特異な経歴
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 /俺ちゃん / 古本屋店員
・マスター /僕 / 古本屋店主
・猫 / 古本屋のペット
・サトリ / 依頼人
サトリちゃんの話には、かなり驚かされる点が多かった。
とりあえず、年齢は19歳。
いたって健康そうに見えるが、重い病気を抱えているということを理由に学校にも行かず、本当の意味での箱入り娘だったらしい。
外出することはたまにあったが付き人同伴の自由のないもので、家人以外と接するのは基本的に定期検診に来る医者だけだったそうだ。
母親はいるが、あまり接することもなく、ただいるという認識だけの存在。
会っても、あまり感情を表に出す人ではなく冷たい感じ、病気で何もできない自分のことを嫌いだったのだろうとのことだ。
ということで、もっぱら傍にいた付き人達とのコミュニケーションが、彼女にとっての人との関わり合いだった。
とりあえず、学校に行かなかったが付き人から教育は受けていたようで、大きく世間ずれはしていない。
問題なのは、家の住所を知らないことと、名字を知らないこと。
出かけるときは、付き人がいて車で移動だから住所は必要ない。
特定の人間以外、接することがないから苗字を名乗ることもない。
そんなものだと思っていたらしい。
それと、いつから、視えるのか・・という質問に対しては、覚えていないという返事が返ってきた。
気が付いたら、なんとなく視えていたらしい。
今回逃げたのは、突然、深夜に付き人から車に乗るように言われて連れ出された。
その時に、同乗した付き人から、今までにない刺すような攻撃的な何かが視えたという。
意識しなくても押し寄せてくる何かに耐えきれなくなり、気分が悪いから車を止めてほしいとお願いして、隙を見て逃げ出した。
後は、追ってくる付き人達の何かを感じ取りながら、闇雲に逃げて・・最終的にあのビルの間にいた。
通りを往来する知らない人達の何かをずっと視ていた・・。
そこに彼が現れた・・自称”俺ちゃん”・・。
通りを歩く人達の何かとは異質の俺ちゃんを視て、思わず腕を握った・・。
「これまでとは、違う何かを視たのはわかったけど・・。
それが殺意とは限らないんじゃないの??」
彼が口を挟んでくる。
「あ~・・・きっとわからないよ。
君のことが、僕らにわからないように・・。
これは、同じ感覚を持つ人間にしかわからないと思う。
ましてや、俺ちゃんなんて・・無理無理。」
サトリちゃんを見ながら頷き、場が重くならないようにフォローを入れる。
「そうか・・。
ま、だよね~。」
そう言って、彼は聞き役に戻った。
「家は??お金持ち??」
「多分・・私は、お金に苦労したことはないかな・・。
欲しいものがあれば、買ってもらえたし、
それに、外出時に使う用の現金も都度、貰ってたから。
とはいっても、使う機会がないからそう多くもないけど。」
そう言って、ソファの横にあったバックから財布を出す。
「ああ、ずっと肩から斜めにかけてたそれね。
・・病気って言ってたけど、薬とかは?」
「ん??あ、これ。」
再びバックを開けピルケースを取り出した。
「いつも3種類、朝晩、飲んでる。
ご飯食べたし、今日も飲まなきゃ・・。」
そう言って、ピルケースを開ける。
それを見た彼が、立ち上がって水を持ってきた。
彼から水を受け取ると、サトリちゃんは一気に薬を飲んだ。
手元のピルケースの中には、2.5日分の薬が入っている。
「わかった、じゃあ詰めようか。
サトリちゃんから ”守ってほしい ”と、依頼があった。
それで、詳しい話を聞かせてもらったけど・・要点をまとめると、
僕たちは、サトリちゃんをサトリちゃんの家人から守る。
理由はわからないけど、恐らく命を狙われている。
ここまではいいかな?」
サトリちゃんは、静かに聞いている。
「ここでいくつか、クリアにする問題がある。
まず、”守る”とは?
殺させないことだとすると、”いつまで”?
いつまで・・とはいうものの、前提として長期間は無理。
なぜなら、サトリちゃんは、薬を服用しているから。
薬は、いま飲んだものを入れて3日分。
病気がわからないから、どんな薬なのかもわからないし、
特別な薬だったらお手上げだ・・。」
「つまり、3日間で、サトリちゃんを狙う連中を始末、
さらに薬をゲットする・・ってことだよね?」
彼が、僕の問いかけに答えをくれた。
「一番すっきりするのは、そうだね。
運よく直ぐに薬が何なのかわかれば、
もっと別の方法もあるかもしれないけど、
その薬が何なのかを知るためには、
サトリちゃんを狙う連中に接触するのが一番早い。
おそらく、結論は同じ・・・。
かなり危険な依頼だと考えるのが妥当だね。」
そう言って、サトリちゃんの顔を見ると、青い顔で俯いていた。
「そうか・・私・・時間ないんだ・・。」
「ま、そう悲観的にならないで、時間は3日間もあるよ。
それに、サトリちゃんがこちらにいる以上、
向こうはこっちに接触してこない訳がないからね。」
そう言って、サトリちゃんの前にあった食器を片付け始めた。




