-終-
僕は横に座っているヨシオの方を振り向いた。
「君が狼だね、ヨシオ」
ヨシオがキョトンとした表情を見せる。
おおや、バレちまったか……と言っているようにも見える。
「さっすが、たーくん」
ゆうなは、飛び上がって喜んだ。
ゆうなが飛び上がったので、伏せられていたヨシオのカードが僕にも見えた。
それは”人狼”だった。
僕は安堵で、大きく息を吐き、肩の荷を下ろした。
「すごい、すごーい」
テンションが高まり過ぎたのか、ゆうなが僕に抱き着いてくる。
僕の顔が、徐々に熱を帯びるのを感じた。
「大げさだよ、ゆうな。別に推理でも何でもないんだから」
「じゃあどうしてヨシオが狼って分かったの?」
「ゆうなが嘘を吐けないって、僕が知ってたから。ただ、それだけ」
ゆうなの性格を知っていれば、元々考えることは無かったのだ。
ややこしかったのは、”ゆうなが何故ヨシオのカードを隠したのか”であるが、それは単純に”このゲームは手札を見せ合ってはいけない”というルールを彼女が遵守しただけである。
ゆうなは、ゲームのルールをよく曲解するものの、ルールを守ろうとする意志は強い。
だからこそ、カードを隠した後の彼女は陰りのある表情を一瞬浮かべたのだ。
――あれは、見てはいけないはずのヨシオのカードを見てしまった、という罪悪感から出たものだ。
ゆうなの目線では、ヨシオが狼であることは確実なことであったが、それを知っていることを僕に悟られたくないから、おかしな態度が出てしまったのだろう。
「まあ、結局のところだよ、ゆうな」
「なぁに?たーくん」
「やっぱり、人狼は3人じゃ無理があるよ。ていうか2人と1匹だけど」
「えー……楽しかったけどな」
「だってこれじゃ、僕がゆうなの考えを読むだけなんだから。僕がゆうなの考えていることを読めない訳ないだろ?だから、これではゲームとして成立しないよ」
「えへへ」
「あと、そろそろ離れて」
「あ、ごめんね」
ゆうなは僕から離れると、部屋の中をニヤニヤしながら歩き回っている。
「何だよ」
「いや……うふふ……べっつにー」
「気味が悪いぞ」
「あ、ひどいよ。たーくん。もう勉強教えてあげないもんね!」
”行くよ、ヨシオ”とゆうなはヨシオを呼ぶと、二人で僕の部屋を出ていった。
多分一階で、勝手にアイスでも食べるつもりだろう。
そう思っていたら、意外にもゆうなは玄関から、ヨシオを連れて外へ出ていってしまった。
(まあ、これでやっと勉強に集中できるな)
僕は”汝は人狼なりや”の床に散らばった3枚のカードを一枚ずつ拾い上げた。
(僕の”市民”。ヨシオの”人狼”。ゆうなの”市民”……)
ゆうなのカードを拾い上げた際、違和感を覚えた。
カードの裏が濡れていたのだ。
(あれ、あいつなんか溢したのか?)
そして、僕はすぐに気が付いた。
この濡れた”市民”がヨシオの手札だということに。
(あ、まさか……そんな……)
実のところ、このゲームは、彼女の一人勝ちだったのだ。
三人人狼-完-
「4人人狼」に続きます。