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降り注ぐ、金の雨

その出会いは出来心だった。

夜中のコンビニの帰り道、気晴らしに神社でお参りでもしようかという気分になった。

信心なんてものは持ち合わせていない。

ただ作法を守ってお参りをすると、不思議と心が洗われる。

手軽な気分転換だ。

俺は一礼してから鳥居をくぐり、神様の邪魔にならないよう、石畳の端を歩く。

手水で穢れを洗い流すと、とても清らかな気持ちになり、そのまま拝殿の前で賽銭を放った。

すると。

放り込んだ5円玉が、なぜか足元に転がってくる。

不思議だ。

暗闇の中、目を凝らしてよーく見てみると……。

不良にでもやられたのか、賽銭箱の下の方が蹴破られていた。

すぐさま俺は血相を変える。

「金ッ! 金ッ! 金ッ!!」と、エサ入れに顔をうずめる犬のように、必死になって賽銭箱の穴に手を突っ込む。

がしかし、既にそこにお金は残ってなくて……。

変わりに手につかんだのは、西洋風の片手に収まる小さな木箱だった。

「くっそ!! せめて金目の物でも入っていてくれ……!」と、神の御前で必死に念じて箱をこじ開けた結果……出てきたのが目の前の女神、クレイレアだった。


「さぁ、始めましょう……あなたの至福の人生とやらをっ!」

「あぁ……」


結果的に俺は、賽銭箱の中身より、ずっと価値のあるものを手に入れてしまった。

望みの全てだ。


「あぁ、楽しみですねぇ……欲丸出しのあなたが、まず最初に何を願うのか……」

「くくく……俺の方が楽しみだよ……」


女神と俺は、お互いに気持ち悪い笑みを浮かべて向かい合っている。


「まずは金だ。金が欲しい女神」

「え、そんな、私お金なんて……」

「いいからほら、出せるだろ?」

「ホントにないんですよぉ……ジャンプしましょうか?」

「そういうのいいから」


しかし女神は俺の制止も聞かず、その場でたゆんたゆんと、緩いリズムで跳ねてみせる。

仕方なく、俺ものってやる。


「ん? 聞こえてくるぞ、チャリンチャリン」

「そんな馬鹿な!」

「ほら、ポッケ裏返してみろよ」

「ひゃん! そこはポッケじゃありません~!」


ピラッピラのスカートに手を伸ばすと、女神があわてて引き下がる。


「じゃーさっきのは何だ?」

「あ、あれは……ニップルピアスが服の中で当たっただけで……!」

「なんだそれはぁ? 没収するからなぁ?」


そういって俺は、指先をいやらしくはじきながら、女神に詰め寄る。


「い、いやぁ! これは百均なのでお金になりませんっ!」

「じゃぁ鳴らすだけでも……」

「鳴らす!? ベルじゃないんですよ!?」

「ほーら、ちゃりんちゃりーん」

「い、いやぁあ!! お金なら! お金なら今出しますからー!!」

「ちゃりんちゃ……じゃ出せよ。話進まないだろ」


この分だと永遠に続きそうなので、俺は茶番を切りあげた。


「なかなかノリいいですね真壁さん」

「いいからお金出してくんない? 若干キレ気味なんだけど」

「あ、あれ? 面白くなかったです?」

「うん。今頭の中金しかないから、焦らされるとキレそう」

「あら~焦らしによわいんですねー」

「うっせー、とっとと金出せや。 出さねーんなら願い事変えるぞー。 てめーの乳首にピアスついてるかどうかの確認にするぞー」


こっちは念願の金が出てくるのを、今か今かと待ちわびているのだ。

それなのに、こんな雑なネタに付き合わされるなんて。

せめてオチでピアスの有無でも確認させてもらわないと割に合わない。


「だ、だってー! 毎度毎度、初手でお金せびられるこっちの身にもなってくださいよー!」

「あん? なんで?」

「なんでって、逆の立場ならどうです!? 飽きますよね! ネタとかふってみたくなりますよね!」


まぁ一理あるけど……。

俺が逆の立場になってやる義理もないわけで。


「毎度毎度、金をせびるバカどもに言えよ。ちっとは奇抜な願い考えとけよって」

「真壁さんがそれ言います? あ、言えますね。初手で回数増やしは初めてです」

「三つだけって言われて鵜呑みにするほどバカじゃないんでな」

「そうですね、今まで見てきた常識的で謙虚な方々と違うことはわかりますー」

「だろ?」

「あははー。今のバカにしてるんですよー」


知ってるよ。

俺が常識も謙虚さも持ち合わせていない、欲まみれの俗物だといいたいんだろ。

なんとでも言え。

ただ俺は、無力であるがゆえに、欲望に対して敬虔で、思慮深かっただけだ。

だからこそ今、このチャンスを手に入れたわけで。

俺は胸を張って言える。


「俺はほかの奴と違う」


そう断言できる。

だって俺は、ずっと妄想し続けてきた。

もしドラ〇もんの道具が使えるのであればとか。

もし時をかける真壁ができるのであればとか。

もしランプの魔人が現れて、三つの願いを叶えてくれるのであればとか。

いつだって真剣に考えてきた。


「だから、間違っても初手で金をねだるようなことはしない」

「え、えっとー……」


女神は顔は笑っているが、明らかに困惑していた。


「さっきお金くれって言われたような……」

「そうじゃなくて。仮に願いが三つだけだったら、俺は絶対に金を願わなかった」

「え? どうしてです?」

「無駄だからだよ」

「んん?」


女神の顔から笑みが消えた。


「お金欲しくないんですか? お金あれば大抵の願い叶いますよ?」

「だからだよ」

「えっ?」

「それって裏を返せば、金じゃどうにもならないことがあるってことだろ?」

「そ、そうですけど……。それも含んでお金も願うのが定跡ですよ?」

「それが無駄なんだよ」

「えぇ……?」


どういうことかと、頭に疑問符を浮かべ、考え込む女神。


「極論、金は自力で手に入る。だから願うなら、金が手に入って、なおかつ自分がものにしたい能力を願うべきなんだよ」

「能力?」

「そう。例えば商才とか、幸運とか」

「…………あぁっ!!」


ようやく女神の中で合点がいったようだ。


「なるほどっ! そういうことですか! 能力を使ってお金を稼ぐわけですね!」

「そういうこと。商才なら商売で、幸運ならギャンブルでって感じに」

「そっかー! それなら一つの願いで二つ叶いますね!」

「二つじゃない。応用が利く能力なら、それだけの願いが叶ったも同然だ」

「確かに幸運なら、いろんな場面で発揮されそうです!」

「あぁ。それにアクシデントで金が消えても、能力が残ればまた稼げるしな」


実際金は危険だ。

持っていれば狙われるし、出所がわからなければ怪しまれる。

金を願うのであれば、本当はそういったリスクも含めて、慎重に考えなければならない。


「真壁さんすごいですっ! 確かに他の方とは違いますね!」

「だろ」

「私ですら考えたことなかったですもん! 法の抜け穴ですね!」


その表現があっているのかはともかくとして。


「でも俺の願いは無限だからな。そんな細かいこと気にする必要もない」

「確かにそうですねー! あ、でも真壁さんならどうしました?」

「うん?」

「願いが三つだったら、本当は何願ってたんです?」

「……どんな要求も相手にのませる能力、かな」

「おぉ……!」


それが一番応用が利くし、安全だ。

金は持ってるやつからもらえばいいし、贈与という合法の形が残る。


「でもそれ、後で『あれ?』ってならないんですか?」

「ならないように活用するんだよ。例えば大富豪にお金をもらいに行くときは、まず最初に『死ぬまで慈善家でいてください』と要求する。そしたらほら、お金を渡しても『あぁ、慈善家に目覚めたんだっけ』で収まるだろ」

「なるほど! 催眠術みたいですね!」

「まぁ実際それに近いな」

「通りすがりのJKにパンツ下ろさせるときは?」

「『君は露出狂だから』と要求してもいいし、前置きなしにいきなり下ろさせてもいい……」


前者なら『やだぁ……ばれちゃいました? さっきから脱ぎたくてしょうがなかったんです……』てな感じになるし。

後者なら『い、いやぁっ!? 嫌なのに、体が勝手に!?』てな感じになるし……。


「おいしい能力ですね」

「うん、美味しい……」

「じゃ早速、それ叶えますか?」

「まぁそんなあわてんなって」


さっそく要求の能力を手に入れるのも悪くないが、まずは気長に行こうと思う。

時間は腐るほどあるし、初めからチートを使いすぎてクソゲー化するのもよくないし。

もちろん後で好き放題やるつもりだけど、まずは先立つものが必要だ。

容姿とか、頭脳とか、金とか。


「話し戻すけど、金が欲しいんだよ俺は」

「いろいろ語っておいて結局はそこなんですね」

「あぁ、金大事だし、さっきつかみ損ねたし」

「さっき?」


そっか、箱から出てくる前に俺が何をしていたのか、女神は知らないのだ。

いちいち教えてやる必要もないけど。


「あぁ、賽銭箱をあさってた時ですね」

「って見てたのかよ!」

「みてましたよー、箱の隙間から。『ぶひぃ!ぶひぃ!』言いながら必死になってる姿」


そんなことは言っていない。

しかし、この女神は箱の中でも意識とかあるんだな。

何年封印されてたか知らないけど、きっと退屈だったろう。

そりゃネタの一つも言いたくなるわけだ。


「よかったですねー真壁さん。さっきはちんけな金に必死になってましたけど、今度はいくらでも手に入りますよ~?」

「わかったから、ちょくちょく煽るのやめろ、腹立つ」

「あ、すいません、癖でして」

「ったく、本当に女神かよ……。箱に引きこもって性格歪んだんじゃねーかこいつ……」

「ご、ごめんですってばー! 気を取り直してお金出しましょ? あ、願う額で底をはかったりしませんから」


嘘つけ、絶対はかる気だゾ、こいつ。

ならもう、俺も遠慮なくいこう。元からしてなかったけど。

俺は長年温めてきた夢を実現に移す。


「じゃ気が済むまで出してくれ。束じゃなくてバラで」

「……はい?」


要領を得ない様子の女神。

俺は言い切る。上空を指さして、高々と。


「降らせろよ、金の雨。金の雨が見たい」

「え、えっとぉ……えぇ!?」


何をしてほしいのか理解した女神は、眉を吊り上げ語気を荒げる。


「お金をばらまくってことですか? ポンと出せばいいだけのところを、わざわざ降らせるってことですか!?」

「そうだ」

「つ、罪深い! そんな行動に意味なんてあるのですか!?」

「意味なんて……あるわけないよ! ありえないっ!!」


俺は力強く言った。


「ただ俺は、金の雨が見たいだけだ!!!」


女神はポカンとしている。

前々から思っていた。

蛇口から、水じゃなくてコーラが出ればいいのにとか。

腋汗が異性を惹きつけるフェロモンだったらいいのにとか。

雨や雪の代わりに金が降ればいいのにとか。

ほら、純真だろ?


「あなた……ほんっっっとに低俗ですね! 大事なお金を、遊びに使うなんて!!」


しかし女神にはわからないようだ。

こんな奴にも規律とか倫理観は残っているのだろうか。

くだらない……。そんなものに押し付けられて、じゃあこの衝動はどこへ行く?

抱えたまま生きろっていうのか?

何もかもが思い通りに行く力が手に入ったというのに……?


「なんとでも言えよ」


俺は、毅然とした態度で女神を見据える。


「い、いいますよ!」


女神も臆せず睨み返していた。


「そんなの、そんなの……!」


何を言われようが、俺の潔癖で無垢な心には響かないだろう。

この欲望は、倫理観なんて薄っぺらい毒に汚されるほど濁ってなんか――。


「……すきです」


ない――えぇぇええ!!!?


「大好きです!!」

「えぇぇええ!!!?」


心の声がそっくりそのまま口に出るほど、俺は驚愕していた。

マジで? 落ちるの早くね? 

俺まだ女が勝手に落ちるフェロモンの自動分泌とか、お願いしていないけど……。


「う、うれしいよ。えっと、そのぉ……どこら辺が?」


俺はたどたどしく聞いてみる。


「どこら辺って、全部ですよ!」

「そ、そぉ? でも具体的に言ってもらえると嬉しいかも」

「うーん、強いて言えば悪っぽいところとかー?」


もじもじしながら女神が答える。


「ほら、女の子って、悪っぽいものに惹かれやすいっていうじゃないですかー」

「落ちたな」

「どちらかというと落とす形ですね」

「ちょろいもんだぜ」

「もー、なんだって言ってくれていいです! とにかくその……わたし、あなたでよかったです!」


あーこれは間違いない。

俺の中の何かが、この子のアンテナに引っかかっちゃったんだわ。

恋って、往々にしてそういうものだからな。

俺にも経験がある。

学校休んだ日にプリントをポストに突っ込んでもらったり、修学旅行の班分けで余ったところを呼んでもらったり。

そういう何気ないところから、急に始まったりするものなんだ、恋は。


「付き合ってくれ」

「嫌です」


だからたまに勘違いもある。

『え? 私たまたま家が真壁君と近かったから、無理やり押し付けられて……』とか。

『だって、真壁をのけ者にするなって言う先生と目が合っちゃって……』とか。

どっちも『本当は嫌だったんだけど』って、本人の前で言うことじゃないよね、それ。

でも大丈夫。そういう勘違い経験が豊富だから、勘違いだった時の対応も慣れたものだ。


「あ? もしかして勘違いしてますー? 好きなのは真壁さんのその発想で、別に真壁さん本人はどうとも思ってないですよー」

「……よかったー! そう言ってもらえて!」

「えっ」


俺はわざとらしく両手を上げて、喜んで見せる。


「いやー! OKもらったらどうしようかと思ってたよー! あーマサヒコの罰ゲーム、きっついなー!」

「マサヒコって誰ですか?」

「こんなことならマサヒコと賭けなんかしなければよかったー。もしOKもらっちゃったら大変だしー。マサヒコほんと悪質ー。ごめんねー? あとで二人で抗議しに行こ」

「いいですよ? 行きます?」


しかしこの技は諸刃の剣だ。

俺にマサヒコなんて友達はいないが、たまに違うクラスだったり、違う学年のマサヒコが聞きつけて、俺をボコりに来る。

そんなマサヒコと、俺が告った女の子が、その場で結ばれるのを見たこともある。

『いってー……けど、約束は果たしたぜ、マサヒコ』

なんてニヒルを気取って立ち去るのだ。ここら辺までテンプレ。


「まぁマサヒコの話は置いといて」

「置かないでくださいよ。マサヒコさんのところに抗議しに行きましょ?」


そしてこの女神は、マサヒコを追及してくる。


「うーん、金。お金ふらそ?」

「はい、でも先にマサヒコさんとのわだかまりを解かないと、気持ちよく出せないんじゃ――」

「あーマサヒコはね、転校したよ。その罰ゲームだけ俺に残して。だからもう会えない」

「じゃ呼びますか、マサヒコさん」


そういって、女神が指を上げる。

先ほどと同じように、そこに光の筋が浮き上がる。

しまった、こいつ女神だった……。


「わー!! マサヒコは死んだんだ!! 引っ越し中にトラックが事故って……」

「じゃ蘇生にしますねー」

「だめだめっ!! 安らかに眠らせてあげて!! マサヒコもそれ望んでる!!」

「そうですかねー、不慮の事故ならさぞかし無念と思うのですが……」

「うん、でも生前言ってたから! 何人たりともオレの眠りを妨げる奴は許さんって!」

「それカエデ君ですよね?」

「いやいやマサヒコだよ!! カエデの方がパクったの!!」

「じゃ本当にパクったのか集英社に聞きに行って、まずそこを正してからマサヒコを――」

「あぁっ!! もういいよバカ!!」


俺は耐え切れずブチギレた。


「いねーよマサヒコなんて!! ただの俺の勘違いだバカ!!」

「ま、真壁さん……?」


それはもう見事な逆切れに、女神は申し訳なさそうになっていた。


「思うじゃん!! ちょっとかわいい子に好きですとか言われたら、俺のことかなって!!」

「そ、そうですね……」

「思春期じゃん俺!! こんなところで二人っきりだし、結構運命的な出会いだったじゃん!!」

「真壁さん……!」


あたふたと、どうしていいかわからない様な女神の姿を見て、俺の頭も少しだけ冷える。

でも、もとはと言えば女神が悪い。

そうやって、思わせぶりな言動で、俺の心をたぶらかすのだから。

何が女神だ……小悪魔じゃねーか! 畜生。

俺は神社の階段に腰かけて、頭を抱えた。


「……だっせーな、俺」


そう呟きたくもなる。しかしキレざるを得なかったのだ。

この期に及んでは、どんなに惨めさが積み重なろうと、キレて主張を爆発させなければ、自分を保っていられない。

けど惨めさは、こうして遅れてやってくる。

あぁくそ、叶えたいことたくさんあるのに、どうしよう。

俺、どんな顔して女神を見ればいいのかわからないや……。


「真壁さん……」


そんな俺の姿を見て、女神が手を差し伸べる。


「わ、私も悪かったですよ……。ほら、仲直りしましょ?」

「一人にしてくれ……」

「うー、機嫌直してくださいよー。ほら私、真壁さんに好意は持ってませんけど、共感はしてますから、ね?」

「だから何だよぉ……あっち行けよー、そんで一時間ぐらいしたら戻ってきて。これ"お願い"ね」

「えっとぉ……。一人にしてほしいけど、機嫌治ったら戻って願い叶えて欲しいってことですか? あ、でも私に関するお願いは無効ですよ。予めご了承を……」


なんだそれ、何でもじゃねーじゃん。

しかしもう、怒る気にもなれない。

俺はただ、己の欲望を叶えたいだけだ。

せっかく手に入った力を、存分に使って楽しもうと思ってたのに……。

なのにいきなり躓いた。

それも、力を使うのに欠かせない女神の前で、大恥をかいた。

だからって彼女を突き放したらそれまでだ。

だからちょっと頭冷やして、傷を癒したかっただけなのに……

それさえできないだなんて、あんまりじゃないか……。


「あぁ、見たかったなぁ……お金の雨……」


どっか行けと言っても聞かない女神が、俺のそばでそう呟く。


「私ね、思うんです。純粋に、お金が空を泳いでたら、綺麗だなーって。だから真壁さんの発想に、つい共感しちゃって……。そしたら、つい主語が抜けて、思ってることだけ口に出ちゃって――」

「お、お前…………」


俺は立ち上がり、その女神の肩をがしっと掴んだ。


「ま、真壁さん……?」

「話が分かるじゃねぇか!!」

「え、えぇ!?」

「絶対綺麗だよな、金の雨!」

「は……はい!!」


機嫌治った。共感してくれる奴が見つかって、一発で。


「ドラマとかで見てさー! 生で見てみたいと思ってたんだよなー!」

「わかりますー! 私もお金出すたびに、うわなんでこの人降らせないんだろ……って思ってましたもんー!」

「だよなー! 降らせないなんておかしいよなー!」

「はい! 札束風呂とかもいいですけど、まずは雨ですよねー!」


物わかりのいい女神に、すっかり意気投合してしまった。


「ほら、早速やろうぜ! 金の雨浴びて、ショーシャンクの空になろうぜ!」

「いいですねー! ざぶざぶ行きますよー!」


そういって女神は、はしゃぎながら境内の広い場所へ走り、また指を天に向ける。

そして指先から延びる光の筋。

今度はそれは、光球にならず、天空に輪を織りなしていく。


「おーすげ! 天使の輪みたいだ……」

「すごいのはこれからですよー? 準備はいいですか?」

「いいぞー! やれ!」

「いきまーす!」


そしてその輪から、紙切れが出現する――。


今夜は月が綺麗に出ている。境内に鳥居の影を落とすほどに。

そんななか、紙切れは風に揺らめきながら、地面に小さな影をおとす。

ひらり、ひらりと、風をはらんで落下して、やがて落とした影と一つになる。

地に落ちたその紙きれを、月明かりが照らす。

浮かび上がる肖像は、とてもなじみ深い文化人――福沢諭吉。


「か、か……」


上を見やる。

月にモザイクがかかったように、紙切れが優雅に空を覆っている。

それ全て、福沢諭吉。


「金だぁぁぁぁあああああ!!」


俺は血相を変える。

賽銭箱の時とは比べ物にならないような形相で、必死に手を伸ばし、ジャンプし、諭吉をかき集める。


「金ッ! 金ッ!! 金ェッ!!! マジ出た! すげー出た!! いっぱい出たっ!!!」

「あっははは!! 真壁さん! ノリノリじゃないですかー!!」


女神の言葉など耳に届かない。

それぐらい、俺は金をかき集めるのに必死だ。


「2諭吉!! 3諭吉!! やったぜビータ!! まってろVR!!」

「なんですかそれー!! きゃははは!!」

「5諭吉! 6諭吉! いったれ100連ガチャァァアアア!!」

「あっははは!! 真壁さんおもしろすぎぃ!!」


我を忘れて金をかき集めるさまを、月とお稲荷様だけが見ていた。

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