甘味処
第3章開始です。
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・マスター / 古本屋店主
・猫 / 古本屋のペット
・新手のナンパ師 / 謎女
どうして、こんなことになったのだろう・・・。
聞こえるのは、自分の荒い息遣いと、地面を蹴る音だけ。
此処が何処なのかもわからない。
行くべき場所があるわけでもない。
足がもつれる・・呼吸が苦しい・・胸が痛い・・。
でも、止まるわけにはいかない。
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猫が、居眠りをしているのは、いつものこと。
その猫を膝にのせてマスターが、居眠りしているのも、いつものこと。
俺が、それを見ても何も言わないのも、いつものこと。
いつもと違うのは、店内に客が複数いること。
珍しい・・ま、たまには、こういう事もあるんだろう。
そんな稀な光景を眺めていると一人の客が、数冊の本を持ってカウンターにやってきた。
「すいません。
これ、欲しいんですけど・・値段がなくて。」
「はい、すいません。
ちょっと見せてくださいね。
あ~・・・ホントだ。」
このやり取り・・いつまで続くんだろうな・・。
そう思いながら立ち上がり、マスターの座っている椅子を軽く蹴り上げる。
本当に、軽くだ。
この世の終わりのような顔で、こっちを見るマスターに本を見せ、
「また、本に値段がないっす。
そろそろ、いい加減にしてほしいんですけど。」
と、本を押し付ける。
あたふたと本を受け取ったマスターは、まだ状況が理解できていないのか本を見つめている。
その点、すぐに状況を理解してヒラリとマスターの膝から降り、何処かへ姿を消す猫はさすがだ。
「マスター、お客さんが待ってるっす。」
「ああ・・うん・・そうだね。」
やっと立ち上がったマスターは、カウンターへ行き客と話をし始めた。
それを見届けて、マスターへ声をかける。
「マスター、少し外へ出るから、お店お願いでーす!!」
そう言って、バックヤードへ向かった。
こういう時は、返事を聞かないのがコツだ。
バックヤードに入り、周囲を見渡す。
「にゃぁ・・。」
段ボールの陰から、顔を出す猫に向かって、
「お前も行くか??」
と声をかける。
考えるように首を捻ったが、スッと顔を引っ込めた。
行かないってことね。
「じゃ、マスターとお店のこと頼むっす。」
バックパックにキャップ、財布を掴んで、裏口から通りへ出た。
今日は、夕飯どうするかな。
特に思いつかないし・・・お店で決めるか。
スマホの時計を確認して・・古本屋の閉店まで・・後2時間。
戻るのは、2時間後だな。
そう決心して、店を後にした。
2時間・・往復の時間に、買い物する時間・・。
意外と長いぞ2時間、間が持たない。
猫も居ないし、途中でコーヒーでも飲むか?
いや、ケーキってのも良いな。
久しぶりに糖分補給・・アリだな。
当然、買い物前に行った方がいいよな。
買い物後だと重いし、食材が悪くなったら大変だ。
そうなると、何処が良いだろう・・買い物経路からあまり離れるのも嫌だ・・。
先生に聞いてみるか・・おもむろにスマホを取り出し、呼びかける。
人工的な声で返事があり、周囲にあるスイーツショップの情報を画面に映し出す。
・・・・わからん。
情報を見ても、どのショップを選べばいいのか・・さっぱりだ。
慣れないことをしても、こんなものだ。
っと、こんなところで立ち止まっているのも邪魔になるな・・。
周りに迷惑をかけてしまった。
そそくさと脇によった時、ゴソリと何かの動く気配がした。
ん??何だ??猫かネズミか??
こんなビルとビルの間からする気配なんて、そんなところだろう。
まあいい、俺はそれどころじゃない。
スマホに再び注目するも、ズ・・ズル・・もはや気配ではなく、完全に音がする。
何・・ゾンビでもいるの??
そう思った瞬間、グッと手首を捕まれた。
「あなた・・、変わってるね・・。」
フッ・・よく言われる。
じゃない、なんだこいつ??
「なになになに。
急にビルの間から、知らない男の腕を掴むって・・新手のナンパ??」
精一杯の笑顔で話しかけてみる。
とりあえず、腕を離してもらえないだろうか・・。
「そうね。
新手のナンパってことで良いわ。
お茶、付き合いなさいよ。」
「甘い物もいいかな?」
そう言って、相手の返事を待たずに、頭に自分の帽子を被せた。
と、同時に、彼女は俺の腕を離し、今度はそのまま手を繋いできた。
「わかったわ。」
「では、お供させていただきます。」
傍から見ると、恋人同士に・・見えるのか??
ちょっと心配になりながら、手を繋いで歩きだした。




