わざとでしょ?
召喚された勇者のスカウト。柚姫自身未だ実感出来ていないが、勇者は魔王に対抗するために呼ばれた存在。言ってしまえば国を守るための兵器でもある。その場に国の政府機関の他に軍関係者などが同席するのは許容出来る範囲だが、エルが言う事がただしかったら宗教組織が同席する納得出来る理由がない。納得は出来ないがしっくりくる理由としては、
(示威行為のための広告塔探すため、ですかね。いや、スカウトの席に座ること自体が政府機関と同等と内外に知らしめていると言うべきか)
朧が考えるとおりだろう。だが、それだけでは政府機関と宗教組織が対立しているかどうか判別が出来ない。柚姫がそのことについて尋ねようとして、
「美夏との面会。それで宗教、政治、勇者の関係がわかるんじゃないかな。うすうす思っていたでしょ?単純にお茶飲んでおしゃべりして終了で終わらないだろって」
ちょうどタイミング良くエルが補足してくれた。だが彼女は答えを明言するのではなく、実際に感じろと言う。
(俺、欠席していいか?)
カイが聞く。柚姫は小難しい話をする訳ではないため彼を出席させようとしていたが、その前提が崩れそうなので無理やり参加させる訳にはいかない。銀百合と今この思考共有の場に所用で参加していない先行メンバーの魔女は、身体に獣の特徴があるため人前にあまり出すべきではないし、朧はあの虚ろそうな瞳が人によっては最悪の印象を与えるため却下。となるとエフィーとレテァイしか残らないが、年齢から考えるとレティアが適任だろう。エルやサエも柚姫がレティアをこの世界での盲目のハンディキャップを補うために、奴隷として契約しているのは上層部に報告していると言っているため、面会の場にいてもおかしくはない。
(いいよ。レティアに変わってもらうから)
(その場にいるだけでいいなら)
(構わないよ。目が欲しいだけだから)
そう。面会に同席者を欲したのはあくまで視界確保のためだ。美夏から得られる情報の吟味は今みたいにリアルタイムで思考共有で行えば良い。
「それとね、この面会であなた達の今後が決まると思うよ。今私の別荘にいるのは監禁みたいなものだしね。ステータス詐欺の勇者と召喚していない異世界人。柚姫との約束だから知りえた情報は上層部に伝えたんだけど……まぁ、扱いに困るよね」
今までわざと黙っていたのか、それとも忘れていたのか。美夏との面会まであと数時間と言うところで、予想はしていたが面会が深い意味があることを立て続けに暴露するエル。カイは明確に嫌だと表情に出し、柚姫はどうしたものかと小さく息を吐いた。いずれはそう言った話があるだろうと、白崎陣営の立場としてはエクシオンとは中立的にいこうと方針は決まっている。
(こっちの方向性が決まるまでエクシオンと敵対はしたくないよね。かといって仲良くしたい訳では無いし)
(だな。これはまた、お前の苦手な交渉となるだろうよ。姉貴みたいな人がいれば楽なんだが、どうして白崎には交渉人がいないんだか)
と、銀百合。彼女の姉は津宮の内政を取り仕切る一族に仕え、彼女自身も正式な場での交渉を公務として行うほど交渉が得意なのだが、妹の方は生憎様、ベッドの上での交渉が得意なだけで、椅子に座りテーブルを挟んでのそれは専門外だ。
(今までの白崎の仕事に交渉なんて必要なかったからだよ。仕事に関しては極論、監査するかぶん殴るかのどちらかだからね)
白崎は常にそうだ。日ごろは神社や祭典、儀式を巡回し、神社運営の運営方法や祭典の主旨を曲解していないか、儀式を正式な手順で行っているかを監査する。そして害のある妖怪や、各地のパワースポットを悪用しようとする能力者、不完全な儀式の強行などを察知すると軽くて鉄拳制裁、重いと問答無用で抹殺する。それが白崎の仕事。この仕事に関しては白崎は超法規的。監査は強制だし、制裁に公的機関の書類や手続きなど不要。交渉する必要性がない。この数年で異世界関連が仕事に加わったこの数年で交渉の必要性を痛感する場面が多々あるが、その人材が見つからないのが白崎の当面の問題となっている。
(だけどまぁ。今回は難しい交渉ではないだろうね。気をつける点は僕達の目的をどこまで提示するか、だと思うよ)
(私もその方針で意義はないですよ)
そう思考に割り込むは先行チームをこの異世界まで連れてきた魔女だ。名前はシェナ。先行チーム最年少の十四歳だが、魔女では成人扱いされる歳である。母親は魔女の軍の中で特殊部隊とも言える部隊所属であり、カイと同じく数年前の異世界騒動の当事者でもある。その娘のシェナは母親と同じ部隊を目指していたが、騒動の後に親の薦めもあり白崎の協力者として活動している。
(ただ、この国での自由な行動の許可を貰うぐらいの交渉はして欲しいといのが本音です)
(やはり難しいですか?定点観測だけじゃ?)
(はい、朧さん。もちろんデータが取れないわけじゃないですけど、量が少ないです)
つい先ほどまでシェナが思考共有に参加していなかったのは、この世界の情報を集めていたから。情報と言っても、異世界に関する魔女にしか理解出来ないデータなのだが、それは将来的に白崎がこの世界の善悪を決めるための根拠になる。
(じゃぁ、頑張ってみるか)
柚姫がそう思ったのと、エルの携帯端末がメールの着信音を鳴らしたのは同時だった。彼女は端末を操作してから少し意地の悪い笑みを浮かべて、
「サエからだよ。もう近くまで来てるって。予定より早くこっちに着くみたい」
「実は予定時間をわざと間違って伝えていたなんてないよね?」
演技でもなんでもなく、素で大きなため息をついた柚姫に、カイがポンと肩に手を置いてからそそくさと自室に戻るのを感じ、彼は仕方なく、レティアに準備が出来次第来る様に指示を出した。




