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BLACK GUARD  作者: やっちら
4/10

死に損ないの王子と王女

「いやー、いい天気だねぇ」

 青々と広がる草原を、真上に浮かぶ太陽がギラギラと照らしていた。

 メッカは伸びをして、背負っていたリュックサックを草の上に下ろし、「ちょっと休憩しようよ」と横に立つアイウォレに声を掛ける。

「結局、こうなるんか……」

 長らく歩いたせいか、はたまた暑苦しいローブに身を包んでいるからか、アイウォレはかなりへばっているようだ。

「リーデルの為だ! がんばれ!」

 メッカのリュックサックからひょっこりと顔を出したポンパは、意気揚々としている。

「あほ、何で他人の為にあの男に会わなあかんのじゃ。全部自分の為に決まってるやろ」

 力なく放たれる悪態に、メッカは昨日のことを思い出す。

 ポンパから、メッカとアイウォレの呪いを解く代わりに、リーデル奪還を依頼された。

 呪いが解けるならそれくらいは引き受けよう。そう思っていたのだが、その犯人が問題だった。

「まさか、ギッシュに会うことになるとはねー」

 のんびり呟くメッカの隣に、アイウォレもドカッと乱暴に座り込む。

 昨日は思わず却下と伝えてしまったのだが、やはり死にたくはない。仕方なく、一旦ポンパの依頼を引き受けることにしたのだった。

「何とか会わずに捕まえるで、メッカ」

 本気の目だ。

 ギッシュとアイウォレとは、昔同じ孤児院にいたことがあるのだ。

 最初は三人とも仲が良かったように思う。メッカは一番年下で、アイウォレにもギッシュにも面倒を見てもらい、よく懐いていた。

 しかし、とある事件をきっかけに、ギッシュに対して二人とも苦手意識を持つようになってしまった。

「……でもさ、ギッシュの目的も僕達と同じでしょ。そう簡単にはいかないんじゃないかなあ」

 遠い目をして言うと、ポンパがリュックサックから飛び出し、不思議そうにメッカとアイウォレを見つめる。

「昨日から思っていたが、何でそんなに嫌なんだ? 知り合いでしかも目的が同じなら、話せば協力してくれるんじゃないのか?」

 無知な発言にアイウォレが二度目の「あほ!」を発する。

「この呪いの力が発現してから、どんだけあいつにコキ使われてきたことか! あいつの性格の悪さはよう知っとる。しかも今やあいつは国王、オレらは犯罪者。知り合いとバレることすらあいつにはリスキーやろ。協力なんぞあり得ん」

「アイウォレアイウォレ、犯罪者って認めちゃってるよ」

 突っ込むメッカだが、「うるさい」と一言で片付けられた。

 アイウォレの言う通り、全てはこの呪いの力を授かってしまったことに起因する。

 いや、もともとギッシュが恨みがましい性格だということは知っていたのだが、彼の復讐の為に呪いの力を最大限まで利用され、ついには嫌気が差して逃げ出したようなものなのである。

 その内容はどんなものかと言えば、資金集めだ。ギッシュが国王となる為には、それ相応のマナーと知識が必要になる。独学では限界がある為、そういうことを学ぶにはどうしても多くの資金が必要だったのだ。

 しかもターゲットが、警備体制が整っている美術館の絵画や石像だったり、捕まれば命の危険もあるヤクザ者だったりしたので、幼かったメッカ達にとっては随分とヒヤヒヤさせられたものである。

 ただその経験のおかげで、今のような図太い生活ができているのだが。

 ポンパは「ふーん」と他人事のように返事し、「まあ、ボクとリーデルを誘拐した人間だから、悪い奴に決まってるか」と一人で納得したようだった。

「おい、ファンシーな生物。お前の力でパーっとグルミゼラまで行かれへんのか」

「ポンパだ! そんなのできるならとっくにやってる!」

 怒るポンパに「そりゃそうか」と落胆するアイウォレ。

 最近の二人の拠点は、グルミゼラ王国に比較的近いとある町だった。裕福な町の為、金を搾り取るにはおあつらえ向きだったのである。だからギッシュのいるグルミゼラ王国までは、徒歩でも日が暮れる頃までには到着するだろうが、しかしまだ数時間あるのは確かだ。

「やっぱり馬車使うべきだったんじゃない?」

「お前、今の馬車の相場知っとんのか? あほみたいに高いで。それにあれは腰が痛なるから却下じゃ!」

 ただのアイウォレのワガママである。

 確かに長時間の馬車旅も辛いが、すでに彼はそれ以上に疲労しているように見えるのは気のせいだろうか。ちなみにメッカはまだまだ余裕である。アイウォレは昔から体力がまったく、全然、一ミリもないのだ。

 詰まるところ、彼の良いところは顔だけだ。

「今失礼なこと考えたやろ」

「いやいや、その暑っ苦しいローブ脱げばいいのにって思っただけだよ」

「お前こそそのサイズ合っとらんダボダボコート脱ぎいや」

 会話に収拾がつかなくなってきた。

 無駄な言い合いをしているうちに時間は経ち、ポンパに急かされ二人は嫌々再出発するのだった。




 メッカの後ろで歩く男は、「ゼーハー、ゼーハー」と物凄い息切れをしている。

「ま、まだ着かんのか、メッカぁ」

 その男――アイウォレは、せっかくの美形も台無しの真っ青な顔をしていた。

 もしかしたら、こんなでも『その哀愁漂う表情も素敵!』と言う物好きな女性もいるかもしれないが、メッカはまったく、全然、一ミリも思わない。

「お前……ギッシュよりも性格悪ないか?」

「自分のことを棚に上げちゃダメだよ」

 声に出ていたらしい。

 すると、ポンパが嬉しそうに叫んだ。

「よくがんばったな、二人とも! もうすぐそこに城が見えるぞ!」

 彼の小さな指が指し示した方向には、大きく立派な城壁が見えた。城壁の向こうに城の登頂部も見える。

 グルミゼラ王国は全体が城壁に囲まれているのだ。

 立派な国だと感心していると、数メートル先に数人の男達が集まっているのが見えた。

「おおー、確かに見えたけど、その前に怪しい集団がいるよ」

「シカトやシカト! まずはさっさと宿探しじゃ!」

 急に元気になったアイウォレは勇んで城に向かって早足で向かう。

 だがシカトしようにも城壁の入り口付近に彼らが集まっており、嫌でも真横を通り過ぎる必要があった。

 ポンパは素早くメッカのリュックサックへと隠れ、アイウォレはフードで顔を隠した。メッカも何かしようかと考えるが、アイウォレが不審過ぎる為、せめて自分は堂々としようと思い直す。

 入り口へと近付けば、男達の姿を視認できた。スキンヘッドや刺青、鼻やヘソにピアス。あきらかにゴロツキだ。

 そして当然のことながら、彼らはアイウォレに目をつけた。

 目立つ顔を隠したところで、服装は目立ちまくりである。紫色のローブに施された宝石や金をあしらった刺繍は、狙って下さいと言わんばかりの高級品なのだから。

 しかし、彼らはすでにカモを見つけていたらしい。よく見ると、彼らの中心には明らかに風体の違う二人の男女の姿があった。男達に隠れてよく見えないが、二人ともうずくまっておりどこか様子がおかしい。

 不意にスキンヘッドの男と目が合う。

「よう、坊主。そこのローブの人はお前の婆さんか?」

「ぷっ」

 ――しまった。

 メッカは思わず吹き出してしまったことを後悔する。

「――おい、誰が婆さんじゃ」

 ドスの利いた低い声があたりに響く。もちろんアイウォレだ。

 男達は「ああん?」と唸り、不穏な空気が漂う。

 アイウォレはフードを外し、赤紫色の瞳でギロリと睨み付ける。

 一瞬、男達は彼の顔を見て目を見開く。

「へえ~、驚いたぜ。すげえ上玉じゃねえか。一発ヤらせてくれたら見逃してやるぜ、兄さん?」

 ロン毛の男が気持ち悪い笑みを浮かべる。

 ブチッ。

 ――あ、アイウォレの堪忍袋の緒が切れた。

「お前みたいなブサイク男が、オレとヤる!? いっぺん自分の顔を鏡で見てみい!! オレと同じ空間にいるだけで恥ずかしい思うで! つうか、オレと比べたら宇宙人並の顔やぞ、ワレ!!」

 ロン毛の男は青ざめて顔を引きつらせる。アイウォレの口の悪さに幻滅したのか、その言葉に傷付いたのかは定かではないが、意外と繊細だったのかもしれない。他の男達は笑いを堪える者もいれば、怒りモードになっている者もいる。

「ちょっとちょっとアイウォレ、ケンカ弱いんだから大人しくしててよ」

 慌てて止めに入るも、今度はメッカが睨み付けられる。

「あほ! お前が相手するに決まってるやろ!」

「え」

 彼がギッシュに向けた言葉をそのまま返してやりたい。一番コキ使われているのは自分だと、メッカは思う。

 とはいえ、ゴロツキに囲まれている男女二人のことも気になるメッカは、「仕方ないなあ」と呟きながら、手をスキンヘッドの男へと向ける。

「やる気か!?」

「ガキがイキがんなよ!」

 大の男が六人。

 メッカにとっては朝飯前と言える程度の相手だ。

 掲げた手の平が赤く光る。

 ――倒れろっ。

「ぐあ!?」

 スキンヘッドの男は頭が赤く光ったかと思うと突然、地面に頭から突っ伏した。

 メッカが念じた通りになったのだ。

「な、何しやがった!?」

 他の男達がざわめく。

「さあ! 次は誰や!? さっさと掛かってこんかい!」

 メッカの後ろに下がり、まるで自分の手柄のように調子づくアイウォレを無視して、青ざめたままのロン毛の男に手を翳す。

 が、可哀想なので別の男へと的を変更する。

 鼻ピアスの男が「うらあ!」と叫んで飛び出してきた。

 ――浮かべ!

 そう念じると、鼻ピアスの男はふわりと空中へ浮かぶ。

「な、な、な!?」

 不安定な体勢で手足をジタバタさせている鼻ピアスの男を見て、他の男達も驚いて叫び出す。

 メッカが今度は落ちろと念じれば、鼻ピアスの男は勢いよく顔から地面に突っ伏した。ゴキッという嫌な音を立てて。

「て、てめえ、ま、魔術師か!?」

 男の一人が真面目な顔で言うのを見て、にやりと不敵に笑って見せる。

 無論、魔術師なんておとぎ話の中にしか登場しない。いや、ポンパのような不思議な生物も存在したので、この世のどこかにはいるのかもしれないが。

「さあ次は、誰にしようかな?」

 人差し指で順番に指してゆくと、刺青の男が「悪かった」と言って両手を上げた。

 ゴロツキにしては素早く的確な判断と言えよう。残りの三人も同じように両手を上げてゆく。

「じゃあ、そこの二人も解放してくれる?」

 メッカの問いに刺青の男は舌打ちしながら、うずくまる男女二人から距離を取る。

「そこの突っ伏しとる二人連れて、はやくどっか消えろ。通行の邪魔じゃ」

 睨み付けながら言うアイウォレの指示に素直に従い、彼らは突っ伏した男達を抱き上げ、さっさとその場を去って行く。ロン毛の男が少し名残惜しそうにアイウォレを見つめていたが、見向きもしない彼にようやく諦めたのか、肩を落としながら男達の後を追って行った。

「相手してあげればよかったんじゃない」

「反吐が出る。オレは女以外抱かん」

 クスクス笑えば、アイウォレは露骨に嫌そうな顔をした。

「それより、そこの二人は生きとるんか?」

「う~ん、死んでそうだね」

 まるで動きそうにない彼らを遠目からまじまじと見れば、二人とも碧色の髪で、男は上流の騎士のような鎧を着ており、女は銀の刺繍が施されている絹を使った身軽な軽装に身を包んでいる。どちらも値の張る装いだろう。

 とりあえず近付いてみると、女のほうがピクリと動いた。

「……勝手に……殺さないで、ちょうだい」

 こちらをゆっくりと見上げるその顔は、真っ青で今にも死にそうであった。二十代半ばくらいだろうか。少しツリ目だが、薄化粧なのでキツい雰囲気は感じられない。恐らく美人の類いだろうが、顔色の悪さでかなりマイナスになってしまっている。

 隣の男もピクピクと動き出す。

「あ、あなた達は、何者ですかっ……!?」

 こちらはもう少し若く見える。メッカと同じくらいかもしれない。見た目ではなく年齢の話だ。そしてやはり顔色は真っ青だ。

 先程のアイウォレ同様、二人とも物凄くゼーハーゼーハーと息切れしながらも険しい表情で見つめてくるので何だか鬼気迫る迫力がある。

 アイウォレは瞬時に女の方へ膝まずいて手を差し伸べた。

「私達はただの通りすがりの旅人ですよ。貴女方こそ、どこかの貴族の方とお見受けしますが」

 さすが変わり身の早い男である。彼らの装いを見て判断したのだろう。いつもの営業スマイルを浮かべて恩を売る気満々だ。

「今さら、猫を被る必要はないわ……。あんたみたいな人種、アタシ大っ嫌いなの」

 女は強気に笑ってみせる。アイウォレの笑顔に殺られないとは中々の逸材である。

 無駄と悟ったか、アイウォレは差し伸べた手を引っ込め、「なら、用はない」と立ち上がる。

「メッカ、行くで」

「え、ほっとくの?」

「い、いやいや! ほっとかないでください!」

 叫んだのは男だ。

「ね、姉さん……! ケンカ売ってる場合じゃ、ないだろ……!」

 どうやら二人は姉弟らしい。

「アイウォレ、話だけでも聞いてあげようよ。で、君達は一体どうしたの?」

 少し哀れに思えてきたメッカは男に話を促すと、アイウォレは不満そうにしながらも立ち止まってくれた。

 男は涙ぐみながら礼を言い、ミオスと名乗った。女はマゼンダと名乗る。

「じ、実はおれ達、毒を盛られてまして……。あ、今の奴らとは無関係ですよ。毒を盛られたあとに逃げ出そうとしたら、あいつらに目を付けられただけです……」

 毒とはまた穏やかではない。しかも生き延びた彼らに関われば、メッカ達も狙われる可能性は十分に考えられる。

 当然、アイウォレもそれを察し、「医者くらいなら呼んで来たるから解散や」と冷たく告げると、ミオスは「まままま、待ってください!!」と大慌てでアイウォレのローブにしがみつく。

「た、頼れるのはもう、あなた達だけなんですよ……!」

 ゼーゼーと息を吐きながら迫る青い顔は、これまた中々に迫力がある。

「じゃかあしい! オレらは大事な用があるんじゃ! お前らに構ってられへんわ!」

 離せと言わんばかりにローブからミオスを引っ剥がそうとするアイウォレに、マゼンダが「……交換条件なら、どう?」と苦しそうに提案してきた。

「アタシ達は、王族よ。こっちの頼みを聞いてくれるなら……相応の礼をするわ」

 アイウォレはピタリと止まると「それなら考えんでもないな」と真顔で即答する。

 確かに王族ならばかなりの見返りは期待できるが、彼らがグルミゼラの王族だとすると、こちらにとっても都合がいいかもしれない。

「ねえ、二人はギッシュのこと知ってるの?」

 メッカの問いに、二人は気まずそうに顔を見合わせる。

 そして、マゼンダが「ええ、当然知ってるわ」と口を開いた。


「アタシ達、ギッシュとは腹違いの〈きょうだい〉ですもの」

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