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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
1章 都市連合
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約束、守ってね

この世界の乗り物の乗り心地と言うものは、正直行って津宮に劣っていると、柚姫は揺れる車内でそう確信した。いくら乗り心地を重視しない軍用車両とは言え、舗装されていない道を走行するこの装甲車両が尻に伝える振動は明らかに緩和されていない。


都市を出て数時間、都市を囲む壁を出ると、見渡す限り大自然が広がっている。ユーミの説明によると、都市連合は基本、魔物や凶悪な獣が闊歩するエリアに全ての都市があるらしく、都市間移動の為の整備は昔に打ち切られたとのこと。


人や物の移動には輸送車を護衛の傭兵に守らせながらする。だから傭兵は都市連合では斡旋所があるほどの存在だと、ユーミが教えてくれた。


彼の世話を引き受けたユーミだが、彼女は柚姫との接触を最低限に留めるようにしか立ち回らなかった。乗車の際に手を繋いだが、その時共有出来たのは視界だけで、思考等は共有できなかった。理由は分かる。彼女が柚姫に対してマインドコントロール系統の能力に抵抗するようにと、強く意識しているから。


柚姫の力はあくまでも共有。相手が拒否していたら共有なんて出来ない。ただ、視界に関しては、まさか視界を共有されていると考えていないからだろう、抵抗する意識が無いからすんなりと共有出来た。


これでは、ユーミのこの都市間移動の真意をこっそり知ることが出来ないではないか。かと言って直接聞こうにも、彼女は上面ハッチから身をのりだし、屋根にマウントされている重機関銃を握っているし、残りの傭兵二人もライフルを装備して、小窓から側面を監視している。


見事に避けられている。そう感じるが、露骨にこちらから仕掛けるのも警戒されそうなので、柚姫は関わらないことにした。何か起きたときに対応すればいい。その心構えだけでも違うだろう。


 運転席にいるレティアは久しぶりの知り合いとの会話を弾ませている。その会話を聞きながら、柚姫は小さく息を吐く。


 会話もなく、視界も無い。生まれつきの盲目だからある程度はなれていたつもりだが、何かこう、隔離されているように感じてしまう。


 「さて。目的地であるミッドラルですが」


 しばらくは脅威が現われない。そう判断したユーミが車内に戻りそう柚姫に話し掛けて来た。


 「屋敷の確保は致しました。夜間の移動は危険なので野営、明日の昼までには到着します。それまでには人員の手配も終了します」


 「ありがとう。手際がいいね」


 「あなたに屋敷の手配をすると言う手札を用意している時点で、手持ちはあるのですよ」


 ユーミは備え付けの座席に座り、


 「あと一時間ほど走ってから今夜の野営の準備としましょう。この規模の夜間移動は奇襲に対応しきれませんから」


 柚姫と、そして運転席にレティアにそう言った。


 そして、宣言どおり約一時間後、程よく開けた空き地に装甲車を停車させ、野営の準備となった。


 「おう、レティア。お前は主人の世話でもしておけ。準備はこっちでするさ」


 傭兵のリーダーであるゼーファがそうレティアに指示を出す。それを受け、レティアが柚姫を作業の邪魔にならない場所へと誘導する。


 「もうすぐ夜なの?」


 「日没にはまだ少し時間がある。だがまぁ、何事も時間の余裕は必要さ」


 「そうだね。それと、昔の仲間との会話、どうだった?」


 「楽しかったさ。奴隷、いや、娼婦になる前の生活が楽しかったと、思い出した」


 その返答の声音は本当に楽しいと思わせるのに十分だった。


 「だからって、僕を殺して自由になって、ゼーファさん達のところに戻ろうなんて思ってないよね?」


 「…………しないさ。約束だからな」


 不安になってしまう間を置いて、彼女は昨夜したばかりの約束を持ち出し、柚姫に対しての殺意を否定した。彼女が約束を持ち出した以上、柚姫はこれ以上レティアを疑うのは気が引けるのだが、


 「ねぇ、レティア。僕が寝ている間、ユーミに何か……」


 言われなかったか?そう尋ねようと思ったが、まるでタイミングを計ったかのようにユーミが近寄ってきた。


 「私が何か?」


 完璧に話すタイミングを外された柚姫は首を横に振り、何も無いとジェスチャーした。よくメイドは神出鬼没が必須スキルと創作物で言われるが、ユーミを初めとしたこの姫の近衛であるメイド軍団はそのスキルを習得しているのではないかと思いたくなる。


 「そうですか。では、野営の設営が終わるまでお待ちを」


 すたすたと、こんな木と土と岩しかない荒野ともいえる場所をメイド服で歩くユーミを見送り、柚姫は再度レティアに問いかけようとしたが、ユーミの視線を感じた気がして止めた。だから、今度は単に気になったことを聞いてみる。


 「そう言えばさ、ここまでの道のりで僕達以外のグループはいなかったね。都市付近には色んなエンジン音が聞こえていたけど、途中からまるで僕らが一団から離れたようだったけど……道間違ってない?」


 この世界のエンジンと言うものも、柚姫の世界のエンジンと同じくそれなりの音がするものだ。盲目の柚姫でも、自分達が単独で動いていることに気付いている。


 「都市連合の都市間移動に道なんてないさ。特に傭兵は自分なりの移動経路ってもんを持っていてな。今のルートは私がまだゼーファと傭兵やってたころから使っていた経路だ。確かに一般的なルートから外れているが、こうして休むのに良い場所や、水場、都市に満たない小規模な街を経由したりと融通の利く経路だ。安心しろ」


 確かにと柚姫は思う。道なんて整備されていないこの荒野に、道順なんてへったくれも無い。どうもまだ、自分がいた世界のことを基準に考えてしまいがちだ、注意しないといけない。


 野営設営が完了するのに、それほど時間は有しなかった。と言うのも、一泊するだけの行程のためテントなどを設置することは無く、簡易的な調理器具と照明器具のみ。夜は車両の座席で過ごすという。そして食事は携帯食料。だが幸いな事にその食事はスナック菓子みたいなものでは無く、湯煎などを行うタイプで温かい食事だった。


日が沈み、光源がランタンだけとなったころ、柚姫は大きな欠伸をした。


 「どうした?眠たいのか?」


 横に座っていたレティアがその欠伸に気付き尋ねて来る。


 「昼まで寝てたのに、無性に眠たいよ。先に寝てて良い?」


 「違う世界から来て環境が変わって知らず緊張してるんだろ。ゆっくり休め」


 そう彼女に言われ、その言葉に甘える形で装甲車の座席まで連れていってもらう。座席のシートは硬いが、それが気にならないほど睡魔に襲われている柚姫。そんな中でも、彼は最後にもう一度尋ねた。


 「約束、守ってね」

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