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Memory Cage ~ メモリー ケージ ~  作者: アニマ
奪う者
19/77

最後の言葉

宜しくお願いします。


○登場人物

 ・マスター / 古本屋店主

 ・軽自動車 / 愛車

 ・大鷹玲子 / 古本屋の客 & 今回の依頼人

 ・小谷健一 / 依頼人の弟 & 今回の探し人

「結論からお話しします。

 残念ですが、弟さんは失踪ではなく

 既に亡くなっていました。

 それも、ある男に殺されて。」


助手席で下を見ながら、鞄を握りしめる依頼人は、暗い落胆の色を滲ませていた。

返事を待つことなく話を進める。


「どうして、こんなことになったのか・・。

 実は、弟さんには、どうしても叶えたいことがあったようです。

 そのためにお金を貯め、ある人物を根気強く探していた。」


依頼人は、戸惑ったような顔をこちらに向け質問してきた。


「私・・ではなく・・ですか。」


「その質問に対しては、

 ”はい ”であり”いいえ ”です。

 当然、あなたと再会することは、

 弟さんにとって叶えたい願いの一つ。

 あなたと暮らすため、

 真面目に働きお金を貯め、あなたを探していた。

 これもまた事実です。

 ただ、同等に叶えたいことがあったということです。

 立ち入って申し訳ありませんが、

 弟さんの口座には、多額の預金が残されていることを確認しました。」


驚いた表情をこちらに向ける依頼人は、今日も美しい。


「多額の預金・・ですか。

 すいません。

 まだ、弟のものは触っていないので・・わからないのですが。

 ・・・つまり、お金が必要だった・・・。

 何かを買おうとしていた・・・?」


人に見つめられるのは苦手だが、美人なら我慢できる。

依頼人からの視線と質問に、静かに答える。


「戸籍です。

 生まれた時に持っていた本当の戸籍。

 あなたと姉弟であるという戸籍です。」


絶句したまま見開いた目には、きっと何も映っていないだろう。


「私に、弟さんの気持ちを正確に知ることはできません。

 おそらくですが、あなたと再会することと同様に、

 本当の戸籍を取り戻すことは、

 彼にとって人生をかけるべき大切なことだったのだと思います。

 過去に戸籍がないことを知り、

 荒れたこともあったのでしょうが、

 それでも、あなたに会うことと本当の戸籍を取り戻すことを

 願ったのでしょう。」


暗い落胆が少し・・ほんの少し揺れる・・

依頼人は、視線を正面に戻し、唇を噛みしめている。


「いつからかはわかりません・・

 プロに依頼を出すわけにはいかない、お金がかかる。 

 伝手もない・・地道に根気強く調べたのでしょう。

 そして、あなたを見つけた。

 元の自分の戸籍を有する人間も。

 しかし、それが、最悪の結果になった。」


車の中が、沈黙に包まれる。

喋らず、泣きもせず、ただ前を見る依頼人は美しかった。


「以上、”いなくなった弟を探してほしい ”という依頼について、

 今お伝えした内容が、今回の調査回答となります。

 内容を信じるのも、信じないのもご依頼人の判断です。

 ただ、はっきりと申し上げますが、これは真実です。

 望んでいたであろうお答えを、お伝えできず申し訳ありません。」


残念だが、これが真実である以上、伝えないわけにはいかない。

今は、物的証拠を提示できるわけでもないが、信じてもらうしかない。

しばらくの沈黙の後、


「わかりました。」


一言、憑りつかれた様に前を見たまま返事をする依頼人に、最後の言葉を告げる。


「それでは、こちらを信じてくださったあなたに・・・。」

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