り俺の前に立ち、評議会員を威嚇するように尾刃剣を床に刺すと、皆は急ぎ両膝を床につけ始めた。
二人共中々の演技役者である。
キョクトウ君は立ったままで、
「今日、今、俺がムー帝国のキョクトウ皇帝である。異論あるものは申し出よ。」
評議会員全員が両ひざをついたまま、両手も床について従順を示したのは、キョクトウ君とトーマスの迫力である。
「皇帝として、宣言する。今ここで、ムー帝国は亜人協力国のムー州となる。」
と、宣言すると、皆は驚き両手を床から離すとトーマスは、
「キョクトウ皇帝の宣言に不服か!」
と、赤く発動している尾刃剣の柄に手をかけて怒鳴ると、評議会員は再び両手をついて平伏した。
「承諾したくないものはこの場から去り、亜人協力国に武力をもって挑戦せよ。」
と、すました顔で、キョクトウ知事は冷たく笑った。
大蛇丸から無線が入り、コバヤカ丸王が五十人の兵を引き連れて現れたと言ってきたので、共に無線を聞いてたのかトーマスとキョクトウ知事は俺に振り向き頷くと、
「大蛇丸司令官。共は一人だけを許し、案内せよ。」
と、キョクトウ知事は指示を出したのちに、評議員を立たせて、
「間もなくコバヤカ丸王が現れる。」
と言うと、評議員は怒り顔になり、コバヤカ丸王を罵倒し始めた。
大蛇丸の無礼があったのか、コバヤカ丸王も怒り顔で現れて、
「皇帝の席に座っている無礼者は、どこの獣の骨だ!そこは俺の席だ!さっさとどきやがれ!」
と叫びトーマスに近づいてくるなり抜刀して、トーマスに切りかかるが、トーマスの発動した尾刃剣は、コバヤカ丸王の剣を鍔元から切り落とし、鎧胸を三角に切り裂くと、三角に切り落とした鎧の破片が床に落ちた。
コバヤカ丸王はびっくりした顔で尻餅を付くと、評議員は怒り顔の口から、
「裏切り者!」
と、罵声を浴びせながら、評議員達は履いてた靴をコバヤカ丸王に投げつけた。
コバヤカ丸王は形勢不利と気が付き、ムー帝国兵を攻撃したことはまずかったと悟ったのか、頭を抱えてその場を逃げ出した。
後日、大蛇丸の報告では、王宮扉前の緩やかな階段にもかかわらず、勢いよく駆けてきた為にかいだんを転げ落ちると、コバヤカ丸王が引き連れてきた塩の国兵十人ぐらいが王宮階段に走り寄るので、階段に並んでいた小銃隊の銃弾にて、十名ほどがハチの巣になったと報告された。
倒れたコバヤカ丸王と、ハチの巣にされた兵共々に担いで帝都から出るよう命令すると、
素直に従い出ていったが、沿道の家々から裏切り者と罵られながら物が投げられるので、ハチの巣にされた兵は担ぎきれないのか、二人の兵に足を引かれて連れ去られたとの事である
「俺達は引き揚げるが、兵はどのくらい残す必要がありますか?」
「一兵もいりません。後は、亜人協力国の国是に従い、うまく納めます。」
と、キョクトウ知事は答えた。
頼もしい男であるが、行政官としては厳しすぎる性格のようでもある。
タゴールとキキロはトロンボ知事とゲルググ知事等と共に、知事等の州都に向かっていったので、幸多かれと祈ってあげた。
俺とトーマスに大蛇丸は、キョクトウ知事からの食事接待を受けたのち王宮を出て、キョクトウ知事の付き添いで城門までの送られてる最中に、沿道中央に瀕死寸前であった子供と、その父親であろう高級士官らしい人物が子供と二人で、胸に手を当てて地に両膝ついている。
その後ろには、母親と祖母が共に平伏した状態である。
「ヒルルマ副官、これはどう言う意味だ。」
と、キョクトウ知事は驚いた。
「ヒルルマ副官?」
「はい。三人の副将軍の一人です。」
そして、コーA.Iからの連絡がすぐに入った。
「閣下が塩の国兵がムー帝国兵を襲った時に選別せよといった、指揮官達に最初に命令した人物です。」
「ヒルルマ副官殿。事情は理解しました。子供が回復したのは子供の力と母親たちの愛情です。私は回復薬を与えて励ましただけです。」
「有難うございます!混乱を避けるためと理解しました。他言しないように母親と妻にも言い聞かせます。つきましては、都合よくキョクトウ皇帝もいらっしゃるので、キョクトウ皇帝、私に暇をください。今日からこの身と子供の命は、亜人協力国の指導者のものです。下僕として、ご自由にお使いください。」
「ヒルルマ副官。どういう事か説明が欲しい。」
「他言しないと、たった今誓いました。」
「閣下何がございましたか?」
「子供に回復薬を与えただけです。たいしたことではないのに、少し大げさです。ヒルルマ副官殿。今日からムー帝国は亜人協力国になりました。あなたも家族も亜人協力国の住人です。私はムー帝国兵が塩の国から不意打ちをされた状態を見ていました。貴方が指揮官として兵を再編されるのを見て優秀な人材と認めています。これからは将軍としてよろしくお願いします。」
「私が将軍ですか?」
「そうです。キョクトウ知事。そのように取り計らってください。亜人協力国では将軍を司令官と呼んでいます。」
「必ず司令官になってもらいます。」
「使徒様。」
と小声でつぶやく、涙顔のヒルルマ司令官の誕生である。
やはりこのヒルルマ司令官も『白金も、黄金も玉も、何せむに、勝れる宝、子に及かめやも』の心境だろうから、俺も見習わなければならないだろう。




