記憶の真実 1
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・マスター / 古本屋店主
・猫 / 古本屋のペット
・小谷健一 / 依頼人の弟 & 今回の探し人
・井上勇樹 / 弁護士
・戸籍ブローカーさん / 井上勇樹の仲間
外もまだ暗いのに事務所への階段を昇ってくる気配を感じる・・・。
深呼吸をしてゆっくりソファから立ち上がると、
入り口のカギを開け、お湯を沸かすためシンクへ向かう。
乱暴に開けられたドアの方を見ず、ヤカンに水を入れる。
「疲れた。」
「お疲れ、ちょっとかかったね。
今回は、何回?」
ドカリと、勢いよくソファに腰を下ろす人物に労いの言葉をかける。
物音に起きた猫が、ヒョイと顔を上げて辺りを見回した後、また眠りについた。
「2回・・・・。」
「そうか~大変だったね。
今、コーヒー入れるから、座っててよ。」
「しばらく、立つ気はねぇよ。」
相当お疲れなのか、ソファでぐったりしながら返事をよこす。
コーヒーカップを渡すと、
一口飲んで、またソファにもたれ掛かる。
「概ね間違ってなかったよ。
井上に、小谷が接触。
要件は、本当の自分の戸籍買い取り。
井上は断ったが、小谷は諦めない。
最終的には売らないなら、
買った戸籍であることを公表すると言い出した。」
目を閉じ左のこめかみを抑えながら話をする彼を見て、わかってはいるが安堵する。
「無戸籍で貧困にあえぎ、やっと得た戸籍で、
努力し弁護士という地位を得た。
その後も、目立たず、出世も望まず、
家族も持たず、酒も飲まず、静かに暮らしてきた。
何かの拍子に、偽の戸籍だとバレるかもしれないから・・。」
「戸籍の秘密を知るばかりか、その戸籍の本当の持ち主。
さらには、その戸籍を返せと・・。
最悪の来訪者だね。」
彼の話に、相槌を返す。
「戸籍を返すということは、
苦労して得た弁護士資格も失うことになるからな。
とりあえず、後日再び会うことを約束し、
帰らせることはできた。
しかし、このまま野放しにはできない。
で、後日事務所外で会った際に・・・。」
こめかみを抑えるのをやめ、手を銃の形にし撃つまねをした彼が、目を開けコーヒーを口に運ぶ。
「そう・・か・・予想は的中か・・。」
こうなるであろうことは予想していたが、
あらためて聞くと重い。
同時に、依頼人の悲しげな顔が思い浮かんだ。
「ああ、でき過ぎなくらいだった。
探していたもう一人の男”井上勇樹 ”と、
小谷健一が自称していた生年月日・・。
この二つを併せ持つ男を突いたら、あっさりだもんな。
ま、少し相手の動きが遅くて、
危うくいったんここに戻るところだったけどな。
ちなみに始末に協力したのは、戸籍バイヤーリストにあった男だ。
おい、俺のスマホ・・。」
ああ、そうそう・・と、スマホを探しに席を立つ。
どこだったかな・・回収した後、その辺に置いたはずだけど。
ああ、あった。
充電したまま、忘れてた。
「あのさ、逃げる途中に投げていくのも程々にしてよね。
それと、雨が降ってる日はやめたほうがいいよ。
壊れちゃうし、探しに行くの面倒だし。」
ひょいと、スマホを投げて渡す。
「ケースバイケースだろ、天気も場所も選べねぇよ。
大体、今回降ってねぇし、面倒くさいってなんだよ。
ちゃんとフォローしろよな。
ま、とりあえず、と・・こいつだ。」
と、スマホの画面を見せてくる。




