開店休業
宜しくお願いします。
○登場人物
・俺 / 古本屋店員
・マスター / 古本屋店主
・猫 / 古本屋のペット
・美人 / 古本屋の客
「すいません、この本ありませんか?」
スッと、目の前にリストが差し出される。
ニコリと微笑みながら「お預かりします」と
渡されたリストを一瞥し、そのままマスターに渡す。
「マスターよろしく。」
「自分で探しなよね・・。」
猫がスッとマスターの膝の上から降り、何処かへ見えなくなった。
「探すのは、マスターの方が得意だろ。
適当に仕入れるから在庫管理もできてないのに。
俺には不可能。
働き盛りなんだから働け!!!
本ぐらい探せ!!!」
やたらと隠居したような雰囲気を醸しだしたがるのは何なのか・・・。
ブツブツ言いながら、立ち上がるマスターを横目に、驚いた顔のお客にペコリと頭を下げながら、愛想笑いを浮かべる。
対して広くもない店内を、ゆっくり本を探すマスター。
時間がかかると踏んで、店内を見渡す客。
とりあえず、売り場からカウンター横に移動し、パソコンを見て仕事している風を装う俺。
姿は見えないが、おそらく寝る猫。
しばらく四者四様の時間を過ごし、マスターが声を上げる。
「う~ん・・・全部は無いね。」
そう言いながら、5冊ほどの本をカウンターに持ってくる。
無いんじゃなくて、有っても見つかるわけがないと、心の中で突っ込みつつ、持ってきた本の汚さに驚愕した。
箱入りだけどかなり年代物の大型事典、ハードカバーの洋書、何か専門書らしきもの等・・古いものだらけ。
カウンター越しに見える客の顔が、青白く引きつっているように見える。
そりゃ、こんな本出されたら引く。
一冊、一冊本を手に取り状態を見る。
カウンターに積まれた本の中から、事典を再度取り上げ、
「これ値段ありませんけど、おいくらですか?」
と、聞いてくる。
マスターは、本を受け取った後、本と客の顔を見て
「ん~あ~・・・5000円?」
なんで、疑問形なんだよ。
じっと、マスターの顔を見ながら客が、
「・・・・わかりました。
これだけください・・・・ついでに、郵送も。」
ニコッと笑ったマスターが、カウンターに紙とペンを置き
「送り先とか書いてくださいね。」
と、客に一言。
俺に本を渡しながら、
「これ、郵送ね。」
と、一言。
こんな本のどこに需要があるのかわからないが、客は、お金を払ってカウンターを後にした。
「ありがとうございました~。」
と、見送ったのが今日の最初で最後の客だった・・・。
ひょっとすると、この古本屋って営業してないと思われてんのかな。
結局、何もすることがないから、在庫整理に追われる一日を過ごし、閉店の作業をしながら横を見ると、マスターがじっと俺を見ている。
「キモ。」
「本売れないね。」
ヘラヘラしながら言うマスターに ”売れる要素がどこに・・” と、言いたいのをぐっとこらえる。
「いよいよクビか。」
「ど~だろね。」
不意に現れた猫が、俺の顔をじっと見ているが・・・憐れんでいるわけじゃないよな・・・。