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「なぁに、たーくん。”みょうあん”って?」
ゆうなは僕を指差したまま尋ねてきた。
僕は、さっき思いついた考えをゆうなに話した。
「今からヨシオに二人で呼び掛けるんだ。そして、ヨシオがその呼びかけに応じた方は、ヨシオの投票先を決められる……というのはどうだい?」
「えー、何それー」
ゆうなは不満げに、頬を膨らませた。
「そんなのヨシオが好きな方に行っちゃうじゃん」
「ゆうなは、もしかして自信がないのかな?ゆうなが連れて来た犬だろ。ゆうなの方が有利だと思うけど」
「そうかなぁ?」
ゆうなはあんまり納得してない様だ。ここはもう一歩だな。
「例えもし、僕がヨシオの投票権を得たとしても、ゆうなに投票するかどうかは正直決めかねているんだ。今のゆうなの様子を見てると、ゆうなが狼じゃない可能性もあるって思ってるよ」
「ほんと!たーくんはゆうなを信じてくれるの?」
「それはまだ分からないけど、もう一度考えて決めようと思うよ」
嘘だ。僕はゆうなに入れる。
何故なら、ゆうなが僕に投票した時点で、彼女が狼なのは確実なことだから。
ゆうなはヨシオと自身のカードを見ている。つまりは、全員の役職を把握したことと同義だ。
その上で僕に投票を行った。僕が市民であることを知っているのに。
(市民に投票をするのは、君が狼だからだ。そうだろ、ゆうな)
仮にヨシオが狼とするならば、君はヨシオに投票しなければならないはずだ。
「あ、じゃあさっきはごめんね、たーくん。私、やっぱりヨシオに投票することにする」
「へっ」
急に風向きが変わった。今までの僕の熟考が丸々無駄になりそうな雰囲気だ。
「いやいや、投票を変更するってどうして?」
「違うよ!私元々ヨシオを指差してたのにたーくんが勝手に勘違いして、”僕を指差してる”って言ったの!」
確かにヨシオは僕の背後に居た。
ゆうながヨシオを指差すつもりだったというのも筋が通るかもしれない。
「じゃ、じゃあどうしてすぐに”ヨシオを指差してる”って言わないのさ」
「だって、だって、たーくんがゆうなのこと指差してくるんだもん!頭に来たんだもん!」
ゆうなは目に涙を浮かべながら、叫んだ。
しまった、ゆうなの考えが全く読めない。
「と、とりあえずヨシオの投票権だけ先に決めちゃおう」
「ヨシオ!ゆうなの方来て!たーくんはずる賢くて、運動音痴だから!」
「めちゃくちゃ悪口だな」
ヨシオは僕とゆうなを交互に見ると、座っている僕の肩に手を置いた。
どうやら、ヨシオの投票権は僕のものになったらしい。
ヨシオはゆうなから酷い目に合わされてるから、僕の方に来ることは容易に想定出来た。
「あー、ヨシオ!裏切ったな!」
ゆうなは地団駄を踏んで悔しがった。
ヨシオは僕の肩に手を置いて”後はお前に任せたぜ”と言いたげに見える……これは多分僕の気のせいだが。
(さて、どうしようかな)
このゲームの勝敗は僕が握ることとなった。