交渉開始
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・マスター / 古本屋店主
・戸々谷茂 / 今回の依頼人
・渋谷小五郎 / 交渉対象 & ホスト
見たことのある風景だ・・。
しかも最近。
そしてこのマンションの名前にも聞き覚えがある。
これも最近。
デジャヴではない、誰かの記憶でもない。
交渉対象の写真にも、初めて見た時から、なんとなく見覚えがあるような・・。
嫌な予感を抱えつつ目的の部屋の前について、やっぱりと溜息をつく。
ガチャリとドアを開けて出てきたのは・・
「あれ??やっぱり!!!
光雅じゃん!!!」
あ~・・マジか。
また、お会いしましたね。
「どうも、その節は・・。
突然で申し訳ありませが、
”渋谷小五郎 ”さんは、いらっしゃいますでしょうか?」
「ん??それ俺の事。
あれ、言ってなかったっけ?
俺の本名 ” 渋谷小五郎 ”。」
やはり・・・絶句する俺に、ニコニコ笑顔向ける交渉対象。
せめて・・兄弟とか・・あるだろ。
当人て・・思わず、また溜息が漏れる。
「そうですか。
ずいぶん印象が。
この写真・・・。」
スマホを見せると、笑い転げながら
「うわ~、どっから持ってきたのこの写真、
髪も染めてないし、目を二重にする前だね。
やっぱ、顔が良いに越したことないじゃん。
プチ整形ってやつ。
あははははは。
ま、入って入って!!」
こっちは、苦笑いしか出てこない。
マスターの奴・・何の写真を渡しやがった。
早々にグッタリと疲れてしまい、今日はもう帰ろうかと思ったのだが、そのまま部屋の中に通されソファに座るよう促される。
「ホイ、ペットボトルのお茶しかないけど。
どうしたのよ~やっぱり、続けて働く??
楽しかったよね~。
いや~ぴったりの仕事だと思うけどな~。
光雅がいなくなった後も、酒も飲まずに話術だけで
盛り上げる奴がいるって話題になってたよ。
住むとこないならさ、こないだみたいに此処に住めばいいし。
光雅なら、ウエルカム!!」
ニコニコしている交渉対象を目の前にして、どう話を切り出すか悩む。
「あ~・・・実は、今日は別件でお伺いしました。」
「ん?なんだろ?
金でも貸してほしいの?
言っとくけど、あんまり貸せないよ。
期待すんなよ~。」
「いえ、お持ちの土地と家を、お譲りいただけないかと。」
意外な話だったのか、相当吃驚したらしい。
ニコニコしていた顔が、急に苦悶の表情に変わり、
ゴホッと飲んでいたお茶を吹き出すと噎せ始めた。
「ちょ・・まっ・・ゴホッ・・・。」
激しく噎せる相手が静まるのを、暫し静観する。
俺もお茶をいただこう。
「な・・何よ急に。
てか、何で??」
「実は、そのような仕事が本業でして。」
目が点になっていた。
そんなに意外だったのか??
滲み出るインテリジェンスは、隠しきれていないと思っていたのだが・・。
「じゃあ、あの時、しばらくホストクラブで働いたのは??」
「少しまとまった休みだったので、
こういうのもアリかな・・と。
まあ、かなり強引な勧誘もされましたしね。
・・強引というか・・人攫いですね。」
そう、あの時、連絡先の名刺出して終わりかと思ったら、
その後も、かなりの時間拘束され、引きずられる様にホストクラブに連れて行かれたのだ。
引きずられながら、この押し・・いや引きか??・・の強さが、仕事でも活かされているのだろうと感心したものだ。
「そうか~・・・。」
まだ、辛そうではあるものの、噎せるのは落ち着いたらしい。
「いかがでしょう?
価格については、調査してしっかりと
金額を出させていただきます。
お譲りいただけないでしょうか?」
ジーッとこちらを見ていた交渉対象は、
「考えてもいいけど・・
光雅が、買うの??
んなわけないよな。
とりあえず、購入者の名前を聞かない内は交渉しない。」
そうか・・やはり警戒しているのか・・。
てか、俺の呼び名は、もう”光雅” 固定なわけね。




