即断即行
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・マスター / 古本屋店主
・戸々谷茂 / 今回の依頼人
・戸々谷佳代子 / 依頼人の姉
・渋谷小五郎 / 交渉対象 & ホスト
善は急げだな・・。
立ち上がると、いつもの準備を始める。
現金、偽身分証、偽名刺、スマホ。
「何かあれば、いつも通りスマホを頼みます。
おそらくですが、時間は、あまりかからないと思います。
あ、それと依頼人のマンション、会社教えてください。」
そう言いながら、マスターの方に顔を向けると両膝を握りしめ俯いたままだった。
一向に動こうとしないマスターを一喝する。
「いい加減にしろ。
これで、助かる人もいるかもしれない。
割り切れ!!
自分のやるべきことを理解しろ!!!」
しばらくの沈黙の後、
「わかった・・。
フォローは任せて。」
下を向いたまま、呟くマスターの頭を一発叩くと、
「フン!!しけた顔すんな!!!!!」
と、一言残し外に繰り出した。
依頼人と交渉対象・・どちらから行くかな。
言いやすいし、知らない方から行くか。
相手の会社の前で、さてどうするか・・此処で悩む俺もアホだな。
とりあえず、駄目元でアポとってみるも、やはり駄目。
ああ・・何気に、これが一番面倒かもしれない。
そう思っていたら、前方から歩いてくる見覚えのある顔。
オイオイ、受付の姉ちゃん、”現在、会議中でこの後も予定が詰まっている ”って言ってなかったか・・?
マニュアル受付はこんなところで、ボロが出る。
「すいません、戸々谷茂さん・・ですよね。
少しお話させていただきたいことがあるのですが・・。」
「あ~五月蠅い、五月蠅い。
そういうことは、ちゃんとアポとってくれ。」
本当に蠅を払うかのように、シッシと手を振られる。
「亡くなられたお姉さんのことなんですけど・・。」
こちらの呟きに、動きの止まる依頼人。
視線はそのままで、振っていた手を、招く振り方に変えてきた。
招かれるままついていくと、地下駐車場の車に乗るように言われた。
「なんだ。」
車に乗るなり、不機嫌そうに声をかけてきた。
「申し訳ありません。
お時間をいただきまして。」
「そう思うなら、早くしろ。」
おやおや、苛ついてますね。
こちらが当たりすかね?
「失礼しました。
では、単刀直入に・・。
お姉さんの戸々谷佳代子さんは、事故死と公表されていますが、
他殺であることの証拠をつかみました。」
ギョッとした顔で、こちらに振り向いたその顔は、かなり驚いていた。
「な・・なにを急に。」
「驚かれると思います。
実は私、フリーで事件記者をやっておりまして・・・。
ちょっと詳しくはお話しできないのですが、確実な証拠を入手しました。
現在は、もう少し証拠固めをして警察に行こうと思っています。」
「そ、それは、どういうことだ・・!!!
詳しく聞かせろ!!!」
肩をつかまれて、思いっきり揺さぶられるが、話すも何も実際は、何も無い。
いくら断っても、揺さぶりは止まらない。
が、ここで、挫けるわけにはいかない。
黙秘を貫いた・・。
「なら、何のために俺のところに来た。」
「いえ、もう一度、お姉さんが恨みを買うようなことがなかったか、
何か思い出したことがないか・・それをお聞きしたくて。」
「こちらの質問には答えないくせに、そちらは聞くのか。」
あらら、ご立腹ですか。
心が狭い・・そう思った矢先、案外すんなり何もないとの返事が来た。
ただ、後どれくらいかかるのか・・と、聞かれたので、あまり時間はかからないとは答えておいた。
何の時間だか、知らないが。
続いて、交渉対象との話か・・・。
予想外に依頼人との話が早く終わったからな、家にいるかもしれないと電話してみる。
予想は的中、今から向かうとだけ伝え、先を急ぐ。
「ちょーっす。
何々、今度こそ見つかった??」
相変わらずの、軽いノリだ。
「いや、また申し訳ありません。
そういった話ではないのです。」
「ええ~そうなの~。
じゃあ、またホストやる話??」
「・・・それも違います。」
あまりにも軽い、軽すぎる。
そう思ったが、ここは気を取り直して・・。
「いえ、実は、先日お話しした ”弟さんに譲りたくない理由 ”と言うのを調べていたら、
偶然、戸々谷さんの亡くなった原因が、他殺だった証拠をつかんだんです。
今、最後の証拠固めをしているのですが、固まり次第、警察に行きます。
そうなれば、譲りたくない理由もわかる可能性が出てきますし、
交渉できるかも・・と思ってお話に来ました。」
「あ~そうなんだ。
あの人、殺されてたんだ・・・。」
興味無さげ・・な雰囲気の返事が返ってきた。
あれほど、約束に拘っていた割には、淡泊だ。
もうちょっと、何かあるでしょうが・・。
「あまり、期待するなとは聞いていますので・・そこはわきまえておりますが・・。
そうなりましたら、よろしくお願いいたします。」
「うんうん・・。
こっちとしても、早く売りたいからね。
いい結果になるといいね。
どれくらいかかりそうなの??」
「そうですね・・。
一人でやっておりますので、確実なことは言えませんが・・。
早々にいいお話を持ってくることができると思います。
いやもう、ほぼ固まってますので。」
「そうか~。
じゃあ、楽しみに待ってるよ。」
とりあえず、伝えるべきことは伝えた・・そう考え、交渉対象のマンションを出た。
後はどちらが喰いつくのか。
今日は、ビジネスホテルにでも泊まって様子を見よう。
っと、もう、こんな時間か・・・。
ここから、歩いて繁華街へ行けば、良い感じで腹が減るだろう。
夕飯は何にしようかな。
頭の中で、いろいろと夕飯のシミュレーションを楽しんでいたら・・
誰かがついてくる・・どっちかな~・・早いな~喰いつきが。
って、全然関係なかったりして。
人気のない細い階段を上り始めた時、ようやく獲物がよってきた。
ぶつかられた・・そう思った時には、既に呼吸が苦しくなっていた。
そして、倒れ、転がり落ちていく自分と広がる血だまりを見ていた。




