良い伊達
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 俺ちゃん / 古本屋店員
・マスター / 僕 / 古本屋店主
・サトリ / 依頼主
・曉院さおり / サトリの母
・伊達 / 曉院さおりの元部下
・手島 / 曉院さおりの元部下
・蒔田 / 曉院さおりの元部下
今度こそ、コーヒーを煎れよう。
カップを3つ用意して、豆を挽く。
今日は特別にドリップだ。
ゆっくりとお湯を注ぐと、部屋にコーヒーの香りが充満していく。
カップに出来立てのコーヒーを注ぎ、ソファに座って黙り込んでいる二人の前に置く。
サトリちゃんは、彼が渡した箱の中身を見つめている。
彼は、左手を眺めている。
僕は、視線が泳いでいる。
やっぱり、僕が話を進めないとダメなんだろうな・・。
「サトリちゃん・・少しは落ち着いた?
大丈夫かな?」
僕の言葉に、反応して頷くものの・・視線は箱の中身から離れない。
「あ~・・ゴメン・・。
それ何?」
箱が、こちらの方に向けられた。
中にあったのは・・ん??スニーカー??
どこかで見たような・・・。
「これ、俺ちゃんが履いてたスニーカー・・。
私のサイズ。」
んん?どういうこと??
訳も分からず、彼の方を見る。
「・・サトリが、気に入ってたみたいだからな。
高くて、欲しいと言い出せなかったみたいだから・・。
辛い思いをさせた詫びだ。」
その言葉を聞いたサトリちゃんが、彼を食い入る様に見ると、
「どうして??
どうして、あなたが、それを知ってるの?
私と俺ちゃんしか知らないはず。
それにどうして・・手島さんとあなたから俺ちゃんと同じものが視えるの?
私を守ってくれたのは誰なの???殺そうとしていたのは誰なの???
私は、今どうなっているの???」
堰を切ったように、溢れ出た質問に僕が口を開いた。
「それは、僕から話をさせてもらうよ。
誤魔化しはしない。
だから今から話すことを、しっかりと聞いて受け止めてほしい。
まず、君を殺そうとしたのは、君の母親。
曉院さおり・・曉院グループのトップだ。
そして、その先鋒として動いていたのが、伊達。
手島と蒔田は、深くは知らないまま伊達に従っていた・・・」
これだけの話でも大きく感情が揺れたのを感じ取ったが表面上は取り乱すこともなく、しっかりとした目でこちらを見てくる。
その姿を見て、こちらも覚悟を決めて話を進める。
僕の話に彼が補足する形で、知りうる真実をすべて話した。
彼・・つまりは伊達の記憶が加わっても、こちらの予想していた真実とは大差なかった。
黙って話を聞いてはいるが、激しい動揺が伝わってくる。
それでも、その強い動揺を表面上は必死に隠して話を聞く姿が痛ましい。
「さて・・ここからは、俄かには信じられない話になる。
君が薬を飲み切ったとき、薬を届けに男が来たよね。」
「うん、手島さん・・。
最初は、俺ちゃんだと思った・・同じものが視えたから。
でも違ってた・・驚いて怯える私に薬を渡して帰っていった。
もしかしたら、全部私の勘違いだったのかと思った。
そしたら今度は、この人にさらわれた。」
おっと・・やっぱり、まだ心から納得はしてないか・・。
苛立ちを見せるサトリちゃんが話を続ける。
「気を失って・・目が覚めたら、手島さんと蒔田さんが助けに来てくれてた。
てっきり俺ちゃんもいると思っていたら・・いなかった。」
悲しげに俯くサトリちゃんに声をかける。
「・・同じモノ視たんでしょ・・。
手島って人に。」
僕の言葉に、不思議そうな顔を向ける。
更に僕は言葉を続ける。
「さっき、俄かには信じられない話になる・・って言ったよね。」
不思議そうだった顔が、まさかという顔に変わる。
それを見ていた彼に、サトリちゃんの視線が奪われる。
理解できない・・そんな顔をしているサトリちゃんに、僕が話を続ける。
「彼はね・・自分を殺した人間の身体を奪うんだ。
彼は、僕ら以上に特異な人間・・。
でも、僕とサトリちゃんは、姿が変わっても分かるはずなんだ。
彼の変わらない何かが、どんな時も視えるはずだから。」
彼を見つめるサトリちゃんの顔は、驚きに満ちていた。
「ま・・さ・・・・か、本当に俺ちゃん・・なの?」
やっと出た言葉に対して、
「言ってるだろ・・俺は悪い伊達じゃないって・・。」




