04 旅立ち
「それで、ゴブリンたちを撃退したのがその子って事か?」
「撃退ではないんですけどね……うん、おいしい」
ゴブリン騒動が落ち着き、やってきた冒険者さんは三人を残して帰っていった。
今は夕食にゴブリンからもらったお肉を食べている最中だ。
「お肉ひさびさだー!」
「うんまい!」
子供たちはみんなにこにこしてお肉に齧りついている。孤児院にいる全員に行きわたるだけのお肉をゴブリンたちがくれたのは本当にうれしかった。ここの通貨である銀のコインや金のコイン、おおよそ100エーンをもらったのも大きい。この世界ではおおよそ10エーンでパンが一つ買えるのだ。貴重なお金はソフィーに預けた。
お肉を咀嚼しながら目の前で困惑している冒険者を見る。一人はギルドマスターらしい壮年の男性、その両隣にはBランクの冒険者が座っている。一人はムキムキしているスキンヘッドの男性で、もう一人はここの出身だという若い男性だ。
「しかも光魔法を使うとはね……」
「これは放っておけませんね」
やっぱり光魔法ってそんなに貴重なのかな…まだレベル2だけど。
私が他人事のように見ていると、隣に座っていたソフィーが立ち上がった。その表情は厳しい。
「この子は記憶喪失でここに来たばかりだし、まだギルドに行くには早いわ!」
「でもまたゴブリンを呼び寄せるかもしれないだろう?その歌ってのがどんなのか知らないが、光魔法の効果を増幅させている可能性もある。こんな魔道具も見たことのないものだし、貴重だろうな。国が欲しがるかもしれねえ」
ギルドマスターがマイクをまじまじ見ながら言う。えっアイテムボックスに入っていたものなんだけど、このマイク、結構すごいものだったんだ。見た目は普通のかわいらしいマイクだけど、この世界ではすごいものかもしれない。魔道具って言うんだ。
ギルドマスターがそう言い終わると、今度はスキンヘッドの男性が口を開いた。
「そうです。ここでは教えられないことも、ギルドでは教えることもできますし、自分の力で考えて生きて行くためにも早く外の知識を得る必要があると思います」
怖そうな見た目なのに喋ると聡明な人のように感じた。失礼なので言わないでおく。
そう、言われた通りだ。自分の力で生きていく。分かっていたことだったが、この世界で目覚めて、すぐに孤児院に保護されたからこの世界の厳しさが分かっていなかったのも事実だった。今までが上手く行き過ぎたんだ。本当はあの場で歌えなかったり、魔法が使えなかったりして、ゴブリンに殺されていたかもしれない。そんな未来だってあったはずだった。そう考えたら、背筋がぞっとした。
「それでもこの子はまだ12歳よ。13歳になってからでも遅くないはずだわ」
「ソフィーさん」
必死に訴えるソフィーをやんわり制す。辛そうな表情だ。本気で心配してくれているのが伝わってくる。私はそれに笑顔で返す。
「心配してくれてありがとう。でも私、ギルドに入りたい」
「ルーチェ……!」
「私がまったく外のことを知らないのは事実だし、弱くても貴重な魔法を使えるのもなんとなく分かってる。だからこそ、ソフィーさんやここのみんなに迷惑かけることがあるかもしれない」
不安そうにこちらを伺っているアランたちの顔を見渡した。
「それにギルドに入ればお金も稼げるし、今日みたいにみんなにお肉やおいしいもの食べさせてあげることが出来るでしょ?私、みんなに恩返しがしたい」
「そんなこといいよ!行かないで、ルーチェ!」
アランや他の子たちが一斉に私のもとへ走ってくる。抱きとめて一人ひとりの目を見た。
「みんな、ちゃんとソフィーさんのお手伝いするんだよ。短い間だったけど、楽しかった。ありがとう」
「また帰ってきてくれるよね?」
「もちろん!」
笑顔でそう言えばみんなが笑ってくれた。ああ、やっぱり人の笑顔って好きだな。
少しの着替えだけアイテムボックスに入れ、ギルドマスターたちが待っている玄関に向かう。
玄関につくと、みんなが勢ぞろいしていた。いや、一人だけいない。あの特徴的なピンクの髪のマヤがいなかった。
「ソフィーさん、マヤは?」
「あの子、ずっと泣いてるわ。他の子が卒業する時でもこうはならなかったのに、ルーチェにすごく懐いていたのね」
「そっか……」
一言何か言いたかったが、もうじき日が暮れる。夜になる前に町に着きたいとギルドマスターが言ったので、後ろ髪引かれる思いだったが、今いるみんなだけに別れを告げようとすると、ソフィーが前に進み出た。
「これ、少ないけど持って行きなさい」
ソフィーが数枚の銀貨を手に握らせていた。貴重なお金のはずだ。慌てて断るも、ソフィーは首を振った。
「卒業する子には必ず渡してるわ。気にするのなら、またお金がたまった時に返しに来なさい」
「わかった。ありがとう」
この世界の母は優しくて強かった。初めて自分から彼女を抱きしめ、お礼を言った。
「ありがとう。大切にします」
「ええ、体に気を付けて。元気でね」
「みんな、またね!」
孤児院を出発する。見えなくなるまで手を振ってくれるみんなにたびたび振り返って手を振り返しながら町への道を歩いて行った。
みんなが見えなくなって、私は不安半分、期待半分入り混じった表情で前を向いた。
新しい世界に飛び込んでいこう。そしてなるんだ、本当のアイドルに!
そんな気持ち歩いていく私をマヤが二階の窓から恨めしそうに見つめていたことに、私は気づかなかった。
このとき、マヤに何か伝えていれば、マヤの何かが変わっていたのだろうか。もう、後悔しても遅かった。