誘拐犯
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 /俺ちゃん / 古本屋店員
・サトリ / 依頼人
・誘拐犯A 女
・誘拐犯B 男
壁に背を預けながら、スマホを眺める。
夕刻になり、人も増えてきた・・足取りも急いだ人が多い。
もう、いい時間だな・・トイレから出てくる彼女を見て、預けていた背中を浮かせると、
「時間も時間だし、行こうか。」
と、声をかける。
飲み物買う?夕飯どうする?コンビに寄ろうか・・などと、他愛もない話をしながら歩いていた時・・スーツ姿の一人の女性が、目の前に立ち塞がった。
「お迎えに上がりました。」
薄暗い中、目を凝らす・・当然、全く知らない人だ。
急に知らない人から声をかけられるって・・怖い。
誘拐犯は、俺の後ろに隠れる彼女に向かって、さらに声をかけてくる。
「お戻りください。
時間がないのです。」
俺のことは、無視ですか・・そうですか。
残念だな・・。
「状況は、よくわかんないけど、知らない人について行っちゃいけないって習ったでしょ。
当然、こっちもそういうふうに習ってるわけ。
だから、ついていかない。」
一生懸命話す俺を睨み付けると、馬鹿にしたように鼻で笑って、
「お前とは話をしていない。
それに、お嬢様は、私のことをよく知っている。
知らない人間ではない。」
律儀に其処を訂正してくるんだ・・へぇ~・・・。
「誘拐犯は、そういうんだよね~。
知り合いだとか・・友達だとか・・。
何だか、しょうもな。」
そう言って肩をすくめる俺を更に睨み付けると、背中に手をやり身体の横で勢いよく振り下ろした。
シュンと音がしたかと思うと、誘拐犯の手元には特殊警棒が握られている。
あ・・やる気満々~。
この武器ヤバいよね。
当たると痛いんだ・・ってか、骨は折れるし、普通に致命傷になるからね・・。
どうしよう・・後ろにいるしな~不用意にかわせないよね。
と・・・悠長に考えている暇はなかった。
誘拐犯が、ゆらりと脱力したかと思った瞬間、間合いに入られた。
かわせば振り上げられた警棒が、彼女を直撃する。
俺がかわさないとふんでの攻撃か・・・。
この身体で、どこまでできるかわからないが、仕方なし。
身体を、後ろではなく肩から前に出し、誘拐犯が腕を振り切る前に体当たりする。
逆に身体を吹き飛ばされ、尻餅をつく誘拐犯は、意外そうにこちらを見る。
「ただのチャラ男だと思ってた??
ざぁ~んねん。」
チッっと、舌打ちすると低い姿勢で足元を狙ってくる。
誘拐犯も、相応の手ほどきは受けているようだ。
正直、下半身を狙われるのは厄介だ。
攻撃を受けてしまえば、動けなくなる・・。
チラリと彼女に目を向け頷くと、彼女も頷き駆け出した。
それを見た誘拐犯は、彼女を追おうとするが、当然、俺がそれを許さない。
「追わせるわけないっすよね~。」
誘拐犯の前に立ち、ドヤ顔を披露する。
警棒を片手に動きの止まった誘拐犯は、懐からスマホを取り出すと画面をタップし、また懐にしまった。
「こっちも・・・一人で追っているとは言ってないけど・・・」
言い終わる瞬間に、また、間合いを詰められる。
警棒のキレも相変わらずだ・・コンパクトに的確に当てに来る。
何とかかわしているけど、このままじゃ疲れちゃうな・・。
まあ、こうなったら、仕方ないよね。
相手の振り下ろす警棒に合わせて、再び身体を当てると、そのまま腹部に拳を入れる。
こもった呻きとともに、誘拐犯の身体が後方に跳ね、地面に落ちる。
「女性を殴る趣味はないけど・・致し方なし。
でも、ま、顔はやめな・・ボディ、ボディ・・ってね。」
片膝をついたまま、再び手を背中にもっていく誘拐犯・・まさか・・。
また、シュン・・という金属音とともに、特殊警棒があらわれた。
両手に警棒とは。
これは、まさか、BIGな人じゃないよね。
オミソスープとか言わないよね。
ドラム叩かないよね。
なんて考えている間もなく、また間合いを詰められる。
あっちも気になるし、面倒だから逃げようかな。
何よりも、疲れてきた・・俺ちゃん体力ないな~。
とりあえず相手の動きを止めよう・・。
誘拐犯も疲れてきたらしく、肩で息をしている。
そりゃ、そんだけ振り回してりゃ疲れるわ。
上下に打ち分けてくる警棒を、掻い潜りもう一度腹部に拳を入れる。
「ボディがガラ空きっす!!」
うずくまる誘拐犯に声をかけるが反応がないところを見ると、どうやらBIGな人のことも知らないようだ。
フゥ~・・疲れた。
さて、お暇しよう・・そう思ったとき、横から身体に衝撃が走った。
そのまま、地面の上を転がる。
痛って~・・・・腕逝ったか・・・・これ。
左腕を抑えながら立ち上がると、目の前に男が立っている。
ああ~・・もっと早くにお暇するべきだった・・。
そう思いながら、周囲を見渡す。
ゆっくりと近づいてきていた男の身体が屈んだと思った瞬間・・腹部に前蹴りを喰らった。
さっきの誘拐犯Aと言い、この誘拐犯Bと言い・・間合いを詰めるのが上手い。
前蹴りの衝撃は、自ら飛んで逃がした・・それでも、ダメージがある。
あ~・・どうしよう。
ヤバいな・・誘拐犯Aも立ち上がってきた。
流石に二人を相手にするのは、今の身体では無理だ・・。
何より初撃のダメージが深い。
武器を持ってくるべきだったな・・。
有効な対抗手段が、見当たらないまま・・間合いだけを詰められる。
ガードする腕に拳がめり込む。
なんて腕力だ・・身体が軋む、このままじゃ嬲り殺しだ。
何とか、間合いを取って懐に手を入れる。
誘拐犯’Sは、武器が出てくると思ったのだろう。
警戒し動きが止まる。
その瞬間、スマホで110番だ。
「助けてください!!!
当然、路上で襲われてます!!
住所は・・・・・。」
電柱に書かれている住所を、スマホに叫ぶ。
そのまま、スマホを相手に向ける。
誘拐犯’Sは、一瞬たじろいだ後、慌てるそぶりもなく静かに消えていった。
ヤレヤレ・・・何とか乗り切ったか・・。
大きくため息をつく・・。




