経費処理
よろしくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・マスター / 古本屋店主
・ソファ / 家具
「と、いうことだね。」
録音されたやり取りを聞き終えるころ、マスターがコーヒーを飲みながら俺の前に座る。
さほど広くない空間にごちゃごちゃとモノが置かれている・・そんな小汚い空間で
「俺の分は?」
不機嫌そうな顔で尋ねる。
「自分が欲しいものは、自分で動かなきゃね。」
この依頼、誰が働くと思ってんだ?バックレっぞ。
こう言うところだ、足りないのは。
コーヒーを飲みながら、ソファを眺めて、擦る、押す、もう一度眺める。
「ところで、このソファ・・もう駄目だね。
変えたほうがいいね。」
と、唐突な一言。
「買ってくれんの?」
「いや、自分のものは、自分で買おうね。」
「俺の住居兼事務所なんだから必要経費だろ。
大体、このビル自体倒壊寸前、
お似合いのソファだよ。
てか、ソファの方が、ランク上じゃね?」
「好意で、二階貸してあげてるのに
散々な言いっぷりだね。
出ていくかい?」
ソファを見ながら、コーヒーを飲む。
一度も、こちらを見ない。
どうも、俺との話より、ソファーの方に興味津々のようだ。
「俺は構わんけど、
このビル、他に幽霊もいないだろ。
借り手なんて、今後も出てこねーよ。」
「幽霊もいないのは、確かに寂しいね。」
フ~・・・・
なんだ、この意味のない永遠に終わりの見えない会話・・・・のっかった俺も悪いが、精神年齢が遥か彼方に上の俺には耐えられない。
「あ~もういい。
で、依頼になりそうなのか?」
「だね。
ま、いつも通り数日空けて
連絡してみるつもりなんだけどね。
あの雰囲気は・・・来るだろうね。
それにしても、綺麗だけど、
すごく青白い人だった。」
依頼を聞いてから、
冷静になる期間をワザワザ設けているのは、マスターなりの配慮。
勢いは怖い・・・ってのが、マスターの持論。
しかし、それで依頼がなくなるのは、マスターの落ち度。
コミュ障なのに、美人に目がないのは、マスターの性癖。
「相変わらず、そういうところは抜かりないな。
仕事以外の会話は、できないくせに。
依頼者の容姿を仕事のデキに影響させたら、
プロ失格だぞ。」
「いいんだよ。
見ているだけで、ホッコリするしね。
大体、初対面なのに、
仕事内容以外ポンポン話題なんてないね。」
「とりあえず、人探しなら
荒事にはなりそうもないし
クビもつながりそうだ。
今回は、割りの良い儲け話になりそうだな。」
「ん~どうだろうね。
僕は、来ると思ったけど、
来ないかもしれない。
依頼の中身がどう動くかも断言できない。」
嫌な言い方するな、マジで!!
ま、確かにそんな時もあったしな。
確定するまで本でも売って生きてくか、誰も買ってくれないけど。
それにしても、とうとう俺のコーヒー出てこなかったな・・。