忍び寄る陰謀
忍び寄る陰謀
国王である父に王宮に呼び出され、玉座の間で謁見した。
「イアラ。パンパ街に向かい、魔物を倒したらしい者達の事を調べろ。そして、亜人国の事を詳しく知りたい。調査を命じる。」
「女傑騎士団を伴い、調査に向かいます。」
金貨五百貨を調査費用として受け取り、女傑騎士団二十名を伴い、パンパ街に向かった。
王城壁外の任務は初めての事であるので、心躍る思いである。
女傑騎士団は通常いや、主な任務は、儀仗兵としての立場であるが、今回初めて偵察を兼ねた軍事行動である。
王城を朝早く出たが、パンパ街に着いたのは、夕方近くで急ぎトマトマ.ドンク伯爵邸に向かった。
伯爵邸の門番に身分を明かし、トマトマ.ドンク伯爵に面会を求めた。
門の中はかなりの騒がしさで、教養無さそうで卑屈な風体をした者達がニヤツキ乍ら、我らを品定めするがごとく視線を送る者、一団ごとに徘徊してる者、たむろしているのは傭兵たちだろうが?なんが起きているのだろうか?
トマトマ.ドンク伯爵が現れ、
「これは王女様、何用でしょうか?」
「魔物を倒した者達が居るとの、噂を聞いたので調査に来た。」
「やくざな者たちの噂ですか。あれは奴らの自称なので、ほら話です。」
「その者等を知っているのか?」
「ぼったくりの詐欺師です。」
「詳しく聞きたい。」
「今日は取り込んでいるので、勘弁して下さい。一番いい宿を紹介しますので、今夜はそちらでお過ごしください。」
衛兵の案内で、風格ある宿の前で待機させられ、宿との交渉が上手く行かないのか、かなりの時間待たされた。
宿の中から、罵声が響き、宿入り口の扉が蹴り開けられた如く、勢いよく開いた。
風来傭兵の集団らしき者達が、壁や物に八つ当たりしながら、扉の内側から出て来た。
われら女傑騎士団に向かって、唾を掛けてく奴もいた。
衛兵の呼び込みに応じてフロントに向かうと、恰幅の良い初老のおかみが、
「良かったわ、荒くれどもを追い出してくれて、今回の傭兵どもは、下の下ばかりだね。
お嬢さんたちは傭兵ではなさそうだけど、まさか、亜人協力国に攻め込むために、応援に来たのではないでしょうね。」
「亜人協力国に攻め込む話は、聞いたことがない。傭兵が多い理由は、亜人協力国に攻め込み、戦争を仕掛けるのですか?」
「身の程知らない領主様が、亜人協力国に攻め込むらしいが、徴収兵と傭兵の集まりが悪くて、足踏み状態らしいです。」
「兵の集まりが悪いとは、理由は分かりますか?」
「領主様の人望のなさと、魔物を倒した勇者の国に、勝てるわけがないと思うからでしょう。」
「トマトマ.ドンク伯爵は、人望が無いのですか?」
「無い!全く無い。出来れば、魔術師達勇者にこの街を占領して貰い、亜人国に併合された方が、住民は歓迎するかも知れないよ。」
「亜人に支配されても構わないと?」
「この街から樹海跡地に移住した人たちから、伝えられとの噂話だと、個人の尊厳を第一に決めて、亜人協力国は住民皆平等で、だれにも自由と生活に関しては支配されない、それを守り、協力し合いながら国造に勤しんでいるらしいです。」
「まるで理想郷ですね。」
「毎日の生活において衣食住安祈りは満たされ、天国らしいです。息子夫婦も樹海跡地に移住させて頂き、宿の支店を造る計画を思案中です。」
「私達は、魔物を退治したという者たちを、探究しに来たのですが、何か噂話を聞いていますか?」
「魔術師達勇者のことなら、噂話でなく事実として町の者たち皆知っているが、私に聞きな、教えてやるよ。」
「魔物を倒したとの自称者を、知っているのですか?」
「親衛隊の頭を消し去る多数の魔法杖と強烈な爆裂魔法を使い、伯爵様を二十メートも投げ飛ばせる怪力を持ち合わせているうえに、鎧ごと身二つに切り倒す魔法の剣を持ち、その剣で瞬く間の迅速さで五人の騎士を身二つにした勇者様なら、後百人、いや、千人は倒せたでしょう。魔術師達勇者が魔物を倒したのは本当だと思うよ。魔物から製造した万能薬も売っていましたから。」
「膨張しすぎでしょう。」
「町のみんなが見ていた事さ。それに、樹海跡地に教会を建てたテテサは、ガイア様教会から聖人と認められたらしい、街の修道院で貴女が確認すればいい事さ。」
部屋の片づけがおわり、準備できたと若夫婦らしき二人が階段から降りてきた。
案内された部屋に入り、甲冑のままでベッドに横になり、魔物を倒した者達の噂を整理すると、トマトマ.ドンク伯爵は、魔物を倒したらしい者達を見知り、倒したと自称する詐欺師と言い、宿の女将は全員が魔法師で勇者であると言い、多数の魔法器具を用いて強力だと断言している。
宿での朝食を済まして、女傑騎士団五人を伴い、修道院へ向かった。
修道院の修道士に声を掛けて身分明かすと、豪華とは言えない清潔で、整理された客間に案内された。
間をおいて、穏やかな雰囲気の初老の修道院長が現れて、
「サンビチョ王国の王女イアラ様が、こんな辺境の寂れた修道院へ、何用でお越しですか?」
「国王陛下の命を受けて、魔物を倒したらしい者達の事、そして、亜人国の事を詳しく知りたいので、調査にきました。」
「調査にはすべて協力しますが、サンビチョ王国に対しては、心地よくない返答が含まれるかもしれません。」
「心地よくない返答とは?」
「亜人協力国への戦いを起こす事です。」
「トマトマ.ドンク伯爵の事ですか?」
「ヘレニズ.サンビチョ公爵様と組んで、侵攻するとの事です。」
「叔父上様も関係しているのですか?」
「サンビチョ王国の指示があったのでは?」
「私は何も聞いてない。国王陛下は何事があろうと、臣下を支持はするが、今回の侵攻に関しては、国王陛下の命を受けたとは思えない。何故ならば、今回の私への命令は、亜人国の調査をも、含んでいるからです。」
「それならば、公爵様、伯爵様共に兵の集まりが悪いので、侵攻は起きないかもしれない。」
「叔父上様も兵が集まらないのですか?」
「亜人協力国の守り人たちの強さは、超人的で使徒か眷属だとの噂ですから。」
「亜人協力国の守り人たちが魔物を倒した者達ですか?」
「聖者となったテテサ様の報告では、証人も証拠もあります。間違いなく彼らは魔物を倒しました。」
「亜人は、何を目的に国を興したのか、ご存知ですか?」
「聖者テテサ様からの報告を整理して、順に話します。」
亜人協力国の守り人たちは、遥か遠方から来たのだが、自国に帰るすべがなく、闇の樹海の傍に住み着き、その地で、守り人の指導者がガイア様に愛され、示教を受けて力を授かったとのことです。
ガイア様の示教に応える為に、石の防壁壁を建造中に魔物が現れて、魔物に工事を邪魔されて工事に支障が出たので退治したとのことである。
その頃、エルフ族の集落は魔物に食い散らかされた残腐肉から、病気の気が発生し、万能回復薬の製造に必要な魔物の石を譲渡してくれと、彼らに求めたら、譲渡の条件は亜人種族と人間種族が共に働く国を興し、子供の教育と、皆が個人の尊厳を持つことを義務付けて、パンパの安全を脅かす、あらゆる猛獣や魔獣を討伐し克服して、広大な牧畜地が出来たので、エルフ族はパンパに移住してきて、樹海跡地を亜人協力国とした。
樹海跡地は、年に五回の収穫ができる肥沃な土壌であるらしく、これらを闇の樹海全て開墾出来たなら、大陸の争いは無くなるだろうとの事である。
「このことが、聖者テテサ様からの報告です。」
「闇の樹海の開墾が可能であるならば、すべてを達成する過程で、かなりの国からねたまれ、狙われるでしょう。」
「賢い国は、友好を求めてきます。愚かな国は、奪いに来ます。」
「叔父上様は、愚か者ですか?」
「最初に、私の返答は、心地よくないと申しました。」
宗教の教えは、善か悪の答えだけであるが、身内が悪人と言われると、いい気がしない。
「聖者テテサ様にお会いできますか?」
「ガイア様教会は、何時も扉を開けています。」
修道士が扉を開けて、急ぎ足で修道院長に耳打ちし、
「トマトマ.ドンク伯爵の軍は、亜人協力国の守り人たちが、三湖街の森で魔物と対峙しているらしいので、進軍したようです。」
「私達も三湖街の森へ向かいます。」
「トマトマ.ドンク伯爵の軍と、亜人協力国の守り人たちの戦闘になっても、決して巻き込まれないように、気を付けてください。勝ち目はありません。」
なぜに勝てないのかを誰何する間もなく、急ぎ宿に戻り、トマトマ.ドンク伯爵の軍を追った。
かなりの速さで追った甲斐があり、トマトマ.ドンク伯爵の軍の影が見えてきた。
何度かの爆裂音が響いてきたが、亜人の守り人たちが魔物と対峙していると思い、尚も急いだ。
伯爵の軍の全容が確認でき、追いついたと思ったとき、明るい日差しの中で、眩しい光を受け、強烈な爆音が顔いっぱいに響いた。
伯爵の軍の中から、全速力でこちらに向かって来るエミューに、しっかりとしがみついている人影を確認すると、トマトマ.ドンク伯爵のようである。
後ろの方から、聞きなれない動物らしき声が聞こえ振り向くと、長い顔した巨体の地響きが轟、こちらに向かってきた。
「後ろに敵!」
と、叫び、エミューの向きを、長い顔した巨体に向かわせたとき、巨体に乗っているエルフ族の杖から火花が出たと同時に、右肩に衝撃と痛みが走り気を失った。
左足の激痛に耐えかねて目を開けると、左足に添え木をつけられて、広い荷台に寝かされている。
「気づかれましたか?回復万能薬です。お飲みください。」
猫亜人が、コップに入った薄緑の液体を、差し出した。
苦い飲み物だが、回復万能薬であるならば、飲まざるを得ないと、苦さをこらえて飲み干したのち、身体中の痛みは、耐えられるぐらいに感じられた。
周りを見渡すと、女傑騎士団全員が横たわっている。
私を含めて、全員が鎧を脱がされ、右肩下を皆白色の包帯が巻かれている。
気が付いた順番に、回復万能薬を与えられ、皆、周りを見渡すと驚くが、何かをあきらめたように目をつぶり横になった。
亜人協力国の王宮と思われるところに着き、ベッドに運ばれた順番に、爵位と名前を聞かれている。
私の番が来て、白いきれいな身なりの猫亜人が、
「爵位とお名前を教えて下さい。」
「私達は皆捕虜ですか?」
「私達もそれを知りたくて、こちらに招待したのです。」
「聖者テテサ様を呼んでいただけませんか?」
「爵位とお名前を教えてください」
「サンビチョ王国の第一王女イアラです。」
「テテサを呼びます。少しお待ちください。王女様。」
そろいの白い服を着た猫種族とエルフ種族の亜人に、ベッドに横たわってのまま、テラスのある部屋に連れて来られると、向い扉からガイア様教会の司祭服装で中年の女性が現れた。
「初めましてイアラ王女様、私がテテサです。」
「お呼びしましたのは、我々はトマトマ.ドンク伯爵軍とは関係ありません。私たちは魔物を倒した噂の真実と、亜人協力国の調査を命じられ、調査に赴いたのです。」
パンパ街での聞き取り調査と、修道院長とのやり取りを細かく説明し、エルフ種族との交戦は、向かってきた敵対行為と受け止め、防衛しただけと説明した。
「ヘレニズ.公爵様に置かれては、傭兵を募集して、亜人協力国に攻め込むとのお触れを出し、亜人協力国の指導者閣下の盗伐した魔物を横取りしようと、戦いを挑んで来たとの事ですが、サンビチョ王国の指示でしょうか?」
「サンビチョ王国は関わっていません。国王陛下の知らないことです。」
「トマトマ伯爵様は、傭兵を募集する際に、亜人協力国に攻め込むとの、触れ込みだったそうですが、それも知らなかったのですか?」
「全く知らないことです。」
人間種とエルフ種や猫人種の珍しい異種族の組み合わせで、やはり向かいの扉から現れてテラスに向かい、聖人テテサをテラスの丸いテーブルに呼び、ガラスだけの扉を閉めた。
聖人テテサと人間種とエルフ種や猫人種の美貌際立っている四人は、テラスにおいて、活発な意見交換を交わしているが、ガラス扉遮られてるためか聞き取れない。
特に聖人テテサとエルフ種の対立が、激しいようである。
四人の会話が終わったようで、
「王女様に置かれては、今回の戦において、無関係であるが、武装した状態で、戦場に現れたのは、無知すぎでしょう。」
「確かに、無謀でした。」
「王女様率いた女傑騎士団と、エルフ種族騎馬隊の戦闘は、互いの勘違いということで、和解しましょう。」
「異存はございません。」
ベッドに横たわったまま、皆のベッドの並んでいる部屋へ再び案内された。
肩下だけの怪我人は三名だけで、殆どが肩下だけでなく手足の骨折者でもある、
命を失くした者達が居なかった事が、幸いだったと思うことにした。
夕食に噂で聞いた精力が付く魔物肉が差し入れられた事で、体力の回復が蘇ったのか、痛みも無くなった様に思える。
翌朝、食事の後に聖人テテサ様が迎えに来て、
「ヘレニズ.サンビチョ公爵様とトマトマ伯爵様に対する、亜人協力国の要求と処分を行います。立会願いませんか。」
「はい、是非とも参加させて下さい。叔父上様の処分が軽くなるように、口添えお願いできませんでしょうか。」
「私もこの国の方針を決める運営委員です。人道的介入は出来ますが、公爵様が現状を理解せず、要求を断り、本質をすり替えたりして交渉決裂にすると難しいでしょう。」
「本質とは?」
「公爵様と伯爵様が、亜人協力国に攻め込む計画を建て、他国に攻め入る常套手段である傭兵を募集したことです。これは宣戦布告です。国の取り合いです。」
国の争いにおいては生か死か、取るか取らてるか、又は両方共かの選択が常識であるので、公爵様と伯爵は何かを失わねば成らないのだろう。
まだ歩くのは困難なので、猫種二人にベッドから担架なる物に移され、叔父上様と伯爵の居る部屋に案内された。
叔父上たちの向かい中央に、先程ガラス壁の中に居た人間種と、エルフの身に着けていた同じ甲冑を着けた若い男がいた。
虹色や鳥の羽みたいに角度を変えると、いろんな色に輝いているのが見て取れる。
これが伝説の魔物の鱗甲冑だろうか?
若い男と伯爵のやり取りは、仕方のないことだろうと、他人事のように思われ、綺麗な魔物の鱗甲冑に見入り、角度を変えながら色の変化を不思議な思いで観察し、欲しいと思った。
若い男と叔父上様の話が、領地の交渉から、叔父上様の命のやり取りに変わったので、
つい叔父上様を庇護したくて、話の中に割り込んでしまった。
父である国王陛下であれば、頼りにしている有能な叔父上様の命の為成と、白金貨二百貨は出すだろうと思い、付出た言葉であった、
しかしながら若い男の言葉は、慈悲のかけらもなく、すべてを奪うと宣言している。
聖者テテサ様の言われた、問題の本質が変わっていることに気付き、叔父上様も気が付いて欲しいと思い、押し黙った。
白金貨二千貨がテーブルに積み上げられたが、話を遮り交渉の本質課題に戻りたく聖者テテサ様に懇願した。
聖者テテサ様は、叔父上様を諭すように話し出したが、叔父上様は理解しているのか不安になり、
「叔父上様、如何に収めましょうか?」
と、本題に戻るよう催促した。
叔父上様も聖者テテサ様の言葉は、厳しい状況であると伝えようとしている事を理解したようである。
ベッドに横になりながら雑談していると叔父上様が現れて、相談があると持ち掛けられ、
「俺は、国王陛下に謁見し結果報告をする。その際に亜人協力国と国交を結び、俺の責任で商取引を行う。お前はここに残り、この国の目指している目的と、我らと余りにも違いすぎる文化を調べてくれ。」
「パンパ街の修道院長の言葉は、賢い国は友好を求めてきます。愚かな国は奪いに来ます。と言っていました。そして、国同士の争いを無くす為に食糧の増産をすると。」
「いずれ、この国と同盟を結ばねば成らないだろうが、文化の違いが大きいと、上手く行かないだろうから、どこまで歩み寄れるかここに残り調査してくれ。」
「分かりました。傷の浅い三名を除き、女傑騎士団を叔父上様にお預けします。付きましては、報告書を作成しますので、国王陛下にお届けください。」
看護婦と呼ばれる猫亜人を呼び、金貨一枚を渡し、
「すまんが、手紙を書くので、皮革とペンを用意してくれないか。」
「皮革はございませんが、紙とペンは用意できます。」
と言って、金貨を受け取らなかった。
看護婦と呼ばれる猫亜人の用意した入れ物は、四角い折箱で、中にペンと封蠟が用意されているが、皮革がないことを指摘すると、底の方にある白くて薄いものを取り出して
ペンで落書きを始めた。
白くて薄い物を束で取り出し、私に差し出し、
「紙で出来た便箋と言います。書きやすくて丈夫です。」
紙と便箋、聞きなれない言葉である。
便箋に見慣れないペンで書き始めると、滑らかな感じでスムーズに書き込めたので、夢中になって、これまでに調べた事、聞いた事を書き込んで、女傑騎士団の治療に使われたかなりの万能回復薬を譲られた代金、及び調査費用の追加もしたためた。
イアラ王女と傷の浅い三名女傑騎士団を除く、ヘレニズとトマトマ及び女傑騎士団等を送り出したあとは、俺は毎日が軍事訓練である。
ミクタに公爵領及び伯爵領跡地の統制と管理に送り出し、ムースンを市場改革責任者として随行させた。
シリーとジャネック等白騎士団はミクタと同行するだろうと思っていたが、ミクタは樹海跡地に残して、剣術を指導していただきたいと懇願してきた。
そのことを重く受け止め、新しく討伐した魔物から加工した剣と鱗甲冑を、白騎士団全員に渡すことに運営委員会は決定した。
特にジャネック至っては、トーマスの剣筋を気に入り、トーマスの傍に入りびたりである。
トーマスも鼻の下を伸ばしたのか、にこやかに、時には厳しく指導している。
王女イアラと三人の女傑騎士の行動は、傷が回復したのち活発に動き回り、自分たちを攻撃した騎馬隊の軍事訓練の折には必ず見学に訪れている。
特に、以前は聖騎士団の席であったが、教会横の城壁上がお気に入りのようで、テテサの説法を聞いた後での指定席のようである。
確かにそこだと全ての訓練が一望でき、魔獣や野獣の討伐も見て取れる。
テテサの報告だと、聖騎士団長は本来の任務に帰り、二十名の聖騎士団だけが残り、テテサの護衛と称して協会に居ついているようである。
聖騎士団半数であるが、メイディ達グループはエルフ種族との交流が盛んで、エミューの鞍を貰い、エルフ種族のエミュー隊との合同訓練に余念がないようである。
特にメイディはパトラになついているようで、無防備な愚痴をこぼすそうである。
剣術訓練中に、シリーとジャネック等白騎士団が魔石を装備した剣を持ち、鱗甲冑で現れると、メイディ達グループと王女イアラと三人の女傑騎士の驚愕の声が響いた。
剣術訓練後、メイディとイアラからテテサへの陳情が起きた。
「聖騎士団にも、鱗甲冑をお売りください。」
「私も買いたいのですが、いかほどでしょうか?」
「あれは売り物ではありません。亜人協力国の戦士たちだけの防具です。」
「シリー達も、亜人協力国の戦士ですか?」
「そうです。」
シリーとジャネック等白騎士団は、同贔屓目に見ても華奢な体で戦士とは思えないと、言いたげである。
「シリーには、決着を付けなければ成らない事があります。シリーを仲間と認めた提督閣下は、亜人協力国の戦士として、負傷したり、命を落したりをさせないとの決意の表れです。」
「シリーには、何か因縁があると?」
テテサはそれ以上、何も答えなかった。
テテサが黙り込んだので、メイディとイアラは、それ以上陳情できないと悟った。
翌日からの、守り人たち全員によるシリーたちへの剣術指南は、早朝から始まり、昼ごろには何人かが泣き出し、夕方は、全員が泣き出してしまっている、過酷な扱いとなった。
シリーたちはテテサに泣きつくが、慰めることができない姉のように冷たい中にも愛ある激励されている。
シリーたちへの実践訓練は、コヨーテ似豚鼻の群れに突進させられ、結果ねじ伏せられているが、鱗甲冑に守られてけがを負うことなく、涙顔で生還の繰り返しを何度も重ねた。
メイディとイアラは、その異様な光景を、嫉妬交じりで見詰めていた。
今日もパトラに軍事訓練の後、剣術指南に突き合わされ、過剰な運動のような気がするが、
パトラの身体能力には、驚かされる時がままある。
特に視力と反射運動神経は際立って優れている。
「閣下、来月の予定覚えていますか?」
と、パトラの怪しい眼差にぎくりとさせられたが、
「勿論、六月十二日の貴女の誕生日です。プレゼントの希望はありますか?」
「プレゼント?何ですか?」
「我ら元の国では、誕生日祝いとして、モノを送る習慣があるのです。」
「閣下のチェーンソー剣が欲しいです。」
「尾刃の方が切れ味鋭いでしょう。」
「家宝にしたいと思います。」
「俺は尾刃が気に入っているから、進呈しましょう。」
「ありがとうございます。」
「よかよのぎとは、何のことだ?」
「四日夜の儀式の略ですが、夜火与の儀、良可夜の儀、夜華様の儀、いっぱい意味と呼び名があります。」
「よくわからんが、宴会、楽しみにしています。」
「よかよのぎしきも、楽しみにして欲しいです。」
テテサから、緊急事態が発生したとの連絡が入った。
四十人の円卓会議のメンバー、運営委員会、軍人幹部、生産管理者全員が集まり、テテサから報告を受けた。
報告内容は、ガイア様教会の教皇様が危篤状態になり、その遺言は、教皇様に聖人テテサを推薦しているとのことで、それに反発しているグループが数か国を巻き込み、亜人協力国に攻め込む計画があるとの知らせである。
同時通話無線を通じて、ミクタから外襲来に備えて、傭兵の募集を許可要請された。
ミクタの要請は、他の国の動きを監査しつつ保留とした。
トーマスを中心とした、三湖街とパンパ街の防衛を強化する様に指示し、工業化部へ大砲の生産量を急ぐように要請した。
テテサの神憑りをどの様に演出するか、運営委員会とコーA.Iに以前議案された事を、再度のシミュレーションを命じた。
会議中に門管理衛兵から連絡が入り、ヒット皇国子爵ジョシュー.カナリアが指導者に面会したいと、現れたとのことである。
ミクタの説明は、子爵領地の運営は穏やかで、領民の信頼は良いと思われているが、しかしながら、子爵の王子二人共高原の戦いで戦死したとの事であり、後継ぎがない状態であるらしい。
「シリーを立ち会わせた方がいいですか?」
「今はまだ必要ないと思います。」
ミクタの気持ちとしては、シリーの事は伏せて置きたい様である。
四十人の円卓会議場の中央に、ジョシュー子爵達を案内する様に衛兵に指示した。
俺の前方の扉が開き、テーブルと五つの椅子に案内する衛兵に伴われて、老齢であろう品のある男と、手に大きな革袋を持った甲冑姿の四人が、俺に目を合わせることなく、俯きながら進んできて、革袋をテーブルに並べ、テーブルの後ろで片膝をついた。
「会議中であった為に、多くの者達が居るが、畏まる必要はない。椅子に掛けてくれ。」
声掛けしたにも関わらずまだそのままの体制で、衛兵に命じて、来訪者全員を椅子に腰掛けさせた。
来訪者全員何とか椅子に座ってはいるが、目を合わせることなく俯いたままである
「俺の方へ顔を向けて、要件を話してくれ。」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。我らが領土に二頭の魔物が現れ、病気が蔓延しております。二頭の魔物退治と、回復万能薬をお分けください。」
「それは難儀だ。しかしこちらも今は取込み中で、それの対策会議している最中なのです。」
「噂は聞いています。しかしながら、我が領地では緊急のことです。金貨に加算すると、二百五十与分の金貨幣を持参しました。討伐の暁には亜人協力国に従います。」
「従うとは?」
「元ヘレニズ.公爵領や元トマトマ伯爵領と、同じ扱いにして欲しいと思います。」
テテサがそれを聞いて、
「亜人種族と人種族が共に働く国を興し、子供の教育と、皆が個人の尊厳を持つことを義務付け、地主を解体し、奴隷制の廃止と農奴の開放。それを実行すると。」
「聖者テテサ様の方針は広く伝わり、共感する者もよく理解者も多くございます。それが私の最後の奉仕にと思っています。」
「そのことで、反感を持つ者がかなり居る様ですが、あなたの領土も危険になるでしょう。」
「ガイア様に守られた亜人協力国ならば、我が領地も守られると信じています。今、魔物に対してなにもできなければ、滅ぶだけです。今も此れから起きるであろうことも、亜人協力国の守り人たちに縋るしかありません。」
子爵ジョシュー.カナリアの態度は、凛としているようなので、
「誰かほかに、聴きたい事がある者は居るか?」
皆は無言である。
「今日決まった作戦を延期して、ジョシュー.カナリア子爵の救助要請を受けても良いと思うものは、起立してくれ。」
全員が起立して、賛同した。
子爵ジョシュー.カナリアと共の者達は、周りを見渡すと皆平伏し嗚咽を上げた。
子爵ジョシュー.カナリア領地の併合を宣言し、
「金は受け取れぬが、領地は併合する。条件として聖者テテサ様の方針に沿い従うならば、ジョシュー知事にすべて任せる。必ずや領地も亜人協力国で守る。」
「ありがとうございます。厚かましい願いですが、出来れば食糧と回復万能薬を買いたいと思います。」
「どの位必要でしょうか?」
「如何程でも、お願いしたいです。」
「ムースン、食糧の十トンを用意してやってくれ。パトラ。直ぐに回復万能薬の手配を頼む。ビリーとヤン、討伐の火器類及び車輌の用意!トーマス、討伐隊の編成を頼む。」
ジョシューは、俺の指図に困惑顔で
「持参した貨幣でも足りない過分な食糧を用意していただき、回復万能薬まで頂けるのですか?」
「食糧は持参した貨幣分で、亜人協力国において医療費は無料です。」
又もや全員が平伏し、
「この恩は、一生忘れません。いつか恩は返します。」
かなりの大袈裟のような気がするが、受け止めたとわかるような素振りで返した。
亜人による救護班が万能回復薬を持ち、ジョシュー達と共に先発した。
討伐隊がカナリア街に着いたのは、日が傾いた夕方近くで、城壁沿いに多数のゲルを設置した。
解体専用部隊として猫亜人も同行し、見学を兼ねたかなりの希望者があり、多数のご参加出動者編成である為に、城壁内に宿は取らず、ゲルでの一夜となった。
魔物は、最悪の樹海を棲み処にしているようで、またその辺りは、野獣や魔獣の多発出没地帯であるらしいので、パトラの従兄弟達騎馬隊六十頭にレーザーガンを待たせて、戦列に加えた。
マーガレットにパトラ、聖騎士団、王女イアラと三人の女傑騎士、無理やり連れてこられたシリー達六名、レールガン砲を改造して半月型尾刃流弾の試し打ちの成果確認ため、職工のカサーノ等が多く参加している。
今回は二頭なので、重火器を先頭にして、マーガレットとパトラは特攻的注意人物なので、切込み隊は控えに回ることを命じた。
魔物の素材も重要であるが、今回は討伐優先として、徹底的に駆逐する作戦で挑むことにし、魔物の鱗を使った、先端鋭い貫通弾、貫通ミサイル、レールガン砲に組み込んだ半月型流刃等の新兵器性能調査も兼ねていた為に、液体窒素放水車は用意したが、待機することにした。
早朝から、偵察衛星で調査した、魔物の食い散らかした腐肉場所へ向かい、対細菌防護服に身をくるんだ猫亜人が、火炎放射器を搭載した軽機動車で、腐肉を求めて出発した。
程なく、無数の煙が上がり、腐肉を焼いているようである。
煙の数を確信しているとき、コーA.Iから、銀色狼似キャルド三十三頭が最悪の樹海より出没したとの通信が入ると同時に、騎馬隊が駆け出し、その後を荷台に座席を並べたトラックが追っている。
コーA.Iにトラックの乗員を尋ねると、マーガレットにパトラ、聖騎士団、王女イアラと三人の女傑騎士、シリー達六名らしい。
連絡用通信からパトラの声が響き、
「ハービーハン、ハスネ、ヒビイ、トトラ、ユイヤ、援護しろ。我らが切り込む。」
「族長、キャルドはわれら騎馬隊の担当です。」
「命令だ!」
「合点承知」
パトラの剣幕に、騎馬隊は引いたようであるが、パトラの響き声に合わせて軽機、重機動車輌の乗員陸戦隊全てが、後を追っていくのは、シリー達を心配しての事だろう。
俺も追わなければならないと思い、軽機動車を向かわせた。
銀色狼似キャルドとの戦闘は始まっていたが、何頭かのキャルドに於いては、倒れ、のたまい、はいつくばっている。
マーガレットにパトラ、聖騎士団、王女イアラと三人の女傑騎士、シリー達六名等各グループ内の連携は素晴らしく、互いにカバーしあって戦っている。
マーガレットにパトラ、王女イアラと三人の女傑騎士の後ろに回り込んだキャルドを、
騎馬隊は、事前に頭を炭にしている。
キャルドはあらかた倒し終えられているが、まだのたうち回っている奴らもいるので、女戦士達は我さきと、止めを差しに殺到している。
陸戦隊全員が、シリー達六名の周りに集まり、怪我してないかと甲冑を調べ回っている。
トーマスもシリー達を心配している様であったが、パトラを呼び、
「勝手な行動は、厳罰です。ましてや、訓練中の娘たちまで引き連れての事は、許されません。」
「シリー達が、勝手に付いて来ました。」
シリー達もワクワク顔で、
「パトラの快感経験を聞いて、勝手に参加しました。」
マーガレットに至っては、トラックの影に隠れる素振りであり、今回もパトラの提案に、皆が乗ったようである。
陸戦隊が引き上げると、パトラが腕を上げ、
「キャルド討伐隊完全勝利!」と、叫ぶと、
「か、い、か、ん!」と、
自称キャルド討伐隊はこぶしを上げて、パトラの勝利宣言に応える様に叫んだ。
パトラは、ほかの者たちの戦闘意欲を増らせる能力を、持っているのだろうか?
トーマスが近づいて、
「魔物は見当たらない様ですが、樹海に爆裂弾丸落としてみますか?」
「樹海に火が付いたら困るし、それに、赤外線探査が難しくなるだろう。」
ゲルの方から、二頭のエミューに引かれた旅車が近づき、ジョシュー知事がこざっぱりとした服装の貴族婦人と気づかせない、初老の婦人を伴い下りてきた。
「閣下の慈愛で、何千人も救われました。ありがとうございます。我が伴侶ハイヤーです。お見知り置き下さい。」
トマトマとは対極な治世を敷いている二人らしく、病人の看護の為か、共に寝不足で目が充血し、目の下にクマを作っていた。
「魔物は出てこないようですが、我らはしばらく待機していますので、お疲れの様子なので、魔物は、われらに任せて、お帰り下さって構いません。」
「病人の回復に目途が着いたので、お力になりたいのです。」
「あなたの仕事は、これからです。住民の為に、昨夜は、かなり無理したように見受けられます。健康第一で働いてください。でないと、われらも困ります。」
付き添いであろう御者二人も旅車の運行席から降りてきて、
「頭領様も、奥様も、お歳です。何時も無理してばかりで、今日はもうかなりお疲れです。お言葉に甘えてお帰りさせていただき、お休みください。」
俺も賛同して、二人と旅車まで同行して見送った。
旅車がシリー達鱗甲冑六名の横を通り過ぎたとき、少し停車したが、何事もないようにまた城壁門へ動き出した。
三日三晩待ってみたが、魔物は現れない。
陸戦隊庇護のもとに、自称キャルド討伐隊は、魔獣や猛獣狩りを進んで名乗りを上げ、討伐して楽しんでいるようだが、肝心の魔物の気配がしないのである。
ジョシュー知事に夕食会に招かれ、俺とトーマス、ビリー、ヤン,ポール五人が招待に応じた。
貴族風装いのジョシュー知事夫妻に出迎えられ、長いテーブルには、いろんな料理に、酒や果物が並べられている。
テーブルの前に、色とりどりの甲冑をまとった、まだ二十代前と思われる少年たちも並んでいた。
テーブル中央に案内され着席すると、テーブルを挟んで甲冑姿の少年達を、一人一人紹介された。
「この者達の親、兄、叔父等は、先の高原の戦場で、我が息子二人と共に、ヒット前皇太子ハワーク様の親衛隊として従軍して、全員戦死してしまいました。今この領地の軍の指揮を任せていますが、経験不足です。戦いは、近づいています。早急に、亜人協力国の戦士に育ててください。ひと月後には、複数の国が動くかもしれません。」
「ジョシュー知事殿は、その状況で亜人協力国に与すると。」
「魔物が出現し、頼れるところが亜人協力国しかなく、亜人協力国との縁を結ぶことにより、我らの仇と対峙するかもしれないと思い、我らの無念を晴らせる、ガイア様が与えてくれたチャンスかと思いました。」
「ガイア様が与えた?」
「パンパ街の修道院長は、妻の遠縁に連なる人です。彼女からの手紙では、『亜人協力国に対して、賢い国は友好を求め、愚かな国は奪おうとします。決して、愚かな国に成らない様に』と、指示されました。」
「たとえ何十万の兵に攻め込まれようと、我らは負けません。安心してください。」
「何十万の兵力でも、魔物は倒せません。亜人協力国の守り人は、二頭の魔物を倒すと言いました。信じています。」
「傭兵を募集する予定はありますか?」
「どの位の寄付が集まるかによります。」
「募集条件は、給金は相場の半分で、一年間の衣食住の保証としてください。」
「それでは、傭兵は集まらないでしょう。」
「旗印を持ってきます。」
ジョシュー知事は、黙想したのち、
「解りました。旗印の下に着きましょう。我らの仇名する者たちに、共に一太刀入れるのを、旗印様に了解くださいますよう、口添えお願い致します。」
ジョシュー知事は、やはりシリー元王女に気づいていた様である。
夕食会が終わり、もう一日待機したのち、魔物が現れなければ、引き上げることを伝え、夕食会のお礼を述べて、ゲルに向かった。
その夜、又もや不思議な体験をする。
夢の中で、一糸纏わぬ娘が現れ、
「最悪の樹海に火を出さない様に指示して頂きありがとう。魔物は、樹海深くに移動したので、暫くは草原に現れないでしょう。」
頬を合わされ、唇を吸われた時、口の中にメープルシロップの味と匂いが漂った。
「ガイア様に愛され人よ、再会を楽しみにしています。」
騒がしい声で目を覚ますと、あまりにも生々しい夢に驚き、周りを見渡すと、いつもの赤い微粒が、ゲルの中いっぱいに浮遊している。
トーマス、マーガレット、パトラの三人がゲルの中に駆け込んできた。
「閣下大丈夫ですか!」
トーマスの大声がゲルいっぱいに響いた。
何事が起きたのかわからず、口の中に僅かに残る味と香りを確認していると、
「衛兵が、閣下のゲルが燃えていると、騒いでいるのです。」
原因は、いつもより多い赤い微粒のことだと思い、
「今夜は、確かに赤い微粒が多いです。原因は分からないが、変な夢を見た。きれいな娘が現れて、魔物は樹海深くに移動し、暫くは草原に現れないと言った。」
パトラがゆっくりと俺に近寄り、小声で、
「髪の色は?」
「薄い黄緑だった。」
「服装は?」
「すっぱ。」
「身体のどこかに、木の葉が付いていましたか?」
「いや、気づかなかった。」
パトラの手が伸び、俺の頬を挟み込み、顔を近づけ、頬、耳元、唇の周りの匂いを嗅ぎ始めた。
何が起きているのか理解できず、胸の鼓動が耳全体すべてを占めた。
パトラは、真っ赤な顔で俺を押しのけ、素早い動きでマーガレットの手を引き、ゲルの外へ出ていった。
トーマスは怪訝そうに、
「何が起きたのか説明願いたいです。」
「夢の中ですっぱの娘にキスされた。」
「裸の娘が、夢の中に出てきたことが、パトラを動揺させたのでしょうか?」
「まさか、夢に悋気する?」
「ただの嫉妬だと?」
「嫉妬される理由はない。悋気が正しいだろう。」
「パトラは匂いを嗅いでいた様に見受けられましたが?」
「夢の中で、メープルシロップの味と匂いが感じられ、目が覚めても、口の中に匂いと味は残っていた。」
「新たな神の降臨ですか?」
「茶化すなよ。俺の中で、夢と現実が解らなくなっているのだ。」
パトラとマーガレットが現れて、
「閣下の身に、良からぬ事が起きたようです。」
と、マーガレットが目を伏せて、呟くと、パトラが一気にしゃべりだした。
「閣下、夢の中の出来事は、現実です。赤い妖精が多く集まったのは、閣下の身に危険が迫っていたからです。夢の中に現れたのは、樹齢五千年以上の古木で、稀にメープルシロップの匂いを漂わせ、偶像化出来る個体が現れると、伝説は伝えています。老樹霊と呼ばれています。老樹霊は生ある個体の生気を吸い取り、身を肥やしにすると言われています。」
「老樹霊が、何故に俺の所へ表れたのだ。」
「閣下の奥底の願望にスキを見出し、入り込んで来たと思われます。」
「奥底!そこまで言いますか?」
「対策は、マーガレットと相談した結果、私等二人が防ぎます。了解ください。」
奥底と言われ、確かに良からぬ事に願望を持ち、妄想するのは俺の自由だと胸の中で反発もしたが、裸体の娘を思い出し、夢が覚めなければ楽しいことが起きたかもしれないと、心の中で想像してしまい、パトラの言葉を聞き流し頷いてしまった。
カナリア街から七人の若者戦士を預かり、ジョシュー知事に別れを告げて、樹海跡地の本部に引き上げた。
七人の若者戦士の特訓は、苛烈を極めるといえた。
早朝から砲撃戦の基本である、方位盤や測距儀の使用方法、戦術、槍術、剣術、体術等の
豪華訓練であるが、音を上げる出なく、いつも負けん気な顔で励んでいる。
陸戦隊の訓練は過酷であるが、軍の指揮を任せると言われたら、ジョシュー知事の期待に応えなければならないと、一人一人が自覚しているようである。
トーマス相手に、シリー達六名の戦士はキャルド討伐後、快感の成果なのか鱗甲冑の信頼性か、トーマスの肉を切らして骨を切る剣術が気に入ったようで、がむしゃらに打ち込んでいる。
ジャネックに至っては、シリー達女戦士を率いて、獲物狩りへ誘い出し、シリー達六名の戦士は、猛獣も、魔獣も区別する事無く当足り構わず身を二つに切り裂く。
シリー達女戦士は、トーマスに敬意を持ち、親衛隊のごとく各訓練に付いて行き、すべてに参加しだした事の原因は、勇気を奮い出させたのはパトラであるが、自信を持っての行動力は、トーマスのようである。
テテサの報告では、教会の教皇様の容態は、回復に向かたようで、反テテサ派の動きが治まって来ているとの事だが、一時の平和は次の戦いの準備期間でもある。
王女イアラと三人の女傑騎士が、帰国するとの報告に現れた。
「この国では、いろんな知識を身に付けました。国で良からぬことが起きそうなので、帰国したいと思います。」
「サンビチョ王国においては、傭兵募集しているらしいが、それと関係していますか?」
「はい、兄上の独断のようです。」
「サンビチョ王は、関係ないと?」
「亜人協力国と、敵対する理由がありません。ましてや、亜人協力国の軍事力に抗する国は、存在しません。」
「亜人協力国の運営委員会と、シーラー教育参謀中将からプレゼントがある。」
運営委員全員と、シーラーが現れ、鱗甲冑と、シーラー専用のチェーンソー剣を持って現れた。
王女イアラに鱗甲冑を着装させ、チェーンソー剣の扱いを説明し、
「そちの兄へ、亜人協力国の一部の装備であると、理解させてほしい。」
「かたじけない!必ずや説得します。」
王女イアラ等の去った後で、入れ替わりに、ミクタが巨体の男を伴い現れた。
「急ぎの様だが、何事が起きた。」
「閣下に、引来合わせたい者を連れてきました。私の義兄、大蛇丸男爵です。」
「ミクタ殿の兄上。大蛇丸殿ですか。私は、シン.鹿島です。よろしく。」
「亜人の守り人は、巨人だとの噂でしたが、普通のヒューマンで安心しました。」
「大蛇丸が義理の兄と言う事は、ミクタ殿には、伴侶がいるのですか?」
「はい。行方知れず出したが、義兄に保護されていて、無事でした。」
「妹は、ドーミイに横恋慕されていた過去がありましたので、ミクタ侯爵様は、行方知れずと知らされ、国境警備任務を放り投げて、迎えに向かいました。」
「それは良かった。私からも礼を言う。」
「付きましては、閣下にお願いに上がりましたのは、亜人協力国に忠誠を誓い、閣下の配下として、大蛇丸をお召し抱えしていただきたく存じます。」
「男爵としての領地は、どうなされた?」
「領地は、執事に譲り、一族郎党ミクタ様を頼り、居候しています。」
「大蛇丸殿の一族郎党の規模は?」
「兵三百に、連なる者たちを加えて千余人います。兵は、更に増えるかも知れません。」
「それら全員、この城壁内に住むことを許そう。」
「ありがたき配慮、感謝します。」
大蛇丸が国を棄てた理由は、現ヒット国王に妹を差し出せとの命令に反発し、ミクタの消息を、教会から密かに伝えられていたので、ミクタを頼ってきたようで、テテサの影響力は既に教会全体に広がっているようである。




