猶予時間と予期せぬ来訪者
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 /俺ちゃん / 古本屋店員
・マスター /僕 / 古本屋店主
・サトリ / 依頼主
・曉院さおり / サトリの母
・手島 / 曉院さおりの部下 / 現俺ちゃん
曉院家の車のナンバーを伝えてから、再びマスターが連絡してきたのは、次の日の午後近くだった。
マスターの話は、血の気が引くと同時に、まさかという驚きも拭えなかった。
「おそらくだけど・・これが真相だと思う。」
マスターは、こういって話を始めた。
「曉院さおりは、重度の心臓病だ。
でも、30歳頃から通院していない。
もちろん、病気が完治したわけでもない。
爆弾は、抱えたままだ。
その後は、お抱えの主治医が秘密裏に診察していた。」
スマホ越しのマスターは、淡々と話を続ける。
「サトリちゃんの年齢は、19歳。
この頃に生まれてるはずなんだけど・・曉院さおりには、出産歴はない。
もちろん隠し子とか、そんな話じゃない。
大体、心臓が出産に耐えられないんだ。
それに、一緒に暮らしているのに、サトリちゃんには戸籍がない。
今、彼女は存在していないんだ。」
「え、何で・・。」
ボソリと呟いた言葉を追いかけるようにマスターは続ける。
「本人には、健康上の問題だと話をしていたけど、
サトリちゃんが、学校にも行かず、外出も制限されていたのは、これが真相。
戸籍がないんじゃ、学校に行けるわけがない。
じゃあ・・何のために?
サトリちゃんは、どこから?」
もう、分かる・・マスターが言わなくても・・
「曉院さおりのための移植ドナー。
グループ企業の技術で誕生した”曉院さおり”のクローン。」
吐き気がする・・。
スマホ越しに俺の怒りが伝わるのか、マスターは少し間をおいて話を続けた。
「もちろん、移植するのは心臓・・。
サトリちゃんは死ぬ。
おそらく、その伊達って男が、知っていたんだと思う。
曉院さおりのためにサトリちゃんの死を受け入れた。
いや・・それを望んだ。
それが、サトリちゃんに伝わったんだ。
だから、逃げるという判断は、正しかったんだ。」
「じゃあ・・サトリが飲んでいた薬は・・。」
「ごめん、それはまだ、わからない。
ただ、Nシステムと車のナンバーから
あの時、目指していたであろう場所も割り出してあるし、そこに曉院さおりがいることも把握してる。
そして今、その場所に伊達と思われる男がいることも。
薬を届けに行くなら今だよ。」
「それを早く言えよ。」
そのまま、直ぐに通話を切って、バイクで走り出した。
もう、時間がない。
もう、薬がない。
今日の朝で、飲み切ってしまった。
明日、自分は生きていないかもしれない・・。
そう考えると、俺ちゃんに会いたくなった。
喉を潤して、ため息を付いたその時・・・ものすごい勢いで、こちらに走ってくる誰かがいる。
この感じは・・、俺ちゃん?
そう、俺ちゃん以外にいない・・そう思って、玄関に走る。
その時、ふと・・我に返る・・もし違っていたら・・?
俺ちゃんならきっと、この部屋の鍵を持っている。
そうだ!!
なら、玄関が開くのを待てばいい。
目を閉じて祈るように、迫ってくる誰かを探る。
これは、俺ちゃんだ。
間違いない。
慌てて、ドアガードを外す。
祈る思いが通じて、玄関が開く。
しかし、そこにいたのは、別のよく知った顔だった。
「て・・手島さん!!」
膝から崩れ落ち、
「違う・・違う・・どうして・・・何が・・・。」
言葉にならない言葉を繰り返す私の両肩に手が置かれた。
「落ち着いてください。
大丈夫。」
そう言って、私の目の前に、紙袋を差し出す。
「薬です。
これでまた、しばらく持つ。」
驚いた顔の私に手島は続ける。
「私は、このまますぐに出ていきます。
部屋を出たら、直ぐに鍵をかけて、ドアガードをしてください。
必ず守ります。
だから、もうしばらく、ここにいてください。」
それだけ言うと、私を玄関へ連れて行った。
「鍵はおいていきます。」
そう言って、手島はドアを閉めた。
慌てて鍵をかけドアガードをし、今起きたことを思い返す。
手島が、私の薬を持って・・ここに来てくれた。
守るといって、去っていった。
自分の味方になってくれたのだろうか・・それとも騙されている?
いや・・騙す意味が分からない。
それに、俺ちゃんと同じ何かが見えたのは何故だろう・・。
マスターと俺ちゃんから連絡がないのも気になる。
渡された袋を開け、中身を確認すると、確かに見慣れた薬が入っていた。
とりあえず、これで明日の朝も目を開けることができる。




