03 再びゴブリン
目を覚ますと、そこはベッドの上だった。アランたちが連れて帰ってきてくれたのだろうか。後でお礼を言わなければ。マヤにも心配かけてごめんと謝ろう。
もう外はすでに夜で、月が輝いていた。結構な時間眠っていたらしい。
部屋の扉が開いて、ソフィーが入ってきた。起き上がっている私を見て、驚いたようだった。ベッドまで歩いてきて、私を抱きしめた。
「ルーチェ!もう回復したの?ああ、体力と魔力が空っぽだったのよ、あなた」
「そうなんですか……」
おそらく、あのライブが原因だろう。体力はもちろんすごく消耗したし、体が物理的に光っていた。光魔法を無意識に使ってしまったのだろうか。
ステータスを見てみると、回復はしているもののまだ完全に回復しているとは言い難かった。
「食事を持ってくるわね。体力と魔力は食事と睡眠で回復するのよ」
そういうとソフィーはまた部屋を出て行った。私はステータスと唱えて、もう一度自分のステータスを見た。
ルーチェ
Lv.1 / アイドル
HP:8/10
MP:7/10
魔法:
光魔法 Lv.2
スキル:
歌唱 Lv.2
ダンス Lv.1
陣地形成 Lv.2
鑑定 Lv.1
固有スキル:
アイテムボックス
私自身のレベルは1のままだが、魔法やスキルのレベルが上がっている。使えば使うほど上がるもののようだ。
「職業アイドル……か」
朧げだが、あの時のステージのことは覚えている。本能的に体が動いた。抗う気も起きないほど、歌いたいという衝動に駆られた。まるで魂が叫んでいるように。
「これからどうしよう……」
ベッドに寝転がって、今後のことを考える。誕生日が分からないのでいつ13歳になってここを出て行かなければならないのか分からなかった。出て行って、私はこの世界に上手く馴染めるのだろうか。アイドルが知られていないこの世界で、アイドルとして認めてもらえるのだろうか。そんな不安が押し寄せてきた。
でもそんな不安よりもあの時歌い踊った感覚が最高に気持ちよくって、もう一度それを味わえるのなら、気にすることもないかもしれないなんて、私らしくないことを思った。
コンコンと扉がノックされて、ソフィーが入ってくる。ベッドから降り、机に座った。机に置かれた食事は固いパンと具のほとんどないスープ。それがここの定番だった。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
スープを口につける。ソフィーたちには内緒だがここの食事には未だに慣れない。孤児院だからお金もないのだろうな、と思った。ここを卒業した子たちがたまに仕送りをしてくれているらしくそれで賄っているのだとか。
私もここを卒業したら、少しでも多く仕送りしようと心に決めながら、食事を味わった。
次の日、アランたちに大声でお礼と謝罪を言われた。私もアランたちにお礼を言った。みんな事の顛末を知っているようで、私に歌ってとせがんできた。
歌いたいのはやまやまだが、私はここの年長組としてやらなければいけないことがある。勉強からレベルアップに向けた体力つくり、雑用や子守りまで様々だ。
そんなお昼ご飯を食べた少し後の時だった。
「みんな!た、大変だ!」
年長組の一人である男の子が孤児院に駆け込んできた。慌てた様子に何事かとみんな視線が集まる。すぐそばにいたソフィーが駆け寄って彼に聞いてみる。
「どうしたの、一体そんなに慌てて」
「ゴ、ゴブリンの大軍がこっちに向かってる!」
悲鳴が耳を劈いた。私は顔面蒼白になった。もしかして、昨日のゴブリンが報復に来たのかもしれない。
「みんな、慌てないですぐ避難しなさい!アランとユーゴは急いで町まで走ってギルドに知らせてきなさい」
「わ、わかった」
昨日のことで顔が知られているアランたちは裏口から町へ向かい、冒険者ギルドに向かった。
「だめだ!もうすぐそこまで来てるんだ。終わりだ、俺たち殺されちゃう!」
「そんなことはありません!私に任せて、あなたたちは建物の中に入っていなさい」
ソフィーが力強く言うと、一人で外に出て行った。私も行かなきゃ、きっと私のせいだから。
でも足が竦んでいうことを聞かない。どうしたら、どうしたらいいの。
その時、後ろからぎゅっと温かいものに抱きしめられた。後ろを振り向くとそこにはピンクの頭があった。マヤだった。
「ルーチェ、また歌って。歌ったらきっとゴブリンたちも帰ってくれるよ」
「マヤ……」
マヤがぎこちなく笑って、マイクを手渡してくれた。マイク、マヤが持っててくれたんだ。震える手で、マイクを掴む。すると震えは止まった。
「うん、私、歌う!」
立ち上がって、みんなの静止を聞こえないふりをして、外に出る。そこには数多のゴブリンたちと対峙しているソフィーがいた。ソフィーはこちらに気が付いて「中にいなさい!」と怒ったが、私は笑顔で返した。
「また、聞いてくれる?」
先頭にいるゴブリンに聞く。きっと昨日と同じゴブリンだった。その瞳でなんとなくわかった。
「歌、聞カセロ。同胞、連レテキタ」
不思議と怖くない。彼が武器を持っていないからだろうか。
「うん、任せて。『陣地形成』!」
スキルを使い、土のステージを作る。それは昨日とは少し違った。踊りやすいように少しだけ広くなっている。レベルが上がったからだろうか、でも今の私にはそれが後押ししてくれているように感じた。
「じゃあ行くよ!ミュージック、スタート!」
音楽がマイクから流れ出す。昨日とは違うのは意識して体を動かしているということ。歌だけじゃない。ダンスだって、アイドルの要素の一つだ。昨日とはまた少し違うステージを見せるんだ。
私が歌いだすと、歌が聞こえたのか建物の中から子供たちが出てきた。そしてわあ!と目を輝かせて私のステージの周りに集まった。
昨日よりもたくさんの人が見てくれると思うと胸が熱くなって、体の中から何かが弾けた。体が昨日みたいに光りに包まれる。昨日よりも少しだけ強く光っている気がする。それに私の目がおかしくなければオーラのようなものが周りを包んでいる。
「光魔法だ!すごい!」
年長組の物知りな男の子がそういうと、他のみんなからも歓声が上がった。
曲が終わるとたくさんの拍手に包まれた。ふらふらするが、昨日みたいに倒れることはなさそうだ。
「聞いてくれて、ありがとう」
笑ってそういうと、また歓声に包まれた。そして、ゴブリンの中から一匹の年老いたゴブリンが出てきた。
「貴女様ノ歌ハ、我ラニモ響キマシタ。ソシテ魔法ノオカゲデ、仲間ノ傷モ癒サレマシタ」
「傷……?」
不思議そうにそういうと、隣に立ったソフィーが説明してくれた。曰く歌いながら光魔法を使い、傷を治していたと。
「私が昨日怪我した指も治っているわ、ほら」
「ほんとに……!」
ソフィーが包帯を外してみると、そこに確かにあった傷はなくなっていた。ゴブリンたちをよく見ると、最初に見た時よりも元気がよさそうだ。
「マタ、聞カセテ頂ケマセンカ?」
「もちろん、よろこんで!」
年老いたゴブリンにそう言うと、ゴブリンたちからも歓声が上がる。ああ、歌ってよかったなと心から思った。
「コレハ少ナイデスガ、オ礼デス」
少しのお金と森の薬草や動物の肉などを置いて、ゴブリンたちは帰っていった。またゴブリンの村に歌いに行くことを約束して。
「Bランクの冒険者を連れてきたぞ!」
「って、あれ?ゴブリンは!?」
アランとユーゴが数名の男の人を連れて返ってきた時には、もうゴブリンたちはおらず、代わりにお肉を焼くための準備が行われていた。
「あ、忘れてた」
アランたちの後ろで怪訝な表情をしている冒険者たちにどう説明しようか頭を悩ませた。