帰還連絡
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 俺ちゃん / 古本屋店員
・マスター / 僕 / 古本屋店主
・サトリ / 依頼主
・曉院さおり / サトリの母
・手島 / 曉院さおりの部下
・蒔田 / 曉院さおりの元部下
二人を乗せた車で向かったのは、曉院さおりのいる場所。
もっと早くに、サトリを連れてくるはずだった場所。
駐車場に車を止めると、数人がこちらに向かって走ってきた。
「申し訳ありません。
手を尽くしましたが・・。」
「・・・分かった。
車内に手島と蒔田がいる。
手厚く頼む・・。」
そう言って、曉院さおりの元へ急ぐ。
あの時、届いた連絡・・それは、曉院さおりの死を知らせるものだった。
伊達の狂気は、これが原因。
扉を開けると、静かに・・生前のままの姿で横たわる曉院さおりがいた。
俺自身、この女性に何かの思いがあるわけではない。
が、自然と溢れ出た涙を止めようとは思わなかった。
伊達は、曉院さおりをずっと見てきた。
夫を亡くし、病気を持つ身体で奮闘する彼女を・・。
そして聞かされた・・クローンの話を。
伊達には、それに反対する理由はない。
彼女のために、これまでも手を汚してきた。
彼女以外の人の生き死になど今更な話だ・・。
愛する人が生き長らえることができるなら、他はどうでも良かった。
ただ、彼女に生きてほしかった。
今回の件について詳細を知っていたのは数名だけ。
サトリの存在についても同様だ。
そいつらには、選択させた。
誰も、秘密の暴露を選択した人間はいなかったが・・念を入れて脅しは入れておいた。
その後、俺がしたことといえば、曉院さおりが病死したことを公表させたことと、例のバイクを片付けさせたくらいだ。
会社のことは、誰かが何とかするだろう。
そうでなくても、曉院さおりの地位を狙っていた奴はたくさんいた。
そんな連中が、先を競って仕切りだすだろう。
手島と蒔田については、事故死として手厚く葬った。
二人には身寄りがなかったため、屋敷にあった彼らの私物を引き取る者はいなかったが・・。
伊達を、親のように慕っていた二人の記憶に心が痛む。
休まる暇のない数日を過ごし、最後に自分の部屋・・正確には伊達の部屋を片付けようと屋敷を訪れる。
そうだ、片づけをする前に・・・と、スマホを手に取る。
「マスター、今大丈夫か?・・って、そんな訳ないな。
駄目なら、すぐ移動して折り返してくれ。」
案の定、直ぐに切られ・・しばらくして折り返しがあった。
「そろそろ、こちらは片付きそうだ。
これから、自室の片づけ。
そっちらは、どうだ?」
「ん~・・・・。
サトリちゃんが、元気ないね。
あれから一週間だけど・・ずっと塞ぎ込んでる。
もうすぐ、俺ちゃんが帰ってくるよ・・って言ってるんだけど。
信じてないかも。」
俺が、サトリの前に姿を現してもいいものかどうか・・。
そんな思いが頭をよぎる。
「そうか・・・。
ところで、もう話はしたのか??」
「まだ・・。
”俺ちゃん”が、いないとね・・説得力がね。」
・・・一人で話をしたくないだけか。
まあ、気持ちは分かる。
「わかった。
明後日には戻る。」
「了解。
え~っと、今・・確か40歳過ぎだよね。
こっちも、準備しとくよ。」
スマホを置いて、しばらく部屋を見渡す。
片づけるといっても・・・捨ててもらっても構わないものばかりだからな。
それに、大したものがあるわけでもない。
若いころ曉院さおりと一緒に撮った写真一枚だけ・・目の前にある。
生活必需品以外で・・伊達が唯一持っていたものが、この写真だった。
それ以外は、特に何もない。
きっと、自分が思う以上に、伊達の思いは強かったのだろう。
しばらく写真を眺めていたが、我に返ると・・クローゼットを開けて服を出す。
やっぱ、スーツばっかりだな。
記憶からわかりきっていたことだが、着るものがないのは困るからな・・。
スーツケースには、似たようなスーツを詰め込んでいく。




