事後処理と拘りの意味
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・マスター / 古本屋店主
・戸々谷茂 / 今回の依頼人
・戸々谷佳代子 / 依頼人の姉
・渋谷小五郎 / 交渉対象 & ホスト
・大桃桜子 / 交渉対象の恋人 & 行方不明
「通報はしておいたよ。」
マスターが、運転しながら話しかけてきた。
「ん、あんがと。
仕事早いね~。
なんて電話したのよ。」
「簡単だよ、場所を言って刃物振り回している奴がいるって。
それだけ。
あと、自演の悲鳴も入れておいた。」
控えめに鼻で笑うのと、遠くで鳴るサイレンを聞いたのは、ほぼ同時だった。
「お~、お~、大変、大変。
とりあえずは・・保護??かな。」
「そうなるかな。
怪我してるしね。
近くに刃物が落ちてるけど。
ところで、どうする?
事務所戻る?」
マスターからの質問に、ハッとする。
ああ・・そうだな。
明日のこともあるし・・
「ああ、ごめん。
その辺でいいよ。
そこからは、電車で家に行く。」
マスターは、無言で車を道路脇に止める。
「身辺を片付けてから、事務所に帰るよ。」
そう言って、車を見送る。
やることはたくさんある・・毎度のことだが・・何事も後始末は大変だ。
とりあえずは、明日の土地の調査だ。
売るために土地の状況を確認したいと、調査をお願いした。
ついでに、庭の樹木も引き抜く。
きっと、何か出てくるだろう。
問題は、どれだけ出てくるのか・・・。
想像もつかないが、明日は長い一日になりそうだ。
色々考えている間に、大桃の家に着いた。
家に入り中を確認する。
誰かが来た形跡はなさそうだ・・・。
綺麗に整頓されたまま、何も変わっていない。
最後に来た記憶のままだ。
もう、ここに来ることはないだろう。
俺には、ここの記憶はあるが、ここへの想いはない。
ここへの支払いを止めれば終わる。
ただそれだけ。
最後に、半年ほどの支払いを入れて、それで終わりにしよう。
しばらく玄関から室内を眺め鍵をかけると、静かに部屋を後にする。
さて、ネットかTVか・・・面倒だな。
どちらも見ていよう。
確か午前中から調査と聞いているから、昼までには何かあるかな。
そう思いながら、今日は2階に引き籠もっている。
古本屋は、お休みです。
彼の晴れ姿は、ちゃんと見届けないとね。
朝から、スタンバったのに、速報が入ったのは12時少し前だった。
”個人自宅の庭から多数の遺体”
こんなような見出しだった。
少し時間がかかったような気もするが・・世の中の大人の事情だろう。
それから暫くして、
"容疑者は元家人 "
と、追加速報が出た。
ま、既に身柄は確保されていたわけだし、この辺はスムーズでしたね。
現在の持ち主ということで、彼がインタビューを受けていたけど、
”吃驚しました。 ”
と、雑コメントで終了していた。
事件に関係ない上にロクなコメントも言えないということで、直ぐにお払い箱になっていた。
結局、発見された遺体は11体・・。
ひょっとすると、この中には例の捜索リストに出ている人もいるかもしれない。
これ以上、事件が広がることなく防げたことに安堵する。
姉がこれを知っていたことは間違いないだろう。
ただ、いつから行われていたのか・・姉はいつから知っていたのか・・どれだけ葛藤し苦しんだのか。
弟に殺されるかもしれないという恐怖もあっただろう。
僕が、それらを伺い知ることはできない。
ひょっとすると、違法薬物に手を出したのは、このプレッシャーとストレスから逃げるためだったのかもしれない。
とにもかくにも・・今回の依頼は失敗。
あくまでも依頼としては・・だ。
個人としては、拘りに意味があったことを確認できたので満足だ。




