早口と理解
宜しくお願いします。
○登場人物
・マスター / 古本屋店主
・戸々谷茂 / 古本屋の客 & 今回の依頼人かもしれない人
「どうぞ、ココタニさん。」
助手席に乗り込む彼を見て、前と変わらない。
やっぱり関わりたくないなと、再認識する。
既に苦痛だ・・。
「先日は、失礼いたしました。
お名前を間違えてしまいまして。」
「いえ、よく間違えられます。
気にしないでください。」
と、憮然とした表情で言われる。
話の取っ掛かりのためにわざと間違えてみたけど、反応は良くないね。
さて、とりあえず定型質問から・・
「念のためお聞きしますが・・
本が欲しかったわけではありませんよね。」
わかりきった確認。
「はい。」
一言返す依頼人に、
「では、ご依頼内容を伺った上で、
お引き受けするかを判断します。
お引き受けするにしろ、お断りするにしろ、
お聞きした内容は漏らしません。
これをネタに、あなたを強請ったりもいたしません。
こちらの信用にかかわりますので。」
じっと、こちらを伺う気配を感じながら、車を走らせる。
値踏みしてるのかな。
「他には?何か?」
「そうですね。
念のためですが、今日の会話は録音しております。
後から確認事項が発生した時のためと、お互いのため。
もちろん、御依頼完了とともに消去させていただきます。
あとは、ありません。
こちらを信用してくださるかどうかです。」
腕組をして少し目を閉じた後、大きく息を吐いた依頼人は、
「それは、一番最初に言っていただかないと!!」
瞬間的に真っ赤になったかと思ったが、
しばらく考えた後、少し和らいだ感じで、
「まあ・・・・・わかりました。
とりあえず、信用させていただきます。」
とりあえずね・・とりあえず。
無理しなくてもいいのに、切羽詰まってるみたいだね。
「では、ご依頼内容をお話しください。」
依頼人は、大きく深呼吸をした後
すごい早口で
「欲しいものが・・取り返して欲しいものがあります。
私は、姉と二人暮らしで、一軒家に住んでいました。
そこそこ、広めの庭のついた一軒家です。
姉も私も結婚しておりませんでしたので、
それぞれ比較的自由に暮らしていました。
ところが、姉が突然亡くなったのです。
で、その際に、ある重大な事がわかったんです。」
ちょっ、早い。
「ちょっと、待ってください。
少し落ち着きましょう。
いいですか、確認しますよ。
一緒に暮らしていたお姉さんが亡くなった。
で、その際にわかったことがあった。」
依頼人は、深く頷くと話をつづけた。
当然早口で、
「元々親から受け継いだ家だったんですが、
姉名義だったんです。
ところが、姉が亡くなって調べると
姉のものではなくなっていたんです。
姉が亡くなる1年ほど前に別の人間に、
二束三文の価格で売られてました。
私は、驚愕しました。
このことがわかったのは、その相手から、
姉の死後直ぐに連絡があったからなんです。
とにかく、すぐに家から出て行けと言われて。
何とかしようと思いましたが、
結局家を出ることになりました。
今は、マンションに住んでいるのですが、
その家を取り返したい。
私の生まれ育った家なんです。
何とか取り返していただけないでしょうか。」
だから、早いよ。
落ち着けって・・・。
「要約しますと、ご依頼は、
生まれ育った家を取り戻したいから何とかしてくれ・・
と、いうことでしょうか?」
依頼人は、大きく頷きながら
「そうです。
できる限りお金も工面いたします。
何とかお願いできないでしょうか。」
と、こちらをジッと見てくる。
「お金を用意できるなら、ちゃんと相手と交渉されたら
良いのではないかと思いますが?」
「それは、私も考えて話し合いに行きました。
まったく話になりませんでしたけどね。
あんたには売らないの一点張りでした。」
ものすごくお怒りのようですね。
さて、依頼内容は大体把握したし、
このおじさんと、密室でやり取りするのも苦痛だし、もう限界・・切り上げよう。
「では、依頼料ですが、
先日お買い上げいただいた本の千倍、
前払い即金となります。
交渉期間は一ヶ月、成果が出なくても返金はできません。
ただ、期間中の交渉はしっかりとさせていただきます。
なお、この金額は、あくまでもこちらへの依頼料であり、
家・土地を購入する金額は含まれていません。
その金額については、
相手との交渉次第で話をさせていただきます。
それでも、こちらを信用して御依頼いただけますか?」
さあ、断れ。
どれだけ切羽詰まっていても、こんな不利な条件を飲むはずがない。
「わかりました。」
飲むのですか、そうですか。
即答ですか、そうですか。
こちらのほうが少し動揺する。
「そ・・そうですか。
それでは、今回の交渉対象の情報、家の情報と
依頼料を口座に準備しておいてください。
電話でのやり取りはしますが、
データでのやり取りはしませんので、
情報は紙で準備してください。
また連絡します。」




