隠した感情と優先事項
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 /俺ちゃん / 古本屋店員
・マスター /僕 / 古本屋店主
・サトリ / 依頼主
・デツ / 女医
・デップ / 薬剤師
サトリちゃんは、あれからずっと塞ぎ込んだままだ。
目を離せない状態なのは確か。
先日、彼から電話があった時は、慌てて外に出たが・・。
目を離した隙に、何をしでかすか分かったものではない。
何となくソワソワしながら時計を見る。
まだかな・・・。
視る範囲を広げて、様子を探る。
今日何度目かの探りで、やっと来た・・そう思いながら、サトリちゃんをチラ見する。
変わった様子はない。
しばらくして、静かにドアが開かれた。
何だかナイスミドルな感じの、おっさんが現れた。
リアルでのご対面は初めてだけど・・そうか~こうなったか~。
頭に巻かれた包帯が痛々しい。
見えないところも傷だらけなんだろうな。
「おひさ。」
そう声をかけた時、ナイフを片手に憎しみに塗れたサトリちゃんが視えた。
どうして・・何があった?
ずっと、自分の感情を消していた?
それとも、彼の姿を見て感情のリミッターが飛んだ?
「サトリちゃん!!!!」
僕が叫ぶより先に、サトリちゃんの身体が彼に向っていった。
一瞬、気が付くのに遅れた彼がよろめく。
「やっぱり・・あなただけはどうしても許せない。
わからないことだらけだけど・・あなただけは・・。」
「駄目だ!!サトリちゃん。
話を聞くんだ!!!」
ナイフは、彼の左掌を貫いていた。
サトリちゃんの刺すような目が、僕の方を向く。
「この男が来たことで分かった。
マスターもグルなんでしょ。
私は、誰も信用していない。
きっと、俺ちゃんも死んでる。
私は死んでもいい・・でも、あなた達を絶対に許さない。」
泣き叫ぶように捲し立て、彼と僕を交互に睨み付けたサトリちゃんの耳には何も届かないかに思えた。
その時、彼が慌てるでもなく静かに口を開く、
「殺されるわけにも、死なせるわけにもいかないな・・。
守ると約束した。」
そう言いながら貫かれた左手を閉じ、ナイフと一緒にサトリちゃんの手を覆った。
「・・怖い思いをさせたな、辛い思いをさせたな・・。
すまない。」
彼は、右手に持っていた手提げ袋から箱を取り出し、サトリちゃんの目の前で開いて見せると、
「俺は、悪い伊達じゃないよ。
サトリ。」
そう言って、ほほ笑んだ。
「サトリちゃん、彼をよく視ろ!!
君ならわかるはずだ。」
突然言い放った僕の方を、一瞬見た後、再び彼の方に目を戻すと、目を見開いた。
「どうして・・。
あの時の手島さんも・・今も・・。
どうして・・。」
彼は、次第に涙声になってきたサトリちゃんから静かにナイフを取り上げ、そのまま掌から抜くと、
「とりあえずタオル、その後コーヒーを入れてくれ。」
そう言って、サトリちゃんをソファに座らせた。
僕がコーヒーを入れている間に、彼は左手にタオルを巻いていた。
だ・・大丈夫なのかな???
か、彼のことだし・・痛みに強いらしいし、後でデツのところに連れていけば良いのかな・・多分。
ふう・・痛い。
痛いに決まっている。
だが、しかし、我慢できない痛みじゃない。
血も出てるけど・・どうだろ・・ヤバいのか?
このまま死んだら、サトリに殺されたことになるのか?
死ぬんだけど死なないが故に・・死に対して鈍感になっている自分が怖い。
う~ん・・・それは何としても避けたい。
コーヒー入れてくれって頼んだけど・・やっぱり無しだな・・。
「申し訳ない・・。
先に病院に行かせてくれ。
頼む・・これで死んだらシャレにならん。」
あ、やっぱり。
ですよね~・・という顔をしてマスターが立ち上がる。
サトリを一人置いていくわけにもいかない。
どうしようかと思っていたら、マスターがデツをここに呼んだ。
デツは、デップを伴ってやって来ると、俺をしばらく眺めてから処置を開始した。
血だらけのタオルを外して、
「綺麗に貫通してるね~。
神経、筋肉、骨・・・・へぇ~。
偶然・・なわけないよね。
あんた??何者??」
再び値踏みするように俺を見てくるデツ・・。
こちらは、何度もお世話になっているのだが、デツは俺の真実を知らないから・・お初の顔合わせ。
デツは、マスターに背を向けたまま、
「相変わらず胡散臭いね。」
そう言いながらも手際よく処置をしていく。
とりあえず、死なないようにしてくれれば構わないのだが・・相変わらずいい腕をしている。
「生きてたら明日・・病院へ顔出しな。」
治療を終えるとデツはそう言って、立ち上がった。
マスターを手招きして、何かを告げて出て行った。
後を追うように立ち上がったデップが俺に近づいてくると、
「ハイ、これ痛止めと化膿止め・・薬ね。
ちゃんと飲んでね。」
そう言ってデツの後を追って出て行った。
見送りに出たマスターが、戻ってくると肩をすくめて、
「詮索はしないけど、毎回毎回危ないことはするなってさ。」
あの二人も、随分と修羅場を潜っているのだろう。
どこまで察しているのか・・喰えない人達だ。




