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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
2章 宗教国家エクシオン
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面会は簡単に

 「いいですよ。あぁ、自己紹介はまだですね。白崎柚姫です。そこの神宮寺さんと同じ学生ではないですが、仕事関係で少し面識がありまして」


 話の主導権をとる意味をこめての先手の自己紹介。椅子の距離が離れているため握手は出来ないが、サエの情報を把握しているなら手を握ることはないだろう。


 「これは失礼した。エクシオン軍中央統括所属のハーミング・ウィンストだ。都市連合では部下が世話になったようで。礼を言いたい」


 部下とはサエとエルのことだろう。なるほど、勇者に近い場所にいる彼だから彼女達の派遣が早かったのだろう。しかし、彼女達の諜報機関の本体が軍だというのは予想外だった。てっきり政府機関関連の諜報部だと思っていた。

 

 「こちらこそ、彼女達には世話になりましたよ。それで、お聞きしたいこととは?」


 「君のステータスと、実際の力についてだ。実は私も召喚の現場にはいて、君のステータスは直接確認出来ている。しかしだ、君は勇者を圧倒し、盲目とは思えないほど自由に動き、そしてエルの読心にカウンターをしたと報告されている。事実かな?」


 報告されたのだから誤魔化す必要はない。


 「事実ですよ。僕がこの世界で行っていること全ては、私の元の世界でも行えていたことです。決してこの世界にきてできる様になったものはありませんよ。勿論、盲目なのは生まれつきで、この目は生まれてこの方、何かを映したことは皆無です」


 「君の世界では、こちらの勇者のような力が使える人がいると?」


 「極々少数ですがゼロではないですよ。ですがまぁ、あなた方も気付いているかも知れませんが、僕が勇者を圧倒出来たのは僕が特別な力を持っていることが全てではありませんよ」


 一度、レティアの視界でハーミングを見ると、続きをどうぞと言わんばかりだったので、ほんの一間置いてから、


 「純粋に経験不足です。戦い方をまるで知っていない。その弱さをステータスという数値で補っているだけです」


 結局、都市連合での戦闘は柚姫が戦い方を知っていた。それに終結する。メイドとの戦闘も、勇者との戦闘も彼およびその周囲の人物が戦うことを仕事としており、戦い方の基礎や応用を身につけた状態で、個々の特殊な力を行使している。決して勇者のように得た力を振り回しているのではない。無論、勇者の中には誰かを師範として武術などの戦い方を学ぶだろうが、こちとらは物心ついた時には妖怪等をぶん殴る生き方をしている。付け焼刃の技術に負ける気はしない。


 「やはりそうか。それはこの国の勇者にも言えることか」


 ハーミングのその返事を質問の区切りとしたのか、今度は背広の男、つまりは政府機関関係者が口を開く。


 「外交省所属のバネンと言う。次は私から質問したいのだが」


 外交省。この国の政府機関は無知に等しいが、言葉からすれば外交を担う部署の恐らくは官僚だろう。ハーミングが軍の中で主要な地位の人物なのに、このバネンと言う男は官僚。この地位の差をどう捉えるべきか。そう柚姫が思考共有で投げかける。


 (気楽に捉えるなら急な面会で大臣等の予定が合わなかった。身構えるなら、官僚を先に寄越し実務的な話を詰めに来た、だな)


 真っ先に返事をしたのはカイだった。カイは自分はストリートチルドレンで学はないと良く口にするが、彼が経験した先の異世界騒動で相当な人脈が出来ている。その中に政治家見習いのお嬢様もおり、その影響で知識は入ってきている。この回答もその知識から引っ張りだしてきたものだろう。


 (私もそう思う。思うが確認だ。レティア、エクシオンは政治家は国民の選挙で選ばれているか?)


 銀百合からの問いに、


 (あー、たぶん。そうだったと思うが……)


 あいまいな答え方のレティア。それをフォローするように妹のエフィーが答える。


 (深読みした回答ならすみませんが、銀百合さんの言うとおり、エクシオンは議会制で選挙により議員を選出しています。勿論、その選挙の結果や政略によって大臣は変わりますが、大臣の下の官僚は議会の派閥勢力の大きな変化がない限り普遍です。この世界の議会制の国は基本、その構造だと思ってもらえれば良いと思います)


 妹の方が立派な回答をしたのには理由がある。レティアが元々奴隷となった理由は前回の勇者に歯向かったからで、それ故に財産の没収などはされていない。そして彼女は傭兵時代に稼いだ金で妹には学校に通わせていた。だからエフィーが姉より学があるのは当然といえる。


 (いや、深読み所かベストな答えだ。外交の部門から来ていることから、まぁ都市連合への外交材料の収集だろうが、同時に私らの脅威度合いの判断材料集めでもあるだろうな)


 要するに面倒な奴と言うことだ。銀百合はそう簡単にまとめだが、その面倒な奴と面向かって話すのは柚姫だ。


 「質問の前に事実確認だが、柚姫さんは召喚され、あなたの仲間は召喚では無く意図的にこちらの世界に来た。間違いないか?」


 「そのとおり」


 これはサエとエルが証言者のため嘘はつけない。白崎が異世界渡航の技術を持っていることを初手で知られたのは決して良いことではないが、この世界で孤立していた柚姫に気の知れた仲間と合流し、津宮で異世界関連に関しての抜きん出ている魔女のバックアップを受けれることにしてみれば些細なマイナス要素である。


 「では、あなたの目的は何だ?」


 続いての質問。随分と答えに幅を持たせることの出来る質問を投げかけて来たもんだと、柚姫を初め白崎陣営はそう思う。だから簡潔明瞭に答える。柚姫、しいて言えば白崎の起こす行動の根っこは唯一つ。


 「津宮に被害を出さないこと」


 「津宮。君達の国だね。なるほど、自国の人間が異世界に飛ばされないようにすることが目的だと?」


 バネンが柚姫の答えからそう尋ね返す。確かに柚姫の言葉だけを素直に受ければそう捉えられるだろう。だが、白崎にしてみれば津宮は国だけではなく、別の意味を持つ。それを説明したのは美夏だ。


 「白崎さんにとっての津宮は国では無く私達の国をはるか昔に創った神様を指します。先ほどの回答はその神様が創った国土と人民だから国としての津宮も守る対象かもしれませんが、真の意味では神様に被害を出さないということです。合ってますよね?」


 「そのとおりだよ」


 神様。そう言って信じる人は少ないだろうが、津宮という神様はいる。いるから椿姫がいて、柚姫が生まれた。


 「神様ねぇ」


 バネンは胡散臭そう言うが、あなたはこの宗教国家の人間だろう、神と言ってその態度はどうかと思う。もしくは宗教と言う言葉でとある神様を主とした教えと早とちりしていただけだろうか。この辺りは後でエルに聞くとしよう。


 「では答えの幅を狭めよう。君はエクシオンの敵か味方、どちらだ?」


 「どちらにでもなる。と、言っておこうかな」


 ここで柚姫は返答をやめるつもりだったが、人狼の男が少し嬉しそうにしたのが確認出来たため言葉を継ぎ足す。


 「だけど進んであなた達の敵になるつもりはないですよ。そこのサエさん、神宮寺さんやエルには世話になったことですし、少なくとも現時点では味方とは言い切りませんが、マイナスになるように動くつもりはないですよ」


 (無難な答えだな)


 銀百合が思考共有で、柚姫の返答を評価する。どちらにでもなる、これは未だこの異世界について不明な点が多いが故に敵味方を判別出来ないということを言い換えた形だ。嘘は言っていない。継ぎ足した部分は柚姫の個人的な意見だが、活動拠点も決まっていない今、敵を無意味に作る必要はないし味方と言い切ってしまえばこのエクシオンに縛られることとなる。あくまで世話になったから敵対しないだけで、そちらが下手な行動をすれば知らないぞ。そういう立場表明だ。

 

「そうか。君のことは大まかには理解した。世界が違う君の全てはそう簡単に理解は出来ないだろうが、今はこれぐらいでも十分だ」


 エクシオンの今回の目的は柚姫達の大まかな人柄や目的を知ること。今のやり取りで悪い印象は与えていないと断言出来る。しかし問題は次の相手、司祭だ。宗教関係の人物が相手の第一印象を決める際に基準とするのは己の信仰だ。それは柚姫の偏見であるが、宗教関係者は基本面倒臭い。さて、この司祭はどうやら。見た目は生真面目そうな青年だが、


 「いえ、私からは何も」


 何も質問することなく立ち上がり、そくさくと部屋を出て行ってしまう。感じが悪いなぁと思う一方で、面倒な会話をしなくて済んだとホッとする柚姫もいる。だが本当に面倒なのは、護衛だと言うのに一緒に出て行かなかった人狼だ。


 「そうだな。形式張った面会はこれまでとして、勇者ではない異世界人の戦いでも見ようか。その間にバネン君が中央とやり取りをしてくれるだろう。何、エル君に頼んで今夜ここで懇親会を開いて貰おうと思っていてな。それまでの余興だ」


 ハーミングが軍人としての興味からか、止めるともりはないらしい。一応試しにサエを見てみるが、オブサーバーの立場を守るらしく発言はしない。


 (がんばれ、銀百合)


 これが柚姫に出来たことだ。

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