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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
2章 宗教国家エクシオン
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銀と牙

 エル所有の別荘の庭。彼女自身があまり興味がないのか、芝生と僅かな花しかないそこが、オブサーバーの人狼が指定した話し合いの場所だった。


 (私を交えて話がしたい。文字通りとは行かないと思っていたさ)


 人狼の話がしたいと言う要望はおそらく肉体言語を使った話し合いだと予想はしていた銀百合。ハーミングが余興と言いはじめた時点でそれは確信に変わった。


 応接間から庭に場所を移した一行と、隣室等で待機していた待機組が合流。朧が柚姫のエスコートを引き受けたため、レティアは当然のように妹のそばに寄る。


 「朧さんですね。お久しぶりです」


 津宮での柚姫の仕事の巡回に付き添うことの多い朧。美夏も彼女のことは顔見知り程度である。ただ、あの虚ろな瞳と左右前後非対称な髪型から、積極的に会話をしたことは無い。


 「久しぶりだな。柚姫がお世話になったようで。感謝します」


 そして会話した所で、この特徴的な変な口調での会話になる。普通の女子学生が朧相手に普通に会話できたなら、それは余程の肝っ玉と会話スキルを持った将来大物になるような女子学生だ。


 柚姫たちギャラリーから少し離れたところで、人狼二人が対峙していた。


 「こうして違う世界で同胞と合間見えるとは思ってもいなかった。俺は耀牙ようがと言う。お前は、その腰の妖刀、穿一尖うがちいっせんからして大隅の狼か?」


 この世界にいた見た目は壮年の人狼、耀牙は少年のように名乗る。対して銀百合は彼の名前を聞き、本人の目の前だと言うのに嫌そうな表情で、


 「残念。お前がいつの時代の人狼かは知らないが、今の大隅と狼は訳ありでね。白崎 銀百合だ。やはりと思っていたがお前牙か」


 人狼の名前には意味がある。まず人狼は姓を持たない。姓を持つのは誰かに自らの意思で仕えたときのみ。次に名。こちらも特別な意味を持つ。生まれた時に名が与えられるが、成人になった時の能力で名が変わるときがある。個々の能力全てが他者より高い水準にあることが前提だが武官として優れていたら狼を、文官として優れていたら銀の名前が入った名に改名する。


 そして、津宮には二大家と呼ばれる一族がある。今は既に権力を失い、津宮の象徴の存在として存在する将軍家と、それを補佐する文官の藤林と武官の大隅の二大家。その当主に狼と銀の名前を持つ人狼は仕える。


 今、藤林には銀百合の姉が仕えているが、大隅は取り潰しとなり、仕えていた狼は今は獄中にいる。その狼から銀百合妖刀を譲り受けた。それが穿一閃であり、それを持つことは大隅に仕えていることを指す。だから耀牙は銀百合を大隅と勘違いした。


 狼と銀が個人の能力を評価するものとしたら、牙と言う名前は生き様を表す名だ。牙がつく人狼は基本、戦闘が好きで仕方ない人狼だ。津宮の妖怪である以上、津宮と白崎には敵対することは滅多に無いが、戦いを求め傭兵として世界各地を渡り歩く者もいる。


 銀百合が嫌な顔をするのが、彼らは人狼と出会うと挨拶をするように戦いを仕掛けてくる。喧嘩を吹っ掛けているようだが、牙からしたら「こんにちは、いい天気ですね」と同じ意味を持っている。無論、時と場所等は考慮するが、耀牙は異世界人の戦力評価の名目でハーミング達から許可を貰っている。つまり合法的に、懐かしの同胞と『あいさつ』が出来るのだ。


 「その訳ありとやら、この後ゆっくり聞かせて貰おうか」


 耀牙がそう言うとのと、座標のずれを使った移動を行ったのは同時だった。


 (やはりな)


 開始の合図なくしてやりあうことになることは予想していた銀百合。見た目は楽な体勢をしているが、その実はしっかりと構えていた彼女がしたことは、腰のベルトにぶらさげず手で持っていた刀、穿一尖を鞘に入れたまま逆手で振りぬくことだ。


 手ごたえはある。つまりは耀牙に当たったことを意味する。現に鞘は耀牙が抜刀しようとしていた右前腕を打撃している。座標移動は銀百合自身も使用する、人狼にしてみれば基本的な移動技。なので、相手の移動タイミング、出現場所を予想し最小限の動作でカウンターをいれることは簡単なこと。銀百合自身はそうだが、普通の人狼にしてみれば高難易度である。彼女が銀の名前を持つから当たり前のように行えているだけ。


 先制したはずがカウンターを入れられ初手を潰された耀牙。彼が次の動きを行う前に、銀百合は踏み込んでいた彼の左足の脛を右足で狙う。これ以上はペースにのせらると判断し、仕切りなおしの意味を込めて耀牙は後ろに回避する。


 「流石は銀の名前は伊達ではないということか。まぁ、別になめてかかった訳じゃないが手厳しいな」


 「なら諦めるか?いや、諦めろ。私は牙を名乗るものがあまり好きじゃない」


 銀百合が耀牙に対して嫌そうな顔をしていたのは、彼らの挨拶が億劫なのが理由ではない。牙を名乗る者自身が、彼女にしてみればストレスの要素でしかない。


 「いや、せっかく同胞と、それも銀と戦えるのだ。この一度駆け引き終わるのはもったいない」


 そういう耀牙の目に、銀百合はあぁ、と小さく息を吐いた。久しぶりに純粋な興味を持った牙の目を見たような気がすると。鞘から刀を引き抜き構える彼を見て、


 「付き合ってやる。けど一度きりだけだぞ」


 穿一尖を朧の足元に向かって滑らせた。


 「子供を貸してくれ」


 耀牙の武器は刀。おそらくは何の特別な力も無い刀。対する銀百合の穿一尖は妖刀。それが妖刀と呼ばれる所以は絶対に壊れないからだ。どんな馬鹿力で金属の塊にぶつけても刃こぼれすらしない。シンプルな能力だが、これを銀百合に譲った大隅の狼は絶対に刀が壊れないことを言いことに、馬鹿力を繊細にコントロールし戦車を綺麗に切断していた。銀百合にそんな芸当は出来ないが、人狼の力で刀をぶつけ合うと、耀牙の刀が折れるのは目に見えている。大きなハンデになると思ったからこそ、銀百合はコピー品を作れる以外は普通の刀である親子切のコピーを要求した。

 

 「他人の短刀だが、全く知らない得物ではないさ」


 朧から投げて寄越された短刀を危なげなく柄でキャッチした銀百合は調子を確かめるように素振りをした後に停止。僅かな静止の時間を置いた後に、今度は彼女から動いた。座標ずれは使わない。理由は得物が短刀だから。己の足で動き、勢いを乗せた上での刺突。対して耀牙は半身を引いて回避、勢いで流れる銀百合にカウンターの斬撃を見舞うつもりだったが、彼女がそんなありふれた反撃を貰うはずも無く、流れる体を筋力で強引に静止させてからの再度の刺突。


 銀百合の今の戦闘スタイルは、短刀のリーチの短さを欠点とせず利点としたものだ。普段は連撃や次の攻めや防御に転ずるために体の流れや勢いを使うものだが、今回は強引に流れを止め、最短で次の攻めを行うことで相手に防戦を強いるものだ。もちろん、こんな戦い方は銀百合は普段絶対にしない。無駄に手の内をさらさないようにするために、わざと慣れないことをしている。


 (まぁ、慣れないけど、苦手じゃない)


 自分の筋力にものを言わせる体裁きを無視した連撃に遥牙は避けの手のみ。理由は簡単だ。人狼の力で振るわれる一撃を刀で受け止め、いくらそれを滑らせて流そうとも、普通の刀では簡単に折れてしまうから。だからどうやって刀を使わず相手の流れを止めるかになってくる。


 「っと」


 刺突のために伸びた銀百合の腕の内側に耀牙は潜り込むと鎖骨の間を狙う肘打ちを繰り出す。本音としては胸の中心を狙いたかったが、銀百合の胸はかなり大きい。気を遣ったというよりは、打撃の衝撃を上手く人体の硬い部分に伝えることが出来ないと思ったためだ。もしかしたら出来るかも知れないが、彼自身、超がつくほど大きな胸の相手と戦ったことがない故の無難な選択。


 対して銀百合は流れて自ら肘打ちに流れていく体を強引にとめて後ろに下がろうとするが、出された肘の手には刀があることを認識して、


 (退いたらあれがくるか)


 だがあえて体を退いた。ただ後ろに下がるのではなく、もっとも突き出している右半身を優先的に下げる。肘打ちはそれで回避出来たが、畳まれている肘が開くことで回避した先にちょうど刀が迫る格好となる。だが銀百合は左半身を残すような回避をしている。得物を持っていない左手で、耀牙の右腕を掴むことで、刀は彼女には届かない。しまったという耀牙の顔を見てから、彼女は彼を引き寄せる。無論、耀牙は抵抗するが、銀百合の力に抗うことが出来ずに上半身を差し出す形になってしまい、親子切が喉元に当てられたのは言うまでもない。


 

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