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Memory Cage ~ メモリー ケージ ~  作者: アニマ
奪う者
22/77

特売日とクビの理由

宜しくお願いします。


○登場人物

 ・俺 / 古本屋店員

 ・マスター / 古本屋店主

 ・猫 / 古本屋のペット

 ・大鷹玲子 / 古本屋の客 & 今回の依頼人

 ・小谷健一 / 依頼人の弟 & 今回の探し人

開店してから、まったく客が来ない午前中を過ごし、

止まらない欠伸をどう止めるか悩んでいた時、

カウンターの上にいた猫が顔を上げて、店の入り口を見る。

客か・・本日の来店1人目おめでとう。

何も出ないが、笑顔をやろう。

そう考えて、客の方を見ると、

その客は、ろくに選びもせずおもむろに一冊の本を手に取ると、そのままカウンターへやって来た。


「これいただけますか。」


カウンターに差し出された白く細い腕と、この顔には、見覚えがある。

弟探しの依頼人。

確かに、マスターの言う通り美人だ。

軽く会釈をして本を受け取り、会計しようと値札を探すが・・


「すいません、マスター。

 これ値段がないのですが、どうしましょう?」


「ちょっとまって。

 どこかに、値札貼ってあるでしょ。

 ちゃんと探した?」


バックヤードから、ゆらりとカウンターに出てくるマスター。


「すいません、この本なんですが・・。」


本を渡し、マスターの返事を聞く前に、


「ここはお任せして、私は、買い出しに行ってきます。

 今日は、特売日なので、ちょっと時間かかりますが、

 お店よろしくお願いします。」


そう言って、そそくさと立ち上がり、バックヤードに姿を消す。

そのまま、正面入り口の自動ドアの電源を落とし、買い物の準備をして裏口から表に出ると、背伸びをし深呼吸をする。


「ふぅ~・・眠気覚ましに丁度いい。」


”Close / 閉店 ”と書かれた札を正面入り口に下げ、


「どちらにしても、客なんて来ないですけどね・・。

 まさか・・が、ありますから。

 念のためです。」


一緒についてきた猫にそう話しかけ、

バックパックを担ぎ、エコバックを片手に、颯爽と買い物に出かけた。



「警察には、匿名で遺体が埋められている場所を連絡しました。

 捜査が始まれば、すぐにでも、見つかると思います。

 善良なる一般市民からの通報には、

 動かざるを得ないでしょう。」


カウンター前に置かれた椅子に座り、

黙って話を聞く彼女は、以前に比べてかなり落ち着いている。


「ありがとうございます。

 最後まで、弟を探してくださって・・」


少しとはいえ笑顔を浮かべる彼女の顔を見るのは初めてだ。


「いえ、追加の依頼なのですから当然ですよ。

 こちらこそ、何も詳細をお話しできず、

 申し訳ありません。

 あなたが何か行動を起こして、

 容疑者にされると困ってしまうので

 何もお話しできませんでした。」


調査報告をしたあの日、

僕は、弟さんのご遺体を探すことを提案した。

こちらを信用してくれた相手への誠意だ。

ただ、追加依頼として、報酬はいただくけど・・。

こちらは、彼の記憶があれば、造作もないこと。

いわゆるWinWinな関係というやつだ。


「あなたは、これからすぐ警察に捜索願を出してください。

 2ヶ月近く連絡が無く、行方知れずだと・・。

 姉弟だということは、DNA検査で確定できますよ。

 あと、その際の失踪者名は、このお名前で。」


彼女の前に一枚の紙を置く。


「え?これは・・?」


戸惑う彼女に、


「井上勇樹さん・・大鷹勇樹さんの方が良かったかな。

 弟さんの本当の戸籍です。

 住民票や免許・・その他、個人に関する情報は

 全て弟さんのところにお返ししましたよ。

 その代わり、これまであなたの弟さんの

 使っていた戸籍はこちらがいただきます。」


ゆっくりと紙を手に取り、ジッと見つめる彼女の目から大粒の涙が零れた。

一枚の紙を胸に抱きしめ、声を殺して涙する彼女は、これまでで一番美しかった。

ただ、その後、泣き止まない彼女のために、コーヒーを淹れ落ち着かせようとするが、目的を達成するにはかなりの時間を要した。


「取り乱してすいません。」


泣き腫らした目で頭を下げる彼女に、


「いえ、大丈夫です。」


大丈夫じゃないが、大丈夫だと、とりあえず答えておく。

というか、それ以外に言葉が見つからない。


「あの、こちらを・・。」


依頼人が、差し出した封筒の中には、旧弟名義”小谷健一 ”の通帳とハンコが。

中身を確認し、契約終了を告げる。


「確かに・・受け取りました。

 これで、契約は終了です。

 ・・すいません・・

 こんな時、何か元気づけられるような良い言葉が

 出てくると良いのですが・・

 ただ、ここまで家族に拘った弟さんですから、

 きっと、今もあなたの傍にいますよ。」


依頼人は、しばらく無言で俯いていたと思ったら、


「ありがとうございました。」


と、何かを吹っ切るように、急に立ち上がり深々と頭を下げた。

入口の自動ドアは、きっと彼が電源を落としているだろうから・・と、依頼人を見送りに入口の方に向かっていると、こんな質問をされた。


「あの、前に来た時の店員さんいらっしゃらないんですか?

 今日、お店に入った時、

 てっきりあの時の店員さんだと思ったら、

 別の方だったので。

 全然違う方なんですけど・・

 何というか雰囲気が似ているというか。

 ちょっと、吃驚したので・・。」


突然のことに、こちらが吃驚です。


「あはは、そうですか?

 前の店員、勝手に商品売って小遣いにしていたので、

 クビにしたんですよ。

 態度も悪かったですし、あ、ご存じですよね。

 にしても、まいったな、似てるって言われると、

 また同じことするのかな~。」


唖然と吃驚が入り混じったような顔をして会釈をすると、

依頼人は振り返らず去っていった。

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