城への道中
「む、無理ですってー!!」
騒がしく叫ぶは、グルミゼラ王国の第二王子、ミオス。
目の前に対峙するは、第一王女、マゼンダ。邪魔にならないよう長い碧色の髪を一つに纏めている。
お互い木の棒を剣の代わりとして構えていた。
「おっ前、ホンマに王子か!? ふがいなさすぎじゃ!」
「全くだわ、ミオス。そんなことで貴方、ギッシュを蹴落としてこのグルミゼラを守れるというの?」
怒鳴るアイウォレと、呆れたように腕を組むマゼンダ。
ここは市街地から外れた森の中。メッカは彼らのやり取りを見て苦笑する。
とりあえず、呪いを受けた者同士では能力は使えず、ギッシュがメッカ達の行動を先読みする心配はないと説明し、マゼンダと特にミオスは大いに安心したようだった。逆に言えば、こちらの能力もギッシュには一切効かないので、あまり安心できないのだが。
そして宿屋での話し合いの後、事態は急変した。
マゼンダが言っていた通り、ギッシュの集めた反逆者達がグルミゼラを襲ってきたのだ。
何とか彼らの目を盗んでこの森まで逃げてきたメッカ達だが、このままではグルミゼラは本当に壊滅してしまう為、戦う術を模索中だったのだ。
「おい! のんびりしてる暇はないんだぞ! 半鐘の音が聞こえるだろ! グルミゼラは大火事だ! 早く行かないとリーデルが危ない!」
ポンパも痺れを切らしたのか怒鳴り始める。
ミオスは皆からのキツい言葉に、本当に泣きそうになっている。
作戦と呼べる程のものではないが、今彼らが考えている作戦はこうだ。
まず何よりも優先すべきはリーデルの奪還。これなしにメッカ達の呪いを解くという当初の目的は果たされない。
しかしリーデルの居場所もギッシュの居場所もわからない。何はともあれ城に向かうしかメッカ達にできることはなかった。
そうするに当たり、反逆者達との戦いは避けられない。メッカは重力操作の能力があるのでメインの戦力となるわけだが、一人ではさすがに心許ない。マゼンダは剣術にかなり長けており、女性ながら十分に戦えそうである。
アイウォレは言わずもがな戦力外。ミオスはと言えば、王子としての教養の一つと言ってもいいはずだが、剣術はもっぱら腰が引けて話にならない。臆病な性格が原因だろう。
そこでアイウォレは、一つ案を出してきた。戦力外のアイウォレとミオスでタッグを組んだらどうかというものだ。普段なら、あのアイウォレが他人と共同作業しようなどと冗談でも言わないのだが、自分の命が掛かってのことであれば話は別である。
アイウォレの能力である精神感応はかなり順応性があり、他人に念を送ることもできる。簡単に言えば、心の中で思ったことを相手の脳に直接伝えることができるのだ。また相手に触れずとも、少し頑張れば一人くらいの心の中は負担が掛からずに読むことができる。アイウォレが敵の動きを読み、ミオスにどう動けばいいか念を送る。そうすればマシな戦いができるのではないか、という案であった。
そして今、マゼンダ相手に練習していたところだったのだが、これがなかなか上手くいかない。マゼンダにボコボコにされたミオスは「無理だ」と騒ぎ出したのだった。
ちなみにマゼンダとミオスの武器――二本の剣は騒ぎに紛れて武器屋から拝借済みである。
「ま、もうええわ。あとは実戦あるのみじゃ」
「死んじゃいますよ!?」
「もう死ぬ気でいきなさい。いえ、いっそ死んできなさい」
「姉さん、ひど!?」
急にテンションの下がったアイウォレと投げやりなマゼンダに、悲痛な突っ込みを入れるミオス。
可哀想ではあるが、時間がないのは本当だ。とにかく城まで突っ切るしか他に手立てはない。
メッカは軽く準備運動をして、ミオスの腕を掴む。
「ということで、すぐ出発しようか!」
「何が『ということ』なんですかー!?」
往生際の悪い彼の言葉は無視して無理矢理引っ張って行くと、ポンパは素早くメッカのリュックサックの中へと潜り込み、アイウォレとマゼンダも無言でぞろぞろと歩き出す。
「まあ、できるだけ敵に見つからないようにするからさ!」
「ほ、本当に頼みますよ!?」
――まあ、そんなことは無理な訳だが。
逃げ出す人々の波に逆らい押されながら、住宅や店が並んだ大通りへ辿り着くと、凄惨な光景が飛び込んできた。
すでに街が火の海となっている中、傭兵と思われる数人の男達が、一般人の男女を斬り殺していたのだ。
すぐに反応したのはマゼンダだ。
先程のミオスとの模擬戦用の木の棒を持ってきていたらしく、それを思い切り傭兵達に向け投げ放つ。
傭兵達は咄嗟にその木の棒を避け、こちらをジロリと睨み付けてきた。
「ああ、これで僕達完全にマークされたね」
「さっそく実戦できるんや。嬉しいやろ、ミオス」
「ね、姉さん! 何てことををを!?」
「この国の王女として見過ごせる訳がないでしょう」
口々に喋っていると、傭兵の一人がこちらに近付いてきた。
「お前……もしかして壺盗みやがったガキじゃねえか!?」
口の悪い男の視線は、メッカへと向けられている。
メッカは一瞬記憶を巡らせて、なるほど確かにポンパが閉じ込められていた壺を持っていた男かもなあ、と思い当たる。
「だとしたらどうするの?」
「ブッ殺す!!」
怒り心頭、即答である。
「わかった! ならミオスを倒すことができたら相手になってあげるよ!」
思い付きで言ってみたのだが、アイウォレは満足そうに頷いて乗り気のようである。もちろんミオスは信じられないような様子でメッカを凝視しているが。
「メッカさん!? ひど――」
「よっしゃ、ミオス! 今こそ力を発揮する時や! オレの指示通りに行けよ!」
意気揚々としたアイウォレの様子にもはや無理と悟ったのか、ミオスは泣き顔で項垂れたまま剣を構え直す。
「あん? よく見りゃ王子に王女までいるじゃねえか! お前らノコノコとよく戻って来れたな! 面白ぇ、相手してやるぜ!」
単純馬鹿でよかった。メッカはホッと一息ついて、辺りの様子に気を配る。あちこちから火の手が上がっており、人々の叫び声、剣を交わす音、爆発音も響き渡っている。
「へへへっ、思いの外グルミゼラの軍が奮闘しててねー? 〈ヴェンジェンス〉がやられてきてんだよねー。最初はこっちが優勢だったんだけどなー」
突然真横から声を掛けてきたのは、丸眼鏡の根暗そうな男だった。
「えーと、〈ヴェンジェンス〉って?」
「グルミゼラに恨みを持つ人間達のことさー」
「なるほど、それをかき集めて今の騒動に至る訳だね」
「その通り!」
親指を立てて意外と陽気に話す男に「ところで君は誰?」と問えば、「ノウムでーす」と呑気に返答してくれた。
「あの傭兵の人達の仲間――かな?」
「そうそう、みーんなギッシュ様に拾ってもらったんだよねー」
「……へえ、ギッシュが」
自分とアイウォレの代わりだろうか、などと考える。
ふと視線を戻せば、怒鳴り散らすアイウォレに一生懸命に剣を振り回すミオスの姿、また華麗な動きで数人の傭兵と戦うマゼンダの姿が目に入る。
「うーんと、あっちを見習って、僕らも戦わなくちゃいけないのかな」
メッカは右手をノウムに向けた。
すると彼はすぐさま両手を挙げて降参の意を示す。
「いやあ、君の能力に打ち勝つ自信はないんだよねー。ロギオンはやらなきゃ気が済まなそうだから勝手にやらしてるけど」
怒り心頭でミオスと戦う男を、ちらりと見て苦笑するノウム。
「あれ、僕の能力のこと知ってるんだ」
「実は王子と王女をチンピラから助け出す瞬間を目撃しちゃってねー。あ、これは敵わないなと」
「そっか。でも、君らもこの国に恨みがあるんじゃないの?」
「オラの復讐したい奴らは、貧民層を見放してたお偉方とかなんだけど、大体やっつけちゃったからねー。こんだけ暴れさせてもらえたら、オラは十分だよ。それに、このままだと形勢逆転されそうだし。ただでさえ押されてきてるのに、王子に王女も来ちゃったからさー。グルミゼラ軍の士気が上がるでしょ」
「グルミゼラ軍は城を拠点にしてるんだよね」
一番のネックはそこだ。軍が守っているとなると突破するのは厳しい。
しかしノウムは大きく首を横に振った。
「いやいや、城はギッシュ様が人払いしたよー。他がいると邪魔だから、確実に復讐したいターゲットだけ残してねー。今頃一人で優雅にこの国を見下ろしてるんじゃないかなー。あ、軍は広場を拠点にしてるよー」
「……ギッシュは城にいるんだね」
「そーでーす」
嘘を言っているようにも見えない。メッカは右手を下ろす。
「で、君はどうするの」
その問いにノウムは「へへへっ」と笑う。
その時、「おい、メッカ! ぼけっとしとらんとこっちに加勢せい! オレが狙われるやろ!」とアイウォレの怒声が飛ぶ。
「行ってきなよー。オラは傍観してるからさあ!」
何故か敵に背中を押され、やれやれとアイウォレ達に加勢することにする。とりあえず、ギッシュが確実に城にいることだけわかったのでよしとしたのだ。
様子を見れば、マゼンダが大健闘しているのか、残りの傭兵がロギオンという男を含め五人になっている。
ミオスはロギオンに押されまくりな状況だ。明らかに体格が違う為、無理もない。
マゼンダは四人からの攻撃をかわすのに精一杯のようで、中々攻撃に移れないようだ。それでも下に転がっている数人の傭兵を見れば、かなりの大健闘である。
そしてアイウォレの言うとおり、傭兵の四人のうち一人がマゼンダへ攻撃を繰り出しながら徐々にアイウォレの側へ寄っているのが伺えた。
人質にでもしようとしているのか。弱っちい奴だとでも思っているのだろう。実際その通りなのだが、彼の性格は人質向きではない。
「って、アホか! 右じゃ、ぼけ! 違う! 次は左じゃ!」
声に出したら意味がないだろうに。そうは思いつつも、確かにミオスは思い通りに動けていないようだ。ゆらりゆらりと妙な動きになっている。しかしその動きが逆にロギオンを惑わせているようにも思える。
何はともあれ、加勢が必要なのはマゼンダだろう。
メッカは右手を突き出し、傭兵二人に標的を定める。
――地面に沈め!
念じれば右手が赤く輝き、男達の動きが一瞬止まる。が、瞬時に二人は頭から倒れて地面にめり込み、鈍い音を響かせた。
「貴方――本当に最強ね」
「まあね」
マゼンダの感嘆の声に、気分を良くするメッカ。
「チッ!」
すると狙わなかった傭兵の一人が、舌打ちしながらアイウォレ目掛けて走り出す。
「ミオス!!」
アイウォレに呼ばれたミオスも、すぐに彼のもとへと走り出した。
ロギオンはメッカの能力に唖然としていたようで「待て!」と叫ぶが間に合わず、ミオスは剣を構えて、そのまま傭兵目掛けて突っ込んで行く。
傭兵の手がアイウォレに届く直前、
「わあああー!」
頼りない気合いの一声を上げながら、ミオスの剣が傭兵の腕に直撃する。
「ぐあ!?」
腕から血が吹き出し膝をついた傭兵の頭に、アイウォレはすぐさま蹴りを入れ、傭兵はばたりと昏倒する。
「や、やりましたよ! アイウォレさん!」
剣を振り上げ、頬を上気させながら喜ぶミオスの後ろから、ヌッと黒い影が現れる。
「あほ! 後ろ見い!」
「べふぅ!?」
アイウォレの指示も間に合わず、ミオスの体はあっという間に吹っ飛ばされた。
黒い影の正体は、肩を怒らせて拳を突き上げたロギオンであった。
ミオスは腹を両腕で抑えながら、それでもよろよろと立ち上がる。
見た限りではロギオンの拳が直撃したはずだったのだが、よく立ち上がれたものだと感心していると、ミオスの持つ剣に大きなヒビが入っていた。
なるほど、殴られる直前に剣を盾にしていたという訳だ。
「よく防御したわ、ミオス! この剣を使いなさい!」
マゼンダは残りの一人の傭兵と戦いながら、腰に提げていた予備の剣をミオスへと投げ渡す。
ミオスはいやもう無理という表情をしながら、その剣をいやいや受け取った。
「む、無理です、姉さん……! メ、メッカさん、お助けを~!」
剣を盾にしたとはいえ、腹への衝撃を全てカバーできた訳ではなかったのだろう。
「任せて! ここからしっかり応援してるよ!」
「うそでしょう!?」
まだ元気よく突っ込む気力があるのだ。大丈夫だろう。
「あの男、めちゃめちゃお前のこと馬鹿にしてるで! 意地見せたれや!」
「わ、わかりましたよぉ!」
半泣きのミオスはアイウォレの指示に従い、ロギオンへと駆け出した。その手にはヒビが入った剣とマゼンダから受け取った剣の二本ある。
「弱っちい王子がこの俺に勝つだあ!? 冗談だろ!」
今さらだが、ロギオンの得物はかなり大きな大剣だ。まともに剣同士をぶつけても、ミオスがまた押されてしまうのは目に見えている。
ロギオンは余裕の表情で迎え撃とうとするが、ミオスはいきなり急停止してその場で勢いよくしゃがみ込む。
そしてヒビの入った剣をロギオンの足に向けて投げ飛ばす。
「くだらねえ!」
ロギオンは躊躇うことなくその剣に蹴りを入れ、その剣はスッポーンとあさっての方向へと飛んで行く。予定外なのだろうが、しかしミオスはその少しの隙をついて間合いを詰める。
「どおりゃああああ!!」
先程よりも気合いの入った雄叫びを上げ、ロギオン目掛けて剣を振り下ろす。
「甘えんだよ、腑抜け王子があ!」
やはりミオスには無理があったか。ロギオンの大剣は容赦なくミオスの腹を狙う。
「ちぃっ! 役立たずが! メッカぁ!!」
アイウォレからこれでもかと言う程睨み付けられたメッカ。
やれやれと肩を竦め、すぐさまロギオンの足に向けて手を翳す。
――転べ。
少しばかり念じれば、蹴りを入れたロギオンの足が地面に着く直前に、まるで滑ったかのように足が浮いて体勢を思い切り崩した。
「うお!?」
「い、今だぁ!!」
ミオスは剣をそのままロギオンへと振り下ろし――
「って、あれ!?」
ロギオンの姿が消え、見事に空振った。
「ぐはあ!?」
そしてミオスの足下から悲痛な叫びが聞こえたかと思えば、体勢を崩したロギオンが盛大に後頭部を地面に打ち付け、昏倒してしまったのだった。
「え、えーと……」
ミオスが呆然とする中、マゼンダが最後の一人を打ち倒して、そんなミオスへ振り返る。
「ミオス! よくやったわ!」
「え、あ、はい、姉さん! や、やりました!」
「最後まで決まらん奴やな」
「まあミオス君らしくていいんじゃないの」
一段落したところで、いつの間にかノウムがロギオンを見下ろしていた。
「いやー、見事なやられっぷりですなあ」
「……これで君達みたいな傭兵は全員なのかな?」
一応ノウムに問い質してみると、
「ああ、そうだ…………あ」
言い掛けた言葉を止め、何かを思い出したように手を叩いた。その視線は、メッカ達の奥に向けられている。
不審に思って振り向けば、そこには一人の女が立っていた。
「ノウム、あんたまさかそいつらに臆したの?」
冷たい視線を浴びせる彼女は、恐らくロギオンと一緒にいた盗人の一人。
「まさか。無意味な争いは好まないんだよねー。シーラだって、目的は果たしたでしょー?」
ヘラヘラ答えるノウムに、彼女――シーラは益々冷えきった視線を浴びせる。
「私はギッシュ様について行くと決めたの!」
啖呵を切るシーラに、アイウォレは溜め息をつき「ほんまもんや。面倒な女やで」と呟いた。能力はまだ強めに解放しているのか、恐らく彼女の心を読んだのだろう。
「女には女――ね。アタシが相手になるわ」
マゼンダが剣を構えて前に歩み出る。
「――何の不自由もなくヌクヌク育ったあんたなんかに負けてたまるもんですか!」
鋭い視線をマゼンダに向けるシーラは、同じく細長い剣を構える。
「勝負は一瞬。どう?」
挑戦的な言葉を真顔で伝えたマゼンダは腰を十分に低く構え直した。
「――いいわ」
シーラもまたスッと目を細め、剣を構え直す。
どうやら口出し無用の女の世界が出来上がってしまったらしい。メッカ達は、固唾を飲んで二人の動向を注視する。
彼女達の言う通り、勝負は一瞬。どちらが早く動けるか――
不意に一陣の風が吹く。それとほぼ同時に二人は駆け出した。
「はあ!」
「やあ!」
お互いの掛け声と共に剣が交差し――
二人は膝をつく。マゼンダの髪を束ねていたゴムが切れたのか、髪がばさりと下ろされる。
「ね、姉さん!」
心配そうな声を上げるミオス。
しかし間もなくシーラの体がぐらりと揺れる。
「――ギ、ギッシュ様――申し訳ありま――」
彼女はそのまま気を失って倒れたのだった。
マゼンダはゆっくりと立ち上がり、髪を掻き上げた。
「……厄介な男を好きになったものね」
ふうと息を吐くと、「さっすが、姉さん!」とミオスが駆け寄って行く。
「って、怪我してるじゃないか!?」
突然のミオスの声にマゼンダを見ると、確かに腕から血が流れていた。
「恋する女の執念じゃの」
嫌そうに呟くアイウォレ。
マゼンダは「かすり傷よ」と何でもないように振る舞う。能力解放中のアイウォレに目配せすれば「ほんまや」と小さく呟いた。それに安心したメッカは、「一つ提案があるんだけど」と言って皆を見回す。
「ここから二手に別れるのはどうかな。マゼンダさんとミオス君は広場を拠点にしてるグルミゼラ軍に合流して、残りの反乱軍の鎮圧をした方がいいと思う」
「広場ですって?」
「そこのノウム君が言ってたよ」
マゼンダはノウムへ疑いの視線を向ける。
「へへへっ。本当だってばー」
「…………」
ヘラヘラしたノウムを睨み据え、少し考え込むように黙るマゼンダに、メッカは続ける。
「信じていいんじゃないかな。ギッシュだけ止めても反乱軍はすぐには止まらないし、それだと君達が困るでしょ」
「おい、オレの護衛が減るやないか」
王子と王女を護衛扱いするアイウォレを無視し、黙ったままのマゼンダとおろおろするミオスに視線を注ぐ。
しばらくすると、マゼンダは納得してくれたのか大きく頷いてくれた。
「……わかったわ。――なら、ギッシュのことは任せてもいいかしら」
「もちろん!」
快く頷き返せば、アイウォレもそれ以上は文句はないようだった。
ふとノウムを見れば、気絶しているロギオン達を一人でズルズルと引っ張っているところだった。
「どこ行くの?」
「逃げるに決まってるでしょー。ま、一応まだ仲間だからね、この人達も連れてくけど、見逃してくれるよねー?」
それはどうだろうとマゼンダをちらりと見やる。
「……今はいいわ。けれど、貴方達が重罪人なのは変わらない。必ず賞金を掛けてでも捕まえてやるわ」
男前な台詞に、ノウムは嬉しそうに微笑んで「楽しみにしてるよー」と言って、重そうな彼らを引っ張って再び歩き出す。
「ね、姉さん……」
「今はこれ以上犠牲者を増やさないことが先決よ! 行くわよ、ミオス!」
「は、はい!! そ、それじゃあ、お二人とも! よろしくお願いします!」
そう言って、マゼンダとミオスもあっという間に駆けて行った。
取り残されたメッカとアイウォレは無言のままお互い視線を合わす。
するとメッカのリュックサックがモゾモゾと動き出した。
「ぷはーっ! 戦いは終わったか!?」
出てきたのは言わずもがなポンパである。
「いつの間に隠れてたの」
「当たり前だろう! こんな所でまた捕まりでもしたら、リーデルを助けられない!」
確かに懸命な判断かと納得する。
アイウォレは大きな大きな溜め息を吐いて肩を落とす。
「……しゃーない。行くか」
「だねー」
「おい、お前達もっとやる気を出せ!」
いきり立つポンパをスルーしながら、メッカとアイウォレはやる気なく城を目指すのだった――