拘りと煽り
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・マスター / 古本屋店主
・戸々谷茂 / 今回の依頼人
・戸々谷佳代子 / 依頼人の姉
・渋谷小五郎 / 交渉対象 & ホスト
「何やってんのさ。」
笑いをこらえながら、録音を聞き終える。
「別に問題ないでしょう。
あなたに断ることでもない。」
「やることがあるって、ホスト。
何をやっていたかと思えば・・・、
似合わないにもほどが・・。」
駄目だ・・堪えられない。
しばらく心からの笑いを堪能した後、それでも笑いを堪えきれない真面目な顔で大きく頷く。
「よ・・よし。
話を聞こうか。」
「社会勉強ですよ。
積極的にやりたかったわけではありません。
それと、あまりにも勧誘がしつこかったんだよ!!」
うわ、後半また切れてる。
って、切れられてもな~これは仕方がないでしょ、笑うでしょ。
何処からか”マスター アウト!!”と、アナウンスが聞こえた気がする。
「とりあえず交渉対象は、顔見知りでした。
で、売らない理由もはっきりしました。
雰囲気からして、売るように話を持っていくのは
かなり厳しいと思います。」
お、口調が戻っている。
そうそう、冷静に行きましょう、冷静に。
「現状のままでは、売らない。
なら、条件に合わせて、
現状の建物を壊し、別のものを建ててもらう。
もちろん依頼者に。」
半笑いで、提案してみる。
「いや、あれだけ、生家が~と、
拘っていたのですから無理でしょう。」
少し呆れ顔の彼を横目にスマホを取り上げると、おもむろに発信を押す。
なかなかでないな・・。
「あ、どうも!!
本日、交渉に行ってまいりました。
はい。
それでですね、ご相談なんですが、
現在の建物をすべて壊して建て直す・・
と言うご提案は、NGでしょうか?」
と、提案してみるも、何やら喚きだしたのでスマホを耳から話す。
要約すると却下ということらしい。
スマホを置き、彼の方を見ると、ヤレヤレといった完全に呆れ返った表情をしている。
「駄目みたい。」
「知ってますよ。
聞く前から。」
「イヤイヤ、それはない。
そんなこと聞いてないから。
何でも、確認は大切だと思うよ。」
前に比べ口調が丁寧になった分、煽り精度がかなり上がっているのを、彼は自覚していない。
一つ深呼吸して気を取り直し、話を戻す。
「となると、もうお手上げだね。
詰みです。
投了、お疲れさまでした。」
「いえ、そうなると、
マスターが、拘って依頼を受けた意味がありません。」
確かに・・引き受けるべきではないと言いながら、引き受けたのは僕だ。
ここにきて、依頼を受けたくないという気持ちが勝ってきたかもしれない。
「そうだね。
投げるわけにはいかないか・・。
よし、コーヒーを入れるよ。
少し気分を変えて、考えなおしてみよう。」




