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「でも、たーくん犬は駄目って言って無かったよ……?」
「いや、言わなかったけど、普通犬はだめでしょ。どうやって犬が”人狼”をやるんだよ」
明らかに利はこちらにあるはずだった。
先週のうちに、”人数の不足を解消できない以上、人狼は二度とやらない”ということは念を押しているし、犬はボードゲームをすることが出来ない。だって犬だもの。
僕が正しくて、ゆうなが間違えている。
しかし、僕は既に気づいていたのかもしれない。
結局のところは、ゆうなに押し切られて、ここで”人狼”が始まってしまうということを――
「犬は駄目って……たーくん、言わなかったもん……うえーーーん」
とうとうゆうなの両眼に溜まりに溜まった涙のダムは決壊した。
泣き出したゆうなに、驚いたのか、ヨシオはワンワンとゆうなに吠え出す。
ゆうなはそんなヨシオに抱き着くと、先よりも大きな声を上げて泣き始めた。
「こ、こら、ゆうな。ヨシオをそんなにギュッとしちゃ駄目だよ!ヨシオ死んじゃう!」
「バ、バゥ……」
「ほら、ヨシオがギブって言ってるような気がする!ヨシオが死んじゃう、ヨシオが死んじゃうよ!」
僕が必死で、ゆうなとヨシオを引きはがそうとするも、ゆうなは梃子でも動かぬといった様子だ。
僕は、涙目で助けを請うような目で僕を見るヨシオが哀れでならず、仕方なくゆうなに語り掛けた。
「分かった、分かったよ。やる、やるから。ヨシオと三人で人狼やろう……だから、ヨシオをヘッドロックするのはもうやめてあげて」
僕がそう言うや否や、ゆうなはヨシオをパッと手放した。
「え、いいの!たーくん」
ゆうなは涙で濡れた顔を、一息に笑顔に変えた。
わざとやっているとしたら、相当質が悪いぞ……と思ったけど、ゆうなの一点の曇りの無い笑顔と、ヨシオのぐったりした姿を見て、なんだかどうでもよくなった。
「じゃあ、たーくんこれ」
ゆうなが僕に”汝は人狼なりや”のパッケージごと渡してきた。
「たーくん、頼んだよ!」
「え、ゆうなが準備するんじゃないの?」
「だって、ゆうなルール知らないもん」
一切の悪気が無い顔で、目の前の年下女子はそう言い切った。
(ルールも知らないのにどうして人狼やりたいんだよ……てか、先週僕が頑張ってゆうなに説明した時間は何だったんだ……そして、ヨシオはぐったりしてるけど、大丈夫なのか?)
様々な思念が、一瞬のうちに僕の脳裏をよぎったが、文句を言っていても状況は良くならないことは悟ったので、飲み込むことにした。
「……じゃあ、始める前に先週もたっぷりと教えたはずだけど……ルールを説明をするから、しっっかりと!聞いておいてね」
「はーい!……ほら、ヨシオ!たーくんがルール説明してくれるって!」
ヨシオはくーんと悲しそうに泣いた。
分かる、分かるぞヨシオ……
そう、僕は心の中で呟いた。




