譲渡理由
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・戸々谷佳代子 / 依頼人の姉
・渋谷小五郎 / 交渉対象 & ホスト
「なになに~。
早いね~。
もう買ってくれる人見つかったの??」
「いえ、そういうわけではありません。」
初めて会った例のコーヒーショップで、顔を合わせる。
相変わらず、チャラいな。
安定のチャラさだ。
「それ、”今日のコーヒー” ?」
「そうです。
これが、好きなので。」
「好きも何も、日替わりじゃん。
強がらなくてもいいと思うけどね~。
一緒に、呪文唱えようよ。」
「そこが良いのです。
最初に言った通り、呪文は唱えません。」
ふ~・・・本題に入れないこの状況を打破したいが、有効な策が見当たらない。
強行突破するか・・・そう考えていると、
「で、何?」
おっと、空気を読んでくれたのか?
よしよしと、話を始める。
「戸々谷佳代子さんが、亡くなった理由、ご存知ですよね。」
今回も予期せぬ質問に、交渉対象はあっけにとられている。
戸惑った様子を見せながらも、仕方ないといった感じで話し始めた。
「・・・・・・知ってる。
俺のところにも警察が来てさ。
何か知らないかって、いろいろ聞かれた。
きっと疑われてたんだろうな。
部屋も調べられたよ・・何も出てこないけど。
でも、何でそんなことを?」
「いえ、戸々谷さんが、弟さんに土地と家を渡したくない理由が
解決できれば売買に応じてもらえるかな・・と考えまして。」
へぇ~という顔をしながら、謎の呪文で召喚されたブツを吸い込む。
気に入った味だと言っていたから、おそらく前回と同じものだろう。
違っていても、俺にはわからないだろうが・・。
「う~ん・・まあ、それに納得できれば・・ね。
でも、期待はしないでよ。
余程納得しないと無理だからね。」
「わかっています。
あくまでも、こちらが交渉手段として考えているだけですから。
何か他に、お話聞かせてもらえるようなことないでしょうか?
そうですね、土地と家を譲ってもらうことになったきっかけの話とか。」
手に持っていたカップをテーブルに置くと、迷っているのかジッとこちらを見る。
チャラい感じが、少し軽減されたような真面目な顔をしている。
「実は、お金が必要だったんだ・・・。
あ、といっても借金とかそんな話じゃないよ。
いくら必要なのかも、いまいちわかんなくてさ。
付き合っていた女がいたんだけど・・いなくなったんだ。」
ん~・・世の中は、本当に似たような話が溢れているな。
こんな仕事をしている俺が悪いのか??
いや、こういう話は、いなくなった対象の立場が変わるだけで、よくある話だな。
そうだそうだ。
「彼女、俺みたいに夜の仕事しててさ・・。
他に良い男でも見つけたんじゃないのって、
警察はロクに探してくれないし。
なら、専門の人に頼めばって考えたんだけど、
いくらかかるかわかんないし・・悩んで。
で、戸々谷さんに相談したんだ。
そうしたら、条件付きで土地を譲る。
条件さえ守ってくれれば
最終的に売って金になるし、
それまでの間は家賃も入れるから、
今より、お金貯まるでしょ・・って。」
でも・・・交渉対象に土地と家を譲る必然性はないな。
これなら、誰でも良かったはずだ。
「で、依頼は出せたのですか?」
「いや、まだ・・。
不動産が売れたら、依頼を出そうと思っている。
急ぎたいんだけどね・・なかなか・・。」
珍しくトーンの低い返事をしながら、外を眺める交渉対象は、寂しそうだった。




